
内閣は、私たちの暮らしに大きな影響を与える政策決定を行う機関です。ニュースでは毎日のように首相や各大臣の動向が報じられていますが、その仕組みや役割について詳しく知っている方は意外と少ないのではないでしょうか。
内閣は日本の行政府のトップとして、国の方針を決定し、様々な政策を実行に移す重要な存在です。歴史的には明治時代に始まり、戦後の民主化によって大きく変化しました。現代では首相を筆頭に各省庁の大臣たちが集まり、国会と密接に連携しながら国政を運営しています。
さらに近年は環境問題など国際的な課題にも取り組み、持続可能な社会の実現に向けた取り組みも進めています。本記事では、このような内閣の成り立ちから現代の役割まで、わかりやすく解説していきます。
目次
内閣とは

内閣とは、国の行政を担当する最高の組織です。首相(内閣総理大臣)を長として、複数の大臣で構成されています。政府の中心として法律の実施や予算の作成、外国との交渉など重要な仕事を行います。
日本では憲法によって内閣の仕組みが定められており、国会によって選ばれた首相が他の大臣を任命します。全ての大臣は協力して働き、その活動について国会に責任を持ちます。
また、政策の決定や法案の提出、緊急事態への対応なども行政の長として担当します。国民の生活に関わる様々な分野の運営を指揮し、国の方針を実行に移す重要な役割を果たしています。*1)
内閣総理大臣とは
内閣総理大臣とは、日本の政府のトップであり、国の行政を取りまとめる最高責任者です。国会での選挙によって選ばれ、天皇から任命されます。政府の長として各省庁の大臣を選んだり、重要な政策を決めたりする権限を持っています。
また、日本を代表して外国の指導者と会談するなど、国際的な場面でも重要な役割を果たします。
国の方向性を決める重要な立場にあり、国民生活に大きな影響を与える決断をすることが求められます。選挙で多数派となった政党の代表が就くことが多く、任期は定められていませんが、総辞職することで政権が交代します。*2)
内閣制度のはじまり
日本の内閣制度は明治時代に始まりました。「内閣」という名称は明治6年(1873年)に初めて使われましたが、この時点では現在と異なり、参議が政治を話し合う場所でした。
現代の仕組みに近い内閣が誕生したのは明治18年(1885年)のことです。この時、それまでの太政官という組織をやめて、総理大臣と各省の大臣による新しい政府の形が作られました。最初の総理大臣は伊藤博文でした。当初は総理大臣に強い権限が与えられ、他の大臣たちを指導する立場でした。
明治22年(1889年)に大日本帝国憲法が定められると、国の仕組みが変わりました。この憲法では天皇が国を治める権利を持ち、大臣たちは天皇を助ける役割とされました。総理大臣は他の大臣たちの「リーダー」という位置づけで、特別な権力はありませんでした。
このように戦前の政府組織は、天皇を中心とした体制の中で、総理大臣と大臣たちが天皇を支える形で運営されていました。*3)
戦後の内閣制度
1947年5月3日に日本国憲法と共に「内閣法」が施行され、現在の内閣の仕組みが確立されました。この新しい制度は、国民が主権を持つという原則のもとで、立法(法律を作る)・行政(政治を執行する)・司法(裁判を行う)の三つの権力を分ける考え方を徹底しています。
特徴として、議院内閣制を採用していることが挙げられます。これは政府の代表者が国会議員から選ばれる方式で、首相とその政権は国会の信頼関係に基づいて運営されます。
この体制では、政府は行政を担当する主体として明確に位置づけられ、政策の実行に対して大きな責任と権限を持っています。しかし同時に、国会からの支持がなければ存続できないという仕組みになっており、民主的なチェック機能が働くよう設計されています。
内閣の仕組み

日本の政治制度において、内閣は行政の最高機関として重要な役割を担っています。ここでは、内閣の構成や議院内閣制における国会との関わりについて詳しく見ていきましょう。
内閣の構成
内閣は日本の行政を担う重要な組織で、首相と複数の大臣によって構成されています。日本国憲法には、この集団が首相(内閣総理大臣)とそれ以外の大臣(国務大臣)から成ると明記されています。
話し合いによる意思決定を基本とする集団であり、その指揮をとるのが首相です。首相は他の大臣たちを率いて政府全体の方針を定めます。
首相が国会で選ばれると新しい内閣が発足し、人事の入れ替えや全員の辞職などによって構成メンバーは変わっていきます。*5)
議院内閣制と国会の関係
議院内閣制とは、立法府である国会と行政府である内閣が密接に結びついた政治制度です。ここでは、議院内閣制の基本的な仕組みと国会・内閣間の関係性について詳しく解説します。
議院内閣制とは
議院内閣制とは、国会と政府が密接に関連する政治システムです。この制度では、首相は国会議員の中から選出されます。具体的には、国会での話し合いと投票によって決められます。
政府のトップである内閣は、国の行政を担当しながら、国会に対して全員で責任を持ちます。もし衆議院で「この内閣は信頼できない」という決議(内閣不信任決議)が通った場合、政権側には二つの選択肢があります。一つは衆議院を解散して選挙を行うこと、もう一つは全員が辞職することです。
この仕組みの重要な点は、政府が国会の信頼の上に成り立っていることです。国民が選んだ代表者たちの集まりである国会が、行政を監視し、コントロールする形になっています。*6)
国会と内閣の関係
日本国憲法では、権力を立法・行政・司法の三つに分けて、お互いに監視し合う「三権分立」という考え方を採用しています。この中で、国会は法律を作る役割を、政府は実際の行政を行う役割を、裁判所は争いごとを裁く役割を担っています。
日本の政治システムの特徴は「議院内閣制」にあります。この制度では、国民から選ばれた代表者たちが集まる国会が首相を選び、その首相が組織する政府が国の運営を行います。つまり、政府は国会の支持があってこそ成立するのです。
国会は憲法で「国権の最高機関」と位置づけられており、法律を作る唯一の場所です。一方、政府は国会で決められた法律や予算に基づいて実際の政策を実行します。
このように、国会と政府は別々の役割を持ちながらも密接に関連しています。この仕組みによって、国民の声が政治に反映されやすくなり、権力が一箇所に集中することを防いでいるのです。*7)
内閣の役割

内閣は、国の行政を担当する最高機関として、国の政治を実際に動かす重要な役割を果たしています。また、日本国憲法では、天皇の国事行為に対する助言と承認を行うことも内閣の重要な職務として定められています。
行政を行う
日本国憲法では、国の行政を担う中心的な組織として内閣が位置づけられています。政府の様々な業務を最終的に監督する責任を内閣が持っています。
実務の執行については、首相と各大臣が率いる内閣のもと、内閣府と11の省庁(外務省や財務省など)が各分野を担当します。また、それぞれの下部組織として警察庁や公正取引委員会などの機関が特定分野の仕事を分担しています。
重要事項の決定は「閣議」という会議で話し合って決められます。この場では全ての大臣が集まり、国の重要な方針について検討します。また総理大臣は政府全体をまとめる役目を担っています。
このように、国会で決まったことを実際に動かしていくのが内閣の役割です。国民生活に関わる様々な業務について、内閣が指揮を取りながら国の行政運営が行われているのです。*3)
天皇の国事行為への助言と承認をおこなう
天皇の国事行為とは、日本国憲法で定められた公式な儀式や手続きのことです。例えば、法律の公布、国会の招集、外国大使の接見などが含まれます。これらの行為は形式的なもので、政治的な権限は持ちません。
日本国憲法第3条では、「天皇の国政に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負う」と定められています。この規定により、政府は天皇に対して「何を、いつ、どのように行うか」を提案し、その実施を認める役割を担っています。
この仕組みによって、象徴である天皇は実際の政治判断から離れた立場を保ちながら、公的な役割を果たすことができます。また、行政府が全ての公式行事について責任を持つことで、民主的な統治システムが守られています。
これは、立憲君主制の考え方に基づいており、現代日本の政治体制の重要な特徴となっています。
総理大臣と内閣メンバーの選び方

国のかじ取りを行う総理大臣は、どのような手続きで選ばれるのでしょうか。また、内閣を構成する大臣たちはどのように任命されるのでしょうか。ここでは、内閣総理大臣と閣僚の選出プロセスについて解説します。
内閣総理大臣の選び方
日本の首相は、国会議員の中から選ばれます。選出の仕組みはいくつかの段階に分かれています。
はじめに、国会で投票が行われます。この時、議員たちは一人だけ候補者名を記入して投票用紙を提出します。最初の投票で半数を超える票を集めた人物がいれば、その人が次期首相として決定します。
もし誰も半数以上の支持を得られなかった場合は、得票数が多かった上位2名による決選投票が実施されます。この2回目の投票で多くの票を獲得した方が選出されます。
衆議院と参議院で異なる人物が選ばれた場合は、両院の代表者が集まって話し合いの場(両院協議会)が設けられます。それでも合意に至らないとき、あるいは参議院が10日以内に決定しない場合は、衆議院の判断が優先される(衆議院の優越)というルールがあります。
選出された後、新首相はすぐに閣僚を任命する作業に取りかかります。そして最終的に、天皇による公式な任命式を経て正式に就任することになります。
首相は国民が直接選ぶのではなく、選挙で選ばれた議員たちの投票によって決まります。この仕組みを通じて、立法府である国会の信頼に基づいて行政のリーダーが選出されるのです。*3)
内閣メンバー(国務大臣)の選び方
内閣の重要なメンバーである閣僚は、首相が自らの判断で選んで任命します。首相には閣僚をやめさせる権限もあります。
閣僚の人数には上限があり、通常は14人までですが、復興庁などが設置されている時期は16人まで増やせます。さらに特別な場合、最大で3名追加することが可能です。
選ばれる人には条件があり、半数以上は国会の代表者(国会議員)でなければなりません。残りのポストには一般の方から登用することもできます。
新しく首相になった人は、すぐに閣僚を選ぶ作業に取りかかります。選出された方々は、天皇の承認を受けて正式に就任し、その後首相から具体的な担当分野が伝えられます。
閣僚の多くは各行政機関の責任者として働きますが、特定の担当がない「無任所」の役職も存在します。*3)
内閣とSDG

内閣はSDGsの国内実施において中心的役割を担っています。特にSDGs目標13の「気候変動に具体的な対策を」については、日本の気候変動対策の推進と国際的貢献の両面で内閣が重要な施策を展開しています。ここでは内閣のSDGs推進体制と気候変動対策への取り組みについて解説します。
SDGs推進の中心的役割を担う
内閣は日本の持続可能な開発目標(SDGs)推進において中核を担っています。2016年5月には、首相を本部長とし、官房長官と外務大臣を副本部長、そして全ての大臣を構成員とする「SDGs推進本部」が設立されました。この組織により、国の政策全体がSDGsの理念に沿って統一的に進められる体制が整いました。
この推進本部のもとでは、企業や団体、専門家など様々な立場の人々が参加する「SDGs推進円卓会議」が開かれています。この会議での意見交換を通じて、日本のSDGs推進の方向性を示す基本方針が作られました。
また、首相は国連の会議などの国際的な場で日本の取り組みを世界に発信し、リーダーシップを示しています。2023年の国連会議では、日本の成果と今後の計画について説明がなされました。
さらに、環境問題や教育、健康など様々な分野での具体的な取り組みも、政府全体で連携しながら進められています。*8)
SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」との関わり
内閣は、日本の環境政策の中心として、地球規模の気候変動問題に取り組んでいます。内閣総理大臣が本部長となり、すべての大臣を含む「SDGs推進本部」が設置され、環境問題への取り組みを統括しています。
この組織は「地球温暖化対策計画」を決定し、2030年までに温室効果ガスを2013年と比べて46%減らす目標を掲げています。さらに50%削減を目指す意欲的な姿勢も示しています。
また、太陽光などの自然エネルギーの普及や、電気をできるだけ使わない生活スタイルの促進、企業の技術革新支援など、社会全体で二酸化炭素などの排出削減を進めています。
さらに、環境問題に関する学びの場を提供し、国民の意識向上にも努めています。各省庁の連携を図ることで、エネルギー政策や災害対策、国際的な協力活動などを一体的に推進しているのです。
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ
今回は、内閣がどのような組織か、総理大臣をはじめとするメンバーがどのように選ばれるのかなどについて解説しました。内閣は国の行政を担当する最高機関で、首相と複数の大臣で構成されています。
総理大臣は国会議員の中から国会の投票で選ばれ、他の大臣は首相が任命します。明治時代に始まった内閣制度は、戦後に大きく変わり、現在の形になりました。
内閣の主な役割は国の行政を執行することと、天皇の国事行為に助言と承認を行うことです。議院内閣制のもと、内閣は国会と密接に関わりながら政治を進めます。また近年では環境問題などの国際的な課題にも取り組み、SDGs推進においても中心的な役割を担っています。
参考
*1)デジタル大辞泉「内閣とは」
*2)デジタル大辞泉「内閣総理大臣とは」
*3)首相官邸「内閣制度の概要」
*4)首相官邸「現行憲法下の内閣制度」
*5)首相官邸「Ⅱ現行憲法下の内閣制度」
*6)衆議院「議院内閣制」
*7)参議院「国会の仕組みと法律ができるまで」
*8)外務省「日本政府の取り組み」
この記事を書いた人

馬場正裕 ライター
元学習塾、予備校講師。FP2級資格をもち、金融・経済・教育関連の記事や地理学・地学の観点からSDGsに関する記事を執筆しています。
元学習塾、予備校講師。FP2級資格をもち、金融・経済・教育関連の記事や地理学・地学の観点からSDGsに関する記事を執筆しています。