
奨学金は学生が高等教育を受け、日本の未来を担う人材を育成するために欠かせない制度です。しかし制度に関する知識と理解が不足していれば、これから社会に進出する、または社会人になったばかりの人が、それを明確な「借金」であり、返済しないと大変なことになる、ということを明確に認識するのは難しいでしょう。そこで今回は奨学金を滞納することに関して、滞納機関ごとのリスクや実際に起こること、また滞納が発生しそうなときに行うべきことについて、詳しく解説していきます。
目次
奨学金を滞納したらどうなる?その後の流れを解説
①1回目の滞納時
奨学金における1回目の滞納(初回滞納)とは、奨学金の返還期日における口座引き落としが、残高不足等によりできなかった状態を指します。この段階では延滞金(遅延損害金)は発生していません。
日本学生支援機構(JASSO)は、初回滞納が発生した返還者に対して次のようなアクションを取ります。
- 翌月合算引き落としの案内
- 振替不能通知の送付
- 本人への電話連絡
- SMSによる警告
まずは滞納が発生した翌月の振替日に、当月分と未納分の返還額を合わせた2ヶ月分の引き落としを行うことを案内します。また返還者に対して次回の振替日と、次回の引き落とし金額(当月分と未納分の合計額)が記載された「奨学金返還の振替不能通知」を送付します。
くわえて、返還者本人への電話連絡も行われます。たとえば4月分を滞納した場合、翌月の5月7日頃には、本人へ電話やSMSを用いた連絡が実施されます。以上の点を踏まえて、返還者は次のアクションが求められます。
- JASSOからの通知内容を必ず確認する
- 次回の引き落としに間に合うように口座へ入金する
- 次回は滞納が発生しないように対策する
返還者は振替不能通知書などの内容をすぐに確認し、次回の引落日と引落金額を把握するべきです。もちろん次回の引き落としを確実に成功させるため、未払い分を含めた金額を口座に入金しておく必要があります。
また次回も同様の滞納が発生しないように、自動振り込みを設定するなど、口座残高不足・口座情報の誤りへの防止対策を実施するべきです。
②1~2ヶ月滞納が続いた時
返還期限から1〜2か月ほど経過し奨学金滞納が続いている状態は、滞納直後よりも状況が厳しくなっています。なぜなら、次に挙げるような事態になるからです。
- 延滞金が発生する
- 信用情報に関する注意喚起
- 連帯保証人へ連絡がいく
2回目以降の滞納では、所定の利率に基づく延滞金(年率3%)が加算されます。保証人に対しても、奨学金の返還が滞納している旨が通知されます。
場合によっては、個人信用情報機関への事故記録登録に関する警告をSMS(ショートメッ
セージサービス)で送信することもあります。これは今後さらに滞納が続いた場合、信用情報が傷つく可能性を注意喚起するものです。
さらにこの段階から、連帯保証人への連絡が実施されます。形式は文章形式または電話形式です。以上の点を踏まえて、返還者は次のアクションが求められます。
- JASSOから連絡がきたら必ず応答する
- 返還救済制度の利用を検討する
JASSOから滞納に関する連絡が来たら、無視するのではなく必ず応答しましょう。出たくないからといって無視しても督促は止まらず、事態を悪化させるだけなので意味はありません。
すでにこの段階で「今後の返済が難しい」という結論に至っているなら、できるだけ早い段階で、期限を延ばせる「返還期限猶予制度」や、月々の返済額を減額できる「減額変換精度」といった、返還救済制度の利用を検討しましょう。
ただし制度の利用には申請時点で滞納が解消されていることや、年収上限などの条件があります。この制度に関しては後ほど詳しく解説します。
③3ヶ月以上滞納が続いた時
奨学金返還の滞納が3か月と長期に渡っている場合、事態はさらに深刻化しています。その理由は、主に次の事態が発生しているからです。
- 延滞金が加算され続ける
- 信用情報がブラックリスト入りしている
- 保証人への督促が活発化する
滞納が発生している期間中はずっと年率3%の延滞金が加算され続け、そのせいで返済総額が余計に増えています。もともと返すのが難しい奨学金が、さらに返済困難になっているのです。
くわえて、JASSOが加盟する個人信用情報機関(主にKSC)に事故情報が登録されます。これがいわゆる「ブラックリスト入り」であり、クレジットカードやローンなど、さまざまな信用審査に通らなくなる原因です。
さらに返還者本人がいつまでも返済に応じないと、保証人および連帯保証人への督促が活発化します。場合によってはこの段階で債権回収会社に回収業務が委託され、より電話連絡や文章による督促頻度が増します。返還者は早急に次のアクションを行う必要があります。
- ただちに滞納分を全額返還する
- すぐにJASSOからの電話連絡に出るか、自分から連絡する
- 信用情報を確認する
この段階からでもJASSOに連絡し返還は行うべきですが、すでに回収業務が委託されている場合は、連絡・返還先が回収業者となります。その場合は督促も回収業者から行われるため、どちらにしてもすぐ連絡しましょう。
この段階で信用がブラックリスト入りしている可能性は高いですが、改めて自分の信用情報を確認したい場合は、KSCに対して情報開示請求が行えます。ネット申し込みなら1,000円、郵送での開示請求なら最大1,800円の料金が必要です。
④6ヶ月以上滞納が続いた時
奨学金の返済が半年滞っている状態では、主に次の事態が発生しています。
- 信用情報は確実にブラックリスト入りしている
- 延滞金が加算され続け、さらに返済が困難になる
- 債権回収会社からの本人・保証人への督促はより頻繁になり止まらない
この段階において、事故情報はほぼ確実に信用情報機関へ記録され、いかなる信用審査も通らなくなっています。クレジットカードを持っている方は中途与信があるため、それが実施された段階でカードが使えなくなる可能性があります。
一度信用情報がブラックリスト入りすると、少なくとも完済するまではそのままで、完済したとしても5年間は事故情報が掲載されたままで、消えません。もちろんこの間も保証人への督促は止まらず、延滞金も加算され続けるため、事態は悪化の一途をたどります。
さらにJASSOおよび債権回収会社は長期延滞をうけて、次のような手段に出る可能性が高いです。
- 一括返済要求
- 裁判所を通した民事訴訟による債権回収手続き
- 給料や財産の差し押さえを伴う強制執行
当人が一向に返済に応じない場合は、分割返済が一切不可となり、一括での返済を求められます。これは本人の返済能力可否を問わず実施されるものであるため「分割で返せないのに一括で返せるわけがない」と感じる方もいます。
さらに事態が進むと民事訴訟手続が実施され、裁判所から出廷を求められます。この段階で返還者は分割返済等による返還の可能性を提示することもできますが、相手が応じない場合は民事訴訟となり、最終的に給料や預金口座の差し押さえ命令が下ります。強制執行のため、返還者がそれを拒否することはできません。
奨学金の滞納でブラックリスト入りになるのか
結論からいうと、奨学金を滞納すると信用情報はブラックリスト入りします。正確には、滞納が3か月程度まで長期化した段階で、事故情報が信用情報機関(KSC)に記録されます。要するに「この人は奨学金を期日までに返済しなかった」という記録が残るのです。
事故情報が一度記録されると、新しくクレジットカードを作成したり、住宅ローンやマイカーローンを申し込もうとしても、信用審査に一切通らなくなります。これはカード会社やローン会社が審査の段階で事故情報を認知し、ほぼ機械的に貸し倒れリスクが高い人だと認識するからです。
一度記録された事故情報は、たとえ奨学金を完済してもすぐに消えません。具体的には5年程度残り、その後抹消されれば信用審査にも通るようになるでしょう。しかし完済しなければ5年といわずいつまでも記録され続けるため、たとえ物理的に返済が困難でも早めの相談・対処が必須なのです。
奨学金の返済が難しい場合の対処法を紹介
次は奨学金の返済が難しい場合に行える、4つの対処法について解説していきます。
返還期限猶予制度を利用する
延滞の流れでも解説したとおり、奨学金の返還が難しい人はJASSOの「返還期限猶予制度」を利用できる可能性があります。この制度が適用されれば、次のような措置が講じられます。
- 1回の申請につき最長1年間にわたり支払いが猶予される
- 支払い猶予は通算10年(最大120回)まで適用が可能
この措置により、返還者は奨学金の返還をストップしたうえで、生活を立て直しながら返済のめどを立てることができます。返済義務そのものがなくなるわけではありませんが、事態が悪化しそうならすぐに申請すべきです。
ちなみにこの制度を利用するためには、次のいずれかの条件を満たしている必要があります。
- 給与所得による年収が300万円以下である(給与所得以外なら200万円以下)
- 失業により求職活動中、または雇用保険を受給している
- 病気やケガで長期間にわたり入院・療養が必要である
- 地震や水害等の自然災害で被災した
そのほかに、産休・育休に入る女性や生活保護受給者なども対象となります。その他新卒者を対象とした制度もあるため、返済が困難になったらまずは自分が制度を利用できるかどうか、JASSOに相談してみましょう。
減額返還制度を利用する
返還期限の猶予にくわえ、返還者は「減額返還制度」も利用できる可能性があります。その名の通り返済額を減額できる制度で、対象者には次のような措置が講じられます。
- 毎月の返還額が「2分の1・3分の1・4分の1・3分の2」いずれかの割合で減額
- 減額の度合いに応じて、返済額も延長(1回あたり1年、最長15年)
この制度を利用すれば、毎月支払うことになっている金額を大きく減らせるだけでなく返済期間も延ばせるため、返済負担が大きく軽減されます。この制度を利用するための条件は次のとおりです。
- 申請・審査時点で滞納していない(例外あり)
- 奨学金の返還方法が月賦返還である
- 給与所得による年収が400万円以下である(給与所得なら300万円以下)
- 失業、病気・ケガによる入院や療養、災害による被災等で返済が困難である
この制度の適用者は延滞扱いにならないため、信用がブラックリスト入りしたり、民事訴訟を起こされて給与や預金口座が差し押さえになることはありません。ただし延滞が3か月以上になると事故情報が記録されてしまうため、返還が困難になったら早めに制度の利用を検討しましょう。
所得連動返還方式を利用する
条件を満たした人は「所得連動変換方式」という比較的新しい返還方式を利用できる可能性があります。この返還方式の要点は次のとおりです。
- 返還額が前年の課税所得に応じて変わる(決定頻度は年1回)
- 子どもがいる場合は子どもの人数に応じて控除される
- 返還期間は変動する(固定されない)
- 月々の返還額を最低2,000円まで減らせる
要するにこの方式では、収入が少なければ返還額も少なくなり、子どもがいる方はさらに毎月の負担が軽減されます。この返還方式が適用されるためには、次のような条件をクリアする必要があります。
- 申請手続きが貸与中に行われる
- 平成29年度以降に、第一種奨学金に採用されている
- 機関保証制度を選択している
- JASSOにマイナンバーを提出済みである
所得連動返還方式を利用するためには、学力や世帯収入が一定水準を超えている「第一種奨学金」が採用されている必要があります。また保証人が存在する人的保証ではなく、保証期間が保証人となる機関保証であることも条件です。
この方式は前に紹介した2つの制度と同じく、借金自体を減らせる方法ではありません。しかし返還額が計算される仕組みそのものを変えられるため、特に減額度合いが大きくなる子どもが生まれた方は、積極的な検討をおすすめします。
奨学金返還相談センターへ相談する
どの制度・返還方法を利用するとしても、まずはJASSOの「奨学金返還相談センター」という専用窓口へ、電話またはウェブサイト経由で相談することをおすすめします。
相談センターでは、それぞれの置かれた状況に応じて適切な制度を案内してくれたり、ひとまず直近でどうすれば良いかを教えてくれたりします。延滞後に何をすればいいかわからないなら、自分で延々と悩む前に相談してみましょう。
奨学金の滞納に関するよくある質問
最後に、奨学金の滞納に関する4つのよくある質問に回答します。
奨学金を滞納した場合のペナルティは?
奨学金の滞納は、たとえ短期間であってもペナルティの対象となります。たとえば2回以上の滞納で年率3%の延滞金が加算されますし、3か月以上になると信用がブラックリスト入りして、新しくクレジットカードやローンの契約ができなくなります。
さらに滞納が長期化した場合は、裁判所を通して民事訴訟されたり、保証人・連帯保証人に迷惑をかけてトラブルになったり、最終的には給与や預金の差し押さえといった実害を受けることになります。
事態は長期化すればするほど深刻になるため、返済が難しいと思った段階で早めに奨学金返還センターへ相談することをおすすめします。
奨学金を滞納していたら会社にバレる?
奨学金の滞納は初期段階であれば勤務先に知られる可能性は低いですが、長期にわたった場合はその限りではありません。なぜならいつまでも返還者と連絡が取れない場合は保証人・連帯保証人を経て、会社に連絡がいくケースがあるからです。
法律では、延滞が発生してもすぐに職場へ連絡することは禁止されています。しかし本人や保証人と一向に連絡が取れない場合などは例外となり、ある程度プライバシーに配慮された形ではあるものの、職場に連絡が行く可能性はあります。
とりわけ、民事訴訟後に強制執行が決まり、給与差し押さえともなれば、職場への連絡は避けられません。差押命令は電話連絡ではなく書面での送達となるため、少なくとも経理担当者は滞納の事実を知ることになります。
奨学金を滞納していても住宅ローンは組める?
奨学金を滞納している人が住宅ローンを組むのは、現実的に困難です。なぜなら繰り返し説明しているとおり、3か月以上の滞納で信用はブラックになり、ローン契約を含むすべての信用審査に通らなくなるからです。
これに例外や優遇措置はほぼありません。ローン会社にとって、たとえ他社でも滞納が常習化・長期化している人は貸し倒れリスクが高い人であり、特に多額の融資を行う住宅ローンともなれば融資する理由がなくなってしまいます。
たとえ完済しても5年はローンが組めないことを考えれば、そうなってしまう前に適切な措置を講じるべきです。特に若くして結婚や出産の予定があり、持ち家の購入を考えている方は、一度たりとも遅れないように注意しましょう。
何回まで奨学金を滞納したらマズい?
奨学金の滞納は基本的に1回でも遅れるべきではありませんが、滞納が及ぼす影響の深刻度は、滞納回数が増えていくたびに上がります。当然ながら「1ヶ月遅れただけ」よりも「滞納を半年放置している」ことの方が事態は深刻で、デメリットも大きいです。
特に大きなボーダーラインとなるのが「3ヶ月目の滞納」です。3ヶ月は信用情報機関に事故情報が記録され、今後の人生に大きくかかわる分岐点となるからです。どのような事情があったとしても、滞納が3ヶ月を超えてしまう前に返済するか、必ずJASSOに相談して適切な制度を利用するようにしましょう。
まとめ
奨学金は「借りているお金である」という感覚を忘れやすく、それ故に生活に困ったとき、支払いを後回しにしてしまいがちです。しかし実際は信販会社が絡む契約のため、滞納が長期に至った時のリスクはかなり大きいです。
少しでも「次回の返済は困難だ」と感じたら、まずは連絡して何をすれば良いのか相談してみましょう。その結果完済時期が少し遅くなるとしても、返済できない事態を放置しておくよりは良い結果になるはずです。
この記事を書いた人

エレビスタ ライター
エレビスタは「もっと"もっとも"を作る」をミッションに掲げ、太陽光発電投資売買サービス「SOLSEL」の運営をはじめとする「エネルギー×Tech」事業や、アドテクノロジー・メディアなどを駆使したwebマーケティング事業を展開しています。
エレビスタは「もっと"もっとも"を作る」をミッションに掲げ、太陽光発電投資売買サービス「SOLSEL」の運営をはじめとする「エネルギー×Tech」事業や、アドテクノロジー・メディアなどを駆使したwebマーケティング事業を展開しています。