ケアンズ観光に欠かせない人気スポット・キュランダ。
人口はわずか3,000人ほどですが、絶滅危惧種であるヒクイドリの保全活動に力を入れている自治体として知られています。
この記事では、ヒクイドリの生態、キュランダとヒクイドリの関係性、キュランダが実際に行っている取り組みの詳細についてご紹介していきます。
目次
ヒクイドリってどんな生物?
ヒクイドリ(Southern Cassowary)は、エミューのような大きな身体が特徴的な鳥です。
顔から首元にかけて青味を帯びており、頭の上にはケラチン質のトサカのような角が付いています。
喉元が赤く、火を食べているように見える姿がヒクイドリ(火食い鳥)の由来です。
熱帯雨林に生息しており、クイーンズランド州北東部のほか、パプアニューギニアや周辺の島々の熱帯雨林でも観察されています。
尚、ヒクイドリはオスのみが子育てを行い、メスは卵を産むとその場を立ち去ります。
オスは残された卵を孵化させてそのまま子育てし、雛が生後9~18カ月になるまで生活を共にするのが一般的です。
熱帯雨林の生態系を維持するキーストーン種
熱帯雨林でのみ生息するヒクイドリですが、実は熱帯雨林にとってヒクイドリは必要不可欠なキーストーン種です。
キーストーン種とは、ある特定の地の生態系を維持する上で欠かせない動植物のことを指し、キーストーン種がいなくなることで生態系に大きな変化が起こるとされています。
ヒクイドリの主な餌は熱帯雨林の中にある木の実やフルーツとなっており、熱帯雨林の中にはヒクイドリの腸の中を通過して糞として排出されることではじめて発芽する植物も存在します。
ヒクイドリが消えてしまうと熱帯雨林の中で発芽しなくなる植物が現れるため、ヒクイドリを保護することがオーストラリアの熱帯雨林を守る上での近道なのです。
キュランダは野生のヒクイドリを見られるスポット!
人口3,000人ほどの小さな自治体であるキュランダは、日本人観光客からも人気のケアンズから北西25kmほどの場所にあります。
飲食店やお土産物店が並ぶキュランダ村は観光地として知られ、1日に約3,000人もの観光客が訪れています。
熱帯雨林の中に位置していることから、キュランダは野生のヒクイドリが多く生息している地域です。
動物園以外の場所でヒクイドリを見られる地域は非常に珍しく、キュランダではキーストーン種であるヒクイドリを保護することで未来の熱帯雨林を守ろうとしています。
キュランダが行うエコ活動について
熱帯雨林の生態系を保護するために必須となるヒクイドリですが、オーストラリア及びクイーンズランド州政府の両方から絶滅危惧種として認定されており、推定されている国内での野生下の個体数は1,500羽前後です。
クイーンズランド州北部はオーストラリア国内で野生のヒクイドリが生息する唯一の地域なので、絶滅すると国内に野生の個体がいなくなることになります。
そこで、キュランダではヒクイドリを保護するために以下のような取り組みを行っています。
キュランダ山脈に生息するヒクイドリの識別
野生のヒクイドリが生息するキュランダでは、熱帯雨林の中のヒクイドリの個体識別に力を入れています。
個々のヒクイドリの識別を行うことで、生息地、体調、幼鳥の有無、どの道路の近くを縄張りにしているか、ヒクイドリ同士での行動などが分かるため、保護マネジメントや餌となる植生を強化すべきエリアの特定に繋がっています。
ヒクイドリに関する交通標識
自治体内の至る場所に道路が作られているキュランダでは、ヒクイドリが道に出てくることも珍しくありません。
雛を連れたヒクイドリの場合は道路を横切るまでに長い時間がかかるため、走行中の自動車と衝突してヒクイドリが命を落とすケースも多くなっています。
解決策として、キュランダでは道路上にヒクイドリに関する交通標識を立てています。
コアラやカンガルーの標識などが頻繁に見られるオーストラリアですが、ヒクイドリの交通標識があるのはクイーンズランド州北部のみです。
ドライバーがヒクイドリの存在を意識しながら運転できるため、悲しい事故が起こる確率を大幅に軽減できます。
アプリによる位置情報の共有
キュランダでは、QLDTrafficと呼ばれる交通情報アプリを使ったヒクイドリの保護を試みています。
QLDTrafficは市民がヒクイドリの目撃情報を入力できるシステムで、情報はアプリを使用しているほかのユーザーに共有されます。
QLDTrafficにはトラベルモードと呼ばれる機能が搭載されており、機能をオンにするとヒクイドリの最後の目撃情報から500m以内の場所に立ち入った瞬間にアラームが鳴り始める仕組みです。
アラームが鳴ることでドライバー自身が注意を払って運転できるため、ヒクイドリがロードキルの被害に遭う確率を減らしています。
ヒクイドリの糞の収集とリサーチ
ヒクイドリの生息地や生態を詳しく把握するために行っているのが、糞の収集とリサーチです。
ヒクイドリの個体数減の大きな要因のひとつに生息地の消失が挙げられており、糞を使ったリサーチによって現時点でのヒクイドリの生息地を推測可能です。
生息地の把握によって保護マネジメントの見直しに繋がるほか、糞の中にはヒクイドリによって発芽を促される種子などが含まれていることもあるため、将来的な生息地のデータを集めることにも繋がります。
尚、キュランダではオンライン上で糞のデータを申告できるシステムを構築しており、ヒクイドリの保全活動に貢献したい市民や観光客が手軽に参加しやすい環境を整えています。
アートを使ったヒクイドリに関する啓発
キュランダでは、アートを使った啓発を行うためにCassowary Art Trailを立ち上げました。
キュランダの地元住民・Jurg Jutzi(ユルグジュツィ)による活動で、ヒクイドリと先住民アートを織り交ぜることで地域の人々や観光客にヒクイドリの重要性を伝えています。
Cassowary Art Trailでは4羽のヒクイドリの像が作られ、それぞれの像にはヒクイドリに関するトリビア、作品メッセージ、アーティストの詳細などが閲覧できるQRコードが記載されています。
観光スポットのひとつとして環境客から人気を博しており、ヒクイドリの重要性について啓発するツールとして役立てられている活動です。
各家庭における食用植物の設置促進
より多くの固有種が生息しやすい自然環境を作るため、キュランダでは市民に対して食用植物の設置を促しています。
熱帯雨林にはさまざまな鳥、蜂、蝶などが生息しており、在来種の食用植物を増やすことで餌の奪い合いによる個体数減少を防げます。
食用植物の設置は「Plant me」と呼ばれるプログラムとして正式に行われ、専門スタッフによる無料アドバイスなどを受けられる点も特徴です。
キュランダは単にヒクイドリの個体数を増やすだけでなく、より安全かつ快適に生息できる環境の提供を目指しています。
鳥、蜂、蝶などが市民の食用植物を餌とすることでヒクイドリの餌を確保することに繋がるのはもちろん、植物の多様性保全にも貢献する活動として注目されています。
苗木の無料配布
キュランダでは、ヒクイドリにとってより良い自然環境を維持するために無料の苗木を配布しています。
苗木は全てキュランダ周辺地域の固有種となっており、外来種などは一切扱っていません。
市民が苗木を自宅に植えることでキュランダの地域一帯の植物多様性が向上するため、生態系の維持に役立つと考えられています。
ヒクイドリに関する注意点
ヒクイドリは狂暴性が高く、大きな前足には人の皮膚を割くほどの殺傷力があります。
オーストラリア国内でも非常に危険性の高い野生動物として知られているため、もしキュランダで野生のヒクイドリを見てもむやみに近づくことはやめましょう。
特に雛と一緒にいるオスのヒクイドリは気が立っている可能性もあり、一定の距離を保ったまま観察することが大切です。
まとめ
オーストラリアのキーストーン種でもあるヒクイドリは、絶滅の危機に瀕している動物です。
キュランダは小さな自治体でありながら、熱帯雨林に生息するヒクイドリの保全活動を積極的に行っています。
どんなに小さな活動でも、長期的に継続することで着実に自然環境を守ることに繋がります。
サスティナブルな地球をつくっていくためにも、私たち自身も身近な環境保護からはじめてみてはいかがでしょう?