デジタルヘルスとは?具体事例やメリット・デメリットなどを解説!

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スマートフォンやウェアラブルデバイスを利用し、健康状態や運動習慣をアプリで管理している人もいるのではないでしょうか。近年では、病院に行かなくても自宅で診療を受けられる遠隔医療も広がりつつあります。こうした医療や健康に関するデジタル技術はデジタルヘルスと呼ばれ、近年の市場規模の拡大とともに注目されています。

この記事では、デジタルヘルスとは何か、具体事例、日本における現状、メリットとデメリット・課題、デジタルヘルスの企業の取り組み、SDGsとの関係を解説します。

デジタルヘルスとは

デジタルヘルスとは、ICTやAI、IoTなどのデジタル技術を活用したヘルスケアを指します。ヘルスケアには、健康維持や増進のための取り組みに加えて、病気や心身の不調の予防や治療といった医療も含まれます。

デジタルヘルスが注目される背景

デジタルヘルスが注目される背景には、日本が超高齢社会であることが挙げられます。日本の総人口に占める高齢者の割合は2024年時点で29.3%と、過去最も高くなりました。この状況を一因に、医療費の概算は47.3兆円と3年連続で過去最高を更新しています。また以前から、医師不足が深刻な地域があることも問題になっています。

こうした事情から、デジタルヘルスが病気の予防や業務の効率化を促進することが期待されています。

ヘルステックとの違い

デジタルヘルスに似た意味の言葉にヘルステックがあります。ヘルステックは、健康とテクノロジーを組み合わせた言葉です。健康維持や病気予防・治療に、AIやIoTといった技術を活用するサービスを指します。

どちらも健康、病気予防・治療に関するデジタル技術という意味であり、現時点ではデジタルヘルスとの明確な使い分けはされていません。1)

デジタルヘルスの具体事例

デジタルヘルスの具体事例を早速見ていきましょう。5つの事例を取り上げます。

遠隔医療

遠隔医療は、遠く離れた場所をオンラインでつないで行う医療のことです。医師が患者に対して診療や健康相談などを行う「医療従事者・患者間」と、医師が他の医師や看護師に指導や助言をする「医療従事者間」に分類されます。ICTなどの技術を利用したデジタルヘルスの1つです。

画像診断AI

画像診断AIは、X線やCT、MRIなどの画像をAIが読み込み、病変や異常を検出するシステムです。人の目による見落としを防ぎ、診断の精度を向上させることが期待されています。近年は、画像解析結果と医師が作成した所見文との矛盾をチェックする機能を備えたシステムも登場しています。

デジタル治療(DTx)

デジタル治療(DTx)は、病気の予防や治療のための医療機器プログラムです。例えば、禁煙サポートや栄養管理を行うスマートフォンのアプリ、脳を活性化させるゲームなどがあります。厚生労働省は2020年に「プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略」を策定し、実用化促進などを進めています。

電子カルテ

電子カルテは、患者のカルテを電子化して管理する仕組みです。外部に依頼した検査結果を取り込み、一括して管理できるなどの利点があります。各医療機関が導入を進めているほか、厚生労働省は、全国で患者の電子カルテを共有する「電子カルテ情報共有サービス」の普及を進めています。

VR

VRは、バーチャル・リアリティ(仮想現実)の略で、コンピューターがつくった仮想空間を現実のように体験する技術のことです。デジタルヘルスにおいては、ヘッドセットを装着して手術のシミュレーションを行うことや、VR動画を見ながら散歩運動を実施するリハビリなどのサービスがあります。2)

日本におけるデジタルヘルスの現状

続いて、日本におけるデジタルヘルスの現状を確認しましょう。市場規模や電子カルテや遠隔診療の普及率を紹介します。

市場は拡大

アメリカのデジタルヘルス市場は、2024年には3,129億ドルに上り、今後も大きく成長すると見込まれています。また日本でも、2025年は2,254億円と試算されており、2019年の727億円からの市場拡大が予想されています。

この状況は、スマートフォンが普及していることや、デジタルヘルスに関するアプリやウェアラブルデバイスが、若年層から高齢者層まで広く利用されていることが理由の1つにあると考えられます。

遠隔医療は増加傾向

遠隔医療の分野のうち、医師が患者に対して行うオンライン診療に注目してみましょう。厚生労働省の調べによると、電話や情報通信機器を用いた診療をできるとして登録された医療機関数の割合は、2023年の時点で全体の16%と多くはありません。

■電話や情報通信機器を用いた診療を実施できるとして登録した医療機関数(2020年4月~2023年3月)

割合に注目してみると、この数年ではわずかに上昇しているとはいえ、十分に普及しているとは言えない状況です。この理由として、医療機関の職員教育の教材や研修が整備されていないことや、システムの導入・運用に費用がかかるなどの課題があります。

電子カルテは6割程度が実施

電子カルテの普及率は、病床の規模により数値は異なりますが、全体のおよそ6割にとどまっています。2023年時点では、400床以上の一般病院ではおよそ9割と最も高く、一般診療所は5割程度です。病床の規模が大きくなるほど、電子カルテが普及していることが分かります。

■電子カルテシステムの普及状況の推移

この十数年で全体の導入率は伸びているものの、病床の規模の違いにより、差が大きく開いている状況です。3)

デジタルヘルスのメリット

日本における現状を踏まえ、デジタルヘルスを推進していくことのメリットを挙げていきます。

医療機関の業務効率化

1つ目は、医療機関の業務効率化です。遠隔医療や画像診断AI、電子カルテを導入することで、医療機関の業務の負担軽減が期待できます。また患者にとっても、通院の労力を減らせたり、精度の高い診断を迅速に受け取ることができるなどのメリットがあります。

主体的な健康増進

もう1つは、スマートフォンなどを利用したデジタル治療(DTx)により、主体的に健康を増進できることです。アプリを通じて自分の身体の状態や活動量を知ることで、健康に対する意識が高まります。その結果、健康の維持や向上に役立ちます

これらは、超高齢社会と医師不足が課題である日本にとっても、大きなメリットと言えるでしょう。

デジタルヘルスのデメリット・課題

デジタルヘルスのメリットがある一方で、デメリット・課題もあります。

データの安全性

デジタルヘルスで取り扱うデータは、個人情報や診療履歴などのプライバシーに関わる情報です。何らかの状況によりこうした情報が漏れれば、患者に大きな被害が及ぶことも考えられます。セキュリティー体制を整えるなど、データを保護する対策が必要でしょう。

デジタルヘルスに関する企業の取り組み

前述のデジタルヘルスの市場規模の拡大からもうかがえる通り、企業でも取り組みが進められています。3社の事例を紹介します。

AMI株式会社「遠隔医療支援システム」

AMI株式会社は、高精度な聴診器などの医療関連サービスを研究・開発する医療系スタートアップです。心音と心電をクラウド上にアップロードし、波形情報などの解析結果を提供しています。このデータを遠隔の医師に共有し、心疾患を早期発見することが期待されています。

医師や看護師、放射線技師、臨床検査技師などに加えて、医用生体工学専門家、メカ・エレキ・ソフト設計エンジニアなどの医療と工学のプロフェッショナルが集まる企業です。

アイリス株式会社「AI搭載インフルエンザ検査機器」

アイリス株式会社は、AIを用いた医療機器の開発・製造・販売などを行う会社です。咽頭画像と体温などをAIが解析し、インフルエンザを検査する機器を販売しています。数秒〜数十秒で判定結果が出るほか、痛みも少なく、患者への負担が少ないことが特徴です。

開発チームでは、多種多様な専門家が協働することで、AI研究、デバイス開発、クラウド開発がシームレスに連携し、AI、デバイス、クラウドを融合させた医療機器を開発しています。

株式会社CureApp「CureApp HT 高血圧治療補助アプリ」

株式会社CureAppは、医師2名が創業したプログラム医療機器開発、モバイルヘルス関連サービス事業を行う医療系スタートアップです。治験で治療効果が証明された「治療アプリ」を開発しています。

高血圧の治療を補助する「CureApp HT 高血圧治療補助アプリ」は、医師が患者に処方するアプリです。スマートフォンにアプリをインストールし、生活習慣を改善する方法を学習、実践します。アプリに記録した内容をもとに医師が診療し、治療を行う仕組みです。4)

デジタルヘルスとSDGs

最後に、デジタルヘルスとSDGsとの関係を確認します。デジタルヘルスは、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」の達成に貢献します。

目標3「すべての人に健康と福祉を」

目標3「すべての人に健康と福祉を」は、すべての人が質の高い必要な保健サービスを利用できることや、健康的な生活と福祉を促進することなどが掲げられています。

デジタルヘルスは、人が生きる中で大切な健康から、病気の予防・治療までを支援するサービスです。医療の現場はもちろんのこと、自己の健康管理においても大きな役割を果たします。医療機関や人々がデジタルヘルスを有効に活用できるように推進することは、SDGsの達成につながります。


>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

ICTやAI、IoTなどのデジタル技術の進歩により、遠隔医療や画像解析AIといったデジタルヘルスの開発が進んでいます。日本をはじめ、アメリカの市場規模も拡大していることから、今後もサービスが増えていくことが予想されます。

日本には、超高齢社会や医師不足といった課題があります。デジタルヘルスが、こうした課題の解決の一翼を担ってくれることを期待します。

1)デジタルヘルスとは
ヘルスケアの定義 | 公益財団法人日本ヘルスケア協会(JAHI)
令和7年版高齢社会白書(全体版)(PDF版) – 内閣府
令和5年度医療費の動向~概算医療費の集計結果~
令和5年度の医療費 概算で47兆円余 3年連続で過去最高を更新 | NHK | 医療・健康
医師数増加なのに医師不足?原因は? 医師偏在マップで見えたこと 不足の地域は | NHK | WEB特集 | 医療・健康
2)デジタルヘルスの具体事例
遠隔医療 デジタルヘルス解説集 東京慈恵会医科大学 先端技術情報研究部
デジタル治療(DTx)開発における現状と留意点 2023年6月|日本製薬工業協会 医薬品評価委員会  臨床評価部会 タスクフォース1
プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略2ー SaMDの更なる実用化促進と国際展開の推進に向けてーDASH for SaMD 2D X(D igital Transformation) A for SaMD ction S trategies in H ealthcare (Software as a Medical Device) 2 2023年9月6日|厚生労働省医薬局医療機器審査管理課経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課医療・福祉機器産業室
電子カルテ情報共有サービス|厚生労働省
3)日本におけるデジタルヘルスの現状
Digital Health Market Size Share Report, 2025 – 2034
[総説・解説]健康社会におけるデジタルヘルスケアシステムの 今後の課題と展望 黒谷篤之、伊藤直仁、權娟大、小林暁雄、桂樹哲雄、西平順『情報の科学と技術 74巻9号(2024)』
オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針 令和5年6月|厚生労働省
第6回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料について|厚生労働省
4)企業の取り組み
アイリス株式会社 (Aillis, Inc.)
AMI株式会社
株式会社CureApp – ソフトウェアで「治療」を再創造する
CureApp、初のインパクトレポートを公開 | 株式会社CureAppのプレスリリース

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この記事を書いた人

池田 さくら ライター

ライター、エッセイスト。メーカーや商社などに勤務ののち、フリーランスに転身。SDGsにどう取り組んで良いのか悩んでいる方が、「実践したい」「もっと知りたい」「楽しい」と思えるような、分かりやすく面白い記事を書いていきたいと思っています。

ライター、エッセイスト。メーカーや商社などに勤務ののち、フリーランスに転身。SDGsにどう取り組んで良いのか悩んでいる方が、「実践したい」「もっと知りたい」「楽しい」と思えるような、分かりやすく面白い記事を書いていきたいと思っています。

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