学校給食は、子どもの心身の健全な発達に欠かせない食事であると同時に、食育という学習教材としての役割もあります。こうした大切な意味を持つ学校給食において、食べ残しや調理くずなどの食品ロスが、地球環境の悪化を背景に問題になっています。
この記事では、学校給食における食品ロスの現状、原因、学校給食の食品ロスを削減するために必要なこと、削減のための取り組み、課題、SDGsとの関係について解説します。
学校給食における食品ロスの現状
学校給食において食品ロスはどのくらい発生しているのでしょうか。直近では、環境省が市区町村教育委員会に対して行った2015年のアンケート調査があります。(回答率80%)※1 過去のデータではありますが、参考までに2つの事実を確認しておきましょう。
※1 学校給食から発生する食品ロス等の状況に関する調査結果について(お知らせ) | 報道発表資料 | 環境省
食品廃棄物は1人当たり約17.2kg
アンケートに回答した市区町村の小中学校は、学校給食から発生する食品廃棄物の年間量を基に一人当たりの量を推計しました。これによると、児童生徒1人当たりの年間食品廃棄物は、約17.2kgでした。
【児童生徒1人当たりの年間の食品廃棄物発生量(2013年度推計)】
食品廃棄物の内訳を見てみると、食べ残し7.1%、調理残さ(調理くず)5.6%、その他4.5%です。
参考までに、2022年の国民1人当たりの食品ロス量は、年間約38kgです。※2 一概に比較はできませんが、学校給食の食品廃棄物量が1人当たり年間約17.2kgであることを考えると、決して少ない量ではないと推測できます。学校給食の食品廃棄物は、食品ロス全体を解決するためにも克服しなければならない問題であると言えるでしょう。
※2日本の食品ロスの状況(令和4年度推計値)|令和4年度の事業系食品ロス量が削減目標を達成!:農林水産省
食べ残しの平均値は6.9%
児童生徒一人当たりの年間食品廃棄物(17.2kg)のうち、一番多くの割合を占めるのが食べ残し(7.1kg)です。(上のグラフ参照)そして市区町村が把握している食べ残しの割合は、平均値で6.9%でした。食べ残しの割合は、出席した人数に対して提供した学校給食のうち、食べられずに残された量の割合を示しています。
参考までに、東京都葛飾区の小中学校の食べ残し率は平均5.2%(2023年度)※3、神奈川県は5.5%(野菜、2018年度)※4です。食べ残しによる食品ロスは、現在も継続的に起きているという実態が分かります。
※3令和5年度学校給食の学校別一人当たりの残食量|学校給食の残食量・残食率|葛飾区公式サイト
※4【資料2-1】「第3次神奈川県食育推進計画」の指標と目標値の状況について
学校給食で食品ロスが出る原因
学校給食から食品廃棄物、いわゆる食品ロスが出る原因はいくつかあります。ここからは、2023年度に実施された文部科学省による「学校給食における食品ロス削減に関する調査研究」※5を見ていきましょう。この調査研究から分かる、主な3つの原因を紹介します。
※5令和4年度 文部科学省委託調査 学校給食における食品ロス削減に 関する調査研究 報告書
食べ残し
はじめに紹介するのは、食べ残しによる食品ロスの発生です。調査研究を読み解くと、次の理由により食べ残しが起きていると考えられます。
■食べ残しの理由
食べられる量と振り分けられる量に違いがある魚、野菜、和食を苦手とする児童生徒が多い献立が生徒児童の嗜好が異なる冬季には牛乳を全部飲むことが難しいなど |
学校給食には、適切な栄養を摂取し健康を維持する役割があります。一方で、栄養だけを目的とした食事を続けるのは難しいことも現実です。個人の嗜好や適量はそれぞれ異なります。複数の児童生徒が同じ献立を一緒に食べる学校給食は、家での食事とは事情が違います。そのため、こうした食べ残しの理由は、学校給食に特有であると考えられます。
調理くず
次は、料理くずによる食品ロスです。先のグラフでは、調理残さという項目で、食べ残しの次に多い原因に挙げられています。例えば、学校給食では、次のような調理くずが発生しています。
■調理くずの例
野菜の皮など、調理過程で発生する生ごみ使用済みの揚げ油など |
調理過程では、野菜などの食べられない部分がどうしても生ごみになってしまいます。こうした調理くずは、食用として利用する方法はありません。食べられない食品とはいえ、量が多ければ食品ロスになってしまう見逃せない原因です。
学級閉鎖など
最後に、学級閉鎖や臨時休校、欠席が多いなどの原因が挙げられます。これらが起きたとき、事前に注文した食材をキャンセルできる十分な時間があれば問題ありません。あるいは、フードバンクやこども食堂などと連携できれば廃棄を防ぐことが可能です。しかし、急な場合、予定通りに使い切ることができず食品ロスになってしまう場合があります。
学校給食で食品ロスを削減するには
学校給食で起きる食品ロスの原因を紹介しましたが、削減するためにはどうしたら良いのでしょうか。実際に自治体や学校が行っている取り組みから、ヒントになる4つのポイントを取り上げます。
献立の工夫
1つ目は、食べ残しを減らすための献立の工夫です。児童生徒の嗜好に合わせた献立にするほか、授業で学習した食事を取り入れている事例があります。また、児童生徒が家庭科の授業で考案した献立にしたり、旬の食材や地場産物を使用したりして、食への関心を高める取り組みも行われています。こうした取り組みを通じて、給食に興味を持ってもらうことが狙いです。
調理過程の工夫
2つ目は、調理くずを減らすための調理法の工夫です。ピーラーを使って野菜をむくことで食べられる部分を増やすほか、ブロッコリーの茎やカブの葉を食材として利用するなどの工夫をしています。また、水気を切って生ごみの量を減らす作業も行われています。調理くずはどうしても発生するものです。そのため、細かな取り組みにより、減らす努力が続けられています。
食品廃棄物の再利用
3つ目は、食品廃棄物を再利用して食品ロスをなくす取り組みです。例えば、揚げ油の酸化度合いを測定した上で再利用できるようであればする、生ごみ処理機を設置する、校内の処理機で肥料を作る、学校で飼育される動物の飼料するなどの方法があります。他にも、業者が廃食油を回収してせっけんに加工するといった再活用の例もあります。
食品ロスについての学習
4つ目は、児童生徒が食品ロスについて学ぶ機会をつくることです。研究調査によると、給食の時間や家庭(技術家庭)の授業時間などに、こうした機会を設けている学校が多いことが分かります。内容は、「買い過ぎない」「使い切る」ことの重要性を知ることや、調理実習で野菜を皮つきのまま使用することなどが実際に行われています。
学校給食で食品ロスを削減するために行われている取り組み
続いて、実際に取り組まれている食品ロスを削減する方法について、個別に詳しく見ていきましょう。調査研究の結果の中から、それぞれ内容の異なる3つの市を取り上げます。
「真の残食0」を目指す取り組み
神奈川県横須賀市では、「真の残食0」を目指す取り組みを行っています。具体的には、児童生徒が自分の「必要量」を理解できるよう栄養教諭が指導した上で、主菜と副菜は均等に、主食は活動量や体格などを考えて配食をしています。また、食べられる量が少ない、または偏食などの問題を抱えているなどの児童生徒には栄養教諭などが対応し、食べ残しを減らしていく仕組みです。※6
学校給食で食品ロスが発生する原因に、食べ残しがあります。食べ残しが起きる理由の1つは、食べられる量と振り分けられる量に違いがあることです。自分の必要量を知ることは、食べ残しを減らすための重要なポイントであることに着目した事例と言えるでしょう。
※6「給食時間マニュアル小学生版」令和4年(2022年)3月改訂版 横須賀市教育委員会、「給食時間マニュアル小学生版」令和3年(2021年)4月 横須賀市教育委員会
食べ残しの肥料から作られた野菜を給食に
愛知県小牧市では、食べ残しを肥料にし、これにより作られた野菜を給食食材として利用する取り組みを行っています。市内にある給食センター3カ所に業務用生ごみ処理装置を設置し、給食の食べ残しなどを肥料化して地域の農家に無償で配布しています。そして肥料を配布した農家が作った野菜を購入し、学校給食に使用している事例です。
食品廃棄物を再利用することに加え、その肥料から作られた野菜を給食に利用している点で、食品循環資源を活用したモデルを実現しています。また、地産地消により地域の活性化にも貢献しています。肥料の作成だけにとどまらない、広い枠組みでの努力が特長です。
規格外の野菜の活用
長野県塩尻市では、規格外の野菜を引き受けて学校給食に利用しています。市教育委員会の給食担当者は、業者からの照会を受け、各学校の必要な分量を確認した上で、規格外品を引き受けています。食べ残しや調理くずを減らす対策とは異なるアプローチで、食品ロスの削減に取り組んでいる事例です。
規格外の野菜は、形や大きさ、色などが基準から外れているために、通常の流通経路で販売されない生産物を言います。廃棄されることも多いため、食品ロスになり問題になっています。規格外の野菜を引き受けることで生産者の食品ロスを防ぐという貢献と、学校給食の食品廃棄も削減できる事例です。
学校給食における食品ロス削減の課題
学校給食における食品ロス削減の取り組みを紹介しましたが、すべてが順調に進んでいるわけではなく、課題も多く残されています。主な3つのポイントを確認していきましょう。
設備のコストがかかる
1つ目は、生ごみ処理機を導入しても維持・修繕費用が大きな負担になるという問題です。維持・修繕費用は、食品廃棄物を廃棄物として処理するよりもコストがかさむ場合もあります。そのため、一度は導入した自治体も、使用を中止せざるを得ない事例も発生しています。
人員の不足
2つ目は、学校教育の場で取り組める人材や調理員、処理装置に対応する要員がいないという問題です。調理場での食品ロスを防ぐためには、調理員による野菜の処理が必要な場合があります。作業工程が増えればその分人員も必要ですが、確保するのは難しいのが実情です。
学習効果が一時的
3つ目は、食品ロスについての学習をした直後は食べ残しが減りますが、続かないという問題です。学校で学ぶだけでは身に付かないため、家庭と連携して取り組んでいくなど、児童生徒の意識の定着が課題として挙げられています。
学校給食において食品ロスを削減することとSDGsの関係
最後に、学校給食において食品ロスを削減することとSDGsとの関係を確認しましょう。学校給食における食品ロス削減は、SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」の達成に貢献します。
目標12「つくる責任つかう責任」
目標12「つくる責任つかう責任」は、2030年までに世界全体の1人当たりの食品廃棄を半分にすることや、作物を生産してから流通までの食品ロスを減らすことを目標にしています。また、廃棄物を削減、再生利用、再利用により減らすことを掲げています。
国連環境計画(UNEP)が発表した「食品廃棄指標報告2024」によると、世界では毎日10億食に相当する食料が廃棄されています。1人当たりに換算すると、年間79キログラム、1日1.3食分です。※7
学校給食の食品ロスを減らすことは、そのままSDGsの目標である1人当たりの食品廃棄を減らすことにつながります。取り組み事例の中には、規格外の野菜を学校給食に取り入れるものもありました。これは、生産から流通までの食品ロスを減らすことにも貢献します。さらに、食品廃棄物を肥料や飼料などに活用することも、SDGsの目標の実現に寄与します。
※7 7億8,300万人が飢餓に苦しむ中、食料全体の5分の1が廃棄処分に(UN News 記事・日本語訳) | 国連広報センター
その他の目標も
学校の食品ロスは、目標12以外にもSDGsと関わりがあります。それは、学校給食の食品ロスを減らすことで、廃棄されるはずの食品を処分するときに排出する二酸化炭素を削減できることです。二酸化炭素を削減できれば、目標13「気候変動に具体的な対策を」につながるほか、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」の達成にも貢献できます。
このように、食を大切にすることは持続可能な地球環境をつくる大きな鍵の1つになります。
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ
近年の地球環境の悪化に伴い、食品ロスの問題は世界的な関心を集めています。SDGsの目標にも定められているように、食品廃棄を減らすことは持続可能な地球環境に欠かせない要素となっています。学校給食における食品ロスも例外ではありません。
そこで日本でも、学校給食の食品ロスを削減する取り組みを行っています。ただし課題もあり、すべてが順調に進んでいないのが現状です。食品ロスを減らすためには、課題を克服しつつ成功例などを参考に進めていく必要がありそうです。