エイジテックとは?日本の現状と具体事例も

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すでに私たちの生活は、多種多様なテクノロジーに支えられています。コロナ・パンデミックを通して、リモートワークが当たり前のように取り入れられるようになりました。その中で、高齢者がスマートフォンを利用している姿もよく見るようになりました。

エイジテックは、今後も増加する高齢者層を有望な市場ととらえたテクノロジーです。健康寿命を延ばし、前向きに余生を送ろうとする高齢者のニーズに合って、急速に成長してきている分野です。

今回はエイジテックについて、まずどのようなものなのか、そして背景や日本市場を解説し、事例も紹介しています。高齢者の方もそうでない方も、どのようなものが自分の暮らしに役立つか考え、エイジテックの恩恵を受けていきましょう。

エイジテックとは

エイジテックとは、Aged person(高齢者)とTecnology(科学技術)を組み合わせた造語で、高齢者の生活や健康をサポートするための技術・ITサービス・アイデアなどの総称です。

利用者のカテゴリー:高齢者だけでないユーザー

エイジテックの利用者には3つのカテゴリーがあります。

  • 高齢者自身が直接購入・利用
  • 高齢者のために購入・利用
  • 自身を含む将来の高齢者(プレシニア層)のために購入・利用

B.には、高齢者の家族はもちろん、高齢者の雇用主や地域の福祉関連施設も含まれます。またC.は高齢期への準備のためのものです。

エイジテックに期待されていること

エイジテックは、加齢によってできなくなった身体機能を補うだけでなく、より健康的で、ポジティブな生活を楽しもうとすることを支援するためのものと考えられています。

例えば、視覚に衰えを感じた高齢者のためにおしゃれで性能のよい老眼鏡を開発することだけでなく、高齢者でも読みやすい電子書籍を考えたり、新しい学習素材を提供したりなど、様々なチャレンジを支援するためのテクノロジーがエイジテックです。

このような利用者層の期待を担うエイジテックの商品やサービスは、近年様々な領域にわたっています。

エイジテックが注目される背景

エイジテックが注目される背景には何があるのでしょう。近年当たり前のように話題に上がる「高齢化社会」ですが、単に高齢者の数の増加だけが原因ではない理由があります。順を追って解説します。

高齢者人口の推移

平均余命の大幅な伸びと出生率の低下により、先進国の高齢化社会は最早常識と言えるほどになりました。国連によると、2025(令和7)年には、高齢者人口比率の世界平均は1割を超え、先進地域に限れば2割を超える国が多くなっています。

さらに推計によれば、この傾向は今後も続き、2050年にはその比率が3割を超える国が出てくると予想されています。

必要不可欠なテクノロジー

高齢者が増えるということは、加齢による身体機能の衰えをカバーする医療や、生活支援をする介護者が必要になってくるということです。しかし日本を始め、少子化・労働人口減少の進む国々では、介護士不足や高齢者を抱える家族の介護離職という新たな課題に直面しています。

エイジテックが注目される理由の1つが、これらの課題に対して、テクノロジーでの解決に期待が寄せられているという点です。

高齢者対策は世界の大きな課題の1つであり、エイジテックの市場が大きいことに繋がります。

家族構成の変化

人数が増えただけではなく、高齢者のライフスタイルも変わってきました。65歳以上の一人暮らしの人が増加しているのです。

核家族が標準化した現在ですが、「人生最期の迎え方」に関する調査では、

  • 子の家では迎えたくない。自分の家で迎えたい。
  • 自分らしく行きたい。
  • 延命治療は望まない

といった高齢者の回答が高い割合を示しています。

参考・出典:人生最期の迎え方に関する全国調査(日本財団)

近年は高齢者自身も一人暮らしを望み、前向きに最期を迎えようとする傾向が強くなっているのです。

このような高齢者の暮らしをサポートするために、家族や介護者に代わるテクノロジーが求められてきています。

直接高齢者をサポートする領域も、身体的なものに加えて、孤立を防いだり孤独を癒したりするものに広がります。また遠隔から見守る家族をサポートする領域のテクノロジーも必要とされます。

高齢者のライフスタイルの変容は、エイジテックの領域をさらに広げています。

健康・生活の質向上を目指す高齢者

一人暮らしは、自分の生活を自身で管理しなくてはならない面もありますが、自身で裁量できることが増えるということでもあります。

政府の行った調査結果からは、趣味・スポーツや旅行、時折の会食などを楽しみたいという高齢者の前向きな生活志向が見えています。

<高齢者の日常生活・地域社会への産科に関する調査>

そして同調査から、すでに多くの高齢者がエイジテックの有効利用に積極的であることも伺えます。

このような背景があり、今エイジテックは高齢者からもそれを支える世代からも注目を集めているのです。

日本におけるエイジテックの市場規模

では現在、日本におけるエイジテック市場はどうなっているのでしょう。可能性も含め考えてみましょう。

高齢者人口増加をどうとらえるか

前章でお話した通り、先進校の中でも日本は最も高齢化率の高い国の1つです。

エイジテックは、加齢による不自由さを補い、かつより健康的で活動的な生活を支援するためにあります。高齢者による利用の増加が見込まれることは、エイジテックが有望な市場であることは明らかです。

日本のエイジテックがハブに

日本の技術力は元々世界から高い評価を受けています。その技術の礎を築いたのは高齢者世代です。

高齢化社会を市場とする新しいイノベーションが成功し、成功したビジネスモデルや製品・サービスが日本のハブとして世界で展開されれば、超高齢化社会でも経済成長を続けられる可能性を世界に示すことになります。

日本は、高い高齢化率とイノベーションを可能にする技術力で、現在ばかりでなく将来的にも有望な有望なエイジテック市場と言えます。

出典:高齢者向け市場(みずほコーポレート銀行)

エイジテックの事例

エイジテックの利用者には3つのカテゴリーがあります。この章では、現在展開されているエイジテックの事例を、カテゴリーごとにご紹介しましょう。

事例①:高齢者自身がユーザー;タブレット「Carebee (ケアビー)」

このタブレットは通常のものと同等の機能を持っています。特徴はサポーターがリモート代理操作をしてくれる点です。IT機器を使い慣れていない高齢者層でも使いこなせる可能性が格段に上がり、デジタルデバイド ※ を解消できる可能性も高くなります。

※ デジタルデバイド

ITが使えるか使えないかによって生じる格差

家族とのコミュニケーション・ツールにもなり、ゲーム機能を利用すれば一人暮らしの時間を楽しく使うこともできます。

事例②:介護現場で;介護記録ソフト「Care Viewer(ケアビューアー)」

ケアビューアーは、介護事業所向けのデジタルソフトです。

バイタルや食事・睡眠などの介護記録を一括登録したり、ケアプランの作成などもサポートするソフトです。紙媒体を離れることで、記録にかかる時間や労力と保管にかかるコストを大幅に削減する目的で考案されたものです。

ケビューアーはソフトですが、現場の介護士の業務を直接的にサポートするロボットや機器を考案・製造している企業もあります。特に高齢者の施設内、施設外への移動サポートする機器は、本人の移動を助けるだけでなく、介護士の身体的負担を大きく減らし、離職率の削減にも成果を発揮しています。

関連記事:ロボット介護とは?種類や導入事例、メリット・デメリットを解説 – Spaceship Earth(スペースシップ・アース)

現代の日本の大きな社会問題の1つである介護士不足を解消するエイジテックは、すでに成果を見せ始めています。

事例③:プレシニアがユーザー;遺産相続計画事業 Ethos(アメリカ)

プレシニア向けのエイジテックの事例として、アメリカのエートス社のサービスをご紹介します。

このエイジテックサービスは、シニアの不動産管理、相続サポートなどを、利用者の生前に行うものです。遺言書の作成などもスマホを使って作成できるようサポートします。

このようなサービスにより、早めに終活を進め、余生を安心して過ごすことができます。

大きく有望な市場を目指して、ウェルビーイング・介護を筆頭に様々な領域のエイジテックでスタートアップを図る企業が・グループが増えています。

参考:AI、エイジテック、日本企業の挑戦:(フォーブス ジャパン)及び高齢者×ITの注目キーワード「エイジテック」日経クロストレンド

エイジテックの課題

現在もそして将来も大きく有望な市場が見通せるエイジテックですが、課題も残されています。もっとも心配される課題2点について一緒に考えていきましょう。

課題(1)デジタルデバイドをどう解消するか

2023年現在日本では、インターネット利用利率は90%にせまり、スマートフォンの利用率は90%を超えています。インターネットやスマートフォンなどの普及により、デジタルテクノロジーは生活に欠かせないものとなっています。

<インターネット利用率(個人)の推移>

しかし、年代別の利用率をみると、若い世代がほぼ100%であるのに比べ、60代以上の利用率は年齢が上がるにつれて減っています。世代間で大きなデジタルデバイドが生じているのです。

シニア世代は最新技術に慣れておらず、その利用に不安や困難を伴っている人が少なくありません。高齢者にとって使いやすく、安心して利用できる製品やサービスが求められています。

高齢者でなくても、施設などで新しい機器やサービスを導入する際、職員の中には機器の操作が苦手な人がいます。導入がスムーズに行われるようなエイジテックが望まれます。

<年齢層別インターネット利用率>

課題(2)導入時の高コスト

スマートフォンでも新しい多機能な機種に変更するときのコストは決して安くありません。新しく便利なテクノロジーのコストは低くはないのです。機器やサービスをレンタル契約式で購入しても、月に数千円、初期費用として工事費や設定料が罹ります。保証金が必要な場合もあります。

収入は年金だけという高齢者も多く、個人では高額なものは購入できません。施設や団体での購入は、デバイスの数も多くなり使用料も高くなります。有効なテクノロジーでも価格がネックになっては広まりません。必要な人が購入でき、利用し続けられるエイジテックが求められています。

購入の際、介護保険などの利用については、居住区に相談窓口があります。国や自治体には、IT導入に関する補助金制度 ※ もあります。

※ IT補助金制度について詳しくはこちら

参考:【シニアDXの最前線】4つの分野におけるエイジテック活用事例と展望 – DXportal及びエイジテック:高齢者が自立して暮らすためのテクノロジー

エイジテックとSDGs

最後にエイジテックとSDGsの関係を見ていきましょう。

エイジテックは、高齢者を中心に考えながらも、支援する人々や社会に広く関わるテクノロジーです。そしてSDGsの理念・目標とも関わっています。その中で特に関わり深いのは、

SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」です。

SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」とエイジテック

目標9は「レジリエントなインフラを構築し、だれもが参画できる持続可能な産業化を促進し、イノベーションを推進する」ことを目指します。

エイジテックの導入は、まさにイノベーションを推進する姿です。そしてそれは、高齢者人口の増加を新市場の広がりと考える産業発展の可能性を示しています。

今後まだまだ高齢化は進みます。課題が解決され、さらにイノベーションが進めば、誰も取り残されない社会の実現につながっていきます。

エイジテックは、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献することを通してさらに、

  • SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」
  • SDGs目標8「働きがいも経済成長も」

にもつながっていきます。


>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

エイジテックについて、注目される背景や市場規模を解説し、商品やサービスの事例をご紹介しました。また現時点での課題も整理し、SDGsとの関わりもまとめました。

エイジテックが高齢者の生活を助けることは確かです。それは加齢による身体的な課題の解決ばかりでなく、生活をより豊かにし安心・安全を創出します。それは家族や周囲の人、関係する多くの人々をも豊かにします。

街で小学生向けの「プログラミング教室」を見つけると、「時代も変わった」「追い付いていけない」と感じる高齢者は少なくないはずです。しかし、エイジテックはそんな高齢者を応援してくれるテクノロジーです。地域には高齢者のIT利用をサポートしてくれる人々もいます。予算の許す範囲で、大いに利用していきましょう。利用者の感謝や要望の声が、エイジテックを提供する側をよりよい方向へと押していくはずです。

<参考資料・文献>
野村資本市場研究所|AgeTech:エイジテック(高齢者×テクノロジー)-日本の最も深刻な社会課題を「産官学+高」で戦略資産に変える-(PDF)
令和6年版 高齢社会白書(全文)(PDF版)
人生最期の迎え方に関する全国調査(日本財団)
高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
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高齢者向けリモート代理操作機能付きタブレット「Carebee」 | Monthly Pitch
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この記事を書いた人

くりきんとん ライター

教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。

教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。

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