私たちの生活は、あらゆる局面で政治と無縁ではありません。そして議会制民主主義の国では政党が存在し、議会では与党と野党が常に駆け引きを繰り広げています。
ではなぜ与党と野党が存在し、どのような役割をそれぞれが果たしているのか。知っているようで意外と知られていない、与党と野党の関係について改めて考えてみましょう。
そもそも政党とは
与党と野党について述べる前に、そもそも政党とは何でしょうか。
政党とは、同じ政治的意見を持つ人々が結成する組織のことです。党は一般の人も入党でき、党員として党の意思決定に意見したり、代表を選出する代表戦で投票もできます。
そして議会における政党とは、党の統一の公約を掲げて選挙を戦い、当選して議席を確保した議員を中核とする集団のことを言います。
与党とは
こうした政党において、与党とは一言でいうと政権を担当する党のことです。
国政選挙や地方選挙の結果、最も多くの議員が当選して多数派となった政党が、その議会における与党となります。与党となった党は議会の長や要職を自分たちの中から決め、自分たちが望む政策の実現を目指します。
こうした図式は地方選挙でも同様ですが、本記事では主に国会と国政政党を対象に見ていきたいと思います。
国会の場合、衆議院・参議院選挙で多数派を勝ち取った党の党首が与党です。
与党は単一の党とは限らず、選挙で最多となっても議会の過半数に満たない場合、意見や政策で合意した他の党と組んで、複数の党からなる与党を構成します。これが連立政権です。
2024年11月の時点では自由民主党(自民党)と公明党が連立政権を構成しており、自民党総裁である石破茂氏が首相(内閣総理大臣)を務めます。また、内閣の大臣なども自民党と公明党から選ばれています。
与党が違う場合も
二院制をとる国の場合、上院と下院、衆議院と参議院で議席の多数派を占める政党が異なる場合も少なくありません。これが「ねじれ議会(国会)」です。この場合、片方の議会で可決された法案がもう片方の議会では反対多数で否決され、法案が決められなくなるという現象が起こります。
与党の主な役割
与党の役割には、主に以下のようなものがあります。
政権を担う
与党は、所属議員の中から首相や各省庁の国務大臣・副大臣・政務官を選んで内閣を組織し、政権を運営します。首相は国会議員の投票で指名され、基本的に与党第一党の党首が選ばれるのが普通です。
法案の作成や改正を成立させる
政権与党の最大の仕事は、国の法案や改正を成立させることです。
日本の国会では通常、与党による政策部会を経て、法案が内閣から提出されます。ただし、この政策部会は非公開で行われ、法案が提出される時点ですでに与党内での審議は終わっています。そのため国会での与党側の質問は儀礼的なものに過ぎません。
野党とは
一方の野党とは、国会や議会において政権を担わない政党のことであり、一般的には与党ではない党のことを指します。野党の「野」は在野の党、つまり政権の外にあるという意味です。
議会における野党は、意見や政策がそれぞれ異なる少人数で構成される複数の党であり、少数派となります。ただし、これらの少数野党が連立して議会の過半数を超え、首相指名選挙で最多票を獲得した場合、この連立政党集団が与党となります。
2024年現在の日本の国会では、衆参両議院ともに自民党と公明党の連立与党以外の全ての党が野党です。
野党の主な役割
野党の役割としては、以下のようなものがあります。
政権運営の監視
野党の役割のひとつは与党の政権運営の監視です。野党は与党の政策に賛同しなかった国民の民意を背負い、少数派や反対派の意見を政府・与党に伝える役目があります。そのため、政府や与党の法案に対し質問や意見を投げかけ、議論に持ち込みます。
その方法としては
- 質問通告:政府の正確な答弁や建設的な議論を行うため、国会での質疑に先立ち議員が政府側に事前に質問内容を通知する慣習
- 議員立法法案提出:与党提出の法案に対抗する提案型の法案を出す
- 党首討論:法案の問題点や閣僚の不祥事、政権の姿勢、首相個人の見解など広範にわたる議論を行う
などがあり、さまざまな手段を用いて政府・与党を追求していきます。
中でも成立させてはいけないと判断した法案は、できるだけ審議を長引かせて廃案にもっていく方法がとられます。日本の国会は会期が決まっており、継続審議しなかった法案は廃案になるためです。
内閣不信任案の提出
内閣不信任案は、議会、主に野党が、内閣を信任できないため退任を促すという意思表示を示した決議案です。ほとんどの場合は与党が賛同せずに否決されますが、まれに与党議員の欠席や賛成で可決された例もあります。
内閣不信任案は野党が政権に影響を与えられる機会の一つですが、近年ではパフォーマンスとして非難されるケースも増えてきたため、よほどのことでなければ出さないことが多いようです。
影の内閣の組閣
あまり行われることはありませんが、政府・与党に対抗するために、野党の多数派政党を中心に「影の内閣」を組むのも野党の役割のひとつです。
影の内閣は主にイギリスで行われており、与党を批判する野党が与党に圧力をかける意味で、あるいは与党に不測の事態が起きた場合にいつでも政権交代を行えるように、政府の閣僚に相当する役職を幹部党員から任命するものです。
最近の例では、2024年7月のイギリス総選挙で労働党に敗れた保守党は即座に影の内閣を発表したというケースがあります。
日本でも、11月の衆議院選挙で議席を伸ばした立憲民主党が、野田「次の内閣」のメンバーを発表しています。
与党と野党の違いは?
ここからは、与党と野党の違いについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
違い①政権を担当する側か否か
繰り返しになりますが、与党は政権担当側であり、野党は政権側にいない党です。
その違いは、政権構成員である内閣の閣僚や政務官などのメンバーに、所属議員がいるかいないかということになります。そのため与党と政策が近い少数野党の中には、政策連携や選挙協力などで連立与党入りを図る党が出てくることもあります。
違い②法案成立や国会審議の有利さ
与党と野党の違いの一つは、法案成立のしやすさです。国会や各委員会で出される法案のうち、成立した法案の多くが政府(与党)提出のものであり、議員立法も与党の賛成が必要です。
政府は政策を実現させやすくするために与党への情報提供を優先する傾向があり、可決の見通しが立つと野党への情報提供はさらに限定的になります。このため政策関連情報へのアクセスの面では与党が優位になります。
しかしこれは、妥協による多数派形成を困難にし、野党が法案のどこを妥協し、どこを修正すべきかという判断の余地が狭まるということになるため、公正さに欠けるという批判もあります。
違い③質問時間の差
与党と野党とでは、国会で与えられている質問時間の長さにも違いがあります。
国会では、慣例として野党議員の方が与党議員よりも質問時間が長く与えられています。これは法的に規定されているものではなく、たびたび見直すべきとの指摘がなされています。
これは
- 政策関連情報へのアクセスの不利を補てんすることで平等性を確保しようという配慮
- 政府に対する監視と権力濫用の抑止
という理由による、野党への一定の優遇措置とされています。
与党と野党に関してよくある疑問
日々ニュースで目にしているにもかかわらず、与党や野党については分からないことばかり、という人も少なくないでしょう。
現在の与党・野党一覧はどこでわかる?
2024年11月現在の政党は総務省の「政党・政治資金団体一覧」で見ることができ、政党は全11団体とされています。
また東京法令出版の「公民Navi 最新データ集[政治編]」では、衆参いずれかの国会に議席を有している政党・政治団体が各政党の方針とともに紹介されています。
なお公民Naviで記載されている「沖縄社会大衆党」は、参議院に1議席を有しているにもかかわらず、総務省の政党一覧には記載されていません。これは同党が政党助成法の政党要件を満たしていないためです。
なぜ与党と野党に分ける必要があるの?
昔から人間社会は、さまざまな利害や理念を持つ人々が対立集団をつくってきました。
政党も同じ意見の人々がつくる組織である以上、いくつかの集団に分かれるのは自然なことと言えましょう。
その上で議会が多数派である与党だけでなく、野党を対立軸に置くのは
- 「多数派の専制」を避ける=1つの勢力のために権力が使われることを防ぐ
- 別の利益や理念を持つ勢力と競争することで権力のバランスが取れる
- 多元的な価値観や政治観を認めることで社会全体の公益が追求できる
という目的があるからです。
専制政治や独裁国家の例を出すまでもなく、政治権力を担う勢力=政党は1つよりも複数であるほうが望ましいと思われます。なおかつ、特定の勢力が政治権力を独占しない方が健全な社会である、という考え方からも、対立関係としての与党と野党の存在は不可欠と言えるでしょう。
野党は反対してばかり?
ニュースやメディアでよく目にするのが「野党は反対・批判してばかり」という論調です。
野党の役割は政権監視と権力濫用の抑制にあるとはいえ、全ての法案に反対ばかりしているわけではありません。国会で採決された法案を見ると、むしろ野党の賛同によって可決された法案の方が多いのが実情です。
例えば、第195回国会(2017年)〜第204回国会(2021年)の間に政府が提出した法案に対する賛成割合は、立憲民主党が82.6%です。最も与党(自民党)への賛成が低い日本共産党でさえ、53.9%の法案には賛成しています。
「野党には対案がない」は本当か
同様に「野党には対案がない」という論調にも注意が必要です。
メディアで報じられる可決法案のほとんどは、与党が提出した法案です。そして法案の成立には与党が非常に有利であることは前述した通りです。議会や与党との力関係の問題から、野党が対案を成立させるためには法案を止める権限が必要となります。
実際には野党も多くの対案を出しており、成立に至ったものも少なくありません。
記憶に新しいところでは
- 1998年の金融再生法=政府案を野党が拒否し民主党案を丸呑みして成立
- PCR検査の拡充や10万円の特別給付金支給などの新型コロナ対策
- 働き方改革一括法案から裁量労働制を全面削除
などがあります。また、2024年の衆議院選挙で自民党はじめ多くの党が公約に掲げた「最低賃金1,500円」は、元をただせばそれ以前から日本共産党やれいわ新撰組が主張していた提案です。
与党が少数だとどうなる?
今回(2024年衆議院選挙)の結果を受けて注目されているのが、与党が過半数を割り込んだ結果、今後の国会の動きはどうなるかということです。
連日ニュースで「103万円の壁」の見直しが国民民主党主導で行われていることからも分かるように、少数与党になると法律や予算の成立には野党の協力を得なければなりません。
1998年の金融再生法が成立したのも、当時自民党が過半数を割っていたためであり、同じように野党は、何とか自分たちの政策を与党に受け入れさせるための交渉を行います。
与野党の交渉次第では内閣不信任案が通る可能性もあり、政権は不安定で予断を許さない状況です。その一方では、国会運営に緊張感があり、政策協議が深まるという期待も持たれています。
政治とSDGsの関係
SDGs(持続可能な開発目標)は国レベル、地球レベルの問題であるため、目標の達成には政府の役割が最も大きなものになっていきます。特に、気候変動対策やエネルギー政策、労働環境の改善、教育やジェンダー平等など、多岐にわたる分野で
- 政策立案と実施の枠組みを策定
- 法整備と規制の推進
- 予算配分と資金調達
- 国際的な協定や外交レベルでの政策
- 市民や地域社会の意見を反映した市民参加の促進
といった、政治によるはたらきや意思決定が不可欠となります。
そのためには、与党は法案の策定や改正、予算配分などを行い、野党は実施や進捗の状況をチェックする、政府に声が届きにくい層の意見を集め伝える、情報公開や透明性の推進を促すなど、それぞれの役割を果たしながらもSDGsの達成に向けて協力することが求められます。
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ
私たちが普段メディアで知る与党と野党の姿は、ただ対立ばかりしているように見えがちです。しかし、それぞれに重要な役割や存在意義があり、それを知ることが政治への理解を深める第一歩です。私たちの生活や国の未来、そしてSDGsの達成にも、政治と政党は深く関わっています。今後も与党と野党の働きに注目し、私たち一人ひとりが積極的に政治に関わることが、より良い社会の実現へとつながるのではないでしょうか。
参考文献・参考資料
25歳からの国会 : 武器としての議会政治入門 / 平河エリ著. — 現代書館, 2021年.
民主主義にとって政党とは何か-対立軸なき時代を考える(セミナー・知を究める 3)
:待鳥 聡史/ミネルヴァ書房,2018年
政党 | NHK for School
与党と野党 前硲大志 book 法学館29 法学館憲法研究所 Law Journal 第29号
議会政党の存在意義―政治哲学の観点から 年報政治学/71 巻 (2020) 2 号
【政党の立場】国会における与党と野党って何が違うの?|政経百科
与党と野党の違いをわかりやすく解説!それぞれの役割とは? | スマート選挙ブログ
政府における国会議員の質問通告の取り扱いに関する質問主意書|参議院
かげのないかく【影の内閣】 | か | 辞典 – 学研キッズネット
【イギリス政権交代】 野党・保守党が暫定的な「影の内閣 … – BBC
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少数与党で政治は大丈夫? 吉田徹・同志社大教授は「より良い政策、革新をどう実現するかに関心を」と語る:東京新聞デジタル
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