ロボティクスとは?具体事例を交えてわかりやすく解説!

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深刻化する人手不足や急がれる働き方の変革。その鍵を握るのが「ロボティクス」という現実的な選択肢です。

ロボティクスは、センサー・AI・駆動の3つの技術が融合することにより、製造業から介護まで社会基盤を再定義しています。最先端のロボティクスは、今や工場や物流倉庫だけでなく、医療や日々の暮らしに活用され始めています。多様な具体事例を紹介し、「ロボティクス」の活用分野、そして今と未来をわかりやすく解説します。

ロボティクスとは

【DOBOTのヒューマノイドロボット】

ロボティクスとは、ロボットの設計・開発・運用に関する総合的な技術体系を指す学際分野です。経済産業省の定義によれば、ロボットは

  1. センサー
  2. 知能・制御系
  3. 駆動系

の3要素を備えた機械システムとされます。これらが連携することで、人間の代わりに複雑な作業を自律的に実行する能力を実現します。

ロボティクスの語源と歴史的意義

「ロボット」の語源は、チェコ語の「強制労働(robota)」とスロバキア語の「労働者(robotnik)」を組み合わせた造語です。1920年に戯曲『R.U.R.』で初登場後、SF作家アイザック・アシモフが「ロボット工学三原則」を提唱しました。

特に第一条「人間への危害禁止」は、現代の倫理規範に影響を与え、医療ロボットの安全基準設計に応用されています。

3大要素技術の役割

ロボティクスの3大要素技術は、人間に例えると感覚器官、脳、筋肉にそれぞれ対応し、相互に連携することでロボットの高度な自律動作を実現します。これらの技術は日々進化を続けており、医療から物流まで幅広い分野でその成果が活用されています。

センサー技術

センサー技術は、ロボットが周囲の環境や自身の状態を認識するための「感覚器官」として機能します。内界センサーでロボット自身の動作を監視し、外界センサーで周囲の状況を把握することで、安全で正確な動作を可能にしています。

特に触覚センサーの進歩により、0.1mm単位での微細な力検知が実現され、東京大学の研究グループが開発した手術支援ロボット「スマートアーム」では、生体組織を損傷することなく脳神経外科における繊細な手術が可能となりました。このような高精度センサーにより、ロボットは人間以上に繊細な作業を実行できるようになっています。

【経鼻内視鏡手術を想定したスマートアームの操作】

知能・制御系技術

知能・制御系技術は、センサーから得た情報を処理し、ロボットの動作を決定する「頭脳」の役割を担います。最新のAI技術の導入により、従来の事前プログラムされた動作から、状況に応じた自律的な判断が可能になってきました。

NVIDIAが2025年上半期に投入予定の「Jetson Thor」は、ヒューマノイドロボット向けに最適化されたAIコンピューティングシステムで、リアルタイム環境認識と高度な制御処理を実現します。この技術により、ロボットは複雑な環境での障害物回避や、人間との自然な対話を通じた作業指示の理解が可能となり、真の意味での人とロボットの協働が実現されつつあります。

駆動系技術

駆動系技術は、制御系からの指令を受けて実際に動作を行う「筋肉」に相当する部分です。電動モーター、油圧、空気圧などの各方式があり、用途に応じて最適な駆動方式が選択されています。

ソフトバンクロボティクスの清掃ロボット「Whiz」では、従来のロボットでは困難とされていた傾斜路での安定走行を実現する新型モーターが採用され、自律清掃時でも平坦な床面での高精度な動作を維持しています。このような駆動技術の進歩により、2025年までに国内5,000施設への導入が計画されるなど、実用的なサービスロボットの普及が加速しています。

【ソフトバンクの清掃ロボット「Whiz」】

ロボットの2つの基本分類

現代のロボティクスにおいて、ロボットは用途と活用場所により、

  1. 産業用ロボット
  2. サービスロボット

の2種類に大別されます。

①産業用ロボット

産業用ロボットは、主に工場などの製造現場において人間の代わりに様々な作業を行うロボットで、自動車の組み立てや電子部品の製造など多岐にわたる工程で活用されています。

具体例として、

  • 垂直多関節ロボット(溶接・塗装・組立作業)
  • スカラロボット(電子部品の挿入・組立)
  • パラレルリンクロボット(高速ピック&プレース)

などがあり、高い精度とスピードを活かして繰り返し作業を効率的に実行する役割を担っています。

②サービスロボット

一方、サービスロボット産業の自動化以外の場所で活用されるロボットの総称で、人の生活の質を改善するために開発されています。代表例には、

  • 掃除ロボット
  • 案内ロボット
  • 配膳ロボット
  • 医療支援ロボット

などがあり、人間との共存を前提として設計され、人が行う作業の補助や顧客体験の向上を図る役割を果たしています。経済産業省の予測では、2025年にはサービスロボットが従来の製造分野のロボット数量を上回ると見込まれており、今後の成長分野として注目されています。

近年の技術進化は、経済産業省が推進する「ロボットフレンドリー環境」構築と連動しています。これまでは「ロボットが建物や環境に合わせて動く」方式でしたが、今後は「建物や環境の方をロボットが働きやすいように整える」方式へと変わってきています。

次の章では、こうした技術を活用した具体事例を分野別に解説します。*1)

ロボティクスの具体事例

【左:生活支援ロボットHSR・右:遠隔操作インターフェースTHSR(トヨタ)】

現在、ロボット技術は私たちの生活や社会基盤を支える重要な要素として、想像を超える速度で進化を遂げています。経済産業省が推進する「ロボットフレンドリーな環境構築」をはじめ、日本各地の研究機関や先進企業が発表する最新の実証実験や導入事例は、従来の概念を覆すような革新的な成果を次々と生み出しています。

特に注目すべき分野別の具体事例を紹介します。

インフラ保守と安全管理の革新

危険で困難なインフラ点検作業を、ロボットやドローンが代替する技術が急速に実用化されています。従来、橋梁や送電線の点検には高所作業や専門技能者による危険な作業が不可欠でしたが、AI搭載ドローンとロボット技術の融合により、この状況が劇的に変わりつつあります。

国土交通省が推進するMR(Mixed Reality)ゴーグル※を活用した次世代インフラメンテナンスでは、現実世界をカメラで捉えながらAIがインフラの状態を自動診断し、遠隔地のオペレーターからの指示をレンズに表示することで、点検員が迷わず正確な手順で作業を実施できるシステムが開発されています。特に橋梁点検においては、ドローンに搭載されたハンマーと音響センサーによる自動打音検査技術が実用化され、危険な高所作業を大幅に削減することに成功しています。

※MR(Mixed Reality:複合現実)

現実世界と仮想世界を高度に融合させ、両方の世界が相互にリアルタイムで影響し合う技術。専用のMRゴーグルが現実空間の形状を3Dスキャンして認識し、その空間上にホログラム(仮想オブジェクト)を正確に配置・投影することで実現される。ARが現実に仮想情報を「重ねる」だけなのに対し、MRは現実と仮想を「融合」させ、仮想オブジェクトが現実の物理法則に従って動作する点が特徴。

【MR技術による配筋・型枠・出来形検査の効率化】

次世代モビリティと交通弱者支援

人工知能とロボット技術を融合させたスマートモビリティが、交通弱者の移動手段提供という重要な社会課題の解決に向けて実用化段階に入っています。経済産業省のスマートシティモデル事業では、自動運転技術を搭載したパーソナルモビリティ「WHILL」を活用し、長距離歩行に不安を感じる施設利用者に対してシームレスな移動サービスを提供する実証実験が進められています。

【電動車椅子䛾種類䛸WHILL䛾特徴】

このシステムの特徴は、単なる移動手段の提供にとどまらず、モビリティ統合管制システムによって複数の移動手段を連携させ、利用者の状況に応じて最適なルートと移動方法を自動選択できる点です。また、自動走行・衝突回避機能を備えることで、操作に不慣れな高齢者でも安全に利用できる設計となっています。

小売りのバックヤードを支える商品陳列ロボット

小売業界では、ロボット技術を活用した商品陳列や補充業務の自動化が急速に進展しています。例えば、ファミリーマートとTelexistenceが共同開発した新型ロボット「TX SCARA」は、コンビニのバックヤードでの飲料陳列業務を24時間体制で自動化する画期的なシステムです。

このロボットは、独自AIシステム「Gordon」を搭載し、冷蔵ケースの商品充足状況を認識して把持から陳列までの最適な動作経路を自動生成します。

【ファミリーマートに導入されたAIロボット「TX SCARA」】

農業分野での無人化と効率化

日本の農業界では、深刻な人手不足と高齢化問題に対応するため、ロボット技術とAIを活用したスマート農業が急速に進展しています。農林水産省と総務省が連携して推進するスマート農業プログラムでは、5Gやローカル5G、地域BWAといった無線通信技術を活用し、ロボットトラクターの完全無人自動走行と効率的な収穫作業の実現に取り組んでいます。

【スマート農業技術に適した⽣産⽅式への転換】

特に画期的なのは、GPS情報に基づくヤンマーの自動運転トラクターで、人による遠隔操作や有人機への追従操作も可能な柔軟性を持っています。また、ドローンによる育成状況の撮影と効率的な農薬散布を組み合わせることで、従来の農作業プロセスを根本的に変革する成果を上げています。

【ヤンマーの自動運転トラクター】

サイバーフィジカルシステムによる製造革新

物理世界とデジタル世界を高度に統合するサイバーフィジカルシステム(CPS)が、製造業に革命的な変化をもたらしています。ロート製薬、九州大学、ファーストループテクノロジーの共同プロジェクトでは、2022年より本格的なCPS実装によるスマートファクトリー化が進められており、IoTセンサーやAI技術を活用してヒトやモノ、プロセスを完全にデータ化し、最適化された生産プロセスを自動提案するシステムが稼働しています。

【CPSの概念】

このシステムの核心は、現実空間で収集されたデータを仮想空間で蓄積・分析し、その結果を再び現実空間で活用するリアルタイムデジタルループの構築にあります。作業や動線、ライン配置、負荷シミュレーションをAIとディープラーニングによって最適化することで、従来のデジタル化では実現できなかった次元の生産性向上を達成しています。

これらの具体事例は、ロボティクス技術が社会のあらゆる分野で革新的な変化を生み出し、従来の作業プロセスを根本的に変革する基盤技術として確立されていることを明確に示しています。インフラ保守、モビリティ、小売業、農業、製造業といった多様な分野での最新技術導入など、完全自動化から人間との協働まで、様々な形態でのロボット活用が現実のものとなっています。*2)

なぜロボティクスが必要なのか

いま、ロボティクス技術の導入は企業の生存戦略にとって欠かせない要素となりつつあります。単なる技術的な進歩を超えて、深刻化する社会課題の解決手段として、また持続可能な経済成長を実現するための基盤技術として、ロボティクスへの期待と必要性が急速に高まっています。

ロボティクスが現代社会において不可欠となっている根本的な理由を、具体的な課題と解決策の観点から見ていきましょう。

深刻化する労働力不足への対応

少子高齢化により、日本の労働力人口は急速に減少しており、この問題はあらゆる産業で深刻な影響をもたらしています。統計によると、2025年には労働力がピーク時から約15%減少すると予測されており、特に製造業、建設業、介護業界では若手労働者が不足し、業務の持続が困難になっているのが現状です。

経済産業省の調査では、日本企業の54%がロボット導入の主な要因として「労働力不足」を挙げており、これはグローバル平均の27%と比較して2倍に上ります。製造業界や介護業界では、人手不足が原因で生産スケジュールの遅れや、サービスの質低下が頻繁に発生しています。

ロボット導入により24時間365日稼働が可能となり、人手では困難な細かい作業や繰り返し作業を正確に行うことで、この深刻な労働力不足問題の解決が期待されています。

生産性向上と品質安定化の実現

ロボティクス技術は、単なる省人化を超えて、生産性の飛躍的向上と品質の安定化を同時に実現する重要な手段となっています。ロボットはプログラムされた通りの精度で作業を行うため、人間の作業に比べて誤差が少なく、製品の品質を一定に保つことができます。

特に製造業では、産業用ロボットの導入により精密な組み立て、溶接、塗装などの工程を高精度で行うことで、作業効率の向上を実現しています。ロボットによる自動化は、重労働や危険な作業環境での安全性向上にも大きく貢献し、労働環境の改善と同時に品質向上を達成しています。

日本の産業用ロボットの世界シェア

日本の産業用ロボットは、かつて世界生産の大部分を占めていましたが、現在は他国の台頭によりシェアは変化しています。しかし、国際ロボット連盟(IFR)の最新報告(2023年実績)によれば、日本は依然として世界の産業用ロボット供給の38%を担う世界第1位の生産国です。

一方、国内にロボットを導入する「市場」としては、中国に次いで世界第2位の規模を維持しています。

技術革新による競争力強化

グローバル競争が激化する中で、ロボティクス技術は企業の競争力強化において欠かせない要素となっています。AI技術の進化により、ロボットはよりインテリジェントな機能を持つようになり、画像認識や音声認識を活用して環境の変化を即座に感知し、作業内容を適応させることが可能になっています。

IoTによるスマートファクトリー化と連携することで、

  • 工場全体の生産活動を一元管理
  • 生産計画の最適化や即時対応
  • 競合他社との差別化

などを実現できます。

コスト削減と長期的投資効果

ロボット導入には初期投資が必要ですが、長期的には大幅なコスト削減効果をもたらします。24時間365日稼働により設備の稼働時間を最大化し、人件費の削減により短期間での投資回収が可能となります。

特に協働ロボットは、産業用ロボットと比較して安全柵などの周辺装置が不要であり、設置スペースも小さく済むため、導入コストを大幅に抑えることができます。

経済産業省による支援策

経済産業省では令和5年度補正予算に約6,000億円規模の中堅・中小企業の省力化投資を後押しする支援メニューを計上し、自動化・ロボット化を推進しています。さらに令和6年度・令和7年度にかけて中小企業の省力化投資支援は大幅に充実・発展し、従来のカタログ注文型の改善に加えて、オーダーメイド対応の一般型新設、大規模成長投資補助金の創設など、多様なニーズに対応できる包括的な支援体制が構築されており、中小企業のロボット化・自動化推進に向けた環境整備が着実に進展しています。

このように、ロボティクスの必要性は、

  • 労働力不足の解決
  • 生産性と品質の向上
  • 競争力強化
  • コスト削減

という複合的な効果により、現代企業にとって重要な要素となっています。単なる技術導入を超えて、持続可能な企業経営と社会課題の解決を同時に実現する基盤技術として、ロボティクスの戦略的活用が今後さらに加速すると予想されています。*3)

ロボティクスに取り組む企業事例

【川崎重工の国内最大級のロボットショールーム】

現代の企業におけるロボティクス導入は、単なる技術革新を超えて、経営戦略の中核を成すまでに発展しています。それぞれの分野において、企業が直面する固有の課題とロボティクスによる解決策を具体的に見ていきましょう。

製造業における産業用ロボット活用

製造業では産業用ロボットが生産性向上の核心技術として位置づけられており、特に自動車産業での活用が顕著です。

川崎重工業の溶接ロボット

【川崎重工のアーク溶接ロボット「BA006N」】

川崎重工のアーク溶接ロボットは、「BAシリーズ」と「RAシリーズ」の2つの主要ラインアップを展開しており、どちらも溶接機とロボットをケーブル1本で接続できる簡単導入設計が特徴です。BAシリーズは中空手首構造を採用し、溶接ケーブルを手首部分に内蔵することで周辺装置との干渉を最小限に抑え、狭いスペースでの精密な溶接作業を可能にしています。

一方、RAシリーズは5kgから20kgの広い可搬質量をカバーし、幅広い溶接対象に対応できる汎用性の高さが強みとなっています。川崎重工のアーク溶接ロボットには、アルミ溶接ワイヤの座屈を防ぐ「サーボトーチ」技術が搭載されており、溶接トーチ内蔵のサーボモータによる精密な送給制御により、異なる材種同士の溶接でも安定した品質を実現しています。

物流・倉庫業での搬送自動化

物流業界では深刻な人手不足への対応として、搬送ロボットの導入が急速に進んでいます。

日本通運株式会社の自律協働型ピッキングロボット

【日本通運の自律協働型ピッキングロボット】

日本通運株式会社では、ラピュタロボティクス製のAMR(自律協働型ピッキングロボット)を10台導入し、空調機器メーカーの保守用パーツ物流センターで運用を開始しました。同センターでは1日あたり1500件から商戦期には5000件まで配送件数が変動する中、AMR5~7台に対し3名のピッカーを配置する形で運用し、従来の台車を使った作業と比較して大幅な効率化を実現しています。

特に注目すべきは、ピッキング作業者が「何も持たずにAMRが止まっている場所まで行き、画面の指示にあるものをピッキングしてカートに入れるだけ」という作業に変わったことで、精神的ストレスの軽減と業務スピード向上の両立を達成した点です。

医療・介護分野での支援ロボット

医療・介護分野では、患者の負担軽減と医療従事者の業務支援を目的としたロボット導入が進展しています。

INTUITIVEの手術支援ロボット「da Vinci(ダビンチ)」

【Da Vinci Xi Surgical System】

手術支援ロボット「da Vinci」は、INTUITIVE(インテュイティブサージカル社)が開発した医療用ロボットとして、世界で1,000万件を超える手術実績を持つ代表的な企業事例です。日本では2009年に承認・導入され、東京医科大学病院をはじめとする多くの医療機関で活用されています。

執刀医は患者から離れた操縦席で3Dハイビジョン画像を見ながら4本のロボットアームを操作し、人間の手首以上の可動域を持つ鉗子により従来の手術器具では困難な精密操作を実現しています。この技術により、患者の身体への負担を最小限に抑えた低侵襲手術が可能となり、手術の安全性と確実性が大幅に向上しました。

現在では前立腺がん、胃がん、大腸がんなど幅広い分野で保険適用手術として普及が進んでおり、医療・介護分野におけるロボティクス活用の成功事例として注目されています。

サービス業での接客・清掃ロボット

サービス業界では、人手不足解消と顧客体験向上を目的としたロボット導入が本格化しています。

アイリスオーヤマの業務用清掃ロボット

【法人向けDX清掃ロボット「BROIT(ブロイト)」】

出典:アイリスオーヤマ『日本の床清掃はここまできた。拭きができる清掃ロボット BROIT 誕生。』

アイリスオーヤマ株式会社は、2027年度に業務用清掃ロボット関連市場で年間売上1,000億円達成という目標を設定し、2023年10月現在で累計5,000社にサービスロボットを導入しています。同社が2024年に発売の法人向けDX清掃ロボット「BROIT(ブロイト)」は、完全内製化により高い洗浄力と簡単操作を両立させ、着脱式リチウムイオンバッテリーの採用により充電中のデッドタイムを大幅に低減しています。

これらの企業事例からもわかるように、ロボティクス技術は各業界の具体的な課題解決手段として着実に普及が進んでおり、人手不足の解消、作業精度の向上、安全性の確保といった複合的な価値を提供しています。特に2025年は「人型ロボットの量産元年」とも呼ばれ、AIとの融合による自律性向上により、さらなる用途拡大が期待されています。*4)

ロボティクスの今後

2025年は「人型ロボットの量産元年」とも呼ばれ、ロボティクス技術が研究室の世界から実社会へと大きく踏み出す、歴史的な転換点にあります。AIとの強力な融合を原動力に、これまでSFの世界で描かれてきた未来が、いよいよ現実のものになろうとしています。

私たちの働き方や暮らしは、これからどのように変わっていくのでしょうか。

人間と同じ職場で働く「人型ロボット」の登場

【Tesla Optimus】

今後到来する最も大きな変化は、人間と同じ姿をした「人型ロボット」が、私たちの職場に登場することです。テスラ社の「Optimus」や、多くのIT企業が出資するFigure社のロボットなどが、2025年から量産を開始すると報道されています。

このような人型ロボットは、人間と同じ環境で、同じ道具を使って作業できるため、特別な設備投資なしに工場での組み立てや物流倉庫でのピッキングといった業務を担うことが可能です。将来的には自動車一台分ほどの価格で普及し、深刻な人手不足を解決する切り札として期待されています。

AIがもたらす「考えるロボット」への進化

ロボットは、単にプログラムされた動きを繰り返す機械から、状況に応じて自ら「考える」存在へと進化します。NVIDIA社のような半導体メーカーが開発する高度なAIチップや、「物理的AI」と呼ばれる新技術により、ロボットは「洗濯物を畳む」「テーブルを片付ける」といった、日常の複雑な作業も自律的に判断して実行できるようになります。これは、ChatGPTが言葉の世界にもたらした衝撃と同じくらいの変革であり、家庭や職場でのロボットの役割を根底から変える可能性を秘めています。

産業・医療現場の飛躍的な高度化

専門的な現場でも、ロボットの活躍は加速します。製造業では、AIがロボットの「師匠」となり、従来は専門家が時間をかけて行っていたティーチング(動作のプログラミング)作業を自動化します。熟練工の繊細な技術を再現するだけでなく、ロボット自身の故障まで予測し、工場の生産性を飛躍的に高めます。医療・介護分野では、AIによる自動手術や専門医による遠割手術が、地域による医療格差を解消します。

【超高齢社会に伴う深刻な要因とウェアラブルロボットによる人支援技術】

また、装着型ロボットが高齢者の自立した生活を支え、介護者の負担を大幅に軽減する社会がすぐそこまで来ています。

これらの革新は、もはや遠い未来の夢物語ではありません。2025年からの数年間で、ロボットは社会のインフラとして急速に普及していくでしょう。

これは単なる人手不足の解消に留まらず、人間がより創造的で安全な仕事に集中できる、質の高い社会を実現するための重要な一歩となるのです。*5)

ロボティクスとSDGs

ロボティクスはSDGsの目標達成に向け、人手不足の解消や危険作業の代替、資源効率化など多角的な役割を果たします。国際ロボット連盟(IFR)は13のSDGs目標への貢献可能性を指摘し、特に次の3つが、ロボティクスの貢献が大きいと期待される目標です。

SDGs目標3:すべての人に健康と福祉を

ロボティクス技術は医療アクセスの格差解消治療品質の標準化において決定的な役割を担います。手術支援ロボットによる遠隔医療技術の進歩により、地理的制約を超えた専門医療の提供が可能となり、医療過疎地域でも高度な治療を受けられる環境が構築されます。

また、AI技術との融合により診断精度の向上と医療従事者の負担軽減を同時に実現し、持続可能な医療体制の確立に貢献しています。介護分野では、装着型ロボットや移動支援システムが高齢者の自立支援を促進し、介護者不足という深刻な社会課題の解決に向けた重要な基盤技術となっています。

SDGs目標8:働きがいも経済成長も

ロボティクス技術は、労働の質的変革を通じて経済成長と雇用創出を両立させる重要な役割を果たします。産業用ロボットは危険で単調な作業から人間を解放し、より創造的で付加価値の高い業務へのシフトを促進することで、労働者の働きがいと生産性向上を同時に実現します。

東京大学の研究によると、ロボット導入は雇用を増加させる効果があり、労働者1,000人あたり1台のロボット増加で雇用が2.2%増加することが示されています。これは技術による労働代替ではなく、生産コスト削減による事業規模拡大と新たな雇用創出という好循環を生み出すためです。

SDGs目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう

ロボティクス技術は持続可能なインフラ構築と産業の技術革新において中核的な役割を担います。スマートファクトリーの実現においてIoT、AI、ロボットの統合により、資源利用効率の向上と環境負荷の削減を両立した生産システムが構築されます。

また、老朽化するインフラの維持管理において、点検ロボットが橋梁や配管内部などの危険箇所での作業を効率的に実行し、インフラの長寿命化安全性向上を実現します。デジタル技術を活用した省エネルギー型生産設備の導入により、中小企業でも高度な製造技術へのアクセスが可能となり、産業全体の技術革新を加速させています。

これらの技術革新により、ロボティクスは単なる作業効率化ツールを超えて、持続可能な社会システムの構築に不可欠な基盤技術として位置づけられています。2030年のSDGs達成に向けて、ロボティクス技術のさらなる発展と社会実装が期待されています。*6)


>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

ロボティクスは、センサー、知能・制御系、駆動系の3要素技術を統合した機械システムとして、人手不足の解消労働生産性向上の両立を実現する革新的技術です。AIとの融合により、従来の「プログラムされた動作の繰り返し」から「状況に応じた自律的判断」へと進化し、2025年は「人型ロボット量産元年」として歴史的転換点を迎えるといわれています。

国際ロボット連盟が発表した2025年のロボット5大トレンドでは、人工知能導入の機運が高まり、分析型・フィジカル型・生成型AIの活用によってロボットがより効率的に多様な任務をこなせるようになると報告されています。AIロボットの世界市場規模は急速な拡大が予測されており、製造業から医療、介護、物流まで社会実装が本格化しています。

私たち一人ひとりも、ロボティクス技術の適切な活用を考える責任があります。技術の進歩が雇用に与える影響を理解し、新たなスキルの習得や創造的な分野への転身を検討することが重要です。

個人でも、高齢者や障がい者の自立支援、環境負荷軽減など、社会課題解決にロボティクスをどう活用できるか考えてみましょう。

ロボティクスは決して、人間を置き換える存在ではなく、人間の可能性を拡張し、より豊かな社会を創造するパートナーです。技術の恩恵を世界中の人々が平等に享受できる未来に向けて、私たち一人ひとりが積極的に学び、考え、行動していくことが重要です。*7)

<参考・引用文献>
*1)ロボティクスとは
西川産業『器用な操作性+直立膝歩行ヒューマノイドロボット』(2025年3月)
科学技術振興機構(共同発表)『微細手術に適用可能な低侵襲手術支援ロボットの開発~「バイオニックヒューマノイド」活用により世界最高水準のロボットを実現~』(2019年1月)
SoftBank『AI清掃ロボット「Whiz」のレンタルサービスを開始』(2019年5月)
経済産業省『ロボット ロボット政策の方向性』
経済産業省『ロボフレ事業(革新的ロボット研究開発等基盤構築事業)の成果を取りまとめました(施設管理・食品分野)』(2025年4月)
経済産業省『今年度も、ロボットフレンドリーな環境の実現に向けた取組を強力に推進しています』(2023年9月)
経済産業省『自動配送ロボットの将来像を取りまとめました』(2025年2月)
Wikipedia『ロボット工学三原則』
秋元運輸倉庫株式会社『「ロボットの語源は?」、ロボットに関する3つのショートトピック』(2019年10月)
ロボスタ『NVIDIAがヒューマノイド開発に注力する理由「Jetson Thor」について聞く 自律型マシン事業VP 単独インタビュー』(2024年3月)
NVIDIA『NVIDIA が、フィジカル AI 向けのCloud-to-Robot コンピューティング プラットフォームでヒューマノイド ロボット業界を強化』(2025年5月)
ORIX Rentec『研究開発が進んでいるロボット工学とは?』(2023年1月)
科学情報出版『ロボットの要素技術』
*2)ロボティクスの具体事例
TOYOTA『ロボットとAIの融合を進め技術の革新に貢献~「ロボット基盤モデル」の共創研究~』(2025年3月)
国土交通省『MRを活用した九頭竜川橋橋梁施工について』(2020年)
経済産業省『WHILL』
FamilyMart『飲料補充AIロボットを300店舗へ導入~店舗の更なる省人化・省力化を推進~』(2022年8月)
農林水産省『スマート農業をめぐる情勢について』(2025年5月)
農林水産省『自動操舵トラクター』
九州大学『サイバーフィジカルシステムを実装する 次世代スマート工場をグループ全体に適用』(2022年10月)
国土交通省『Holostruction~ホロストラクション~』
国土交通省『ii. XR技術(視覚拡張技術)の調査』(2024年2月)
大林組『建設現場における作業手順をMR(複合現実)で可視化し、工程管理での有効性を実証』(2021年1月)
WHILL
経済産業省『令和6年度事業の成果と課題 スマートモビリティチャレンジ2024』(2024年)
経済産業省『スマートモビリティの創り方』
総務省『ス マ ー ト 農 業 の 展 開 に つ い て』(2021年9月)
YANMAR『次世代の農業を拓く、ヤンマーのテクノロジー』
DX MAGAZINE『国交省 関東地方整備局、インフラの管理にMRやBIM、ローカル5Gなどを活用』(2021年5月)
メタバース総研『MR(複合現実)とは?VR/ARとの違いや活用事例6選も紹介!』(2024年1月)
*3)なぜロボティクスが必要なのか
経済産業省『自動配送ロボットの将来像を取りまとめました』(2025年2月)
経済産業省『今年度も、ロボットフレンドリーな環境の実現に向けた取組を強力に推進しています』(2023年9月)
経済産業省『工作機械及び産業用ロボットに係る安定供給確保を図るための取組方針』(2023年1月)
経済産業省『令和6年度補正「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金」に係る補助事業者(事務局)の公募について』(2024年12月)
経済産業省『令和7年度 経済産業省関係 概算要求等概要』(2025年)
中小企業庁『中小企業省力化投資補助事業(一般型)第1回公募の補助金交付候補者を採択しました』(2025年6月)
中小企業庁『中小企業省力化投資補助事業(一般型)の第2回公募の申請受付を開始しました』(2025年4月)
中小企業庁『令和7年度 中小企業施策』(2025年)
内閣府『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)人協調型ロボティクスの拡大に向けた基盤技術・ルールの整備 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画』(2024年5月)
総務省『特集② 進化するデジタルテクノロジーとの共生 第2節 AIの進化に伴い発展するテクノロジー』
人科学技術振興機構 研究開発戦略センター『2.2.7 産業用ロボット』(2024年)
IFR『日本のロボット設置台数 9%増 ― 国際ロボット連盟(IFR)レポート』(2023年9月)
IFR『日本における産業用ロボットの稼働台数 43 万 5000 台、記録更新』(2024年9月)
IFR『World Robotics – Industrial Robots』
IFR『日本は世界第2位の産業用ロボット市場』(2022年10月)
IFR『中国、ロボット密度で日本を追い抜く』(2024年11月)
JETRO『拡大する中国の産業用ロボット市場』(2023年4月)
MRI『AI・ロボティクスが導く未来社会と課題』(2025年2月)
MRI『AIやロボットで人手不足緩和と持続的発展の両立を』(2024年2月)
KDDI『ロボティクスとは?導入のメリットやデメリット、ロボット技術の進化がもたらす業界ごとの変化を解説』(2025年4月)
日本経済新聞『中小がロボット導入しやすく 経産省、ソフト開発支援へ』(2024年6月)
日本経済新聞『AI・ロボットの活用担う人材326万人不足 経産省が2040年推計』(2025年5月)
中小企業基盤整備機構『中小企業省力化投資補助金』
*4)ロボティクスに取り組む企業事例
Kawasaki Robotics『カワサキロボティクスが選ばれる理由』
Kawasaki Robotics『BA006N』
NIPPON EXPRESS HOLDINGS『日通、倉庫向け協働型ピッキングソリューションの本稼働を開始』(2020年8月)
INTUITIVE『Da Vinci Surgical System』
https://youtu.be/WAtdHEIQCTs?si=qUEBwgRHPhozq01S
アイリスオーヤマ『日本の床清掃はここまできた。拭きができる清掃ロボット BROIT 誕生。』
Kawasaki Robotics『アーク溶接ロボット』
Kawasaki Robotics『アーク溶接』
Kawasaki Robotics『小・中型汎用ロボット(可搬質量80kg以下)』
川崎重工技報『グローバル生産を加速させる“ものづくり力”の高度化』(2014年1月)
Rapyuta Robotics『日本通運』
Rapyuta Robotics『日本初¹、ラピュタロボティクスとプラスオートメーション、ピッキングアシストロボットのサブスクリプションサービスを商用化:日本通運向けに提供開始』(2020年5月)
intel『日本通運の物流センターで働く自律走行型ロボットピッキング作業を効率化し、変革を加速』(2022年7月)
東京医科大学『最新のハイテク技術を搭載した「ダヴィンチ」が医療技術の飛躍的な進化を実現させる』
国立がん研究センター『ロボット支援手術(ダ・ヴィンチ)について』
アイリスオーヤマ『DX清掃ロボット「BROIT」12月26日発売 商業施設やオフィスビル、医療施設などに順次導入開始』(2024年12月)
アイリスオーヤマ『当社初〕自社で内製化 法人向けDX清掃ロボット「BROIT」発売 ロボットメーカーとして自立を見据えて』(2023年)
日本経済新聞『アイリスオーヤマ、DX清掃ロボット「BROIT(ブロイト)」を発売し商業施設やオフィスビル・医療施設などに順次導入』(2024年12月)
*5)ロボティクスの今後
Tesla『AI & Robotics』
国立長寿医療研究センター『いつまでも元気に歩こう!ウェアラブルロボット技術で』
経済産業省『2025年版 ものづくり白書(令和6年度 ものづくり基盤技術の振興施策)』(2025年5月)
Figure『Figure is the first-of-its-kind AI robotics company bringing a general purpose humanoid to life.』
ITmedia『テスラの人型ロボ、“謎ダンス”披露 片足で交互にステップ AI動画ではなく「リアルタイム」とマスク氏』(2025年5月)
TECH INDSIDER『テスラの人型ロボットOptimus大量導入は超非効率で根本的に間違っている。初代開発リーダーが断言』(2025年5月)
日経XTECH『ロボットにもようやくAIの革命が到来するか、予兆が出現――2025年の「ロボットとAI」』(2025年1月)
日経XTECH『人型ロボブームは本物か、識者に聞いた5つの疑問』(2025年3月)
日経XTECH『ロボットにもようやくAIの革命が到来するか、予兆が出現――2025年の「ロボットとAI」』(2025年1月)
日経XTECH『25年は人型ロボット量産元年、国家支援と層の厚さで競争優位へ』(2025年4月)
NVIDIA『人工知能 (AI)』
NVIDIA『NVIDIA AI 基盤モデル』
NVIDIA『Advancing Robot Learning, Perception, and Manipulation with Latest NVIDIA Isaac Release』(2025年1月)
日経XTECH『2025年はAI処理専用チップが続々登場、NVIDIAの1強体制は終焉へ』(2025年1月)
日経XTECH『NECがロボット制御をAIで自動化、ティーチング作業が1/100に』(2023年9月)
NEC『NEC ロボットタスクプランニング』
Reuters『エヌビディア、AIチップの通信高速化技術を外販へ パートナーに富士通も』(2025年5月)
日経BP『タクシーが空を飛び、量子コンピューター利用や再生医療が日常に』(2025年2月)
Kawasaki Robotics『ヒューマノイドロボットとはなにか―歴史、そして開発の最前線を探る』(2021年1月)
MRI『AI・ロボティクスが切り開く未来社会』(2025年2月)
TOYOTA『トヨタ、「介護・医療支援向けパートナーロボット」を開発― 4種類のロボットを新たに開発、2013年以降の実用化を目指す ―』(2011年11月)
厚生労働省『介護ロボットとは』
*6)ロボティクスとSDGs
IFR『UN Sustainable Development Goals』
IFR『ロボットが、国連の SDGs(持続可能な開発目標)の達成を後押し』(2022年5月)
社会技術研究開発センター『先進技術が雇用に及ぼす影響とは:産業用ロボットの導入で雇用が増えた日本』(2021年11月)
東京大学『川口 大司 公共政策学連携研究部 教授』
ビジネス+IT『SDGsとロボットの「切っても切れない」関係、つながる世界で「全体最適」の知見活かせ』(2021年12月)
Science Portal『2030年の世界のあるべきかたち「SDGs」〜より良い未来社会の実現に向けて、期待される日本の科学技術~』(2019年7月)
日本学術会議『SDGsから見た学術会議 ―社会と学術の関係を構築する―』
*7)まとめ
IFR『2025 年のロボット5大トレンド、国際ロボット連盟が発表』(2025年1月)
Global Information『ロボティクス-市場シェア分析、産業動向・統計、成長予測(2025年~2030年)』(2025年1月)
経済産産業省『ロボフレ事業(革新的ロボット研究開発等基盤構築事業)の成果を取りまとめました(施設管理・食品分野)』
経済産業省『経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業』(2025年)
首相官邸『ロボットの社会実装に向けて』(2015年4月)
日経XTECH『人手不足続く「2025年問題」、鹿島・大林組・大成建設…建設ロボット開発10選』(2025年1月)
世界経済フォーラム『ロボティクスとAIが再定義する重工業』(2025年5月)

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この記事を書いた人

松本 淳和 ライター

生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。

生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。

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