
全身性エリテマトーデスという病気を身近に耳にすることはなかなかないかもしれません。しかし、SLEという英語名の由来である「狼に噛まれたような紅い跡」という表現とタイトル画像から、「思い当たる」「そのような顔貌に出会ったことがある」という方もおられるまもしれません。
ただ、「全身性」とは眼に見える部位であるだけではなく、内臓までも含んでいます。腎臓を始め他の臓器、時には血管にも「噛み跡」は現れることがあるのです。
本記事では、全身性エリテマトーデスについて、症状を整理し、原因や治療法について分かりやすく解説しました。「慢性化」「生存率」「遺伝との関連」など、深く考えざるを得なくなる病気です。ぜひ一緒に考えていきましょう。
目次
全身性エリテマトーデス(SLE)とは

全身性エリテマトーデスとは、全身の様々な場所や臓器に、狼に噛まれたような赤い跡ができる自己免疫疾患の1つです。
英語では、
<Systemic(全身性)、Lupus(狼;ラテン語)、Erythematosus(噛まれた跡の紅斑)>
のイニシャルをとりSLEと呼ばれています。
皮膚症状として出た場合、多くは日光に過敏に反応して慢性化しやすくなり、内臓や血管、漿膜、関節に発症する場合もあり、深刻な機能障害に繋がってしまうこともあります。日本では難病の1つに指定されています。
自己免疫疾患とは?
生物には「免疫」という身体に入ってきた異物を排除しようとする防御システムが備わっています。自己免疫疾患とは、本来の防御システムが、自分自身の正常な細胞や組織に対して異常または過剰に反応してしまう疾患です。
代表的な全身性自己免疫疾患には、全身性エリテマトーデスの他、関節リウマチ、皮膚や内臓が硬くなる強皮症、多発性筋炎などがあり、それらの混合性組織疾患もあります。
現在の患者数
全身性エリテマトーデスは、関節リウマチに次いで2番目に頻度の高い疾患です。
日本には6万人以上の患者がいると推定されていますが、男女比は1:9と圧倒的に女性が多くなっています。また、統計上の出産適齢期の女性が多いことから、女性ホルモンの影響があるのではと考えられています。加えて、世界的に有色人種に多いという統計結果もあります。
10年生存率は90%と死に至ることは少ないものの、身体の様々な部位に発症します。部位によっては一度罹ると治りにくいものもあり、合併症も多いことから、日常生活へ大きな負の影響が心配される疾病です。
全身性エリテマトーデス(SLE)の症状
全身性エリテマトーデスの症状は、文字通り「全身」に見られ、複数の症状を持つ患者さんもいます。主な症状をまとめました。
部位による症状
| 全身 | 発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、体重減少など | |
| 部位 | 皮膚・粘膜症状 | ・蝶形紅斑(バタフライ・ラッシュ):顔面 ・円板状スープス:顔面・耳介・頭部・関節背面など日光過敏を伴うことが多い |
| 筋・関節症状 | 筋肉痛・関節痛、関節炎、ジャクー関節症 ※ など | |
| 腎症状 | ループス腎炎、ネフローゼ他腎機能障害全般 | |
| 神経症状 | 精神神経(中枢神経)ループス、うつ病、統合失調症、痙攣、脳血管障害など | |
| 心血管症状 | 心外膜炎、心筋炎、頻脈、不整脈など | |
| 肺症状 | 胸膜炎、間質性肺炎、肺胞出血、肺高血圧症など | |
| 消化器症状 | 腹痛、下痢、便秘、悪心、嘔吐、ループス腹膜炎など | |
| 肝臓・膵臓症状 | 慢性肝炎、脂肪肝他肝機能障害全般 | |
| 血液症状 | 出血斑、貧血、白血球や血小板減少など | |
| 眼症状 | 視力低下など | |
中枢神経障害や腎不全など、病状が進行すると重大な病状となり、合併症も多くその程度は深刻です。
診断方法
診断は、視診・問診と血液検査や尿検査、MRIやCT、エコーなどの結果から総合的に判断します。
特に、細胞内の核に反応してしまう抗核抗体の検出は重要です。全身性エリテマトーデスの場合は抗核抗体反応は必ず陽性となります。しかし、陽性者が必ず全身性エリテマトーデスの患者かとは限らないので、他の疾病と区別する医師の判断が大切となります。
診断基準
検査結果は、国際的なSLICC(Systemic Lupus International Collaborating Clinic )分類基準に基づき、合計10点以上でSLEと判断されます。
全身性エリテマトーデス(SLE)の原因

いくつもの研究機関による究明にも関わらず、まだ原因の全容は明らかになっていません。しかし、いくつかの誘因や統計的な特徴から、遺伝因子・環境因子・生物学的因子などの原因究明が進んでいます。現在発表されている有力なものを整理していきましょう。
遺伝的素因
これまでの調査による、
- 男女差が明確(1:9)
- 一卵性双生児に多い
- 有色人種に多い
などの結果から、いくつかの遺伝子上に原因となるゲノムがあることが分かっています。
特に出産適齢期の女性が多く発症し、子どもや高齢者には大きな男女が見られないことなどから、X染色体との関連は濃厚と考えられています。
しかし、どのように影響しているかそのメカニズムはまだ明らかではなく、今後の研究に期待がかかります。
環境的素因
紫外線を強く浴びる、喫煙、外科的手術、妊娠・出産、感染症罹患などが、発症や悪化に大きく影響を与えています。
直接発症に関わるというより、SLEと相性の良い体内ウィルスを刺激してしまい、抗核抗体の生成に繋がっていると言われています。
分子生物的素因
その中で近年、体内ウイルスのうちEBウィルス ※ が深く関わっていることが明らかになってきました。細胞がEBウィルスに感染すると、遺伝子の働きに関与する部分に異常をきたしたり、人が本来持っている免疫機能を阻害する細胞を出現させたりすることが分かってきたのです。
この現象は他の免疫疾患にも見られることから、研究が進めば共通の治療法が確立される可能性もあり、大いに期待される研究分野です。
全身性エリテマトーデス(SLE)の治療法

全身性エリテマトーデスの治療には、ステロイド剤を中心とした薬物療法を行います。ステロイド剤の登場で、SLEの生存率は飛躍的によくなりましたが、症状によって量や服用間隔などの調整が難しいとされています。症状の段階別に解説していきましょう。
免疫抑制効果薬
もっとも多く使われているのは副腎皮質ステロイド<グルココルチコイド>です。重症の方程多くの量を服用します。免疫を抑制するので、感染症に罹りやすくなる、糖尿病や動脈硬化を引き起こしやすくなるなどの副作用があり、できるだけ少量の経口服用にすることが望まれます。
軽度の皮膚症状の場合は、ステロイド軟膏を使用することがあります。反対に経口服用では効果が認められない重症な患者さんには、点滴を行う場合があります。
免疫抑制薬
免疫抑制効果剤の効果が不十分だったり、副作用が強すぎる場合には、アザチオプリンやヒドロキシクロロキンなどの免疫抑制剤を使います。
これらの抑制剤を使うことによって、副作用の強いステロイド剤を減らすことができます。
対症療法
基礎疾患を持つ患者さんの場合、その疾患によって免疫不全症状が悪化しないような治療も必要になります。
例えば高血圧の方の場合は、腎機能障害の進行を防ぐためにも積極的な降圧療法が必要となります。光線過敏症がある場合は日光を避ける生活の指導、腎機能が弱い方にはタンパク質制限食事療法が必要となります。
予後
以前は5年以上の生存率が50%程度とされていましたが、現在は早期に治療を開始し、継続した場合の生存率は95%以上となってきました。病気の原因解明とそれに伴う治療法・治療薬の開発が進んできた成果です。
しかし完治とは行かず、症状をコントロールし続ける必要があり、慢性になってしまうことが多くなっています。より根本的な原因の究明と、より理想的な薬の開発が期待されます。
全身性エリテマトーデス(SLE)に関してよくある疑問

ここからは、全身性エリテマトーデスに関してよくある疑問にお答えしていきます。
寿命は?
正確な統計はありません。合併症や治療薬の副作用からくる症状の悪化もあり、SLE単独の統計は出しにくいものと考えられます。
「5年生存率95%」ということから考えると、適切な治療を受けた場合はほぼ他の方と同じ程度と考えてよいのではないでしょうか。
顔の特徴はある?
皮膚症状として顔に出た蝶形紅斑(バタフライ・ラッシュ)がよく知られています。多くの場合日光に過敏に反応します。
公表している有名人はいる?
プロゴルファー:岡村咲さん


岡村咲さんは、現在は第一線から退いていますが、1992年生まれのプロゴルファーです。ジュニア時代から将来を期待されたゴルファーでした。
体調不良を自覚したのは、ゴルフの練習中肌に現れたじんましんと発熱・頭痛、むくみからで、1週間起き上がることができないほどだったそうです。何とかプロゴルファー試験に合格したものの、不調は増すばかりでした。最初は病名もわからず、病院を転々とし、アレルギーを心配するあまり拒食症にもなってしまった時期もありました。
しかし、数年後に確定診断を受けてからは、「むしろ夢や希望持てるようになった」と話し、「今できることを」をしながら「色んな景色を見て」「前向きに今を楽しみたい」と暮らしています。
現在は服用するステロイドの量もかなり減り、体調と相談しながらオランダで生活しています。
女優・ユニセフ親善大使:セレーナ・ゴメスさん


セレーナ・ゴメスさんは、アメリカの俳優・歌手であり、親善大使も勤めるほどチャリティ活動に積極的に取り組んでいる方です。1992年生まれ、前述の岡村咲さんと同年です。
セレーナさんは、2015年に全身性エリテマトーデスの治療を受けていることを公開しています。治療薬の副作用でパニック発作やうつを起こし、一時は休養を余儀なくされました。その後腎臓移植手術も受けています。
しかし2025年には、5年ぶりのアルバムをリリースしたり、メンタルヘルス関連のプラットフォームを起ち上げたりと、活動を再開し、私生活でも音楽プロデューサーと結婚しています。
その後も治療の様子や合併症について公表し続け、「ありのままで前向きに生きていく」姿勢は、多くの人の共感を得ています。
全身性エリテマトーデス(SLE)とSDGs
最後に全身性エリテマトーデスとSDGsとの関わりについてお話しします。
17あるSDGs目の内、最も関わりの深いのは、
- SDGS目標3「すべての人に健康と福祉を」
- SDGs目標9「産業と技術の基盤をつくろう」
です
SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」との関わり
SDGs目標3は「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確実にし、福祉を推進する」ことを目指しています。
全身性エリテマトーデスなどの免疫疾患の多くは、根本的な原因が分からず、治療には長い年月が必要で慢性化しやすい疾患です。患者さんたちは、診断結果を前向きに受け止められたとしても、いつ悪化するかもしれないという不安と戦っています。そんな患者さんを理解し寄り添うことは、SDGsの理念である「誰も取り残されない」に大きく関わります。
患者さんも「取り残されない人々」なのです。周囲の人々がほんの少しでも自分のできるサポートすることで、取り残されない人の輪も和も広がるのではないでしょうか、
SDGs目標9「産業と技術革新の基礎をつくろう」との関わり
全身性エリテマトーデスの5年生存率は飛躍的に上がっています。研究は進み、遺伝や環境との関連など、徐々に明らかにされてきています。そしてその成果に基づき、新薬も開発されてきています。これらの研究開発は、医療技術革新の基礎づくりに大いに貢献していると言えるでしょう。さらにはそれを投資や商品購入、寄付などで支える行動も目標達成に貢献する活動と言えるのではないでしょうか。
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ

全身性エリテマトーデスについて、症状や原因、治療法などを解説しました。よくある質問にもお答えし、SDGsとの関わりもまとめました。
生存率が上がり、新薬も開発されてきているとは言え、全容は未解明で慢性化しやすいなど、不安はつきません。罹患してしまった方々の「なぜ私が」という思いは切実です。
それでも多くの患者さんが前向きに生きていらっしゃる姿には、励まされる思いさえします。
患者さん、治療法や治療薬を研究開発している方々、「誰も取り残されない」制度や環境を整える仕事をしている方々がいます。またご家族を始めその方達を支える方もいます。直接でも間接でも、何とか応援したいと考えて初めてくださった方もおられるはず。
全身性エリテマトーデスについて正しい知識を得ることは、その第一歩になり得ます。この記事が少しでもお役に立てば幸いです。
<参考資料・文献>
*1)全身性エリテマトーデス(SLE)とは
全身性エリテマトーデス(SLE)(指定難病49)(難病情報センター)
全身性エリテマトーデス(日本赤十字医療センター)
自己免疫疾患とは?具体的な症状や原因、治し方も – Spaceship Earth(スペースシップ・アース)|SDGs・ESGの取り組み事例から私たちにできる情報をすべての人に提供するメディア
自己免疫疾患にまつわる知識・情報UPDATE Vol.4「自己免疫疾患の特徴 ①全身性自己免疫疾患編」|JBスクエア 日本血液製剤機構 医療関係者向け情報
全身性エリテマトーデス(厚生労働省)
*2)全身性エリテマトーデス(SLE)の症状
日本内科学会雑誌第112巻第4号
全身性エリテマトーデス – Wikipedia
*3)全身性エリテマトーデス(SLE)の原因
金井亨輔先生 | 鳥取大学医学部
*4)全身性エリテマトーデス(SLE)の治療法
日本血液製剤機構
49 全身性エリテマトーデス
*5)全身性エリテマトーデス(SLE)に関してよくある疑問
全身性エリテマトーデス(SLE)とはどのような病気? 顔の湿疹や腎炎といった症状が特徴である全身性の免疫疾患 | メディカルノート
岡村咲オフィシャルブログ Powered by Ameba
#03 岡村 咲さん│患者さん体験談│SLE.jp
セレーナ・ゴメス | Selena Gomez – UNIVERSAL MUSIC JAPAN
セレーナ・ゴメス – Wikipedia
セレーナ・ゴメスが5年ぶりにアルバムをリリース!SIBOや双極性障害など、デビュー時から振り返るメンタルヘルスとの歩み
*6)全身性エリテマトーデス(SLE)とSDGs
SDGs:蟹江憲史(中公新書)
この記事を書いた人
くりきんとん ライター
教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。
教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。




