テレビなどでたびたび映し出されている国会議事堂は、1936年11月7日に出来上がりました。日本国憲法が制定され「国会は国権の最高機関」とされるようになってから、日本国の政治のシンボルとなっています。
国会議事堂の中には衆議院と参議院がありますが、それぞれどこにあるのかご存じでしょうか。向かって左側が衆議院、右側が参議院です。この2つの院で日本の政治に関することが決められています。
素朴な疑問ですが、なぜ、国会に衆議院と参議院が存在しているのでしょうか?そもそも、衆議院と参議院にはどのような違いがあるのでしょうか。今回は衆議院と参議院の違いや違いを理解するうえで知っておくべきことについてまとめました。ぜひ参考にしてください。
衆議院とは
衆議院とは、日本国憲法で参議院とともに国会を構成している組織です。選挙で当選して衆議院議員に選ばれると、国民の代表(代議士)として国の重要な決定に参加します。日本国憲法の第7条と第69条を見ると、内閣は衆議院を解散することができます。
解散回数 | 内容 | |
第7条の解散 | 20回 | 内閣の助言と承認により天皇が国事行為として解散 |
第69条の解散 | 4回 | 衆議院で内閣不信任決議が可決 →10日以内に解散か内閣総辞職 |
*1)
第7条は、内閣総理大臣が最もよいと判断したタイミングで解散できます。そのため、内閣総理大臣の特権という意味合いで「専権事項」や「伝家の宝刀」などと呼ばれます。
では、なぜ衆議院にだけ解散があるのでしょうか。その理由は、衆議院は参議院よりも強い権限を認められているため、選挙によって国民の意見をより強く反映した議員を選べるようにするためです。
戦前から存在
1889年、大日本帝国憲法が制定されて帝国議会が生まれました。帝国議会は、国民の選挙によって議員を選ぶ衆議院と天皇が議員を任命する貴族院の2つの院でできていました。大日本帝国憲法では衆議院と貴族院は対等の存在とされ、今よりも力が弱い組織でした。その後、衆議院は徐々に力を強めました。大正時代には衆議院の多数党が内閣をつくる時代もあったのです。
しかし、軍が力を増すにつれて衆議院の存在感は薄くなります。日本と中国の戦争が激しくなった1938年、国家総動員法が作られて政府が議会の承認なしに法律を制定できるようになったため、帝国議会の力は大きく低下しました。
第二次世界大戦後、日本国憲法が制定されて帝国議会は国会になり「国会は国権の最高機関」になりました。国会の中でも参議院より力が強い衆議院は、国民の意見をより強くあらわす存在となったのです。
参議院とは
参議院とは、衆議院とともに国会を構成する機関です。衆議院と異なり解散はありません。衆議院の解散中に緊急事態が発生した際は、参議院が招集されて緊急集会が開かれます。緊急集会の議決は、選挙後に召集された衆議院が同意しない場合は無効となります。参議院の緊急集会は、これまで2回開かれ、いずれも衆議院の同意を得ています。
衆議院と参議院が並立する二院制の誕生
戦後、日本政府を指導・監督したGHQ(連合国軍総司令部)は、貴族院を廃止して議会を一つの院にまとめる案をつくりました。しかし、日本側の強い要望により衆議院と参議院による二院制の採用が決まりました。*2)
二院制は世界190カ国中79カ国が採用している仕組みで、日本を含むG7各国は全て二院制を採用しています。*3)
二院制を採用するメリットは、衆議院と参議院がそれぞれ独立して国の政治に関する事柄を話し合うことで、互いにチェックしあえることです。そのため、一院制よりも幅広い意見を政治に取り入れられます。また、衆議院と参議院で足りない部分を互いに補うことができます。
衆議院と参議院の違い
日本国憲法ができてから、日本の国会は衆議院と参議院という2つの院で成りたっています。衆議院と参議院にはどのような違いがあるのでしょうか。ここでは、任期・選挙制度・力の違いについてまとめます。
力が違う
1つ目の違いは両院の持つ力の違いです。衆議院と参議院が完全に対等な力を持っている場合、両者が対立すると何も決められなくなってしまいます。そこで、日本国憲法では衆議院により強い権利を認める「衆議院の優越」が定められました。
衆議院の優越には2つのパターンがあります。
衆議院だけがきめられること | 内閣不信任決議予算を先に審議する権利 |
衆議院の決定が優先されること | 予算の議決条約の承認内閣総理大臣の指名法律の再可決 |
内閣不信任決議を出せるのは衆議院だけです。
【三権分立】
国会は内閣不信任決議を出したり、内閣総理大臣を指名したりすることで政府に影響を与えられますが、どちらも衆議院に強い力が与えられています。
衆議院が内閣不信任決議を可決したら、内閣は10日以内に総辞職するか、衆議院を解散しなければなりません。一方、参議院は問責決議を出すことはできますが、可決されたとしても内閣が従う必要はありません。
内閣総理大臣の指名は衆議院でも参議院でも行われます。しかし、衆議院と参議院の意見が異なり、両院が話し合っても決着がつかない場合は、衆議院の議決が優先されます。
国会の最も重要な機能である予算についても、衆議院が先に審議することが認められています(予算先議権)。さらに、衆議院で成立した予算に参議院が反対したとしても、最終的には衆議院の議決が優先されます。
同じように条約の承認で衆議院と参議院の意見が異なった際、両院協議会で話し合われますが、話がまとまらなかったとしても最終的には衆議院の決定が優先されます。両院協議会については後ほど解説します。
このように、両者の力関係は基本的に衆議院が有利だとわかります。
任期が違う
衆議院議員の任期は4年間で、任期中に解散されると、衆議院議員ではなくなります。一方、参議院議員の任期は6年間で解散がありません。そのため、本人が辞職するなどしない限り、任期が終わるまで参議院議員として政治に関わります。
衆議院と参議院の選挙が同時に行われることもありますが、参議院は3年ごとに半数選挙されるため、衆議院と参議院が同時に選挙をしているときであっても、参議院議員がゼロになることはありません。
選挙の仕組みが違う
また、衆議院と参議院では選挙の仕組みが異なります。
衆議院 | 参議院 | |
定数 | 465人 | 248人 |
任期 | 4年 | 6年 |
選挙権 | 満18歳以上 | 満18歳以上 |
被選挙権 | 満25歳以上 | 満30歳以上 |
選挙区 | 小選挙区:289区比例代表:11区 | 選挙区45区比例代表:全国1区 |
解散 | あり | なし |
衆議院・参議院ともに満18歳以上の人が投票できます。定員は衆議院の方が多く465人で、参議院は衆議院よりもかなり少ない248人となっています。衆議院選挙に立候補できるのは満25歳ですが、参議院選挙に立候補できるのは満30歳以上です。
【衆議院選挙の仕組み】
衆議院の選挙制度は「小選挙区比例代表並立制」といい、個人に投票する小選挙区と政党に投票する比例代表の2票を投票します。小選挙区制度で当選するのは1名だけで、他の候補は落選してしまいます。
【小選挙区制の”死票”】
当落 | 候補者名 | 得票数 |
〇 | A候補 | 35,000 |
× | B候補 | 25,000 |
× | C候補 | 15,000 |
小選挙区では得票数が一番多いA候補が当選します。そのため、B候補とC候補に投票した人の意見が通らなかったことになります。当選に生かせなかった票を「死票」といいますが、上の例の場合、当選したA候補の得票数よりも、落ちてしまったB候補とC候補の合計の方が多くなってしまいます。つまり、小選挙区は死票が多いという欠点があるのです。
参議院の選挙については、後ほど詳しく解説します。
衆議院と参議院の違いを理解する上で押さえておきたいポイント
ここまで、衆議院と参議院の過去の歴史や二つの院の違いについて解説してきました。ここからは、衆議院と参議院の違いを理解するために抑えておくべき3つのポイントについて解説します。
意見が異なった場合どうなる?
衆議院と参議院の意見が異なった場合、どのように話し合いが進むのでしょうか。法律の制定を例にとって、両者の話し合いを見てみましょう。
【法律ができるまで】
法律制定に関する話し合いが衆議院からスタートした場合、衆議院で先に法案の投票が行われて参議院に送られてきます。参議院が衆議院の法案に反対した場合は、両院協議会が開かれます。
両院協議会の話し合いが上手くいかなかった場合、基本的に衆議院の議決が国会の議決となります。
参議院選挙って何?
参議院の選挙では、都道府県を単位とする「選挙区選挙」で1票、全国を1つにまとめて行う「比例代表選挙」で1票の合計2票を投じます。
選挙区選挙は、票を多くとった人から上位〇名というように当選者が決まります。定員2名の選挙区であれば、上位2名が当選します。
【定員2名の選挙区選挙の例】
当落 | 候補者名 | 得票数 |
〇 | A候補 | 35,000 |
〇 | B候補 | 25,000 |
× | C候補 | 15,000 |
この結果を見ると、先ほど取り上げた小選挙区に比べて死票が大幅に減っていることがわかります。しかし、小選挙区に比べると選挙区が広く、選挙活動が大変というデメリットがあります。
比例代表は衆議院でも行われている選挙制度ですが、選挙区の広さが大きく異なります。衆議院の場合、全国を11のブロックにわけて政党単位で候補者名簿を作成します。
それに対し、参議院の比例代表は全国でひとまとめにして行われます。全国が1つの選挙区となるため、多くの人に名前が知られている候補が有利になりやすく、有名人が当選しやすい傾向が見られます。
なぜ良識の府と言われるの?
参議院が良識の府と呼ばれる理由は、衆議院と違って解散がなく、任期が6年あるため長期的な視野で物事を考えられるからです。衆議院は参議院よりも強い力が与えられていますが、任期が短く解散があるため、参議院議員よりも地位が不安定です。
それに比べ、参議院議員は6年間の任期が与えられていることから、一時の世論や内閣の動向を気にすることなく、法律や国の在り方について検討できます。
しかし、参議院が独自に与えられている力があるわけではないため、衆議院の決定をそのまま受け入れているのではないかという批判があります。
政治とSDGsの関係
衆議院や参議院といった国会の仕組みは国の政治の在り方の問題であるため、SDGsとの関わりが見いだせないかもしれません。しかし、国民が投票を通じて国会議員を選び、政治を決定する民主主義はSDGsと大きな関わりを持っています。
ここでは、政治とSDGs目標16「平和と公正をすべての人に」との関わりについて解説します。
SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」との関わり
SDGs目標16の内容の一つである16.7は「あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する」と述べています。
目標16.7をもう少しかみ砕くとポイントは以下の2点です。
- 物事を決めるときは、物事に応じて取り残される人がでないようにしなければならない
- あらゆる立場の人を代表する形で意思決定を行う必要がある
国民が国の政治を最終決定するという考え方を国民主権といいます。この国民主権の考え方が日本ではっきりしたのは、日本国憲法が制定された後でした。
大日本帝国憲法では、国の政治の在り方を決める「主権」は天皇にあるとされ、国民が政治に参加する度合いは小さなものでした。なぜなら、国民の投票で選ばれる衆議院の権利は大きく制限されていたからです。
それに比べると、現代は選挙で国民の意思を反映させやすいといえるでしょう。さらには、仕組みが違う2つの院が別々の役割を担うことで、幅広い意見を国の政治に反映させることができるのです。
まとめ
今回は衆議院と参議院の違いに着目しました。衆議院は参議院よりも強い力を持っていますが、任期が短く解散があるため参議院よりも国民の意見を反映しやすいと考えられています。
参議院は衆議院よりも任期が長く解散がないため、衆議院よりも長期的な視点に立って物事を審理することができます。また、参議院には衆議院の行き過ぎを抑制する働きも期待されています。
私たちは投票を通じて政治に参加する権利を持っていますが、衆議院選挙や参議院選挙に投票しない人も少なくありません。たしかに、自分の1票だけで政治全体は変わらないかもしれません。しかし、投票しなければ自分の意見を表明することもできません。自分の意見や考えを示す方法の一つである投票を、もっと大事に考えてもよいのではないでしょうか。
参考
*1)NHK「衆議院の解散権 | ねほりはほり聞いて!政治のことば 」
*2)改定新版 世界大百科事典「参議院(サンギイン)とは?」
*3)参議院「よくある質問:参議院」
*4)衆議院「三権分立」
*5)島根県「衆議院議員総選挙とは」
*6)参議院「国会のしくみと法律ができるまで!」