出生前診断とは?わかることやメリット・デメリットも

妊娠がわかったら、赤ちゃんが元気に生まれてきてくれることを願うものです。けれども中には、赤ちゃんが生まれつきの病気を持っている場合もあります。

出生前診断は、赤ちゃんに特定の病気があるかどうかを妊娠中に調べる検査です。受けるか受けないかは、自分で決めることになります。そこで迷うのが、何を基準に判断したら良いのかです。

この記事では、出生前診断とは何か、現状、種類とわかること、メリットとデメリット・課題、よくある質問、SDGsとの関係を解説します。出生前診断について知るきっかけや、参考の1つになれば幸いです。

出生前診断とは

出生前診断とは、おなかの中の赤ちゃんに生まれつきの病気や染色体の異常がないかどうかを調べる検査です。広くは、妊娠中のお母さんの全員が受ける妊婦健診を含む検査全体を言いますが、この記事では、希望する人のみが受ける検査を出生前診断と呼びます

出生前診断の現状

出生前診断にはいくつかの種類がありますが、全体でどのくらいの人が受けているのかという正確な人数はわかっていません。ただし、NIPT(染色体異常を調べる検査の1つ)を受けた人の数とその結果については、データがあります。詳しく見ていきましょう。

※NIPTの検査内容については次の章で解説しています。

2023年度にNIPTの検査が行われた数は43,136件であり、年齢別に見ると35〜39歳が最も多く12,003件でした。参考までに、同じ2023年度に妊娠の届け出をしている人の数は749,398人(産む前)であることから、NIPTを受けている人の割合は1%ほどであり、多くないと考えられます

■2023年度 年齢別[NIPT]の検査数

総検査数 43,136

~19 歳20~24 歳25~29 歳  30~34 歳35~39 歳40 歳以上
2904,19712,003 18,0918,550
0.0%0.7%9.7%27.8% 41.9% 19.9%
(引用元:出生前検査認証制度等運営委員会 令和 5 年度(2023 年度)実施状況報告

そして検査の結果、陽性(病気がある)・陰性(病気がない)・判定保留と判定された割合(件数)は次の通りです。

■2023年度 [NIPT]の陽性・陰性・判定保留の割合(数)

総検査数 43,136(判定保留後の再検査を含む)

陽性陰性判定保留
1.3%(543)98.0%(42,255)0.7%(338)
(出典:出生前検査認証制度等運営委員会 令和 5 年度(2023 年度)実施状況報告

陽性は1.3%、陰性は98.0%と、多くは病気がないという結果でした。この結果は、いくつかある検査のうちの1つなので、出生前診断の現状全体を把握できるわけではありません。また、陰性だからといって、生まれてくる赤ちゃんが100%病気ではないと言い切れないのも事実としてあります。あくまでも現状の一部分を知るデータとして参考にしてください。1)

出生前診断の種類とわかること

次に、出生前診断の種類とわかることを確認していきます。出生前診断には大きく分けて、遺伝学的検査と画像検査があります。また、その中にもいくつかの種類があり、それぞれわかることが少しずつ違います。

遺伝学的検査

遺伝学的検査は、染色体や遺伝子の変化を調べる検査です。ここでは、一般的に行われている染色体の異常を発見する検査を紹介します。種類は5つ、わかる病気と検査の内容の詳細は次の通りです。

■染色体を調べる遺伝学的検査

検査名わかる病気
NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)ダウン症、18トリソミー、13トリソミー
超音波マーカーの検査・コンバインド検査ダウン症、18トリソミー、13トリソミー
母体血清マーカー検査ダウン症、18トリソミー、開放性神経管奇形
絨毛検査染色体の病気全般
羊水検査染色体の病気全般

上の検査の内容の詳細は、次の表にまとめられています。表の「検査名(青文字)」から、各検査の内容などを知ることができます。

■各検査の内容の詳細

表の一番上と左の項目の一部を説明します。

・非確定的検査/確定的検査

非確定的検査/確定的検査は、検査の結果に基づいて診断を確定できるかどうかを表しています。非確定的検査は検査の結果から「診断を確定できない」、確定的検査は「診断できる」ことを示しています。

・流産のリスク

検査の種類によっては、お母さんの体への負担が大きい検査もあります。流産のリスクは、その危険性のあり/なしを示しています。

・検査の目的

非確定的検査は、赤ちゃんの病気の可能性を検査するものであり、診断を確定できません。そのため、次の段階として確定的検査を受けるかどうかを決めます。

・実施可能期間

出生前診断は、検査の種類によって受けられる期間がある程度決められています。ただし、病院ごとに違うので、事前に確認する必要があります。

・調べる病気

遺伝学的検査で調べられる病気を示しています。ダウン症、18トリソミー、13トリソミーは、いずれも染色体の異常による病気ですが、症状の現れ方などの特徴は異なります。

画像検査

画像検査は、お母さんのおなかなどに超音波装置を当て、赤ちゃんの内臓、骨、血管などの画像から診断する検査です。妊婦健診で行う超音波検査とは別に、一部の医療機関でのみ受けられる精密超音波検査を指します

■画像検査

検査の種類わかる病気
胎児超音波検査
(胎児ドック、精密胎児超音波検査、妊娠初期超音波検査、妊娠中期超音波検査、妊娠後期超音波検査などと呼ばれることもあります)
・心臓の病気、脳の病気、口唇口蓋裂、横隔膜ヘルニア、消化管の閉鎖、腎臓や膀胱の病気、手足の形や指の本数など
・染色体の病気

一般的には、妊娠初期、中期、後期の各時期に受けます。なお、染色体の病気を調べる検査は非確定的検査であるため、診断を受けるためには、この後に確定的検査が必要です。2)

出生前診断のメリット

それでは、出生前診断を受けることで、どのようなメリットがあるのかを確認していきましょう。そもそもなぜ、出生前診断を受けるのかという理由にも関わってくるテーマです。

生まれる前に治療を始められる

出生前診断を受けて赤ちゃんの病気がわかれば、生まれる前に治療を始められる可能性もあります。また、生まれてからすぐに治療が必要な場合は、事前に準備することも可能です。

心の準備ができる

生まれる前に赤ちゃんの状態を知ることで、病気への理解を深めることができます。また、心の準備ができたというお母さんもいます。一方で、結果を知らずに過ごしたかったという声があることも事実です。

産み方を選ぶことができる

赤ちゃんの状態に合わせて、帝王切開か経腟分娩かなどの産み方を選ぶことができます。最適な産み方を検討することは、出生前診断の大きな目的とされています。3)

出生前診断のデメリット・課題

出生前診断のメリットがある一方で、デメリット・課題もあります。これらを知った上で、検査を受けるかどうかを決めましょう。

流産のリスクがある検査もある

出生前診断の中でも確定的検査は、流産のリスクがあります。流産の起きる割合は、絨毛検査が1%、羊水検査が0.3%です。100%安全ではない検査であることを心に留めておく必要があります。

精神的な負担になることもある

出生前診断を受けて良かったというお母さんやお父さんもいる一方、「命、生と死について考えさせられた」「苦悩があった」という声も実際にあります。受けるかどうかは、夫婦でよく話し合う必要があるでしょう。4)

出生前診断に関してよくある疑問

ここでは、出生前診断に関してよくある疑問について見ていきましょう。

いつまでに受けるべきか?

検査の種類によって、いつまでに受けるべきかは異なります。

最も早い検査は、9週から受けることができます。ただし、受けられる期間は病院ごとに違うため、事前に確認が必要です。

■出生前診断の受検可能期間

[非確定的検査]

・NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査):9~10週以降

・超音波マーカーの検査・コンバインド検査:11~13週

・母体血清マーカー検査):15~18週

[確定的検査]

・絨毛検査:11~14週

・羊水検査:15~16週以降

なぜ受けられるのが35歳以上のケースが多いのか

病院によっては、出生前診断を受けられる妊婦さんの条件を「高齢の妊婦」としているからです。

ダウン症や18トリソミー、13トリソミーが発生する確率は、妊婦さんの年齢が高いほど上がるというデータがあります。そのため、こうした条件を設定している病院もあります。

(参考)出産時の年齢とダウン症、18トリソミー、13トリソミーの発生率

出産時年齢ダウン症の発生率18トリソミーの発生率13トリソミーの発生率
251/1,3831/8,3001/12,500
341/4301/7,2001/11,100
351/3381/3,6001/5,300
(引用元:お腹の赤ちゃんが病気になる理由 | 出生前検査認証制度等運営委員会

出生前診断を受ける割合は?

正確な数値はわかっていませんが、年間の出産件数のおよそ1割に相当するといわれています。

ちなみに、2024年の出生数は68万人です。この1割である6万8千人ほどが出生前診断を受けた計算になります。

結果次第で中絶を検討すべきか

出生前診断を受けることや、受けた後にどう判断すべきかということに正解はありません。

実際に受けたお母さんは、例えば次のような声から、さまざまな思いがあることがわかります。

■出生前診断を受けたお母さんの声

(結果的に陰性だったが)「陽性だった場合は中絶すると夫婦で決めていた。でも、陽性だったら中絶したかどうか、今でもわからない」「結果によっては中絶も考えていた。いざ妊娠してみると、どんな子でも育てたい気持ちになった」「妊娠継続を諦められなかった」

中絶を検討した結果は、その過程も含めて皆同じではないことがわかります。その人にしか出せない答えがあるのではないでしょうか。

検査を受けた人の声、受けなかった人の声は、こちらのサイトに公開されています。さらに知りたい方は参考にしてください。

<補足>

母体保護法では、定められた条件*に当てはまる場合のみ中絶ができるとしています。出生前診断は、中絶を検討するためだけの検査ではないことは心に留めておきたいことです。しかし一方で、お母さんの意思や決定も大切であることに変わりはありません。

*⑴妊娠や分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがある場合、⑵暴行もしくは脅迫によってまたは抵抗もしくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの

出生前診断はどこで受けられる?

産婦人科クリニックや総合病院で受けられます。

ただし、NIPTの検査については、認証された医療機関のみで行われています。病院名など、詳しい情報はこちらのサイトを参照してください。

費用はどのくらいかかる?

検査の種類や病院により差がありますが、数万円〜20万円ほどといわれています。

健康保険が適用されない自費診療に当たります。5)

出生前診断とSDGs

最後に、出生前診断とSDGsとの関係を確認します。出生前診断は、目標3「すべての人に健康と福祉を」とつながりがあります。

目標3「すべての人に健康と福祉を」

目標3「すべての人に健康と福祉を」は、性に関する情報や教育などの保健サービスをすべての人が利用できるようにすることを掲げています。また、「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)」を国家戦略・計画に組み入れることも目指しています。

リプロダクティブ・ヘルスとは

妊娠したい人、妊娠したくない人、産む・産まないに興味も関心もない人、無性愛、非性愛の人を問わず、心身ともに満たされ健康にいられること

リプロダクティブ・ヘルスは、1994年の国際人口開発会議において「リプロダクティブ ・ライツ(性と生殖に関する権利)」という文言とともに提唱されました。リプロダクティブ・ライツとは、産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つかを自分で決める権利を言い、妊娠、出産、中絶について十分な情報を得られること、「生殖」に関するすべてのことを自分で決められる権利のことです。

お母さんやお父さんが心身ともに健康でいられることは、SDGsの目標にも関わっています。出生前診断は、赤ちゃんの病気の理解を深めるきっかけになることはもちろんのこと、お母さんの心と体の健康を守ることにもつながっているからです。6)


>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

出生前診断を受ける人の割合は、決して多くないといわれています。検査を受けたお母さんの中には、「受けて良かった」「苦悩があった」と、さまざまな思いがあるのも事実です。検査を受けるかどうか、結果を受けてどう行動するのかという問いに正解はありません。それぞれが決めたことが答えです。

SDGsは、リプロダクティブ・ヘルスを進めることを掲げています。お母さんやお父さんの心身の健康はとても大事です。リプロダクティブ・ヘルスの視点から、自分や自分たちの意思をあらためて確認してみることも、出生前診断に向き合う1つのアプローチになるのではないでしょうか。

1)出生前診断とは
出生前検査認証制度等運営委員会 令和 5 年度(2023 年度)実施状況報告
令和5年度地域保健・健康増進事業報告の概況|厚生労働省
2)出生前診断の種類とわかること
お腹の赤ちゃんの検査の種類 | 出生前検査認証制度等運営委員会
『NIPT 等の出生前検査に関する専門委員会報告書』令和3(2021)年5月厚生科学審議会科学技術部会 NIPT 等の出生前検査に関する専門委員会
『出生前診断についてキチンと知っていますか?』~検査を受ける前に理解を深めるサポートブック~
3)出生前診断のメリット
『出生前診断についてキチンと知っていますか?』~検査を受ける前に理解を深めるサポートブック~
4)出生前診断のデメリット・課題
出生前検査を受けた人の声 受けなかった人の声 | 出生前検査認証制度等運営委員会
5)出生前診断に関してよくある疑問
お腹の赤ちゃんが病気になる理由 | 出生前検査認証制度等運営委員会
お腹の赤ちゃんの検査の種類 | 出生前検査認証制度等運営委員会
出生前検査を受けた人の声 受けなかった人の声 | 出生前検査認証制度等運営委員会
令和6年(2024)  人口動態統計月報年計(概数)の概況
6)出生前診断とSDGs
「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ ~妊娠・出産における女性の健康~」 |国立女性教育会館

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この記事を書いた人

池田 さくら ライター

ライター、エッセイスト。メーカーや商社などに勤務ののち、フリーランスに転身。SDGsにどう取り組んで良いのか悩んでいる方が、「実践したい」「もっと知りたい」「楽しい」と思えるような、分かりやすく面白い記事を書いていきたいと思っています。

ライター、エッセイスト。メーカーや商社などに勤務ののち、フリーランスに転身。SDGsにどう取り組んで良いのか悩んでいる方が、「実践したい」「もっと知りたい」「楽しい」と思えるような、分かりやすく面白い記事を書いていきたいと思っています。

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