
地表がマグマで覆われ、酸素のない原始地球から、どのような誕生の流れを経て生命あふれる惑星へと変わったのでしょうか。46億年の地球史に刻まれた環境変化のメカニズムを理解することで、現在の水や空気、安定した気候が維持されている絶妙なバランスの希少性が理解できます。
原始地球が持つ物理的・化学的な特徴を客観的なデータと共に学び、惑星規模の長い時間軸での視座を獲得して、現代の地球規模の課題を解決するヒントを探しましょう。
目次
原始地球とは

原始地球とは、約46億年前に太陽系誕生直後の、惑星としての骨組みが形成された初期の地球を指します。この時代は地質学的に「冥王代」と呼ばれており、地表がマグマに覆われ、激しい衝突が繰り返される混沌とした環境でした。
直接的な地層記録がほぼ現存していないため、研究者はジルコン結晶※の分析やコンピュータシミュレーションを駆使してその実像に迫っています。原始地球の成り立ちを理解することは、現在の地球環境課題を考える上でも重要な基礎となります。
原始地球の全体像を捉えるため、基本的なポイントを確認しておきましょう。
冥王代という地質時代の位置づけ
冥王代は約46億年前から40億年前までの約6億年間で、ギリシア神話の冥界の王ハデスに由来する名称です。地球が微惑星との衝突により成長し、内部構造を整えていった時期にあたります。
当時の岩石はほぼ現存していませんが、オーストラリアで採取された冥王代ジルコン結晶の分析により、初期地球の情報が明らかになってきました。
極端に過酷だった当時の地表環境
原始地球の地表はほぼ全面がマグマに覆われ、温度は1000℃を超えていたと推定されています。この過酷な熱エネルギーは、のちの海洋形成や生命誕生に必要な化学反応を促進する源泉となりました。
大小の天体が頻繁に衝突し、地表が何度も溶かし直される状況が続いていました。
大気と海が誕生するまでの変化
原始大気は、
- 水蒸気
- 二酸化炭素
- 窒素
が主成分で、酸素はほぼ含まれていません。地表の冷却にともなって上空の水蒸気が凝結し、長期間にわたる猛烈な雨が降り、原始海洋が誕生しました。
この海が、のちに生命が化学反応を起こす舞台となったのです。
月の形成と地球の安定化
地球形成の最終段階で、火星ほどのサイズの原始惑星が地球に衝突した「ジャイアント・インパクト説」が有力視されています。この説は1946年にカナダの地質学者レジナルド・デイリーが提唱しました。
この衝突で放出された破片から月が誕生し、地球の自転軸や潮汐に大きな影響を与え、その後の安定化に寄与したと考えられています。
このように、原始地球は微惑星の衝突から始まり、マグマの海や海洋の形成を経て、生命を宿す惑星へと進化を遂げた時代だといえます。次の章では、どのように原始地球が形成されていったかに焦点を当てていきましょう。*1)
原始地球の形成の流れ

原始地球は、完成した惑星として突然生まれた存在ではありません。宇宙空間に漂っていた微小な物質が少しずつ集まり、衝突と変化を繰り返す中で、短い宇宙的時間のうちに形づくられていきました。
この形成過程をたどることで、地球がなぜ現在のような層状の内部構造を持つに至ったのかが見えてきます。ここでは、原始地球が誕生するまでの主要な出来事を、3つの段階ごとに整理して解説します。
①微惑星の集積と重力による成長
太陽系誕生直後、ガスと塵が豊富な「原始惑星系円盤」の中で、塵同士が結合して数km規模の「微惑星」が無数に生まれました。これらの微惑星は互いの重力で引き寄せられ、衝突と合体を繰り返しながら、より大きな天体へと成長していきます。
このプロセスを「微惑星集積」と呼んでいます。
この理論を体系化したのは、ソビエト連邦の数学者ヴィクトル・サフロノフです。彼は粒子が相対的にゆっくり衝突する場合、結晶のように貼り付いて成長することを計算で示しました。
このプロセスに要した時間は数百万年程度と推定されています。
マグマオーシャンの形成と内部構造の分化
成長する原始地球では、微惑星の衝突エネルギーが蓄積され、地表は「マグマオーシャン」と呼ばれる溶けた岩石の海で覆われました。この液体状で高温の環境では、軽い岩石成分は上層に集まり、重い鉄やニッケルが重力で中心に沈んで「核」を形成し「マントル」となっていきました。
この分離を「分化」と呼び、地球が層状構造を持つようになった基盤です。
ジャイアント・インパクトと月の誕生
地球形成の最終段階において、私たちの唯一の衛星である月が誕生する決定的な出来事が発生しました。
先ほども触れたように、原始地球には火星ほどの大きさの天体「テイア」が衝突したと考えられています。この詳細は1974年にアメリカの天文学者ウィリアム・ハートマンとドナルド・デイビスが発表したモデルによって、より具体的な形成過程が解明されました。
これは、巨大な衝突によって宇宙空間に弾き飛ばされた大量の物質が、地球の周囲に円盤状の層を作り、それらが再び集積することで月が誕生したという説です。この理論を強力に支持しているのが、アポロ計画で持ち帰られた月の石の分析結果であり、地球のマントル成分と月の岩石組成が極めて似通っていることが科学的に証明されています。
この巨大な衝撃は地球の自転軸を傾ける要因となり、現在の地球に豊かな四季の変化をもたらすことにも繋がりました。
微惑星の集積から始まり、核の形成や月の誕生を経て、原始地球はその物理的な骨組みを完成させました。こうした一連の流れは、地球が単なる岩石の塊ではなく、内部でエネルギーが循環する動的な惑星へと進化した過程そのものといえます。
次の章では、こうして形成された原始地球はどのようなものだったのか、特徴を見ていきましょう。*2)
原始地球の特徴

原始地球は、生命の気配がほとんどない「灼熱の混沌(カオス)」とも呼べる極限の状態にありました。現在の穏やかな大気や快適な温度とはかけ離れた当時の環境を理解することは、惑星の進化をたどる上で極めて重要です。
ここでは、原始地球を象徴する過酷な環境的特徴を、3つの視点から見ていきましょう。
①二酸化炭素と水蒸気に覆われた原始大気
原始地球を包み込んでいた大気は、現在の組成とは根本的に異なり、酸素をほぼ含んでいませんでした。主成分は水蒸気、二酸化炭素、窒素で、微惑星の衝突によって岩石から放出されました。
気候学者ジェームス・カスティングの数値シミュレーションにより、この濃厚な二酸化炭素が極めて高い温室効果を維持していたことが明らかになっています。当時の大気圧は現在の数十倍から100倍に達していたと推定され、地表の熱が宇宙空間に逃げるのを強力に妨げていました。
この「還元的な大気環境」(酸素が極めて乏しく、水素やメタンなどが存在する状態)は、後に有機分子※が形成される化学的な土台となりました。
②強烈な紫外線とオゾン層の欠如
原始地球には、有害な紫外線を遮断するオゾン層が存在しませんでした。酸素がなかったため、この保護壁を形成することができなかったのです。
太陽からの強烈な紫外線が直接地表に降り注ぎ、化学物質の結合を破壊するほどの影響を与えていました。この環境下では、初期の有機分子は海中や岩石の隙間などで放射線を避けながら進化するしかなかったと推測されています。
こうした極限状態は、激しい紫外線エネルギーの供給が複雑な化学反応を促進するという重要な側面も持ち合わせていました。
③隕石衝突と物質供給の「後期重爆撃期」
地殻形成後も、約41億年前から38億年前の「後期重爆撃期」において、宇宙からは無数の天体が降り注ぎました。月面に残されたクレーターは、当時の激しさを物語る貴重な記録です。
地球も同様かそれ以上の頻度で巨大な隕石や彗星の衝突を受けていましたが、この衝突は単なる破壊にはとどまりませんでした。隕石や彗星が運んできた水や金属元素、さらには有機物を地球に供給する重要な役割も果たしていたのです。
隕石衝撃は「破壊的な現象」であると同時に「生命誕生に必要な材料を運び込む搬入路」として機能していたという点が、近年の惑星科学における特に注目すべき発見です。
次の章では、このような環境がいかに変化して、生命誕生の舞台が整ったのかを見ていきます。*3)
原子地球のその後の進化
【マグマの海から生命の海へ】
※約40~44億年前に原始海洋が形成され始め、43億歳は従来の一般的な中間値
灼熱の混沌だった原始地球が、いかにして生命を育む豊かな水の惑星へと変貌を遂げたのでしょうか。激しい衝突の嵐が去り、地球が静かに、しかし壮大に変化していった過程をたどることで、生命誕生へ向かう地球の劇的な進化が見えてきます。
ここでは、原始地球がどのように冷却し、海と大陸が形づくられ、生命誕生につながる環境が整ったのかを確認します。
冷却と原始海洋の誕生
成長を終えた原始地球は、宇宙空間への熱放射によって徐々に温度を下げ始めました。地表を覆っていたマグマオーシャンが冷え固まると、上空に停滞していた膨大な量の水蒸気が凝結し、数千年も続く猛烈な大雨となって地表に降り注ぎました。この大雨が低地に溜まることで、原始海洋が誕生したと考えられています。
この海洋形成の時期については、オーストラリアのジャック・ヒルズで発見された約44億年前のジルコン結晶の分析により、従来の研究よりも大幅に早い段階で液体の水が存在していたことが明らかになっています。この発見は、地球形成からわずか1億5000万年後にはすでに海洋が成立し、生命のゆりかごが準備されていた可能性を示唆しています。
当時の海洋は酸性でしたが、長い時間をかけて岩石成分と反応し、現在の海水に近い組成へと中和されていきました。
地殻の安定化と活動的な惑星への移行
地表温度が低下するにつれ、不安定だった表面に「地殻」という安定した基盤が形成され始めました。初期の地殻は薄く、隕石の衝突や火山活動によって破壊と再生を繰り返していましたが、時間とともに厚みを増し、後の大陸の原型となる領域が生まれました。
地球内部の熱を効率よく逃がす仕組みとして、マントル対流を原動力としたプレート運動が始動しました。少なくとも約40億年前までには、現在のようなプレートテクトニクスが本格的に作動していたとする研究が増えています。
この活動により地球は、内部の物質と地表の物質を循環させる「活動的な惑星」へと移行しました。プレートが沈み込むにともなって、大気中の二酸化炭素が地球内部に運ばれ、大気の温度を調整する重要なブレーキの役割を果たすようになったと考えられています。
化学進化と生命誕生の萌芽
海とプレート運動が整った原始地球では、やがて「化学進化」が加速していきました。約40億年前の海は、
- アミノ酸
- 脂肪酸
- 糖類
などの、小さな有機分子が豊富に存在する「化学のスープ」であったと推定されています。これらの分子は、深海の熱水噴出孔付近など、地球内部の化学エネルギーが利用できる環境で、互いに結び付きながら徐々に複雑な高分子へと進化していったと考えられています。
1950年代にシカゴ大学のスタンリー・ミラーとハロルド・ユーリーが行った実験は、原始地球の環境を模した装置内でアミノ酸が合成されることを証明し、この分野の研究を大きく前進させました。約38億年前にはすでに微生物が存在していた地質学的な証拠が見つかっており、それらは酸素を必要としない嫌気的な性質を持つ生物でした。
2024年の研究では、すべての生物の共通祖先である「LUCA」(ルカ)が約42億年前、つまり地球形成からわずか4億年後に存在していたと推定されています。このルカは、深海の熱水噴出孔に生息し、水素と二酸化炭素をエネルギーとして利用する嫌気性微生物だったと考えられています。
原始地球はこのように、冷却による海洋の誕生、プレート活動による大陸と物質循環の確立、そして化学進化による有機分子の高度化というステップを経て、生命が根づくための土台を整えていったのです。*4)
原始地球とSDGs

原始地球の過酷な変遷を学ぶことは、生命が存続可能な環境の限界値を科学的に定義し、地球環境の希少性を再認識させる基準となり、SDGsの目標達成にも重要な役割を果たします。46億年前から続く物質循環の仕組みを解明する活動は、現代の環境課題に対する有効な解決策を導き出すための不可欠な基礎知識です。
特に関連の深いSDGs目標を見ていきましょう。
SDGs目標6:安全な水とトイレを世界中に
原始地球における海洋の誕生と水循環の確立を理解することは、気候変動下での水資源管理を科学的に設計するための基盤です。地下水とそれに接続する湖沼などの地表水体の関係を理解することで、降水パターン変化に強い水資源確保戦略が可能になります。
原始地球で水がどのように循環システムを形成したのかという知見は、今後の干ばつ対応にも役立ちます。
SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を
二酸化炭素主体の原始大気が進化した過程は、温室効果ガスの濃度変化が地球の気温に与える影響を定量的に示しています。この歴史的データは、気候変動の長期予測モデルの精度向上に活用され、炭素回収・貯留技術(CCS)の導入規模を科学的に評価する根拠となります。
原始地球の二酸化炭素濃度の緩やかな低下と、現在の急速な上昇を対比することで、気候システムの「可逆性の限界」が明確になり、より実効性の高い政策設計を可能にします。
SDGs目標14:海の豊かさを守ろう
原始の海で起きた化学進化のプロセス、特に海水のpH変化が生命誕生に与えた影響を解明することは、現代の海洋酸性化リスク評価の基準を提供します。海洋酸性化により貝類やサンゴなどの石灰質生物の生存率は27%低下し、この漁業資源への影響が食物網全体に波及する危険性が明らかになっています。
原始地球から現代までの海洋化学変化のデータは、人為的な酸性化がどのレベルで不可逆的な生態系喪失を起こすのかを予測できます。また、深海熱水噴出孔における研究は、深海資源採掘が海洋生態系に及ぼす影響を事前に評価し、責任ある利用方法を確立する際の科学的根拠となります。
このように、原始地球の進化プロセスを解明することは、地球本来の環境維持能力や物質循環の限界を特定し、現代の持続可能な資源管理や環境保全に向けた科学的な判断基準を確立する上で極めて重要な役割を果たしています。*5)
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ

原始地球は約46億年前、マグマに覆われた灼熱の惑星として誕生しました。
- 冷却による海洋の誕生
- プレートテクトニクスの始動
- 化学進化
を経て、約42億年前には生命の共通祖先LUCAが誕生していました。この歴史は、地球の環境システムが持つ限界と回復力を示す貴重な事例です。
2023年、探査機オシリス・レックスが小惑星ベンヌから採取した試料からは、高濃度の水と炭素が確認されました。この発見は、地球が遠い過去に宇宙から受け取った物質と密接に関係していることを示し、生命誕生への理解を深めています。
一方で、2024年の世界平均気温は産業革命前比で約1.55℃上昇し、パリ協定の1.5℃目標に対して転換点に差し掛かっています。長期的な目標は達成可能ですが、地球温暖化への今後の対策速度は極めて重要です。
地球の歴史を知ることで、自分たちの生存がいかに絶妙なバランスで支えられているかに気づくことができます。一人ひとりが「地球の一員」として、身近な自然を見直し、賢明な選択を積み重ねることが、豊かでより良い未来を実現するためには重要です。
あなたは46億年の地球の物語から何を学び、どのような未来を次世代へ繋ぎたいでしょうか。*6)
<参考・引用>
*1)原始地球とは
JAXA『地球のはじまり』(1996年4月)
Encyclopedia Britannica『Hadean Eon』
PMC『Earth’s Earliest Atmospheres』(2010年10月)
JAMSTEC『物質から生命へ、その間に何が起きたのか?分子進化の謎』(2023年9月)
NASA Astrobiology『2.1. What was the Earth like right after it formed?』
*2)原始地球の形成の流れ
NASA『How Did the Moon Form?』
Teach Astronomy『Safronov and Planet Formation』
University of Arizona『Moon Maps, Lunar Origins and Everything Between』
National Library of Medicine『The Moon-forming impactor Theia originated from the inner Solar System』(2025年11月)
The New York Times『The Moon Was an Inside Job』(2025年11月)
*3)原始地球の特徴
NASA Science『What is the Late Heavy Bombardment?』
Science『Earth’s Early Atmosphere』James F. Kasting(1993年)
Nature『UV radiation limited the expansion of cyanobacteria in early oceans』(2018年)
Caltech『Cometary Delivery of Organic Molecules to the Early Earth』Christopher F. Chyba(1990年)
PNAS『Archean phosphorus recycling facilitated by ultraviolet radiation』Farr et al.(2023年7月)
*4)原子地球のその後の進化
NASA『Ancient Crystals Suggest Earlier Ocean』
Britannica『Geologic history of Earth: Development of the atmosphere and oceans』
PNAS『Mapping metabolism onto the prebiotic organic chemistry of hydrothermal vents』(2013年)
NASA Astrobiology『Looking for LUCA, the Last Universal Common Ancestor』
Britannica『Last universal common ancestor (LUCA)』
*5)原始地球とSDGs
国連環境計画(UNEP)『Sustainable Development Goals Report 2024』
IMO『Carbon Capture and Storage (CCS)』
Nature『Efficacy of mitigation strategies for aquifer sustainability under climate change』(2024年12月)
NIH『Impacts of ocean acidification on marine organisms』(2013年)
EPA『Effects of Ocean and Coastal Acidification on Marine Life』
*6)まとめ
NASA『NASA’s Bennu Asteroid Sample Contains Carbon, Water』(2023年10月16日)
WMO『WMO confirms 2024 as warmest year on record at about 1.55°C above pre-industrial level』(2025年1月9日)
Berkeley Earth『Global Temperature Report for 2024』(2026年1月13日)
Climate Analytics『Latest science on the 1.5°C limit of the Paris Agreement』(2025年8月18日)
WMO『2025 set to be second or third warmest year on record, continuing exceptionally high warming trend』(2025年11月10日)
この記事を書いた人
松本 淳和 ライター
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。
