
罹患すると「食」「消化」「排便」など、日常生活に様々な支障が出てくるクローン病は、近年、患者数が増加傾向にある病気です。
そんなクローン病について、症状や原因、治療法などを分かりやすく解説しました。「寛解」や「栄養療法」など、正しい知識を得ていただくことは必ず不安の軽減につながります。
目次
クローン病とは

クローン病は、大腸及び小腸をの粘膜に炎症や潰瘍を引き起こす炎症性腸疾患の一種です。厚生労働省からは特定疾患(難病)に指定されています。
炎症性腸疾患(通称:IBD;Inflammatory Bowel Disease)は、 潰瘍性大腸炎とクローン病の2つに大別されます。クローン病は潰瘍性大腸炎と比べ、
- 大腸ばかりではなく、口腔から肛門までの全消化管に炎症が生じる。
- 合併症の頻度が高い。
- 病変が連続していない。(病変と病変の間に正常部分がある)
- 罹患者数は少ない。
等の特徴があります。
病名は、1932年にニューヨークの病院医師クローン氏らによって報告されたことに由来します。
クローン病の現況は
日本での患者数は4万人以上で、全体的に増加傾向をたどっており、特に10代から20代に多く見られています。男性の発症率の方が高く、女性の約2倍です。
下のグラフは2016年までの推移ですが、東邦大学の調査では、その後2023年までにこの1.4倍になっているという結果が出ています。
また世界的には、先進国に多く北米やヨーロッパで高い発症率をしめしています。近年新興国でも増加しており、食生活との関連が考えられています。
クローン病の症状

クローン病には、炎症性腸疾患としての腹痛や不調の自覚症状の他、病状が進むにつれて深刻な症状が出てきます。段階による症状や診断方法・基準を解説していきます。
徴候と症状
クローン病は、口腔から肛門までの消化器官のどの部位にも現れますが、最も現れやすいのは、小腸、回盲部 ※ や肛門周囲です。次いで大腸が多く、合併症は関節や皮膚、眼に及ぶことがあります。段階別に整理すると次のようになります。
- 初期の自覚症状として最も多いもの:腹痛、下痢
- 次に多く見られる症状:発熱、体重減少、倦怠感、貧血など
- さらに進んだ場合:下血、血便など
内臓の炎症は自分の感覚で確認できませんが、肛門周辺のものは潰瘍や痔瘻、裂肛などが出てくるので、自分で確認できます。しかし自覚症状だけでは正確な診断は難しく、専門医の診察・検査が大切です。
診断方法
専門医は、痛みの度合いや頻度、自覚症状全般の問診とともに、複数の検査を行います。選択される可能性の高い検査には次のような検査があります。
| 検査 | 特 徴 | |
| 検体検査 | 血液検査 | 炎症原因物質の有無を測定する |
| 便検査 | ||
| 画像検査 | 内視鏡検査 | 炎症・狭窄、裂孔などが画像で確認できる。 |
| 造影検査 | 特に小腸における病変を確認するのに有効とされる。 | |
| CT・MRI | 主にスクリーニングに用いられる。3D処理もある。 | |


診断基準
クローン病の診断基準は、難病指定の適応もあるため厚生労働省の診断基準が広く適用されています。主要所見として挙げられているのは、
- 縦走潰瘍
- 敷石像(石畳状の画像)
- 非乾酪性類上皮細胞肉下種(復習の種類の炎症性細胞の塊)
の3つです。
目視できる画像の他専門的な分析を経た検査結果も鑑み、クローン病に精通した専門医の診断が求められています。この指針には、重症度の分類や治療の指針も示されています。

クローン病の原因

クローン病の原因は、正確には解明されていません。しかし、患者数の分布の男女別、人種別、さらに年齢に偏りが見られることから、いくつかの素因があると考えられています。
遺伝的素因
他の免疫疾患と同様に、ある種の遺伝子が関係していると考えられています。特に男性と女性の患者数に鎖があることから、XまたはY染色体との関連が濃厚と言われています。
またアジア系民族と欧米系民族の患者数にも大きな差があり、特定の遺伝子の関与が疑われています。
しかし、該当する遺伝子を持つ人でも必ず発症するとは限らず、詳細はまだ不明で研究が進められています。

環境的素因
この説の根拠となっている現象は、若年層に発症が顕著なことと、欧米に圧倒的に多いことです。食生活の欧米化、つまり動物性たんぱく質や脂質の摂取が関係しているとも言われています。
細菌・ウィルス説
近年、乳製品を経由して細菌が人間の体内に入り、クローン病を引き起こしているという研究も報告されています。しかし反論も出されており、関連の詳細はまだ明らかにされていません。
このように、原因となるいくつかの素因の研究が進められています。特定遺伝子が素因となり環境がきっかけとなっているとも考えられており、究明が待たれます。
クローン病の治療法

クローン病の治療は、現時点では完治させる治療法はなく、寛解 ※ の状態を目指し(寛解導入)それを維持していくこと(寛解維持)を目標としています。治療法のガイドラインが前述の「治療指針」(厚生労働省)に示されており、栄養治療法と薬物治療法の併用がほとんどです。個々の患者の年齢や状態、重症度などによって判断されます。
代表的な治療法について解説していきましょう。
栄養療法
栄養状態の改善、腸管の安静、食事からの刺激排除を行い、病状の改善を目指します。食事療法とも言われます。副作用が少ないのがメリットです。
- 経腸栄養療法
- 静脈栄養療法
- 絶食
があり、患者の様態により担当医と栄養士が判断していきます。
経腸栄養療法
投与される栄養剤には、成分が調整された成分栄養剤または消化機能を考慮した消化態栄養剤があります。
鼻または口からチューブを使い、投与されます。
静脈栄養療法
経腸栄養療法が行えない場合に用いられます。高度な狭窄があったり病変が広範囲に及んでいたりする場合です。必要な栄養を静脈から直接補給します。様態によっては、絶食し完全静脈栄養療法となる場合もあります。
薬物療法
病状が顕著な場合(活動期)には、主に次のような薬剤が使われます。
| 病程度 | 主な薬剤 | 特 徴 |
| 軽症期 | サリチル酸(SASA)製剤 | 最も基本的・一般的薬剤 |
| 中等期 | 経口ステロイド剤 | 効果的な反面、副作用及び免疫力低下が心配される。 |
| 抗生物質 | ||
| 免疫抑制剤 | ステロイドの効果が見られないとき使用 | |
| 重症期 | 分子標的治療薬 | インフリキシマブやアダリムマブなど。入院患者には完全静脈栄養療法を用いることも多い。 |
寛解維持期には、同様の薬剤が患者の寛解状態によって多くの場合減量されて投与されます。
血球除去療法
血中除去療法とは、透析を使って、患者の体外に血液を循環させ、炎症の原因となる免疫細胞を血中から取り除く治療法です。適切な時期・回数での使用は効果が高いとされています。
外科治療
強度の狭窄や腸閉塞を起こし、内科的治療に十分な効果が見られないときは、外科的治療として手術が行われます。切除は可能な限り最小限に留められますが、病変が取り除かれても再発する可能性は低くありません。
特にクローン病による難治性痔瘻には、下記のような外科的治療法が使われます。
- 切開除去
- ドレナージ術:チューブを挿入して膿などを体外へ排出させる方法
- シートン法:瘻孔に治療用ゴム糸を通し、ゴムの収縮する力を利用してゆっくり取り除く方法
クローン病に関してよくある疑問

ここからは、クローン病に関してよくある疑問にお答えしていきます。
寿命は?
クローン病は完治することは難しいものの、死に直結するものではありません。従って一般的な寿命と同じと考えてよいでしょう。しかし、寛解維持治療を怠ったり、重度の合併症を伴う場合は生命に関わることになる可能性があります。
人生終わったと言われるのはなぜ?
クローン病と診断された人が「人生終わった」と思ってしまう主な理由は、
- 完治できない
- 「難病」の指定を受けている
- 人生これから、という年代での発症
が挙げられます。
排便の問題や、肛門に発症した場合などは、周囲に気軽に相談しにくいこともあるでしょう。しかし、上手に寛解状態を維持している人がいることは、寿命が罹患していない人と変わらないことからも分かります。
前向きに受け止めている人もたくさんいますので、ロールモデルとして大いに参考にできるのではないでしょうか。
公表している有名人はいる?
ドワイト・デイヴィット・アイゼンハワー:第34代アメリカ大統領
ドワイト・デイヴィッド・アイゼンハワーは、軍人を経て第34代のアメリカ大統領になった方です。任期が1953〜1961年ということからも分かるように、第二次世界大戦において戦中・戦後と深く日本にも関わった軍人・政治家です。
アイゼンハワー氏は、1923年に受けた虫垂除去手術後断続的な腹痛に悩まされてきました。10数年後には小腸閉塞と診断されましたが、造影検査の結果、クローン病と診断されました。心臓病も併発していました。
その後は栄養治療と抗凝血剤投与を併用した長期治療に対応し、退任後も精力的に活動しています。78歳で没したあとには、業績をたたえて肖像画が銀貨に使用されたり、アイゼンハワー記念公園ができたりしました。
病を跳ね返したのではなく、受け入れ治療しながらの偉大な業績には、驚きと尊敬の気持ちを持たれる方が多いのではないでしょうか。
山田まりやさん:女優・薬膳インストラクター他
日本人にもクローン病を公表している方がいます。
山田まりやさんは、15歳でグラビアデビューをした日本の女優さんです。テレビでも活躍しているので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
山田さんは、23歳の時に盲腸の手術を受けましたが、症状が回復されず再手術。クローン病の可能性を指摘されたそうです。山田さんにとって効果的だった治療は、薬物療法より絶食療法と鍼治療でした。
山田さんのホームページには、薬膳インストラクターの他、漢方や食育、食品安全管理などに関する資格名がずらりと並んでいます。クローン病の経験を生かし、食事や栄養、食品などを学んで、自分だけでなく積極的に社会に生かそうとする姿勢に感嘆します。
クローン病とSDGs
最後にクローン病とSDGsとの関わりについてお話しします。
17あるSDGs目の内、最も関わりの深いのは、
- SDGS目標3「すべての人に健康と福祉を」
- SDGs目標9「産業と技術の基盤をつくろう」
です
SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」との関わり
SDGs目標3は「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確実にし、福祉を推進する」ことを目指しています。
クローン病は「治療」の章でお話しした通り、治癒ではなく「寛解」を目標としている現状です。患者さんは、長くこの病気と付き合っていかなければなりません。また、小腸や大腸、肛門に発症が多いため、健常の方々が何気なく行っている食事や排便に気遣いや手当が必要な病気です。
周囲の方々の心遣いが何よりの支援となるはずです。そのような支援は、SDGsの理念「だれも取り残されない」を具現化している姿と言えます。
SDGs目標9「産業と技術革新の基礎をつくろう」との関わり
クローン病の現状をみると、相反する2つの方向性が見られます。
1つは、患者数が増えていること。もう1つは、治療技術の研究・開発が急速に進んでいることです。
食生活との関連を始め、原因の究明やそれに伴う治療方法の開発がさらに進むことで、すでに罹病されている方の治療が進むばかりではなく、予防の見通しも立ち、患者数が増えないことにも繋がると言えます。
直接研究開発に携わる方々はもちろん、携わっていない方々でも、投資や寄付などでそれを支えることが、この目標の達成に貢献することになるのではないでしょうか。
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ

クローン病について、症状や原因、治療法などを解説しました。よくある疑問にもお答えし、SDGsとの関わりもまとめました。
クローンと聞くと、30年ほど前のクローン羊の話題から細胞複製を想起される方もいらっしゃるかもしれません。今回取り上げたクローン病の「クローン」はそれとは全く異なり、最初の報告者である医師クローン氏の名前から来ています。
炎症性の腸疾患である難病であることを始め、まだまだ知られていない、あるいは誤解されていることの多い病気です。正しい知識と理解が、自分自身の健康維持、患者さんへの思いやり、「誰も取り残されない」世界を目指すSDGsの理念に繋がります。そのためにこの記事が少しでもお役に立てば幸いです。
<参考資料・書籍>
*1)クローン病とは
クローン病(指定難病96) – 難病情報センター
クローン病とは?原因や特徴を解説 | IBD LIFE
クローン病 – Wikipedia
クローン病 | 国立成育医療研究センター
潰瘍性大腸炎とクローン病の有病者数が8年間で1.4倍に増加 | プレスリリース | 東邦大学
*2)クローン病の症状
クローン病(小腸型)の症状|周南記念病院|周南市・下松市・光市の消化器内科・消化器外科・大腸肛門外科
潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針(令和6年度改訂版)
炎症性腸疾患(IBD)|ガイドライン一覧|日本消化器病学会ガイドライン
*3)クローン病の原因
全身性エリテマトーデス(SLE)とは?症状や原因、治療法についてわかりやすく! – Spaceship Earth(スペースシップ・アース)|SDGs・ESGの取り組み事例から私たちにできる情報をすべての人に提供するメディア
自己免疫疾患とは?具体的な症状や原因、治し方も – Spaceship Earth(スペースシップ・アース)|SDGs・ESGの取り組み事例から私たちにできる情報をすべての人に提供するメディア
23_0510_01.pdf(九州大学)
*4)クローン病の治療法
炎症性腸疾患におけるワクチン接種① ~ワクチン接種の時期と薬剤との関係~ | ぐしま胃腸内科クリニック
潰瘍性大腸炎 – Wikipedia
ドレナージとは:ドレナージの概要・目的・適応・注意点がわかる – 看護師になったシングルマザーのブログ
炎症性腸疾患におけるワクチン接種① ~ワクチン接種の時期と薬剤との関係~ | ぐしま胃腸内科クリニック
*5)クローン病に関してよくある疑問
Eisenhower WRC-TV 1958 (oldest known colour videotaping)
Health and Medical History of President Dwight Eisenhower.
山田まりや – Wikipedia
*6)クローン病とSDGs
SDGs:蟹江憲史(中公新書)
*全章
広辞苑第7版(岩波書店)
言葉の意味引用
この記事を書いた人
くりきんとん ライター
教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。
教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。




