#インタビュー

合同会社ねっか|地元のお米を使った焼酎造りで住み続けられる街を作る方法とは

合同会社ねっか

合同会社ねっか 脇坂斉弘さん インタビュー

脇坂斉弘

1974年 郡山市安積町生まれ  47歳
1997年 日本大学工学部建築学科卒業
1997年 菅野建設株式会社入社
2000年 旧南郷村に移住
    花泉酒造合名会社入社
2012年 専務就任
2015年 福島県清酒アカデミー酒造士認定
2016年 合同会社ねっか設立 代表社員就任
2017年 食農価値創造研究舎株式会社 CMO就任
2020年 株式会社季の郷湯ら里 取締役就任
2021年 奥会津ねっか株式会社 代表取締役社長就任

Introduction

米焼酎を製造する合同会社ねっかは、福島県南会津郡只見町の米農家が集まって作った酒蔵です。2016年にスタートした新しい酒蔵であるねっかのお酒は、国内外で数々の賞を受賞し、世界からも注目されています。

冬場に農家が働ける場所が少ない只見町で、酒蔵を立ち上げて雇用を生み出し、地元の子どもたちとも米作りやお酒造りをするなど、地域活性の役割をも担っています。今回、代表の脇坂さんに酒造りに込めた想いや今後の展開について、伺いました。

地元農家と連携し、冬場の雇用を生み出す米焼酎造り

–早速ですが、どのような会社か教えてください。

脇坂さん:

自然豊かな只見町で2016年7月に設立した合同会社ねっかは、地域産の酒米を使用した米焼酎を作っています。

–福島といえば日本酒造りが盛んかと思うのですが、なぜ焼酎なのでしょうか?

脇坂さん:

日本酒と焼酎の製造免許は酒税法で新規取得できないと定められているのですが、地域の特産品を使った焼酎造りであれば、免許が取れることになっています。そこで、2017年1月に全国で5例目、福島県としては初の焼酎製造の新規免許を取得しました。

–なぜ新しく酒蔵を作ろうと思ったのでしょうか。

脇坂さん:

只見町の積雪は3メートルにもなります。これにより、農家は「夏は農業ができるけど、冬は仕事がない」といった問題を抱えていました。私はもともと福島県内の別の酒蔵で日本酒造りの経験があったので、只見町の冬の雇用を確保するために酒造りをしたら良いのではないかという発想になったんです。

–地域の課題から始まったんですね。

脇坂さん:

はい。以前勤めていた酒蔵では、農家さんと協力して、より良い酒米作りに取り組んだこともありました。この経験も活かして雪のない時期に、食べるお米と酒米の両方を作り、冬場に酒米を使って焼酎造りをすることで只見町に貢献できると考え、この地で農家の方と一緒に米焼酎造りを始めました。

–酒蔵はどのように運営しているのでしょうか?

脇坂さん:

ねっかの役員をしている農家は、それぞれ農業法人を営んでいます。この各法人に業務委託の形で、酒造りをしてもらっているんです。農業法人は通年で従業員を雇用しているので、農業の仕事が減る冬の雇用創出に役立っています。また、酒米を作ることで田んぼを有効活用できているんです。

–それはどういうことでしょうか?

脇坂さん:

私たちの作る酒米は早生品種ですので、食用のコシヒカリよりも早い時期に収穫できるため、大幅に作付面積を増やすことに成功しました。

–酒蔵を作ることが、田んぼの再生にまでつながるんですね!

小学生から高校生まで、地域を巻き込むねっかの取り組み

–ここからは御社の地域での取り組みについて伺います。地元の子どもたちとも様々な活動をしているそうですね。

脇坂さん:

はい。小学生から高校生までねっかに関わっています。農業体験で、まずは地元のお米に触れ、お酒がどのようにできているのかを学んでもらっています。そして地元のものづくりに直に触れることで、地域のことをよく知る場となることを願って活動しています。

–小学生はどのようなことをしているのでしょうか?

脇坂さん:

小学5年生は、我々と一緒に田植えから稲刈りまで行います。収穫したお米は給食で食べてもらいますが、余剰分のお米は焼酎にして、成人式でプレゼントする予定です。

–素敵な取り組みですね。飯米(食べるお米)でもお酒は作れるのでしょうか?

脇坂さん:

はい。通常販売している焼酎には酒米を使用していますが、子どもたちにプレゼントする焼酎には飯米を使っています。

–只見町の子どもたちが大人になったら、販売している焼酎とは違う、特別な焼酎が飲めるわけですね。

では、中学生はどのようなことをしているのでしょうか?

脇坂さん:

通常はお米を入れる米袋を使って、持ち帰り用のお酒袋を作っています。これはESDの一環としてレジ袋削減のために始まった活動ですが、今ではねっかのお酒を販売する際に、なるべくその袋に入れるようにしています。

ESDとは

ESDはEducation for Sustainable Developmentの略で「持続可能な開発のための教育」と訳されています。問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・教育活動です。

参考:文部科学省HP

–ビニール袋よりも温かみのあるデザインで、環境にも優しいなんて良いこと尽くしですね。では、高校生の活動も教えてください。

脇坂さん:

高校3年生に「18歳の酒造り」をしてもらっています。小学生の取り組みと同じように、米作りを体験してもらい、そのお米で作った焼酎を成人式にプレゼントします。また、自分たちで商品開発や広報を考えて取り組んでもらうこともしているんです。

–商品開発、おもしろそうです!これまでどのような商品を作られたのでしょうか?

脇坂さん:

2020年には、校則に違反しない「ねっかTシャツ」を作って、SNSでPRしました。2021年は「自分たちが飲めるねっかを作れないか」と、焼酎造りと同じ原料を使ったサイダーやエナジードリンク作りに試行錯誤していましたよ。

高校生の酒造り(18歳の酒プロジェクト)

–お酒造り以外にも、ねっかに貢献できないか考えてくれたんですね。これら子ども向けの活動で、何か変化を感じましたか?

脇坂さん:

小学5年生は、ねっかで学んだことを学習発表会で保護者に向けて発表しています。これにより地域の大人たちにも、ねっかの取り組みに興味を持っていただけていることを感じます。親御さんは自分の子どもが「酒蔵と一緒に何をやっているのかな?」と興味を持ってくれるようですね。

–地域全体でねっかを盛り上げているんですね。2016年設立だと、まだ小学5年生が作ったお米の焼酎は、本人たちの手に渡っていないのでしょうか?

脇坂さん:

はい。18歳の酒造りではすでにお渡ししていますが、小学生の焼酎第一号は2026年です。実は9年も熟成させたお酒が渡せるのは、焼酎ならではなんです。

–それはどういうことでしょうか?

脇坂さん:

日本酒は、1年以上熟成させると古酒になります。古酒が好きな方もいらっしゃいますが、色は黄色くなってしまいます。その点、焼酎は熟成すればするほどおいしくなりますし、色も変わりません。

–なるほど。日本酒は製造免許の取得が難しいと伺いましたが、焼酎ならではの利点もあるんですね!

只見町内に広がるねっかのSDGs

–地域活性化や雇用創出はSDGsとも関係していると感じました。

脇坂さん:

そうですね。テレビに取り上げられたり講話会に呼んでもらったりしています。

また、他にもエネルギーや環境問題にも取り組んでいるんです。

–酒造りがそのような問題と関係するんですか?

脇坂さん:

はい。焼酎を作ると廃液が出るため、今は堆肥にして田んぼへ戻そうとしています。ただ、このまま製造量が増えていくと堆肥だけではまかなえなくなるのです。そこで大学に相談したところ、アルコールから水素が取り出せることがわかり、それを使った発電の実験を始めました。

–お酒で発電ができるんですね!

脇坂さん:

コロナ禍で思うように実験が進んでいないのが現状ですが、今後も取り組み続けたいと思っています。

廃棄ロス削減や水力発電にも取り組みたい

–最後に、今後の展望を教えてください。

脇坂さん:

2021年4月に輸出用の清酒製造免許が取得できる法改正があり、すぐに申請しました。全国初となる輸出用の日本酒製造免許が取れたので、今後は日本酒造りにも力を入れていきます。

また、農産物の廃棄ロス削減にも取り組んでいきたいと考えています。私たちは焼酎の他に、リキュールとスピリッツの免許も持っているため、商品として成り立たず、廃棄されていた果物を使って、お酒を作る準備をしています。

–お米以外の農家のことも考えているんですね。

脇坂さん:

スピリッツでいえば、地域の間伐材などで香りづけをしたジンを作っていこうと考えています。身近にあるものや、無駄になりそうなものをお酒造りに使えないか、色々試していきたいですね。

–ジンが大好きなので、期待しています!

脇坂さん:

お酒造りは温度管理など、電気の利用が欠かせません。只見町は水力発電の町でもありますが、発電された電力はすべて関東へ送電されているのが現状です。そのため、地域の電力会社や国と相談しながら、グリーンエネルギーを地元でも使えるようにしていきたいですね。

–只見町に住み続けられるよう、次々と課題に取り組まれていることがよくわかりました。

今日は素敵なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

関連リンク

合同会社ねっかHP:https://nekka.jp/