ホットスポットとは?できる理由や種類をわかりやすく!

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地球の表面積のわずか2.5%に集中する「ホットスポット」は、地学的な火山活動の中心地です。同時に世界の生命の半数以上が暮らし、生物多様性が豊かでありながら人間活動などによって深刻な危機に直面している地域です。

ホットスポットができる理由と、その種類の違いを理解できれば、環境問題に対する判断基準を得ることもできます。複雑に見えるホットスポットについて、科学的根拠に基づきながらもわかりやすく解説します。

ホットスポットとは

【中央海嶺とホットスポット】

ホットスポットという言葉は、直訳すると「熱い地点」を意味しますが、科学の世界では大きく分けて二つの重要な概念を指し示しています。一つは地球内部の熱が地表へ噴き出す地学的な地点であり、もう一つは貴重な生命が集中しながらも絶滅の危機に瀕している生物学的な地域です。

どちらの文脈においても、地球というシステムの動的な活動や、生命の連鎖を理解する上で避けては通れない極めて重要な場所であることに変わりはありません。地球内部が持つ熱と、そこに育まれる生命の危うい均衡について、それぞれの視点から見ていきましょう。

地学的な定義とメカニズム

地学的な意味でのホットスポットは、プレートの境界とは無関係に、マントルの深い場所から高温の物質が柱のように上昇してくる地点を指します。これをホットプリュームと呼び、地表に到達すると激しい火山活動を引き起こします。

通常、火山はプレートの継ぎ目に沿って形成されることが多いものの、ホットスポットはプレートの下にあるマントル自体に根ざした熱源であるため、プレートが移動してもその位置は長期間にわたってほとんど変わりません。

この性質により、動くプレートの上に次々と新しい火山が作られ、古い火山は列をなして遠ざかっていくという不思議な現象が起こります。太平洋に浮かぶハワイ諸島はその代表例であり、北西に行くほど古く侵食された島が並び、南東の端にある島では現在も活発な噴火が続いています。

このように、ホットスポットは目に見えないプレートの動きを可視化してくれる、地球の歴史を記した「記録装置」のような役割を担っています。

ホットスポット研究の転換点

かつて地学的なホットスポットは、マントル内の完全に固定された熱源と考えられていました。しかし2003年、地質学者ジョン・A・タルドゥーノ博士らが天皇海山列の古地磁気調査※の研究論文を通じて、複数のホットスポット間に大規模な相対的運動が存在することを報告しました。

この発見により、ホットスポット自体も地球規模ではわずかながら移動している可能性が示唆され、地球内部のマントル対流がホットスポットにも影響を与えるというより複雑なメカニズムが明らかになったのです。

【ハワイと天皇海山列】

生物多様性における定義と選定基準

環境保全における「ホットスポット」とは、イギリスの生態学者ノーマン・マイヤーズ博士が1988年に提唱した概念で、固有種が多く存在するにもかかわらず人間活動によって生息地の大部分が失われた地域を指します。選定には厳しい基準があり、1500種以上の固有の維管束植物※が存在し、原生生態系の70%以上が破壊されていることが条件です。

維管束植物

水や養分を体内で効率的に運ぶための「維管束」という管状の組織を持つ植物の総称。シダ植物や種子植物(裸子植物・被子植物)が含まれ、苔類のように維管束を持たない植物とは区別される。

こうした地域は地球の陸地面積のわずか約2.5%に過ぎませんが、世界の植物や動物の半数以上が集中しているため、優先的に保護することで効率的に絶滅を防ぐ戦略が可能となります。現在36地域が指定され、日本列島もその一つです。

豊かな自然を持ちながら都市開発や外来種の影響を受けている現状は、私たちが直面する重要な課題です。

優先順位を決定する科学的根拠

環境保全における「ホットスポット」に指定される「固有の維管束植物1500種」という数字は世界全体の約0.5%以上に相当します。同時に、「原生の植生のうち70%が失われている」という条件は、保護の緊急性を強調するものです。

このように客観的なデータに基づいて保護の優先順位を決定することで、限られた予算や人員を最も効果的な場所に投入することが可能になると考えられます。

地学的な熱源としてのホットスポットと、生物多様性の宝庫としてのホットスポット。これらはどちらも、地球というシステムが持つ「特異点」であり、私たちが守り、学んでいくべき貴重な財産といえます。*1)

ホットスポットができる理由

【ホットスポットとプレートの動き】

ホットスポットという特別な場所を形成する主な要因は、地球内部で起こる壮大な熱の循環と、長い年月をかけて育まれた生命の進化、そして近年の急激な環境変化です。地学的な現象としてはマントルの動的な活動が、生物学的な現象としては地理的な隔離と人間活動が関わっています。

これらの現象がどのように結びつき、特異な地点を作り上げているのか確認しましょう。

マントルプルームによる熱の供給

地学的なホットスポットが形成される最大の要因は、マントル深部から上昇する高温の物質の流れであるマントルプルームの存在です。地球の核に近い深部で加熱された岩石は、周囲よりも密度が低いため、巨大な柱のような上昇流となって地表へ向かいます。

この理論は1960年代にJ・ツゾー・ウィルソンによって提唱され、後にW・ジェイソン・モーガンが「プルームテクトニクス」として体系化しました。愛媛大学などの最新研究では、地震波トモグラフィーという技術を用い、このプルームが深さ約2900キロメートルの核とマントルの境界付近から立ち上がっていることを視覚的に示しました。

プレートが移動してもこの熱源の位置は長期間安定しているため、移動するプレートの上に火山の跡が列をなして残され、ハワイ諸島のような火山列が形成されるのです。

【マントルの対流と火山活動】

地球規模の物質循環がホットスポットを誘発

ホットスポットの発生は、地表から地球深部へと戻っていくプレート運動と密接に関わっています。海嶺で生まれたプレートは時間をかけて冷え、海溝から地球内部へと沈み込みます。この沈み込んだプレート(スラブ)がマントル深部へ落下する現象が、別の場所でのホットプルームの上昇を誘発すると考えられています。

つまり、ホットスポットは単独の熱源ではなく、地球全体の熱を逃がし物質を循環させる巨大なシステムの一部として機能しているのです。地球内部のダイナミックな対流が、特定の場所にエネルギーを集中させるのは、こうした地球規模の物質循環のバランスに基づいています。

地理的隔離と人為的圧力の交差

生物多様性ホットスポットが形成される理由は、地学的なプロセスとは異なります。島嶼部や孤立した山脈では、外部との生命の交流が遮断され、独自の適応を遂げた固有種が数多く生み出されます。

イギリスの生態学者ノーマン・マイヤーズ博士は、こうした地域が同時に人間活動による深刻な脅威にさらされている現状を指摘しました。

  • 森林伐採
  • 農地への転換
  • 都市化
  • 外来種の侵入

により、元の生態系の70%以上が失われたとき、その場所は生物学的なホットスポットとして定義されます。

数百万年の進化がもたらした生命の豊かさと、数十年の人間活動がもたらした破壊が同一地域で交差する。この時間軸の落差こそが、ホットスポットを「保護の最優先地」として定義する本質的な根拠となっているのです。

次の章では、ホットスポットの種類に焦点を当てていきましょう。*2)

ホットスポットの種類

【プレート運動の模式図】

ホットスポットという言葉は、利用される分野によってその意味が大きく異なります。地球内部から湧き上がる熱の動きを示す地学的な分類から、失われゆく生命の豊かさを象徴する生物学的な分類まで、その種類は多岐にわたっています。

それぞれの専門領域においてどのような基準で分類されるのかを整理しておきましょう。

地学的ホットスポットの三つのタイプ

地球科学では、火山活動の発生メカニズムによってホットスポットが分けられています。

ハワイ型

ハワイ型最も典型的なタイプです。プレート内部の固定された熱源(ホットプルーム)の上をプレートが移動することで、古い火山から新しい火山へと連なる列が形成されます。

ハワイ諸島がその代表で、プレート運動の速度や方向を知るための指標となります。

アイスランド型

アイスランド型は、ホットスポットがプレートの広がる境界(海嶺)と重なっている特殊なタイプです。地下からの熱供給とプレートが引き裂かれる力が同時に働くため、通常より大規模で活発な火山活動が起こります。

プチスポット

プチスポットは2006年に発見された新しい概念です。沈み込む前のプレートが重力によって曲がる際、その亀裂からマグマが噴出します。北西太平洋の日本近海で発見され、深海でも熱水活動が起きていることが明らかになりました。

従来の理論では説明できなかった現象として注目されています。

生物多様性ホットスポットの定義と区分

生物学的ホットスポットでは現在、世界36の地域が指定されており、日本列島も含まれます。これらは地球の陸地面積のわずか2.5%ですが、世界の植物や脊椎動物の約半数が集中しており、保全の費用対効果が非常に高い場所です。

生物学的なホットスポットには、

  • 大陸性ホットスポット(熱帯アンデスなど広大で多様な気候帯を持つ地域)
  • 島嶼性ホットスポット(マダガスカルや日本など、海によって隔離され独自の進化を遂げた地域)

という区分があります。これらの特性に応じて、保全活動のアプローチが使い分けられています。

このようにホットスポットは、地学的な熱源から生命の宝庫まで、特定のエネルギーが集中する地点を示し、自然災害の予測や環境保全において不可欠な知識となっています。次の章では、実際にホットスポットはどこにあるのか確認していきましょう。*3)

ホットスポットがある場所は?

※Geminiより生成

地球の鼓動を感じさせる火山活動や、生命の進化が凝縮された豊かな生態系は、世界の限られた場所にのみ集中しています。これらの地点は、地球内部の熱の流れや、数百万年にわたる生命の歩みを映し出す貴重な場所です。

地球上に点在するこれらの特別な場所がどこに位置し、どのような特徴を持っているのかを見ていきましょう。

世界に点在する地学的・生物学的な重要地点

【世界のホットスポット(地学)】

地学的ホットスポットの代表例として挙げられるのは、先程も取り上げた

  • 太平洋の中央に位置するハワイ諸島
  • 北大西洋のアイスランド

です。ハワイではプレートの中央で盾状火山が形成され、アイスランドでは大西洋中央海嶺と熱源が重なることで、世界でも類を見ない規模の活発な噴火が続いています。

生物学的には、南米のガラパゴス諸島が極めて重要です。チャールズ・ダーウィンが進化学の着想を得たこの地は、火山活動によって生まれた孤立した環境が独自の生態系を育んだホットスポットの典型です。

さらに、アフリカのマダガスカル島では、全動植物の約90%が固有種という驚異的な多様性が維持されています。

日本列島とその周辺:世界に稀な多重ホットスポット地帯

実は、私たちの住む日本とその周辺海域は、世界的に見ても極めて稀有なホットスポットの密集地帯です。

地学的な側面では、三陸沖などの北西太平洋海域で発見された「プチスポット火山」が注目を集めています。これは2006年に海洋研究開発機構(JAMSTEC)によって報告されたもので、プレートが沈み込む際の亀裂からマグマが噴出する新しいタイプの火山です。

従来のプルームテクトニクス理論では説明しきれなかった現象として、地球科学の定説を塗り替える大きな発見となりました。

生物多様性の観点では、日本列島の全域が「生物多様性ホットスポット」に指定されています。南北に長い地形と複雑な気候が、狭い国土の中に驚くほど多様な生命を育んできました。特に小笠原諸島南西諸島(琉球列島)は、その孤立性から「東洋のガラパゴス」とも称されるほど、独自の進化を遂げた種が数多く存在しています。

ヤンバルクイナやイリオモテヤマネコなど、絶滅危惧種の集中度も極めて高い地域なのです。

世界各地のホットスポットは、地球のダイナミズムと生命の多様性を象徴するかけがえのない場所です。次の章では、これらの地点を守ることが、国際社会の共通目標であるSDGsの達成にどのように関わっているのかを考えてみましょう。*4)

ホットスポットとSDGs

【世界の生物多様性ホットスポット】

ホットスポットの保全とSDGsは、地球が持つ生命維持機能を正常に保ち、将来にわたって人類の生存基盤を確保するという共通の目的を追求しています。 特に関連の深いSDGs目標を見ていきましょう。

SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を

ホットスポットの多くは熱帯雨林や湿地帯など、炭素を大量に貯蔵する「天然の貯蔵庫」として機能しています。これらを優先的に保護することで、樹木や土壌に蓄えられた二酸化炭素の大気放出を防ぎ、将来にわたる炭素固定機能を維持できます。

また、マングローブ林のような生物多様性ホットスポットの保全は、高潮などの災害から沿岸部を守る適応策となると同時に、強力な温室効果ガス吸収源を確保する緩和策の両面で、気候変動対策に決定的なインパクトを与えます。

SDGs目標14:海の豊かさを守ろう

海洋のホットスポットは独自の生態系を育む一方で、汚染や外来種に対して極めて脆弱な性質を持っています。サンゴ礁などの重要な生息地を守る活動は、世界の漁業資源の繁殖能力を維持し、沿岸地域の経済と食料安全保障を安定させる現実的な効果をもたらします。

国連の報告によれば、全世界の漁業資源の37.7%が過剰採取の状態にあり、ホットスポットの保護はこの危機的状況を緩和するためにも急務であり、海洋の物質循環を次世代へ引き継ぐための鍵となります。

SDGs目標15:陸の豊かさも守ろう

陸域では、日本列島を含むホットスポットに集中する貴重な遺伝資源を絶滅から守ることが、将来の医療や食料生産の安定に直結します。環境省が推進する「30by30」目標は、2030年までに国土の30%を保全区域とするもので、地域住民との協働を通じて失われつつある生態系ネットワークを再生する具体的な取り組みです。

固有種の保護は単なる動植物の救済に留まらず、人間社会が依存する生態系サービスの崩壊を未然に防ぐための最終防衛線として機能します。*5)

>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

【北太平洋の海底地形】

ホットスポットは、地球内部の熱流が作り出す大地の鼓動と、数百万年かけて磨かれた生命の多様性が交差する極めて重要な地点です。このような場所は、地球全体の健全性を測るバロメーターとして機能しています。

2025年のIUCN(国際自然保護連合)レッドリスト最新版では、47,000種以上の生物が絶滅の危機にあり、両生類の41%、サンゴの44%が深刻な脅威に直面しています。こうした状況を受け、「30by30」目標をはじめとする国際的な連携が強化され、保護区域の拡大や資源配分の最適化が具体的に進められています。限られた資源を価値の高い地域へ優先的に投入する取り組みは、地球の生命維持装置を守り抜くための現実的な防衛線となっているのです。

ホットスポットについて知識を深めることは、日々の消費が遠く離れた生態系に与える影響を理解する第一歩です。あなたが今日選ぶ商品は、どこの自然から来ているのでしょうか?

一人ひとりの意識と選択が、地球の未来を創る確かな力となります。次の世代のための行動を、あなたが無理なくできることから始めてみませんか。*6)

<参考・引用文献>
*1)ホットスポットとは
地震調査研究推進本部事務局『ホットスポット』
国立環境研究所『日本の生物多様性を脅かす「4つの危機」』(2016年12月28日)
環境省『第3節 生物多様性に配慮した社会経済への転換(生物多様』
World Bank Group『生物多様性ホットスポットにおけるマルチセクターの取り組み』(2015年7月30日)
外務省『重要生態系(ホットスポット)の保全』
*2)ホットスポットができる理由
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター『地球深部の写真をとる:ホットスポットとマントルプルーム』
大阪大学『地殻・上部マントル物質の変形組織の精密構造解析と地球内部のレオロジー佐藤 博樹』
Wikipedia『ホットスポット (地学)』
気象庁『気象、地震、火山、海洋の知識 – 火山のはなし』
日本火山学会『火山のできる場所と地球の大構造』
*3)ホットスポットの種類
東京大学『プチスポット』
千葉工業大学『プチスポット火山の熱水活動』
産業技術総合研究所『火山 噴火と恵み』(2004年12月)
Critical Ecosystem Partnership Fund(CEPF)『The Biodiversity Hotspots』
IUCN『生物多様性ホットスポット更新 IUCN Programme Pavilion Event: Biodiversity Hotspots』(2025年10月15日
*4)ホットスポットがある場所は?
USGS『Hotspots: Mantle thermal plumes』
Conservation International『Biodiversity Hotspots』
JAMSTEC『深海底に広がるプチスポット火山の活動範囲を鮮明に描き出す』(2025年9月9日)
国立科学博物館『日本の多様性ホットスポットの構造に関する研究』
世界経済フォーラム『間近に迫る危機、生物多様性の喪失を食い止めるために』(2022年12月13日)
*5)ホットスポットとSDGs
United Nations『Sustainable Development Goal 14: Conserve and sustainably use the oceans, seas and marine resources』
USGS『Volcanic gases can be harmful to health, vegetation and infrastructure』
UNESCO『Biodiversity and the Sustainable Development Goals』
IUCN『Biodiversity protections off-track to meet Sustainable Development Goals – IUCN report』(2023年9月18日)
環境省『30by30ロードマップ』(2020年3月30日)
*6)まとめ
IUCN『The IUCN Red List of Threatened Species 2025 Update』
UNEP『Global Biodiversity Outlook 5』(2020年9月15日)
環境省『生物多様性国家戦略 2023-2030~ネイチャーポジティブ実現に向けたロードマップ~』(2023年3月31日)
World Bank Group『Biodiversity』

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この記事を書いた人

松本 淳和 ライター

生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。

生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。

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