#インタビュー

ヨコハマSDGsデザインセンター|官民共同ならではのネットワークとリソースで、企業や高校生と横浜市の未来をつくる

ヨコハマSDGsデザインセンター

ヨコハマSDGsデザインセンター 石塚直樹さん インタビュー 

石塚直樹

■ 2012年 東京大学卒業後、みずほ銀行にて中小企業営業に従事。
■ 2015年 国土交通省鉄道局に出向し、財源管理・法改正業務に従事。
■ 2017年 みずほ証券金融公共法人業務部公共セクターにて投資銀行業務に従事。
■ 2018年 株式会社UNDONE JAPANを設立し、代表取締役に就任。
■ 2019年 ウェブリカ創業
■ 2024年 ヨコハマSDGsデザインセンター事務局長

introduction

横浜市と民間事業者が共同で運営するヨコハマSDGsデザインセンター。SDGsの達成に向け、市内外の多様な主体のニーズとシーズをつなぎ合わせ、地域課題の解決に導く中間支援組織です。今回は2024年4月からこの運営に携わっておられる石塚さんに、その活動内容や今後の方針などについてお話を伺いました。

SDGs達成に向けた認証制度と企業の課題解決のためのプロジェクトづくり

–まずは、ヨコハマSDGsデザインセンターについて教えてください。

石塚さん:

横浜市は2018年に国から「SDGs未来都市」の選定を受け、その翌年から「自治体SDGsモデル事業」として「ヨコハマSDGsデザインセンター(以下デザインセンター)」という事業を始めました。デザインセンターの運営は3年に一度の公募により選ばれた民間事業者が担うことになっており、現在は三菱地所株式会社など7社からなる共同事業体が運営をしています。私はこの共同事業体を形成する1企業である株式会社ウェブリカの代表取締役をしており、2024年4月からデザインセンター事務局の仕事を兼務しています。

デザインセンターの事業は主に二つあります。主な事業はY-SDGsという企業向けの認証制度の運営です。この制度では、SDGs達成に向けて貢献する横浜市の事業者に対して認証をしています。企業がこの認証を受けることにより、SDGsの達成に向けて取り組んでいることの公的な証明になりますし、横浜市による入札の際に加点されたり、横浜市中小企業融資制度において金利優遇を受けたりできます。このようなメリットもあり、現在752社が認証を受けています。横浜市には約11万以上の事業所がありますから、全体数からすると普及率がまだまだ低いのが現状ですし、認定事業者が建設業などに偏っているのが課題です。ですから今後は制度の認知度を上げるだけではなく、認定事業者が受けることができるメリットを普遍的なものにしたり増やしたりしたいと考えています。

Y-SDGsの認証に携わって私が感じたことは、各企業が私の想像以上の非常に高いレベルで環境問題対策に取り組んでいるということです。ここまで取り組みが進んでいるということに正直驚いています。もしかしたら最初は会社のイメージづくりのために環境問題への対策を始めた企業もあるかもしれません。しかし、工事現場で雨水を貯めておいて清掃時に使用するなど、今では「何かしらの対策をしないと置いていかれる」というくらいの認識で各企業が真剣に取り組んでいます。

デザインセンターのもう一つの事業は、SDGsに関する相談受付や課題解決のためのプロジェクトの運営です。デザインセンターは、Y-SDGsの認証を受けている多くの企業とのネットワークがあることや、横浜市と民間事業者の共同事業であること、オフィスを構えていることなどから、企業からSDGsに関連する相談を多く受けます。例えばSDGsを企業活動に取り組みたいけれどどのようにしたらよいかアドバイスが欲しいというものや、自社で開発した技術をSDGs達成のために、どのように生かすことができるかなど相談内容は様々です。デザインセンターではそのような相談に対する助言やハンズオン支援をしたり、企業同士をマッチングしたり、また各企業が抱える課題を解決するための手法を提案したりしています。そのような事例の中で必要性があるものについては、デザインセンターが主体となって多種多様なプロジェクトを展開しています。

–これまでにデザインセンターが事業化したものにはどのようなものがありますか?

石塚さん:

あるスポーツチームがスポンサーが変わるごとにユニフォームが変わってしまい、それが廃棄処分されてしまうのがもったいないという相談を受けたことがありました。そこでデザインセンターでは、横浜にあるデザインの専門学校と引き合わせをし、廃棄処分になる予定だったユニフォームをアップサイクルするプロジェクトを立ち上げました。地元の専門学校生が廃棄予定ののユニフォームを、エコバックや財布などのオリジナルグッズにアップサイクルし、チャリティーオークションでファンに購入していただきました。その収益の一部はスポーツチームからデザインセンターに寄付していただき、その資金を横浜市内の教育や福祉に関するSDGs活動に活用しています。

他にも、ロッカー型の自動販売機を横浜市営地下鉄の駅に設置することで、食品ロスの削減を目指す「ロスパン削減プロジェクト」があります。もともと横浜市営地下鉄の関内駅には、SDGsステーションという横浜市などが設置したSDGsの啓発拠点がありました。これはその拠点を有効活用するという観点と、地元のパン屋さんとロッカー事業者のニーズをつないだプロジェクトです。全国どこでも同じ事情だとは思いますが、そもそもパン屋さんは多めに商品を作って店頭で陳列するというビジネスモデルであり、営業時間終了とともに大量の廃棄が出てしまうという問題があります。そこで食品ロス削減SDGsロッカーというものを、SDGsステーションに設置し、賞味期限間近のパンを駅の利用者に購入してもらう仕組みを作りました。このプロジェクトはテレビでも取り上げられ、また横浜市の中心部である関内駅にあるということ、人気店のパンをお得に購入できるという点から人気を博し、時には行列ができることもあります。このような反響を受けて、デザインセンターではロッカーの設置場所を他の駅にも増やそうと取り組んでいるところです。

これらの取り組みの他にも、高校生とのプロジェクトである「YOKOHAMA未来デザイン部」も展開しています。

「YOKOHAMA未来デザイン部」でインターンシップを超えたビジネス体験を高校生に

—ここからは、「YOKOHAMA未来デザイン部」について教えてください。

石塚さん:

これはデザインセンターが始まった当初から続けている活動で、これからの横浜を担う若者である高校生が、SDGsについて学ぶ機会を提供するというプロジェクトです。今年は横浜市内の高校に通う、もしくは横浜市在住の13名の高校生が部員となり、毎月数回のミーティングや勉強会を行っています。 

具体的な活動内容は毎年変わりますが、今年はテレビ番組の製作をしています。高校生がY-SDGsの認証取得事業者を取材しながら、各企業の取り組みについて深く学ぶ様子を撮影し、その内容を芸能人相手に授業するという企画です。(2025年3月にテレビ神奈川で放送予定)

もともと私が代表取締役をしている株式会社ウェブリカという会社が、地域に根差す企業を取材するインタビューメディア事業を行っていたという背景もあり、今年からこのような内容の活動を始めました。

このプロジェクトの特徴は、SDGsの振興を目的に、高校生が学校の先生でもなく親でもない民間の経営者から、直接ビジネスの仕組みを学ぶことができるという点です。

具体的には、テレビ番組を制作するためには、放映料に加えて映像制作費用などが必要になりますよね。ですから、その費用以上の金額を負担してでもテレビ番組に取り上げて欲しいという企業をスポンサーとして募る必要があります。その中で今回、5社のY-SDGsの認証取得事業者が申し込みをしてくれたことでプロジェクトが実現しました。

企業側としては、自社の取り組みをテレビ番組で紹介してもらえること、デザインセンターの企画というクレジットがあること、高校生が取材に来てくれることで自社では作れないコンテンツをつくることができるなどの利点があり、スポンサーになっていただきました。

このように、実際に行われているビジネスの流れを高校生は肌で感じることができるんです。また、一般的な高校生は世の中のサービスを享受する側ですが、未来デザイン部の子たちは人生の早い時期から、コンテンツの提供側を経験することができます。そのような経験は高校生の社会の見方を変えることにつながり、将来きっと役に立つと思います。

私がこのプロジェクトの責任者として感じるのは、部員の高校生はとても優秀なだけではなく、社会課題に対して、当事者として何とかしようと純粋な想いで向き合っているということです。これから社会に出る彼らですが、これからもその想いを大切にして欲しいですね。

YOKOHAMA未来デザイン部の今後ですが、今度は高校生が活動内容を企画しデザインセンターがそれをバックアップすることでもっと面白い活動を展開していきたいと思っています。まだ3年目の活動ですが、この活動をもっと多くの高校生に知ってもらい参加してもらうことで、学校を超えたネットワークづくりにも貢献できたら嬉しいです。

デザインセンターだからこそできる新たな価値をつくりたい

–今後の展望を教えてください。

石塚さん:

今抱えている課題の一つとして、SDGs関係のニーズ、社会課題解決のためのニーズが、企業からなかなか出てこないということが挙げられます。これはニーズが無いという意味ではありません。企業側がどのようなニーズをデザインセンターに出したらいいか分かっていない状態であるということです。

もう一つの課題として、ニーズとシーズをマッチングするという受け身の立ち位置では、ある程度のニーズとシーズしか拾えない、ということがあります。例えば、自社で余っている商品がもったいないから、他社で利用してもらえないかというケースです。もちろんこのようなマッチングにも価値がありますが、デザインセンターのような大がかりな組織でなくてもそれは可能だと思います。

先ほどお伝えしたように、デザインセンターは横浜市と民間事業者が共同で運営している事業です。民間事業者ならではの多様なプレイヤーによる機動性を活かし、行政だけでは拾いきれないような細かなニーズや新たな視点を通して、地域課題の解決を図ることを目指しています。その組織力を活かして多様な主体をつなぎながら、事業をスムーズに立ち上げることができるという強みを持っています。

そこで、ニーズやシーズをデザインセンターが能動的に掘り起こしていくという動きが、今後必要だと私は考えています。そして様々な企業を巻き込んでデザインセンターとして新たな価値をつくっていかなければなりません。例えば、横浜市には面白い最新の技術を開発しているベンチャー企業が多数ありますが、それを活かした新たな価値の創造をデザインセンターが全面的にバックアップするということも可能だと思っています。そして、そのような事例を積極的に発信し、デザインセンターの知名度をもっと高めていきたいと思います。

企業や高校生が横浜市の未来のために、デザインセンターならではのネットワークやリソースを活かしてSDGsの達成に向けて取り組む様子をとても頼もしく感じました。この度はありがとうございました。

関連リンク

ヨコハマSDGsデザインセンター https://www.yokohama-sdgs.jp/