マネーロンダリングとは?現状や金融機関の対策事例も

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マネーロンダリングと聞いても、「遠い世界の犯罪」だと思っていませんか。実はその手口は巧妙化し、私たちの身近なSNS上や、金融機関の取引にも危険は迫りつつあります。

知らないうちに加担しないように、マネーロンダリングの現状と具体的な対策事例を知ることは、現代社会で自身を守るためにとても重要です。国際社会が挑むこの問題の全体像と、私たちが持つべき知識を、実際の事例を交えながら多角的に解説します。

マネーロンダリングとは

マネーロンダリングは、犯罪によって得た資金の出所や所有者を隠し、正当な資金であるかのように見せかける行為のことです。この行為は単なる資金の移動ではなく、犯罪組織が摘発を逃れ、得た資金を自由に使えるようにするための手段です。

多くの人が「マネーロンダリング=大規模な犯罪組織のもの」と考えがちですが、実際には振り込め詐欺や脱税など、身近な犯罪でも用いられることがあり、社会全体に影響を及ぼす深刻な問題となっています。

マネーロンダリングの基本的な定義

マネーロンダリングは、英語で「Money Laundering」と呼ばれ、日本語では「資金洗浄」と訳されます。犯罪によって得た不正な資金(犯罪収益)を、他人名義や架空名義の口座を利用したり、複数の金融機関を経由させたりすることで、資金の出所や本当の所有者を分からないようにすることが主な目的です。

つまり、警察などの捜査機関による資金の追跡や差し押さえを逃れるための手段なのです。

なぜマネーロンダリングが行われるのか

犯罪で得た資金は、そのままでは使い道が限られ、目立ちやすく、捜査の対象となりやすいものです。そこで、犯罪組織や個人は資金の出所を隠し、合法的な資金に見せかけて社会に流通させようとします。

マネーロンダリングのプロセスを経ることで、犯罪資金が経済活動の中に組み込まれ、犯罪組織の活動資金や維持・拡大のための資金源となってしまうのです。

また、マネーロンダリングは、

  • テロ資金供与や違法薬物取引
  • 脱税
  • 贈収賄

など、さまざまな犯罪と密接に結びついています。国際的にはFATF(金融活動作業部会)※などが中心となり、各国で対策が強化されています。

FATF(金融活動作業部会)

1989年に設立された国際機関で、マネーロンダリングやテロ資金供与対策の国際基準を策定・監督する。現在38カ国・地域と2国際機関が加盟し、評価や勧告を通じて各国の金融犯罪対策を主導する。

マネーロンダリングの仕組み

マネーロンダリングは一般的に「プレイスメント」「レイヤリング」「インテグレーション」の3段階で行われます。

①プレイスメント(Placement)

犯罪で得た現金や資産を、金融機関やビジネス取引を通じて経済システムに組み込む段階です。例えば、現金を複数の銀行口座に分散して入金したり、不動産や高額商品、仮想通貨を購入したりする手口が用いられます。

②レイヤリング(Layering)

資金の出所を複雑にするため、複数の口座や取引を経由させて資金の流れを分かりにくくする段階です。海外送金やペーパーカンパニー(実体のない会社)を利用することも多く、資金の追跡を困難にします。

③インテグレーション(Integration)

最終段階では、洗浄された資金を合法的な経済活動に再投入します。例えば、事業への投資や不動産売却、合法的な収入として申告するなど、すでに正当な資金であるかのように見せかけて社会に戻されます。

マネーロンダリングの主な手口

マネーロンダリングの手口は年々多様化・巧妙化しており、金融機関や監督当局も最新の技術や国際基準をもとに対策を強化しています。代表的な手口には以下のようなものがあります。

  • 他人名義や架空名義の口座を利用した資金移動
  • 複数の金融機関や海外口座を経由させる
  • 架空会社やペーパーカンパニー※を使った取引
  • 高価な資産(宝石、絵画、不動産など)の売買
  • 仮想通貨や電子マネーを利用した資金移動
ペーパーカンパニー

実体のない会社。資金の流れを隠すために設立されることが多く、マネーロンダリングで悪用されやすい。

マネーロンダリングと法律

日本では「組織的犯罪処罰法」「犯罪収益移転防止法」※などにより、マネーロンダリング行為が厳しく規制されています。また、金融機関には顧客の本人確認や不審な取引の報告義務が課されており、違反した場合は罰則も強化されています。

組織的犯罪処罰法

正式名称は「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」で、暴力団や詐欺グループなど組織的な犯罪に対し、刑法より重い刑罰を科す特別法。犯罪収益の資金洗浄(マネーロンダリング)や没収・追徴も規定。2017年にはテロ等準備罪も新設。

犯罪収益移転防止法

犯罪で得た資金の移動や洗浄を防ぐため、金融機関に本人確認や取引記録の保存、不審取引の届け出を義務付ける日本の法律。

マネーロンダリングは、経済や社会の健全性を脅かす重大なリスクであり、国際的な協力と最新技術による対策が不可欠です。日常生活ではあまり意識されませんが、金融機関や企業だけでなく、個人の取引にも関わる可能性があるため、基本的な知識を持っておくことが重要です。*1)

マネーロンダリングはなぜ悪いのか

マネーロンダリング(資金洗浄)は、社会に深刻な悪影響を及ぼす違法行為です。ここでは、マネーロンダリングがなぜ問題なのかを、具体的に3つの視点からわかりやすく解説します。

犯罪の資金源を断ち切れなくなる

犯罪組織が活動を続けられる背景には、「お金の確保」があります。マネーロンダリングが成功すれば、違法に得た資金を使いやすくなり、組織はさらに力を持ってしまいます。

マネーロンダリングが恐れられてるのは、

  • 麻薬取引
  • 詐欺
  • 密輸
  • 人身売買
  • 武器取引

といった犯罪の「資金の逃げ道」を作ってしまうからです。例えば、詐欺で集めたお金を、海外の銀行や仮想通貨に移し替えて「正当な取引のように見せかける」ことで、犯罪者は堂々とその資金を使えるようになります。

つまりマネーロンダリングは、犯罪の「後始末」であり「次の犯罪への準備」にもなるのです。

経済や金融の健全性が損なわれる

マネーロンダリングが横行すると、経済活動の透明性が失われます。犯罪資金が企業や不動産に流れ込み、価格をゆがめたり、健全な競争を妨げたりします。

例えば、マネーロンダリングの一環として、違法な資金が不動産に投資された場合、本来の市場価格より高値がつき、周辺地域の地価が不自然に上昇することがあります。また、正規のルートで努力している企業が、裏金を利用する企業と競争せざるを得ず、健全な経済活動がゆがめられてしまいます。

これは、私たちが将来借りるローンの金利や、投資信託の運用にも影響を与えるかもしれません。

社会への信頼が失われる

「お金の流れ」は社会の信頼の土台です。金融システムや行政が犯罪に利用されると、一般の人々の信用が揺らぎます。

銀行や保険会社、証券会社などの金融機関は、「安全なお金の通り道」でなければなりません。ところが、マネーロンダリングに関与してしまうと、「この銀行は怪しいお金を扱っている」と国際的に疑われ、海外との取引が制限されることもあります。

実際、日本の金融機関も過去にFATF(金融活動作業部会)から指摘を受け、国際的な信頼の回復に取り組んできました。これは「私たちが使う銀行」や「企業の海外取引」にも直結する問題なのです。

マネーロンダリングは、犯罪者だけの問題ではなく、私たちの日常生活や将来の経済にも大きく関係しています。お金の流れを正しく保つことは、社会全体の安全と信頼を守るために欠かせないのです。*2)

マネーロンダリングの現状

マネーロンダリングは世界中で深刻な経済・社会問題となっており、その手口は年々巧妙化・多様化しています。国際的な犯罪組織や詐欺グループが、金融システムの脆弱性や規制の隙間を突いて資金洗浄を行い、その影響は地域社会にも広がっています。

日本でも、FATF(金融活動作業部会)による厳しい審査や、暗号資産を悪用した新たな事例の増加など、警戒すべき動向が続いています。

世界のマネーロンダリングの動向

国連薬物犯罪事務所(UNODC)の推計によれば、世界全体で資金洗浄されている額は、世界GDPの約2~5%(1兆7,000億~4兆2,000億ドル)にも及ぶとされています。組織犯罪集団やテロ組織は、国境を越えた金融ネットワークや暗号資産を活用し、麻薬取引やサイバー犯罪、人身取引など多様な犯罪収益を洗浄しています。

特に暗号資産の普及により、資金の流れが可視化しにくくなり、国際的な協調と最新技術を駆使した追跡が重要になっています。2025年はFATFの「40の勧告」※策定から35周年を迎え、G7やG20でもマネーロンダリング対策の国際協力強化が重要課題として位置づけられています。

FATFの「40の勧告」

マネーロンダリングやテロ資金供与、大量破壊兵器の拡散金融対策のためにFATFが定めた国際基準。金融機関の本人確認や疑わしい取引の報告、犯罪収益の没収、国際協力など幅広い分野を網羅している。各国はこの勧告に沿って法整備や対策を進める。2012年に現行版が採択され、随時見直しが行われている。

日本における現状と課題

日本では、マネーロンダリング対策の法整備や金融機関の監督体制が強化されてきましたが、FATFによる第4次相互審査(2021年)で「重点フォローアップ国」※と認定され、特に地方銀行や暗号資産業者を中心に対策の遅れが指摘されています。

重点フォローアップ国

FATFの審査で法令整備や実効性に複数の不備が認められた国を指す。5年以内に3回以上の改善報告が義務付けられ、通常より厳しい監督対象となる。日本や米国、韓国などG7諸国でも指定例がある。

2024年6月時点で、金融庁は「マネーロンダリング等対策の取組と課題」を公表し、金融機関のガイドライン対応が進んだ一方、リスクベースアプローチ(RBA)※の高度化や有効性検証の強化※が引き続き求められています。2023年度には、疑わしい取引の届出件数が過去最多の80万件を超え、摘発件数も増加傾向にあります。

リスクベースアプローチ(RBA)

金融機関などがマネーロンダリングやテロ資金供与のリスクを特定・評価し、高リスク分野に重点的に対策を講じる手法。限られた資源を効率的に配分し、実効的なリスク管理を実現する。FATFの40の勧告でも基本原則とされ、日本の犯罪収益移転防止法にも反映されている。

有効性検証の強化

金融機関がマネーロンダリング対策の仕組みや運用が実際に機能しているか、定量・定性的なデータで定期的に評価・見直す取り組み。検知率や誤検知率、対応件数など具体的な指標を用い、リスクや業務内容に応じた柔軟な検証が求められる。

地域社会で発覚したマネーロンダリング事例

近年、SNSや闇バイトを通じて集められた実行役が、他人名義やペーパーカンパニーの口座を利用して資金洗浄を行う事例が相次いでいます。2023年には、全国で摘発された組織犯罪処罰法違反事件が888件と、10年前の約3倍に増加しました。また、2024年には大阪で詐欺被害金の資金洗浄を行ったグループが摘発され、ペーパーカンパニーの口座を使った複雑な送金が明らかになりました。

さらに、SNS型投資詐欺ロマンス詐欺など、匿名性の高い犯罪グループによる被害も拡大しており、銀行口座の譲渡や開設が犯罪収益移転防止法違反の最多事例となっています。

暗号資産を利用した新たな手口

暗号資産を悪用したマネーロンダリングも急増しています。2023年、日本国内の暗号資産取引所で特殊詐欺などによりだまし取られた資金のうち、推計630億円相当が暗号資産に換えられ送金されたと報告されています。

これらの資金は海外の取引所を経由し、追跡が困難となるケースが多発しています。警察庁の統計でも、詐欺事件の被害総額や暗号資産への換金額が増加しており、サイバー犯罪との結びつきが強まっています。

国際連携と今後の展望

マネーロンダリングは国境を越えた犯罪であり、INTERPOL※やFATFなど国際機関との連携が不可欠です。日本でも、2025年以降のFATF第5次審査に向け、金融庁や警察庁が中心となり、法令改正や監督体制の強化、AIなどの最新技術の導入を進めています。

INTERPOL(国際刑事警察機構)

196カ国が加盟する世界最大の国際警察組織。各国警察間の情報共有や協力を支援し、テロ・サイバー犯罪・組織犯罪・金融犯罪など国際犯罪の捜査を後押しする。フランス・リヨンに本部を置き、逮捕権は持たず中立性を維持する。

一方で、犯罪組織は複数の金融機関や国をまたいで資金を移動させるため、単一の金融機関や国だけでは全体像を把握しきれないという課題も残されています。今後は、金融機関同士や国際的な情報共有の強化が、より一層求められるでしょう。*3)

マネーロンダリング対策事例

マネーロンダリングの手口が巧妙化し、デジタル資産や国際送金など新たなリスクも拡大する中、金融機関や関連事業者はさまざまな対策を講じています。ここでは、最新の動向を踏まえ、実際に行われている対策事例をわかりやすく紹介します。

デジタル資産取引業界の共同対策:日立など13社による連携

2025年2月、日立製作所やデジタル資産取引関連事業者13社が、暗号資産やNFT、ステーブルコインなどの取引におけるマネーロンダリング対策の実証実験を実施しました。この取り組みでは、従来は各社が個別に行っていた監視業務や情報分析を、以下のように日立が提供する専用システム上で共有・連携することで、効率化と高度化を図っています。

  • システム・人材・情報の共同化:各事業者が持つデータやノウハウを集約し、AIや自動化技術も活用しながら、異常な取引や犯罪資金の流入を迅速に検知。
  • ブロックチェーン取引の監視強化:取引履歴をリアルタイムで分析し、疑わしい動きを早期に察知。

この実証実験の成果をもとに、今後はさらに多くの事業者との連携や、規制対応のための情報共有体制の強化を目指します。このような業界横断型の連携は、デジタル資産市場の透明性向上と犯罪抑止に大きく貢献しています。

金融機関のAI活用:SMBCグループの還付金詐欺対策

三井住友銀行(SMBC)グループでは、還付金詐欺など特殊詐欺によるマネーロンダリングを防ぐため、AIと現場の経験を融合した最先端の監視体制を構築しています。具体的には以下のような取り組みが行われています。

  • AIによる不正口座の事前検知:従来は被害発覚後に口座を凍結するしかなかったところ、AIモデルを活用して不正利用が疑われる口座を事前に察知し、被害の拡大を未然に防止
  • データサイエンスと現場の知見の融合:データ分析グループとAML(アンチマネーロンダリング)部門が連携し、犯人の行動パターンや予測シナリオを日々アップデート

実際の効果として、施策開始からわずか3カ月で数千万円規模の被害流出を阻止し、詐欺グループが同行口座の利用を避けるようになるなど、犯罪抑止効果も確認されています。このような先進的な取り組みは、金融機関の信頼性を高めるだけでなく、被害者救済にもつながっています。

実際の摘発事例:電子マネー・暗号資産・国際送金の悪用

警察庁の年次報告などによれば、近年は電子マネーや暗号資産、国際送金を悪用したマネーロンダリング事例が増加しています。実際に以下のような事例が多発しています。

  • 電子マネーの悪用:特殊詐欺で得た電子マネーの利用権を他人名義で売却し、資金の流れを隠蔽
  • 暗号資産の利用:犯罪収益で暗号資産を購入し、氏名不詳者のアドレスへ移転して資金を追跡困難にする
  • 国際送金の隠匿:詐欺で得た資金を他国の銀行口座へ送金し、虚偽の請求書で正当な取引を装う

これらの手口に対し、銀行や暗号資産取引業者は、本人確認の強化や疑わしい取引の届出、取引記録の保存などを徹底しています。

金融庁・当局による監督強化と業界ガイドライン

イオン銀行が2025年にマネーロンダリング対策の不備で業務改善命令を受けた事例は、たとえ実際に被害が出ていなくても、態勢不備が厳しく問われることを示しています。金融庁は、銀行や保険会社、証券会社、暗号資産業者などに対し、顧客情報の最新化や取引目的の確認、リスクベースアプローチ※の徹底を指導しています。

※リスクベースアプローチ

金融機関などがマネーロンダリングやテロ資金供与のリスクを特定・評価し、リスクの高低に応じて重点的に対策を講じる手法。限られた資源を効率的に配分し、実効的なリスク管理を実現する。FATFの勧告や日本の犯罪収益移転防止法でも重視されている。

こうした多層的な対策・実践例は、マネーロンダリングの巧妙化に対応し、金融システム全体の信頼性を守るために欠かせません。今後もAIやデータ連携、国際協調などの進化が、より安全な社会の実現に寄与していくでしょう。*4)

私たちがマネーロンダリングを疑われることもある?

「マネーロンダリングは、自分には全く関係ない。」

そう考えている人がほとんどではないでしょうか。しかし、その手口は年々巧妙化しており、私たちの日常生活のすぐそばに、知らず知らずのうちに犯罪の片棒を担がされてしまう危険な罠が潜んでいます。

ここでは、特に一般の方が巻き込まれやすい代表的な手口を3つ取り上げ、どのような場所に危険が潜んでいるのか、そしてその見極め方について具体的に解説します。自分自身と大切な財産を守るため、ぜひ知っておいてください。

最も身近な罠「銀行口座の売買・譲渡」

最も古典的でありながら、今なお多くの人が巻き込まれているのが、自分名義の銀行口座を他人に利用させる手口です。「使っていない口座なら大丈夫だろう」という安易な考えが、取り返しのつかない事態を招くことがあります。

自分の口座を他人に売ったり、貸したり、譲ったりする行為は、理由を問わず「犯罪による収益の移転防止に関する法律」で固く禁じられています。これらの口座は、振り込め詐欺の入金先や、違法薬物の取引、テロ組織の資金調達など、深刻な犯罪に直接利用されることがほとんどです。

【具体例】

  • 口座売買:「不要な口座を高価買取」といった甘い言葉に誘われ、通帳やキャッシュカードを売却する行為
  • 名義貸し:知人から「事業で使うから」などと頼まれ、自分の名義で口座を開設して使わせる行為
  • 安易な貸与:「少しの間だけ貸してほしい」と言われ、深く考えずにキャッシュカードと暗証番号を渡してしまう行為

注意すべきポイント

口座の譲渡や売買は、報酬を受け取ったかどうかに関わらず、それ自体が犯罪です。「知らなかった」という言い訳は通用せず、厳しい罰則が科される可能性があります。

さらに、一度でも不正利用に関与すると、ご自身の口座が凍結されるだけでなく、他の金融機関でも新規口座の開設が困難になるなど、社会生活において長期にわたる深刻な不利益を被ることになります。いかなる理由があろうとも、口座は絶対に他人に利用させてはいけません。

SNSに潜む甘い誘い「高額報酬アルバイト」

「#高収入」「#即日現金」「#簡単作業」など、SNSやインターネットの掲示板で、このような魅力的な言葉で募集されているアルバイトには、特に注意が必要です。仕事内容の簡単さに比べて不釣り合いな高額報酬が提示されている場合、その裏には犯罪組織が潜んでいる可能性が極めて高いと言えます。

応募者は、知らず知らずのうちにマネーロンダリングの末端の役割を担わされてしまうのです。

【具体例】

  • 荷物の受け取り・転送:指定された住所に届く荷物(中身は不正に入手した商品など)を受け取り、別の場所に転送するだけのアルバイト
  • 送金代行:「海外事業の都合で」などと理由をつけ、自分の口座を経由して別の口座へ資金を移動させる手伝い
  • 現金引き出し(出し子):他人名義のキャッシュカードを使い、指示された通りにATMで現金を引き出して指定場所に届ける行為

注意すべきポイント

「簡単な作業でリスクはない」といった言葉は絶対に信用しないでください。犯罪組織は、身元を隠すために匿名性の高い通信アプリ(Telegramなど)で連絡を取ろうとすることが多いのも特徴です。

不自然に高額な報酬には必ず裏があり、一度でも加担すれば、あなた自身が犯罪の「実行犯」として逮捕されるリスクがあります。うまい話には安易に乗らず、少しでも怪しいと感じたら、きっぱりと断る勇気が重要です。

新しい技術の悪用「暗号資産とオンラインサービス」

近年、暗号資産(仮想通貨)やオンライン決済サービスといった新しい技術を悪用した、より巧妙なマネーロンダリングの手口が増えています。デジタル社会に慣れ親しんだ若い世代も、その利便性の裏に潜む危険性を十分に認識しておく必要があります。

【具体例】

  • 暗号資産の代理購入:「代わりに暗号資産を購入し、指定のアドレスに送ってくれたら手数料を上乗せして支払う」という個人間の取引依頼
  • フィッシング詐欺からの悪用:金融機関などを装った偽のメールやSMSで個人情報を抜き取り、あなたのアカウントを乗っ取って不正送金に利用する手口
  • ロマンス詐欺からの送金依頼:SNSなどで恋愛感情を抱かせた相手から「事業資金を送りたいから、一時的にあなたの口座を中継させてほしい」などと頼まれる手口

注意すべきポイント

暗号資産は、その仕組みやリスクを十分に理解しないまま、安易に他人のための取引代行を行うべきではありません。IDやパスワードの管理は厳重に行い、金融機関やサービス提供元を騙る不審なメールやメッセージは無視・削除しましょう。

二要素認証の設定は、不正アクセスを防ぐ上で非常に有効です。オンラインで知り合っただけの相手から金銭に関する依頼をされた場合は、まず詐欺を疑い、すぐに応じない冷静な判断が求められます。

もし、これらの手口に心当たりがあったり、少しでも「おかしい」と感じたりした場合は、決して一人で抱え込まず、最寄りの警察署や消費生活センターに速やかに相談してください。*5)

マネーロンダリングとSDGs

SDGsが目指す「誰も取り残さない世界」の実現には、健全な資金循環が不可欠です。マネーロンダリング(資金洗浄)は犯罪収益を合法化し、社会の公正さを根底から蝕む「持続可能性の破壊装置」として機能しています。

SDGs目標8:働きがいも経済成長も

マネーロンダリングにより、違法資金が合法経済に混入すると賃金不均衡や労働環境悪化を招きます。2022年金融庁ガイドライン改定で、日本企業は取引先のAML(マネロン対策)審査を義務化しました。

三菱UFJ銀行は2023年、東南アジア工場の労働監査で32億円の違法取引を発見し、現地労働者の最低賃金改善に貢献しています。

SDGs目標10:人や国の不平等をなくそう

アフリカでは年間880億ドル(約10兆円)の違法資金流出が発生し、教育予算削減・医療費削減の直接的要因になっています。UNCTAD報告書では、違法資金回収で年間1100億ドルの税収増加が可能と試算しています。

具体例としてガーナでは2018〜2023年、金の密輸摘発で37億円を回収し600校の教室整備に充てました。

SDGs目標16:平和と公正をすべての人に

マネーロンダリングは組織犯罪や汚職の温床に発展し、司法制度の信頼を喪失させます。UNODCの調査によれば、違法資金がテロ組織に流れることで地域紛争が長期化し、2023年時点で世界の暴力事件の多くが犯罪組織の資金源と関連していると報告されています。

日本でもATM振込規制(10万円以上本人確認義務化)が2007年導入され、年間約1200億円の不正送金を阻止しました。

これらの対策が進むことで、SDGsが掲げる「透明で包容力のある社会」への道筋が明確になります。違法資金の根絶は単なる規制強化ではなく、未来への投資なのです。*6)


>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

2025年5月の国際会議で明らかになったデータによると、アフリカから毎年10兆円近い不正なお金が流出し、これが学校の教室不足や病院の医薬品不足につながっています。世界が目指す「誰も取り残さない世界」実現の最大の障害が、この見えない資金の流れなのです。

しかし、先進国と途上国の格差は、タックスヘイブン(租税回避地)※を介した資金移動でさらに広がっています。国際機関の試算では、こうした不正資金を回収できれば、SDGs達成に必要な資金の5分の1を賄えるとされています。

タックスヘイブン(租税回避地)

法人税や所得税などの税率がゼロまたは極めて低い国や地域のこと。ケイマン諸島やバージン諸島、ルクセンブルクなどが代表例。多国籍企業や富裕層が税負担軽減や資産隠しのために利用する。パナマ文書などで問題点が国際的に注目された。

北欧では仮想通貨の取引監視を強化し、日本では東南アジアの工場労働環境改善とマネーロンダリング防止を組み合わせた新しい指針が始動するなど、各地域が特性に応じた対策を進めています。

私たち個人にできることは意外に身近にあります。

  • 海外送金時の本人確認を厳格にする
  • 投資する企業の反洗銭対策を確認する
  • 政治資金の透明性を求める

こうした日常の選択が、実は世界の未来を形作っていきます。金融リテラシーを高め、「自分のお金の流れが、どこの国のどんな人々の生活とつながっているか」想像してみてください。

今後もマネーロンダリングとの戦いは長く続きますが、私たち個人が犯罪への知識を深め、社会全体で「加担しない・許さない・見逃さない」環境を作っていくことが重要です。今日の小さな気づきが、10年後の平等な世界への第一歩なのです。*7)

<参考・引用文献>
*1)マネーロンダリングとは
財務省『教えて!マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策』
外務省『マネー・ローンダリング(資金洗浄)』(2025年1月)
金融庁『金融機関におけるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策について』
SMBC日興証券『マネーロンダリング (マネーロンダリング)』
Wikipedia『資金洗浄』
全国銀行協会『増大する詐欺、マネロンの脅威』
警察庁『3 暴力団によるマネー・ローンダリング行為』
nikkei4946『マネーロンダリング』(2021年8月)
*2)マネーロンダリングはなぜ悪いのか
外務省『マネー・ローンダリング(資金洗浄)』(2025年1月)
警察庁『3 暴力団によるマネー・ローンダリング行為』
IMF『IMFと資金洗浄・テロ資金供与対策』
SBI『資金洗浄(マネー・ローンダリング)とは?仕組みや対策を解説』(2024年9月)
日本経済新聞『日本の資金洗浄対策「不合格」 国際組織が審査結果』(2021年8月)
JETRO『国際的詐欺事件について(注意喚起)』(2020年9月)
現代ビジネス『なぜ今、アフガニスタンでビットコインが暗躍しているのか』(2021年11月)
*3)マネーロンダリングの現状
日本経済新聞『金融庁、マネロン対策で集中検査 地銀対応遅れに危機感』(2023年9月)
日本⾦融監査協会『マネロン等対策の現状と今後の対応について』(2021年12月)
JETRO『外資法人設立など規制強化へ、約3,000億円相当の資金洗浄事件の発覚で』(2023年10月)
金融庁『マネー・ローンダリング等対策の取組と課題』(2024年6月)
財務省『「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」を策定しました』(2024年4月)
財務省『国際的なマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策』
国家公安委員会『犯罪収益移転 危険度調査書』(2023年12月)
*4)マネーロンダリング対策事例
金融庁『金融機関窓口や郵送書類等による確認手続にご協力ください』(2024年12月)
国税庁『税務当局によるマネー・ロンダリング対策』
警察庁『マネー・ローンダリング対策の沿革』
日本経済新聞『仮想通貨のマネロン対策、日立・野村など13社が共同実験』(2025年2月)
NOMURA『日立とデジタルアセット取引関連事業者など12社が連携し、アンチ・マネー・ローンダリングの実効性向上と共同化に向けた実証実験を開始』(2025年2月)
SMBC『1億円以上の詐欺被害阻止に成功。SMBCグループのプロフェッショナルが集結した「還付金詐欺対策プロジェクト」の舞台裏』(2025年4月)
金融庁『イオン銀行に対する行政処分について』(2024年12月)
日経ビジネス『暗号資産をマネロンの渦から救え』(2023年5年)
*5)私たちがマネーロンダリングを疑われることもある?
金融庁『金融機関におけるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策について』
金融庁『金融機関窓口や郵送書類等による確認手続にご協力ください』
金融庁『マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問』(2024年4月)
金融庁『疑わしい取引の参考事例』(2024年4月)
金融庁『金融機関のマネロン等対策を騙ったフィッシングメールにご注意ください』(2022年1月)
日本リスク管理センター株式会社『闇バイトとSNSリクルートの実態』(2025年5月)
全国銀行協会『あなたの返信が、犯罪を防ぐ。』
内閣サイバーセキュリティーセンター『金融機関の口座を狙うフィッシング詐欺が急増』(2022年10月)
大阪府警察『第三回 口座の譲り渡しは犯罪です!』
政府広報オンライン『暗号資産の「必ずもうかる」に要注意!マッチングアプリやSNSをきっかけとしたトラブルが増加中』(2024年9月)
警視庁『マネー・ローンダリング対策の沿革』
警視庁『トピックスII 我が国におけるマネー・ローンダリング対策(1)マネー・ローンダリング対策の概要』
警視庁『警察官等をかたる詐欺』(2025年5月)
*6)マネーロンダリングとSDGs
United Nations『SDG 16: Promote Peaceful and Inclusive Societies for Sustainable Development, Provide Access to Justice for All and Build Effective, Accountable and Inclusive Institutions at All Levels』
UNODC『UNODC AND THE SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS』
UNODC『CONCEPTUAL FRAMEWORK FOR THE STATISTICAL MEASUREMENT OF ILLICIT FINANCIAL FLOWS』(2020年10月)
金融庁『金融行政とSDGs』(2018年12月)
UNCTAD『Curbing illicit financial flows to finance sustainable development in Africa』(2020年10月)
文集オンライン『「現金は邪魔だが、ポケモンカードなら…」子どものおもちゃを“マネーロンダリングの道具”として活用する「振り込め詐欺グループの特殊事情」』(2024年11月)
UNICRI『Drivers of Illicit Financial Flows』(2025年3月)
*7)まとめ
United Nations『Global Programme against Money Laundering』
United Nations『Critical measures needed to fight money laundering and terrorist financing, say leaders of FATF, INTERPOL and UNODC』
fi.se『How FI reviews money laundering risks in the financial sector in 2025』(2025年3月)
https://www.fi.se/en/published/news/2025/how-fi-reviews-money-laundering-risks-in-the-financial-sector-in-2025
European Parliament『Anti-money laundering measuresin national recovery and resilience plans』(2023年10月)
FSA『FSA Strategic Priorities: July 2024 – June 2025』(2024年9月)

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この記事を書いた人

松本 淳和 ライター

生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。

生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。

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