筋ジストロフィーとは?病状や原因、治療についても

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筋ジストロフィーという病気について「耳にされたことはある」という方は多いのではないでしょうか。

骨格筋に異常が現れるので、ほとんどの患者さんが運動機能障害を持ち、姿勢の保持や身体を動かすことに不自由を感じておられます。病状が進むと、杖や車いすを使っているので、周囲からも病気であることが分かります。しかし、人の身体は外側だけ筋肉でできているわけではありません。内臓も筋肉からできています。筋ジストロフィーとは呼吸する、消化するなどの活動にも重大な疾患をもたらす病気です。

その筋ジストロフィーについて、症状を整理し、原因や治療法について分かりやすく解説しました。遺伝との関連など、深く考えざるを得なくなる病気です。ぜひ一緒に考えていきましょう。

筋ジストロフィーとは

筋ジストロフィーとは、骨格筋の壊死・変性を主な症状とする遺伝子疾患の総称です。筋肉の機能に不可欠なタンパク質に関わる遺伝子に異常がおき、筋細胞が正常な機能を維持できなくなり、運動機能障害をもたらします。

発症のプロセス

詳細なメカニズムはまだ不明な点も多く残っていますが、概ね次のようなプロセスで発症に至ります。

  1. 遺伝子の変異
  2. タンパク質の機能異常
  3. 細胞機能の障害
  4. 筋肉の変性・壊死
  5. 筋肉減少・線維化・脂肪化
  6. 筋力低下
  7. 各種機能障害

現在の患者数

厚生省の調査で 25,400 人と公表された時もありますが、軽度の運動障害の方は受診率が低く、正確な統計はとれていません世界的には、有病率は人口10万人当たり17〜20人程度と推測されています。

次章でご紹介するように筋ジストロフィーには代表的な病型があります。型によって有病率に地域差があり、責任遺伝子 ※ および蛋白の究明が期待されています。

※ 責任遺伝子

病気の発症リスクに大きく関与する遺伝子。それだけで直接原因になるとは言えない。

筋ジストロフィーの症状

筋ジストロフィーは、症状の特徴や遺伝形式に基づき分類されます。代表的な病型と特徴をまとめました。

筋ジストロフィーの代表的病型

病型特徴的症状(合併症を含む)
ジストロフィン異常型下腿・足首・股関節拘縮、心不全、発達障害、精神発達遅延
顔面肩甲上腕型肩甲骨筋・顔面筋の異常、滲出性網膜炎、難聴
筋強直性筋強直現象、斧様顔貌 ※ 前頭部脱毛、認知機能障害、眼瞼下垂、白内障、難聴、心伝道障害 、不整脈、睡眠時無呼吸症候群、高インスリン血症、高脂血症
エメリー・ドレイフス型心伝導障害、不整脈、心不全、関節拘縮、
眼咽頭型眼瞼下垂、外眼筋麻痺、構音障害、嚥下障害

病型の分類は、タンパク質や遺伝子の研究が進むに伴って変わってきており、一部の疾患が筋ジストロフィーから除外されたり、新しく追加されたりします。

症状別にみると

どの病型にしても、骨格筋障害による運動障害が主となります。そして身体の様々な部位に次のような機能障害を引き起こすことが多くなります。

  • 呼吸系:呼吸機能障害
  • 消化系:咀嚼・嚥下・構音機能障害
  • 視覚系:眼瞼下垂・眼球運動障害や表情の乏しさ

さらにこれらに付随した二次的障害として

  • 関節の変形
  • 骨粗鬆症
  • 歯列不正
  • 誤嚥
  • 栄養障害
  • 不整脈

などを引き起こす場合も少なくありません。

症状が進んだ場合、機能不全に至ることもあります。眼や耳が冒された場合は、知的障害を合併することもあります。

<遺伝子➡タンパク質➡筋肉>と連鎖するため、症状は全身に及びます人によっては、顕著な運動機能障害より、合併症の症状が先にはっきりと現れる場合もあります。

診断方法

診断は、上記のような骨格筋の異常の所見と病理検査から行われます。

骨格筋の壊死・変形具合の所見と、筋電図検査免疫検査血清検査などの病理検査の結果から病型や程度を診断します。

筋ジストロフィーの原因

筋ジストロフィーの原因はまだ十分には解明されていません。しかし、責任遺伝子の特定とタンパク質の機能異常につながるメカニズムの解明が進んできています。

責任遺伝子の特定

筋ジストロフィー責任遺伝子の機能は、

  • 細胞の外側の基底膜に作用するもの
  • 細胞膜に作用するもの
  • 角膜に作用するもの
  • 筋原線維に作用するもの

などがあります。

筋ジストロフィーの責任遺伝子は、これまで50以上特定されてきています。責任遺伝子が特定されれば、それがタンパク質生成にどう関わっていくかそのメカニズムの究明に繋がります。

タンパク質へ作用するメカニズム

とはいえ、概要がつかめてきているものもあります。

例えば、ジストロフィン異常型の1つであるデュシェンヌ型筋ジストロフィー ※ を発症させる遺伝子については、

  • X染色体上にあること
  • 筋肉の細胞膜にあるジストロフィンタンパク質を欠如させる

などが分かっています。

X染色体上にあるということは、家系や両親の原因遺伝子の組み合わせにより、発症するか健常かキャリアかなども予測できます。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー

幼児期に多く発症する筋ジストロフィー。主に男児に多い。フランスの神経学者アマン・デュシェンヌに由来する。

筋ジストロフィーの治療法

残念ながら、いずれの病型においても現時点で根本的な治療法が確立されているとは言えず、対処療法が中心になっています。しかし、研究の進歩と治験の蓄積によって、新薬が開発されたり、効果的な医療機器やリハビリテーション法が進化しつつあります。

薬物療法

病状を遅らせることや、患者の生活を低下させないための対処療法としての薬物療法は、治療の重要な役割を果たし、研究の進歩が著しい分野です。

現在のところ、ステロイド剤の骨格筋障害への有効性が確立され、特にデシュエンヌ型筋ジストロフィーの責任遺伝子に働きかけ、修正する効力があるとされたステロイド剤「ビルトラセン」や「プレドニゾロン」などが、保険承認されています。

ステロイド剤は副作用も心配されるので、服用には専門医との相談が不可欠です。今後の新薬の開発に期待がかかります。

物理・作業療法

物理療法は、筋肉の柔軟性や強度を保ち、関節の動きが硬くなるのを防ぐために行われます。早期に導入することが重要とされています。

特に軽度の運動は、多くの病型の筋ジストロフィーに有効であることが分かっています。しかし負荷の大きな筋力トレーニングは危険性が高く、勧められていません。

運動機能ばかりでなく、肺を柔らかく保つ呼吸理学療法などもあります。

新しい医療機器を使ったリハビリテーション

近年はロボット型の治療機器も開発され、リハビリテーションに活用されています。

HAL医療用下肢タイプ」は、脳から筋肉を通して送られる信号を読み取り、モーターを動かして歩行を助ける医療機器で、保険適用も受けており、筋ジストロフィー以外の神経・筋力疾患の方にも有効と言われています。

物理・作業療法、リハビリテーションは、薬物療法との併用もされており、作業療法士や理学療法士の計画・指導のもとに行われます。

筋ジストロフィーに関してよくある疑問

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ここからは、筋ジストロフィーに関してよくある疑問にお答えしていきましょう。

発症している有名人はいる?

公表している有名人についてお答えします。

プロゴルファー:モーガン・ホフマン

モーガン・ホフマンは、2011年にプロデビューを果たしたアメリカのゴルファーです。順調な成績を残し始めたものの、徐々に体調不良に気づき始めました。最初は原因が分かりませんでしたが、多くの医師の診察を受けて回り、最後に下された病名が筋ジストロフィーでした。

しかしホフマンは、手記として自分の病気を公表し、その後も後進国の子供たちの教育や、国内の難病の子供たちを応援するチャリティ活動に取り組んでいます。さらに、長年の治療とリハビリを経て、2022年にはゴルファーとして復帰しました。

ホフマンの治療中の前向きな姿や「復帰」という事実は、多くの人を勇気づけました。

筋ジストロフィーのアーティスト:山下重人さん

山下重人さんは、1973年愛媛県で3歳で筋ジストロフィーと診断されました。県内の支援学校を卒業後、通信教育で京都芸術大学を卒業し、現在は仙台在住の画家であり詩人でもあります。わずかに動く右手とIT機器を使って絵を描き、事務職としてもリモートワークをこなしています。

近年はワインボトルのラベルなど企業の商品ラベルにも採用されたり、作品がプリントされたシャツが商品化されたりしています。山下さんは、自分の活動が「筋ジストロフィーという病気を理解してもらう良い機会」と話し、個展を開いたり企業や団体のオファーに応えて作品を商品化したりして、多くの人に勇気を与えています。

遺伝が関係する?

デュシェンヌ型筋ジストロフィーのように責任遺伝子がX染色体上にある病型では、遺伝との関係はかなり明確になってきています。X色体連鎖では、女性はキャリアとなり、キャリアの男児の半分が発症します。

常染色体上に責任遺伝子がある場合は、一方の遺伝子だけに変異があると発症する優性遺伝形式と、変異の原因となる遺伝子が両方存在する場合だけ発症する劣性遺伝形式があります。

優性遺伝式:次世代の発症確率は、男女の別なく二分の一

劣性遺伝式:キャリア同士の婚姻では、発症率は四分の一となり、近親婚では発症質が増加

寿命は?

寿命は、病型によって違います。また個人差も大きく見られます。

ジストロフィン異常型筋ジストロフィーは個人差が大きく、20代で車いすが必要な患者さんもいれば、60代で発症する方もいます。近年は医療の進歩に伴なう包括的治療により30歳を超える寿命になってきています。

成人に最も発症頻度の多い筋強直型筋ジストロフィーは、平均55歳とされています。また顔面肩甲上腕型は進行が緩やかで、早期発見・治療で予後が良好な場合が増えています。

筋ジストロフィーとSDGs

最後に筋ジストロフィーとSDGsとの関わりをお話しします。

最も関わりの深いのは、SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」です。

SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」との関わり

この目標は「実施手段を強化し、『持続可能なグローバル・パートナーシップ』を活性化させる」ことを目指しています。19のターゲットを含んでいますが、多くは開発途上国への支援を視野に入れたものになっています。

筋ジストロフィーの研究は、まだ開発途上にあると言っても過言ではありません。治験の蓄積や新しい治療技術の開発など、多くの成果が期待されています。また18番目には「データ、モニタリング、説明責任」の項目があり、「各国事情に関連する特性によって細分類された、質が高くタイムリーで信頼性のあるデータを大幅に入手しやすくする」ことが挙げられています。

遺伝子の異常による筋ジストロフィーは、「各国事情に関連する特性」である地域性も大きなデータ集積の視点です。より多くの研究や臨床のデータを各国が集積し、必要に応じて情報交換できるようになることは、この目標の達成に直結します。

欧米ではすでに TREAT-NMD CINRG などの共同研究グループが立ち上がっています。これらの施設から学んだり連携をとったりするとともに、地域性などの研究・独自の治療法開発などが日本には期待されています。

>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

今回は、筋ジストロフィーについて、症状や原因、治療法などを解説しました。またよくある質問にもお答えしてきました。

根本的な治療法も確立していない難病ですが、前向きに生きる患者さんたち、原因解明や治療法の確立に日々努力している研究者の方々がいることも確かです。そして障害を負っていてもそれを補ってくれる機器の開発も進んでいます。

SDGsの理念である「誰も取り残されない」社会へ私達にできることは、まずこの病気について正しく理解し、身近にできることがあればできる範囲で行うことが第一歩となるにちがいありません。

支援団体への寄付、患者さんが製作に携わった商品の購入、研究開発を進めている企業や団体が製作している商品の選択など、間接的に患者さんをサポートできることもあります。

この記事が、そのような行動へ少しでも背中を押すことになれば幸いです。

<参考資料・文献>
*1) 筋ジストロフィーとは
筋ジストロフィー | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター
筋ジストロフィー(指定難病113)(難病情報センター)
筋ジストロフィーってどんな病気ですか?(筋ジストロフィー協会)
113 筋ジストロフィー(厚生労働省)
日本内科学会雑誌第111巻第8号
*2) 筋ジストロフィーの症状
筋ジストロフィーってどんな病気?(国立病院機構大阪刀根山医療センター)
筋ジストロフィー(指定難病113) – 難病情報センター
*3) 筋ジストロフィーの原因
筋ジストロフィーってどんな病気ですか? – 一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会
筋ジストロフィーとは?症状・原因・治療法を徹底解説!あなたが知るべき全知識
デュシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフィー 概要 – 小児慢性特定疾病情報センター
*4) 筋ジストロフィーの治療法
ビルトラルセンによるデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療の実用化 | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構
厚生省、ロボットスーツ「HAL」に保険適用 歩行のリハビリに活用 – ITmedia NEWS
*5) 筋ジストロフィーに関してよくある疑問
最強のハートを持つ男。筋ジストロフィーと闘うモーガン・ホフマンの物語 – みんなのゴルフダイジェスト
SHIGEART-NET 山下重人公式ホームページ – About
【難病】「人の心に明かりを」筋ジストロフィー患う山下さん “命”を描いた最後の絵画展 宮城 NNNセレクション
「学べる」という開放感 — 通信教育課程 山下重人さんインタビュー | 瓜生通信(京都芸術大学)
ロジャーグラート カバ コンパルティール HANABI – 三国ワイン
筋ジストロフィー(指定難病113) – 難病情報センター
筋疾患分野|筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)(平成22年度) – 難病情報センター
筋ジストロフィーの患者さんの寿命はどのくらいですか? |筋ジストロフィー
*6) 筋ジストロフィーとSDGs
CINRG 国際神経筋協同研究グループ
ホームページ – TREAT-NMD
筋ジストロフィーの治療戦略ー国際ガイドラインをふまえて:小牧宏文(日本小児神経学会シンポジウム特集)
SDGs:蟹江憲史(中公新書)

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この記事を書いた人

くりきんとん ライター

教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。

教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。

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