
2026年2月8日、第51回衆議院議員総選挙が行われました。投票率は56.26%と前回を上回り、多くの有権者が投票所に足を運びました。しかし、この選挙でもある問題が再び浮上しています。それが「一票の格差」です。
今回の衆院選では、小選挙区の一票の格差が最大2.10倍に達しました。有権者数が最も多い北海道3区(約46万人)と最も少ない鳥取1区(約22万人)を比べると、鳥取1区の有権者の一票は北海道3区の約2倍の価値を持っていたことになります。住んでいる場所が違うだけで、同じ一票の重さが変わってしまうのは、民主主義の根幹に関わる深刻な問題です。
実際、選挙翌日の2月9日には弁護士グループが全国14の高裁・高裁支部に選挙無効を求めて一斉提訴しました。一票の格差は、選挙のたびに繰り返し問われ続けています。
この記事では、一票の格差の意味や計算方法から、なぜ問題なのか、最新のランキングデータ、是正に向けた取り組み、そしてSDGsとの関係まで、高校生にもわかるようにやさしく解説します。選挙や民主主義について考えるきっかけにしてみてください。
目次
一票の格差とは

一票の格差とは、選挙区ごとに議員1人あたりの有権者数が異なることで、有権者が投じる一票の価値に差が生じることをいいます。*1)
日本の国政選挙では、全国をいくつかの選挙区に分け、それぞれの選挙区から代表となる議員を選びます。ところが、選挙区ごとの有権者数には大きなばらつきがあります。そのため、有権者数が多い選挙区では1票の影響力が小さくなるのです。反対に有権者数が少ない選挙区では、1票の影響力が大きくなるのです。
一票の格差をわかりやすく言うと?
学校に置き換えると、一票の格差が理解しやすくなります。
たとえば、学校でクラスの代表を1人ずつ選ぶ場面を思い浮かべてみてください。A組は40人、B組は20人だとします。どちらのクラスからも代表は1人です。
| 項目 | A組 | B組 |
|---|---|---|
| 投票できる人 (クラスの人数) | 40人 | 20万人 |
| クラスの代表 | 1人 | 1人 |
| 1票の価値 | 1/40(軽い) | 1/2万(重い) |
A組では40人の意見を代表1人に託しますが、B組では20人の意見を代表1人に託します。つまり、B組の生徒のほうが代表選びに対する1票の影響力が大きいことになります。
これと同じことが選挙で起こっています。
| 項目 | A選挙区(都市部) | B選挙区(地方) |
|---|---|---|
| 有権者数 | 40万人 | 20万人 |
| 議員定数 | 1人 | 1人 |
| 1票の価値 | 1/40万(軽い) | 1/20万(重い) |
| 格差 | B選挙区の1/2の価値 | 基準(1倍) |
有権者が多い選挙区(=都市部に多い)では1票の価値が軽くなり、有権者が少ない選挙区(=地方に多い)では1票の価値が重くなります。有権者数が2倍違えば「一票の格差は2倍」と表現されます。*1)
一票の格差が生まれる原因とは?
一票の格差が生まれる背景には、以下の3つの原因があります。
- 都市部への人口集中と地方の人口減少
- 区割りの見直しが人口変動に追いつかない
- 政治的な利害調整の難しさ
日本では東京をはじめとする大都市圏に人口が集中する一方で、地方では過疎化が進んでいます。本来なら、人口の変動に伴って選挙区の区割りを見直すべきですが、追いついていないのが実情です。
また、区割りを変更すると現職の議員の選挙基盤が変化するため、調整が難しいということもあります。これらの事情があるため、一票の格差の是正がなかなか進まないのです。
一票の格差の計算方法

一票の格差は、ニュースなどで「最大〇〇倍」と報じられますが、その計算方法はシンプルです。ここでは、実際の選挙データを使いながら、計算方法を説明します。
一票の格差の計算式と具体例
一票の格差は、次の計算式で求められます。
一票の格差 =(最多選挙区の有権者数/議員数) ÷ (最少選挙区の有権者数/議員数)
小選挙区の場合、議員定数は1となるため、最多選挙区の有権者数÷最小選挙区の有権者数で一票の格差が求められます。
2026年2月の第51回衆議院議員総選挙のデータで実際に計算してみましょう。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 有権者数が最多の選挙区 | 北海道3区:462,999人 |
| 有権者数が最少の選挙区 | 鳥取1区:220,820人 |
| 計算 | 462,999÷220,820人 |
| 一票の格差 | 約2.10倍 |
*2)
北海道3区の有権者が持つ1票の価値は、鳥取1区の有権者が持つ1票の価値の約半分しかなかったことになります。同じ日本に住んでいるのに、住む場所が違うだけでこれだけの差が生まれているのです。
衆議院と参議院で格差の基準が違う理由
一票の格差が問題になるとき、衆議院と参議院では許容される格差の水準が異なります。理由は、衆議院と参議院で選挙の仕組みが異なるからです。そのため、最高裁判所の判決も衆議院と参議院で異なります。
| 項目 | 衆議院 | 参議院 |
|---|---|---|
| 合憲の目安 | 2倍未満 | 約3倍程度 |
| 選挙区の単位 | 市区町村をまたぐ小選挙区 | 原則として都道府県単位 |
| 改選の仕組み | 全員同時に改選 | 3年ごとに半数改選 |
| 定数配分の制約 | 比較的柔軟 | 偶数配分が必要 |
参議院は都道府県単位の選挙区と半数改選制という制度上の特性があり、衆議院に比べて定数配分の自由度が低いため、より大きな格差が許容されてきました。ただし、最高裁は格差が4倍を超えた2010年・2013年の参院選を「違憲状態」と判断しており、無制限に許容されるわけではありません。
一票の格差はなぜ問題なのか

一票の格差は単なる数字の問題ではありません。私たちの暮らしや権利に直結する深刻な問題です。ここでは、一票の格差がなぜ問題視されるのか、3つの観点から解説します。
憲法が定める「法の下の平等」に反するから
日本国憲法第14条1項は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めています。
また、第44条では選挙人の資格について「人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない」としています。
一票の格差が大きい状態は、住む場所によって投票の価値に差が生じていることを意味します。これは憲法が保障する「法の下の平等」の理念に反するおそれがあり、たびたび裁判で争われてきました。
政策や予算配分が偏るおそれがあるから
一票の格差は、政策の偏りにもつながるおそれがあります。有権者数が少ない地域の1票の価値が大きいということは、政治家がその地域の声をより重視しやすくなるということです。
投票価値が高い地域ほど、1人あたりの公共事業費や地方交付税が手厚くなる傾向があるとする意見もあります。都市部のインフラ整備や保育所の不足が解消されにくい背景に、一票の格差が影響している可能性が指摘されています。*4)
「違憲状態」や「違憲」と判断された裁判例
一票の格差をめぐる最初の訴訟は1962年に提起されました。それ以降、国政選挙のたびに訴訟が繰り返されています。
注目すべきは、最高裁が「違憲状態」と判断した場合でも、「事情判決の法理」により選挙自体は有効とされてきた点です。これは、選挙を無効にすると社会的な混乱が大きいため、違憲であっても選挙結果はそのまま維持するという考え方にもとづいています。
2026年2月の衆院選についても、選挙翌日に弁護士グループが全国14の高裁・高裁支部に一斉提訴しており、今後の司法判断が注目されています。
一票の格差ランキング

一票の格差はどの選挙区で大きいのでしょうか。ここでは、最新の衆議院議員総選挙のデータをランキング形式で見ていきます。
衆議院小選挙区の一票の格差ランキング
2026年2月の第51回衆院選では、公示前日の有権者数にもとづく試算で、格差が2倍を超えた選挙区は17選挙区に上りました。前回2024年衆院選の10選挙区から大幅に増加しています。
| 順位 | 選挙区 | 有権者数(概数) | 格差(対鳥取1区) |
|---|---|---|---|
| 1 | 北海道3区 | 約46万人 | 2.10倍 |
| 2 | 福岡5区 | 約46万人 | 2.08倍 |
| 3 | 福岡3区 | 約45万人 | 2.05倍 |
| 4 | 茨城6区 | 約45万人 | 2.04倍 |
| 5 | 福岡2区 | 約45万人 | 2.02倍 |
| — | (中略) | ||
| — | 鳥取1区(最少) | 約22万人 | 1.00倍(基準) |
格差が2倍を超える選挙区は、北海道、福岡、茨城、千葉、神奈川、京都、大阪、兵庫、宮城など大都市圏やその周辺に集中しています。都市部への人口集中が進むほど、格差が拡大する構造的な問題があることがわかります。
一票の格差をなくすための取り組み

一票の格差を放置すれば、民主主義の正当性が揺らぎます。国会や行政はこれまでさまざまな是正策を講じてきました。ここでは、代表的な3つの取り組みを紹介します。
アダムズ方式とは?新しい議席配分のしくみ
アダムズ方式とは、衆議院の議席を各都道府県に割り振るための計算方法です。
具体的には、各都道府県の人口をある数で割り、出てきた数の小数点以下を切り上げて議席数を決めます。この方式は2022年の法改正で採用が決まり、2024年の衆院選で初めて使われました。
以前の方式(1人別枠方式)では、まず全都道府県に1議席ずつ配ってから、残りの議席を人口の多さに応じて分けていました。そのため、人口の少ない地方の県が有利になりやすいという問題がありました。
アダムズ方式ではこの仕組みをなくし、人口の多さをより正確に反映した議席配分が可能になっています。
| 比較項目 | 1人別枠方式(旧) | アダムズ方式(新) |
|---|---|---|
| 配分方法 | まず各県に1議席→残りを人口比で | 人口÷除数の切り上げ |
| 人口反映の精度 | やや低い(人口が少ない地域が有利) | より正確 |
| 結果 | 最大格差2倍超が常態化 | 導入時の格差は1.999倍に |
ただし、人口変動は止まらないため、2026年衆院選では再び格差が2.10倍に拡大しました。制度を導入するだけでなく、定期的な見直しを続けることが不可欠です。
合区とは?参議院での格差是正策
合区とは、隣接する県の選挙区を統合し、1つの選挙区にまとめる制度です。2016年の参院選から導入され、現在は以下の2つの合区が存在します。
| 合区名 | 対象県 | 導入年 |
|---|---|---|
| 鳥取・島根合区 | 鳥取県+島根県 | 2016年 |
| 徳島・高知合区 | 徳島県+高知県 | 2016年 |
合区の導入により、参院選の最大格差は4.77倍(2013年)から3.08倍(2016年)に縮小しました。一方で、合区の対象となった県では「自分の県から国会議員が出せなくなる」という不満の声もあり、地方の代表性をどう確保するかが今後の課題となっています。*
区割りの見直しはどのように行われる?
衆議院の選挙区の区割りは、衆議院議員選挙区画定審議会が担っています。この審議会は内閣に設置された独立機関です。10年ごとの大規模調査や5年ごとの簡易調査で、区割りの見直しをおこなっています。
直近では2022年に公職選挙法が改正され、25都道府県・140選挙区の区割りが変更されました。いわゆる「10増10減」で、東京など5都県で選挙区が計10増え、10県で1つずつ減りました。
しかし、人口は国勢調査の年だけでなく毎年変動しています。2020年の国勢調査にもとづいて2022年に改定した区割りも、わずか数年で格差が2倍を超えてしまう現状を考えると、より頻繁で柔軟な見直しの仕組みが求められているといえます。
一票の格差とSDGs
一票の格差の問題は、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)とも深くつながっています。17あるSDGs目標のうち、特に関連が深いのが目標16「平和と公正をすべての人に」です。
SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」との関わり
SDGs目標16は「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」ことを目指しています。
特に注目したいのが、ターゲット16.7です。ここでは「あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する」と定められています。
一票の格差がある状態では、住む地域によって政治参加の実質的な影響力に差が生じます。これは、すべての人が平等に意思決定に参加できる社会という目標16.7の理念に反しています。
一票の格差の是正は、単に選挙制度の技術的な問題にとどまりません。すべての国民の声が等しく政治に届く公正な社会を実現することであり、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」という理念の実現にも直結しているのです。
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ
この記事では、一票の格差の意味から計算方法、問題点、最新のランキング、是正の取り組み、そしてSDGsとの関わりまで幅広く解説しました。
2026年2月の衆院選では格差が2.10倍に拡大し、選挙無効を求める訴訟も提起されています。一票の格差は決して過去の問題ではなく、今まさに私たちの民主主義が問われている現在進行形のテーマです。
ぜひ、自分の住んでいる選挙区の有権者数を調べてみてください。総務省のウェブサイトで公開されている選挙人名簿登録者数から、自分の一票の価値を確認できます。「自分の一票にはどんな重さがあるのか」を知ることが、民主主義への理解を深めるきっかけとなります。
参考
*1)デジタル大辞泉「一票の格差」
*2)時事通信「1票の格差、最大2.10倍 2倍超は17選挙区【26衆院選】」
*3)改定新版 世界大百科事典「法の下の平等」
*4)横浜市立大学 和田純一郎「vol.3 国際総合科学群 公共経済学 教授 和田 淳一郎:未来を生きるあなたへ教員からのメッセージ」
*5)日本大百科全書(ニッポニカ)「合区(ゴウク)とは? 意味や使い方」
*6)
この記事を書いた人
馬場正裕 ライター
元学習塾、予備校講師。FP2級資格をもち、金融・経済・教育関連の記事や地理学・地学の観点からSDGsに関する記事を執筆しています。
元学習塾、予備校講師。FP2級資格をもち、金融・経済・教育関連の記事や地理学・地学の観点からSDGsに関する記事を執筆しています。