儒教とは?特徴や歴史、日本との関係も

img

東アジアに生きる私たちは、他の地域とは異なる独自の習慣や考え方を持っています。

中国、韓国、日本と国によって違いはあるものの、その根底には、共通のルーツに基づいた思想が存在します。その思想が儒教です。

しかし、これだけ自分たちの精神に深く根付きながらも、現代の私たちは儒教についてあまり良く知っているとは言えません。こんな時代だからこそ、改めて儒教について考えてみたいと思います。

儒教とは

儒教は紀元前500年頃の中国の思想家、孔子の教えを中心に成立した政治思想や道徳の教えです。儒教の思想は中国を中心に東北アジア地域に広がり、内容の理解や学説、解釈を変化させながら、現在に至るまで人々の習慣や考え方に影響を与え続けています。

孔子とはどんな人?

儒教の始祖と言われる孔子は、紀元前551年ごろに魯国(現在の中国・山東省)の曲阜に生まれたとされています。

父親は農民でしたが、孔子はシャーマンの家系だった母親の教育を受け、20代後半に礼楽の役人として就職しました。孔子はその後も学びを深め、

  • 役人を辞めて私塾を開き、大勢の弟子を抱える在野の思想家として過ごす
  • 56歳で魯の宰相として招かれるも政争で政治的地位を失う
  • 約14年間にわたって諸国遍歴の旅に出る

という波乱の人生を送ります。晩年の孔子は、弟子の教育と並行してさらなる真理の探究を求め、74歳で死去したと言われています。

このような孔子の生涯や言動は、弟子たちが記した言行録「論語」や、司馬遷の「史記」などの書物により後世に伝えられていますが、その事実や真偽は定かではありません。

儒教の教えの特徴

私たちの生活に影響を与えてきた儒教ですが、その具体的な教えについてはあまりよく知られていません。

孔子は、それまでの原始シャーマニズム的な葬祭儀礼などを体系化・理論付けし、

  • 祖先崇拝・親への敬愛・子孫の存在をひとつにした生命論
  • :無関係な人間への愛情や悲しみの具体的表現→道徳・慣習に進化
  • 知化・徳化:知や徳を持って生きること

などの考え方をベースに、哲学倫理だけでなく、理想の政治思想など現実社会にも適応する思想を深めていきました。

孔子の死後、儒教の思想は弟子や後世の学者らによってさまざまな学説や解釈が加えられ、現在に至っています。しかしその根底にあるのは、上記であげた「孝」や「礼」であり、「知」や「徳」を重視する姿勢であることに変わりはありません。

五倫五常の徳目

儒教で重要な教えは、五倫五常の徳目の追求です。

五常とは、人として備えるべき「仁、義、礼、智、信」の5つの徳のことであり、

  • 仁:人を思いやること
  • 義:私利私欲に走らず利他の精神で正しい行いを守ること
  • 礼:人間の上下関係を守ること
  • 智:学問に励み、 道徳的認識判断力を身につけること
  • 信:誠実であること

を言います。ただしこれらは孔子によるものではなく、仁、義、礼、智は孟子が、信は漢の儒者・董仲舒が説いたものです。

五倫とは対人関係において実践すべき徳のことで、

  • 父子の親:父と子の間は親愛の情で結ばれなくてはならない
  • 君臣の義:君主と臣下は互いに親しみの心で結ばれなくてはならない
  • 夫婦の別:夫婦にはそれぞれの役割があること
  • 長幼の序:年少者は年長者を敬い従うこと
  • 朋友の信:友は互いに信頼の情で結ばれること

の5つです。五倫五常の徳目は、儒教が普及した東北アジアにおける倫理・道徳の基礎になっています。

四書五経

四書五経は、儒教の基本理念を理解するうえで必読とされ、儒教の経典の中でも最も重要な書です。

四書

四書論語/大学/孟子/中庸からなる儒教の入門書で、

  1. 論語
    孔子とその弟子の言行録/明確な「思想」というものはない
  2. 大学
    成人の学問として学ぶべき3つの目標(天与の徳を外に輝かせる/人々の生活や徳を刷新する/常に最高の善を心がける)を明示
  3. 孟子
    孔子の最も有名な門人のひとり孟子による書
    論語で抽象的だったことを具体化
  4. 中庸
    中庸の徳=物事の真ん中を良しとすること
    誠を完成させること

の4つからなります。大学と中庸はもとは礼記の一章でしたが、後に個別の書とされました。また四書は①〜④の順番で読むとされ、中庸が最も難解な書とされます。

五経

五経は、易経/書経/春秋/詩経/礼記の5つからなる儒教の代表的な経典です。

  1. 易経
    占いの本であると同時に哲学書
    世の中のさまざまなことは「柔(陰)」と「剛(陽)」から成る
  2. 書経
    夏・殷・周の王たちや重臣たちの言葉を記録した書
  3. 春秋
    孔子が編纂したと言われる西周滅亡後の春秋時代の歴史書
    孔子の意図を解説する春秋三伝という注釈書がある
  4. 詩経
    中国最古の詩集。諸国の民謡や宮廷音楽、祭祀の歌を約300篇収録
  5. 礼記
    礼に関する解説書。具体的な礼の教えが箴言のような形で書かれている

四書五経には現在も使われる言葉が多数含まれており「五十歩百歩(孟子)」、「虎視眈々(易経)」、「備えあれば憂いなし(書経)」などはその代表的なものです。

儒教は宗教?

こうした教えを見ると、儒教は宗教なのか、それとも倫理・道徳を説く学問としての哲学=儒学なのか疑問に思う方も多いでしょう。儒教が宗教か否かについては数多くの議論がなされてきており、明確な答えは出ていません。

宗教の定義に照らし合わせてみても、

  • 定義①始祖・教祖がいる=孔子は周公旦を敬い、継いでいると言っているので始祖ではない
  • 定義②経典や教義がある=四書五経はあるが教義は定まっていない
  • 定義③信仰を重視する=儒教では信仰が一番大事とは考えない
  • 定義④死後の世界を想定している=先祖を祀るが死後の世界の記述はない

と考えると、儒教=宗教とは認識し難いと言えます。

ただ④について言えば、宗教自体がそもそも死と死後の説明であり、倫理道徳を含むものであると定義づけられます。

儒教も、その始まりにおいて死の恐怖・不安からの解放を目指し、祖先↔︎自分↔︎子孫の生命の連環=孝という思想が構築されました。

その後、時代が進むにつれ儒教は学問としての礼教性が強くなっていきますが、中国でも韓国、日本でも、人々の習慣の中には儒教の宗教性が今も根付いています。

その意味では、儒教もまた死ならびに死後の説明理論と、そこから生み出された倫理道徳を含む宗教的性格の強いものと言えるでしょう。

儒教の歴史

ここからは儒教の歴史について見ていきましょう。

儒教の創始者は孔子と言われていますが、それより遥か昔から祖先崇拝などのシャーマニズムや儀礼的な信仰がありました。この原始儒教思想=「原儒」の中にあった「孝」という考え方を生命論として統合し、儒教を宗教性を持つ思想として形成していったのが孔子です。

儒教の成立

儒教の根幹となる理念は孔子によって確立されました。孔子は人間相互の信頼(仁)による徳治政治を唱えて多くの弟子を集め、弟子たちによる言行録「論語」は社会に強い影響を与えました。

孔子の教えは弟子や後世の思想家によって深化・多様化していきます。その代表が孟子荀子です。二人はそれぞれ

  • 孟子:性善説を説き、徳による君主の政治を主張
  • 荀子:性悪説を唱え、法治政治が現実的と主張

という異なる解釈をとります。荀子の法治政治は秦の始皇帝にも強い影響を与えましたが、これが焚書坑儒として儒学者が弾圧される結果になってしまいます。

漢〜唐:官学化と民衆化

秦が滅び漢の時代になると、儒教の教えが政治に採用されるようになります。

武帝の治世以降その傾向が強まり、

  • 儒者の董仲舒による五経博士の設置
  • 儒教思想に陰陽家の陰陽五行思想を加えて政策を占う
  • 後漢時代:訓詁学(古典の文献研究)が主流

などの新しい流れによって儒教は官学となり、権力の正統性を下支えする中国の歴代王朝の理念となっていきました。

一方で、儒教は古くから祖先崇拝など土着の風習と結びついていたこともあり、冠婚葬祭などの儀礼が民衆の生活に深く根付いていきます。

魏晋南北朝時代以降は、現世利益を謳った道教やインド伝来の仏教に儒教が押されがちになり、この三つが互いに影響を与え合うようになります。

唐:科挙科目に採用

唐の時代になると儒教は科挙の試験科目に採用され、貴族階級に必須の教養となります。

官吏となった知識人によって古文復興の運動が起こる中、科挙の人気科目は経典を暗記する明経科から詩文の創作能力を競う進士科へと移り、訓詁学は次第に衰えていきました。

宋:宋学(朱子学)の成立

宋の時代になると、官吏になった人々が中心となって儒教=儒学に大きな変化が訪れます。これが宋学と呼ばれる儒学の革新運動であり、その中心人物が南宋の朱熹(朱子)です。そのため、この時代に確立された新しい儒教理論は朱子学と呼ばれます。

朱子学は哲学的真理を探求する「性理学」としての性格が強く、

  • 理気二元論万物は理(宇宙の根本原理)と気(物質を形成する原理)の一致
  • 性即理=性(人間の本質=五常)に従って生きることが理に即する
  • 大義名分論=封建道徳を強調
  • 華夷の別=中華(漢)世界と周辺異民族(夷狄)とを区別

などの思想を整えることで、仏教・道教に対抗する体系的な世界観を持つに至ります。

朱子学はその後、

  • 陽明学:心即理を説き、知行合一として行動重視を説く
  • 考証学:天下国家より実社会で有用な学問(経世実用の学)を指向
  • 公羊学:春秋公羊伝からの孔子の学説を社会改革に活かそうとする運動

による儒教内部での批判に晒されながらも、西洋近代文明の影響を受けるまでの800年にわたり、中国思想の中心であり続けました。

同時に朱子学は朝鮮と日本にも大きな影響を与え、東北アジアの封建社会に共通する道徳として浸透していくのです。

しかし19世紀後半、西洋からの外圧が高まり、中国社会の後進性が意識されていくにつれ、儒教は次第に政治の指導理念としての正当性を失っていきました。

近代:儒教批判と再評価

清朝が倒れ、近代国家が成立すると、儒教は民衆を束縛する封建的な思想として否定されるようになります。

後の中国共産党委員長となる陳独秀は、儒教を専制政治の精神的支柱であると糾弾し、日本にも留学経験のある作家・魯迅も厳しい儒教批判を展開します。

その後、孫文による革命や中国共産党の台頭でも儒教は完全に否定され、批判は止むことはありませんでした。

第二次世界大戦後成立した中華人民共和国では、宗教的なものが禁止されたこともあり、儒教は仏教とともに衰退を余儀なくされました。特に1960年代後半からの文化大革命では、「批林批孔」のスローガンのもと、孔子廟も破壊されるなど受難の時期を過ごします。

それでも、長きにわたり中国の民衆の間で根を下ろしてきた儒教は、決して消え去ることはありませんでした。現代の中国では、再び孔子の思想家・教育者としての評価が高まっています。

日本と儒教の関わり

儒教は成立後早い時代から、中国のみならず周辺の東北アジア諸国にも伝えられ、人々の生活文化にも大きな影響を及ぼしてきました。日本ももちろん例外ではありません。

日本への儒教伝来

日本に儒教が伝わった時期については、確かなことはわかっていません。

一説では、遣隋使の時代にはすでに儒教は中国から持ち込まれており、仏教が伝来するより早かったとされています。

日本ではその後、仏教に基づいた国づくりが進められるものの、その中に儒教的な教えも含まれるようになっていきました。

儒教の一大転換となった朱子学の確立は、日本の儒教にも大きな影響を与えました。

江戸時代には仏教が事実上の国教でしたが、一方で朱子学は幕府の御用学問として浸透し、日本人の倫理規範として共有されていきます。

日本の儒教の特徴としては、

  • 仏教と伝来時期の差が少なく、宗教性が仏教に取り込まれた(=礼教重視)
  • 個人の内面的欲求ではなく家単位の社会秩序を守ることを重視
  • 儒教が国教として統治制度に組み込まれなかった
  • 神道と一致した教義が日本独自の価値観を形成

などの点が、中国と大きく異なっています。

日本人の生活に生きる儒教

現在の私たちの生活では、儒教は封建的思想家父長制を助長するものとして、あまり良いイメージを持たれていません。しかし、私たち日本人の感性には、日本で発展した独自の儒教に基づく価値観が今も根付いています。その例として

  • 清貧志向:質素であること、倹約が美徳=清貧は漢代儒学や朱子学的精神論の特徴
  • 電車の中での化粧への不快感:家でするべき所作を公共の場に持ち込む=礼儀に反する行為
  • 時間や注意書きを必ず守る=礼儀作法を理屈抜きで遵守すべきという感覚

などの日本人が無意識に抱く感覚や価値観の多くは儒教がもとになっています。

また、儒教の礼教的な側面も日本人の習慣の中に数多く息づいています。

例えば、現在普通に行われる、香を炊く、水を供える、墓参りをするなどの仏式葬儀の作法や、仏壇にある位牌などは儒教がもとになっており、仏教本来のものではありません。

このように、私たちが仏教や神道の中で当然のように行っている行為にも、儒教的なものに強く影響されているのです。

儒教とSDGs

儒教的な思想は、SDGs(持続可能な開発目標)のような現代の普遍的理念とは相性が悪いように思われるかもしれません。

特に儒教における夫婦の別や長幼の序、忠や孝の概念などは「ジェンダー平等の実現」(目標5)「不平等の是正」(目標10)といったSDGsの目標とは相容れない面があることも確かです。

ただし、それらの面だけを捉えて儒教の価値を否定することも正しくありません。

孝の理念の根源は、過去の祖先と、未来の子孫との生命的一体性です。これを尊重するのであれば、環境・地球の破壊や社会への責任を欠くような行動は認められません。

何より儒教的な価値観は、既に私たちの意識の中に深く根付いており、これを無視することはできません。大事なのは、SDGsを実現させるうえで儒教的理念の持つ意味と価値をどう克服し、どのように現代的価値観とすり合わせていくかではないでしょうか。

>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

中国の歴史と共に生まれ普及してきた儒教は、時代と社会に合わせてその姿や解釈を変え、政治や生活と密接に関わり合いながら発展してきました。その思想や価値観は日本に生きる私たちの中にも受け継がれ、今後も生き続けていくでしょう。

現在の社会で批判される儒教の封建的な価値観は、抑圧的な人間関係や男尊女卑、権力者への追従を助長してきた側面があることも否めません。

しかし、私たちの意識にあるこの価値観を簡単になくすことはできませんし、その必要もないでしょう。必要なのは、儒教的価値観の負の側面に向き合いながら、普遍的価値の実現に向かって儒教的道徳をどのように活用するかではないかと思います。

参考文献・資料
儒教とは何か / 加地伸行著. 中央公論社, 1990年
​​使える儒教 / 安田登著. NHK出版, 2023年
田政俊 / 儒教思想、仏教思想と多様性:精神分析的な観点から 帝京大学学生カウンセリング研究 第11号(2023年)
牧角悦子 / 日本における儒教:その発展過程と特徴 漢文学11号
今枝法之 / 儒教を考える 松山大学論集 第34巻 第1号
儒教の歴史 : 宗教の世界史5 / 小島毅著. 山川出版社, 2017年
儒学・儒教|世界史の窓
宋学/朱子学|世界史の窓
理気二元論|世界史の窓
性即理|世界史の窓

通知設定
通知は
0 Comments
Oldest
Newest Most Voted
Inline Feedbacks
View all comments

SHARE

この記事を書いた人

shishido ライター

自転車、特にロードバイクを愛する図書館司書です。現在は大学図書館に勤務。農業系の学校ということで自然や環境に関心を持つようになりました。誰もが身近にSDGsについて考えたくなるような記事を書いていきたいと思います。

自転車、特にロードバイクを愛する図書館司書です。現在は大学図書館に勤務。農業系の学校ということで自然や環境に関心を持つようになりました。誰もが身近にSDGsについて考えたくなるような記事を書いていきたいと思います。

前の記事へ 次の記事へ

関連記事