カースト制とは?仕組みや特徴、なくならない理由も

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日本人がインドと聞いてイメージするものの一つに、「カースト制」があるのではないでしょうか。世界史の授業で「バラモン・クシャトリヤ・ヴァイシャ・シュードラ」という4つの身分を暗記した記憶がある人も多いでしょう。

しかし、具体的にどんな仕組みなのか、なぜ今もなくならないのかと問われると、うまく答えられる方は少ないのではないでしょうか。カースト制は単なる「身分のランク」ではなく、結婚や食事、職業まで、人々の暮らしのすみずみに深く入り込んだ制度なのです。

しかも1950年のインド憲法でカーストによる差別は禁止されたにもかかわらず、現在もインド社会に根づき続けています。この問題は、SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」とも深く関わっています。

カースト制の基本的な仕組みから歴史、特徴、なくならない理由まで、わかりやすく解説します。

カースト制とは

カースト制とは、インドのヒンドゥー教社会で歴史的に形成された身分制度を意味する言葉です。

「カースト」という言葉自体はインドの言葉ではありません。15世紀末にインドを訪れたポルトガル人が、「血統」を意味するポルトガル語「カスタ(casta)」と呼んだことが起源とされています。*1)

カースト制の2つの概念

カースト制は大きく分けて2つの概念から成り立っています。

概念意味特徴
ヴァルナ「色」が語源の身分区分バラモン・クシャトリヤ・ヴァイシャ・シュードラの4つの大きな身分区分
ジャーティ「生まれ」が語源の職業集団職業・血縁・地縁に基づく細かい集団 2,000~3,000種存在

カースト制はヒンドゥー教という宗教の世界観と深く結びついています。生まれによって身分が決まり、一生変えられないという点が、カースト制の最大の特徴です。*1)*2)

カースト制の仕組み


カースト制は、4つのヴァルナ(身分区分)と、その枠外に置かれた不可触民という階層で構成されています。

階層元の役割・特徴
バラモン祭司・学者。宗教的最高権威
クシャトリヤ王族・武士。政治・軍事担当
ヴァイシャ商人・農民。経済を支える
シュードラ労働者・隷属民。上位に奉仕
不可触民(ダリット)ヴァルナの枠外。不浄な職業に従事

それぞれの階層について見ていきましょう。

バラモン(神官・学者の階層)

バラモンはヴァルナの最上位に位置する祭司・知識人の階層です。ヴェーダ聖典を代々暗唱して伝え、宗教的な儀式を独占的に取り仕切る役割を持っていました。

※ヴェーダ聖典

バラモン教(のちのヒンドゥー教)の根本聖典。神への讃歌や祭祀の方法などが記されている。

*3)

神に最も近い人間」とされ、社会的に非常に強い権威を持っていたのが特徴です。王朝の大臣や裁判官を務めるバラモンも存在し、単なる宗教者にとどまらない存在でもありました。

クシャトリヤ(王族・武士の階層)

クシャトリヤは「権力を持つ者」という意味の言葉で、王族・武士にあたる階層です。政治と軍事を通じて人民を守る役割を担い、バラモンとともに支配階級を構成しました。

仏教の開祖である釈迦(ゴータマ・シッダールタ)はクシャトリヤ出身として知られています。身分制度のただ中から、それを否定する思想が生まれた点は興味深いですね。

ヴァイシャ(商人・農民の階層)

ヴァイシャは農業・牧畜・商業に従事する庶民階層です。上位のバラモンとクシャトリヤを経済活動によって支える役割を担っていました。

バラモン・クシャトリヤ・ヴァイシャの上位3つのヴァルナは「再生族(ドヴィジャ)」と呼ばれ、ヴェーダの学習に参加する資格が与えられていました。

シュードラ(労働者・隷属民の階層)

シュードラはヴァルナの中で最下位に位置する隷属民の階層です。上位3つのヴァルナに仕えることを義務づけられ、ヴェーダの学習も許されない「一生族(エーカジャ)」とされました。

もともとアーリヤ人に征服された先住民が多く含まれたと考えられています。ただし、時代が進むにつれてヴァイシャと同等の扱いを受けるようになり、その下に不可触民という新たな最下層が形成されました。*4)

不可触民(ダリット)とは何か

4つのヴァルナのいずれにも属さない最下層の存在が、かつて「不可触民(アンタッチャブル)」と呼ばれていた人々です。死者の処理や清掃など、不浄とされる仕事に従事させられ、他のカーストの人々から接触さえ忌避されてきました。

インド独立後の1950年憲法で、この呼称は差別用語として禁止されました。現在の公式名称は「指定カースト」です。当事者たちは自らを「ダリット(壊された民)」と呼び、人権回復を求める運動を続けています。1991年の段階で約1億人がこの層に属するとされ、その規模の大きさに驚かされます。*5)

カースト制の特徴

カースト制には、他の身分制度には見られない独自の特徴があります。主な2つのポイントを整理してみましょう。

生まれた瞬間に身分が決まる

カースト制の最大の特徴は、生まれた瞬間に自分の身分が決まり、一生変えられない点にあります。

この背景には、ヒンドゥー教の「輪廻転生」の考え方があります。今の人生の身分は前世の行い(業=カルマ)の結果であり、今生で自分の役割を全うすれば、来世でより良い身分に生まれ変われると信じられているのです。*

この信仰があるからこそ、「自分の身分を受け入れて生きる」という意識が数千年にわたって維持されてきました。

職業・結婚・食事にまでルールがある

カースト制が特異なのは、身分の区分が暮らしのすみずみにまで及ぶ点です。具体的には以下のような規制が見られました。

規制の分野内容
職業親から子へ世襲される。職業選択の自由がない
結婚同じカースト(ジャーティ)内での婚姻に限られる(内婚制)
食事異なるカースト間の会食や食べ物のやりとりが制限される
浄・不浄の概念上位カーストほど食べられるものに制限(菜食など)

カースト制は単なる「身分のランク」ではなく、人々の生活全体を規定する包括的な社会システムであるといえます。

カースト制の歴史

カースト制には数千年に及ぶ長い歴史があります。時代ごとに、どのように形成・変化してきたのかを見ていきましょう。

アーリヤ人の進出と身分制度の始まり

紀元前1500年頃、中央アジアからアーリヤ人がインドに進出しました。彼らが先住民であるドラヴィダ人を征服する過程で、肌の色の違いなどをもとに身分の区別が生まれました。

「ヴァルナ」という言葉がもともと「色」を意味することからも、肌の色による区別が起源だったことがうかがえます。紀元前8世紀頃までに、バラモン・クシャトリヤ・ヴァイシャ・シュードラの4つのヴァルナが成立したとされています。

マヌ法典で制度が体系化された

バラモン教(のちのヒンドゥー教)の発展とともに、身分制度は宗教的な裏づけを得ていきました。紀元前2世紀頃にまとまったとされる「マヌ法典」には、各ヴァルナの義務や行動規範が詳しく記されています。

※マヌ法典

古代インドの法典。それ以前の法典をまとめ、宗教的・社会的ルールを述べたもの

*7)

この時期に、4つのヴァルナの下に不可触民も含めた5層構造が確立されました。単なる慣習から、宗教と法が一体となった社会の仕組みへと発展したのです。*7)

イギリス植民地支配が制度を固定化した

もともとカースト制は地域によって流動的な面もありました。しかし19世紀にイギリスがインドを植民地支配すると、状況は大きく変わります。

イギリスは統治の手段として、カースト間の対立を利用する「分割統治」政策をとりました。

※分割統治

支配者が支配下の民族の対立(民族的・宗教的・経済的な対立)をあおり、互いに争わせることで支配しやすくする統治方法。イギリスなどがよく用いた

*8)

国勢調査でカーストを記録・分類し、序列を公式に固定化したのです。この植民地政策が約100年続いたことで、カースト制はかえって強固なものになったと指摘されています。

インド独立とカースト差別の禁止

1947年、インドはイギリスからの独立を果たします。1950年に制定されたインド憲法では、公式にカースト差別が禁止されました。現在、インドでは禁止の実効性を高めるため、不可触民への差別を禁じる法律が制定されたり、教育や官職、選挙などで不可触民を優遇する措置が講じられています。

しかし、差別が完全になくなったわけではありません。過去からの習慣が人々に受け継がれているからです。

カースト制はなぜなくならないのか

憲法で差別が禁止されているにもかかわらず、なぜカースト制はなくならないのでしょうか。その理由を探ると、3つの大きな要因が見えてきます。

ヒンドゥー教の教えが制度を支えている

1つ目の理由は、カースト制がヒンドゥー教の宗教的信仰と深く結びついている点にあります。

輪廻転生の考え方では、現世の身分は前世の行いの結果であり、今生の役割を全うすれば来世でより良い身分に生まれ変われるとされます。つまり、カースト制は「神が定めた宇宙の秩序」として信じられているのです。

信仰と制度が一体になっているからこそ、法律で差別を禁止しても人々の意識を変えることは容易ではありません。

農村部や地方に根強く残る慣習

インドの都市部、とくにIT産業が盛んな大都市では、カーストの影響は薄れつつあります。しかし、人口の約6割が暮らすとされる農村部では事情が大きく異なります。

結婚や日常の交際において、カーストの慣習は今も強く残っているのが現実です。カーストを超えた結婚(異カースト婚)は家族や地域社会から激しい反発を受けることもあり、「名誉殺人」と呼ばれる悲劇的な事件が報じられることもあります。

※名誉殺人

女性が異カースト婚などの「不道徳」な行いをした際に、家族や親族などが名誉を回復するために女性を殺害すること

*9)

政治的な利用と「逆差別」の問題

インド政府は、かつて差別を受けてきた指定カーストや指定部族のために、大学入試や公務員採用で一定の優先枠(留保制度)を設けています。

一方で、上位カーストの人々が「自分たちの枠が奪われている」と感じる逆差別問題も起きています。さらに、選挙では政治家がカースト集団の票を取り込むためにカースト意識を利用することも。制度をなくすどころか、かえってカースト意識を政治的に温存してしまう構造が生まれているのです。

このように、カースト制がなくならない背景には、宗教・慣習・政治が複雑に絡み合う構造があるのです。

カースト制とSDGs

カースト制が引き起こす不平等の問題は、SDGs(持続可能な開発目標)とも深く関わっています。とくに関連が深いのが、目標10「人や国の不平等をなくそう」です。

SDGs目標10「不平等をなくそう」との関わり

SDGs目標10は、年齢や性別、障がい、人種、民族、出自、宗教などに関わらず、すべての人の社会的・経済的・政治的な包摂を促進することを掲げています。

カースト制度は「生まれ」によって人の社会的立場が固定されるため、まさにこの目標が解決を目指す問題の一つといえます。具体的には、以下のターゲットに直接関わります。

ターゲット内容カースト制との関連
10.2すべての人の能力強化と包含の促進指定カーストへの留保制度が該当
10.3機会均等の確保と差別的法律・政策の撤廃カースト差別禁止法の整備が該当

インド政府が指定カーストに対して行っている留保制度や、ダリット自身による権利回復運動は、SDGsの理念に沿った取り組みといえます。一方で、長く続いてきた差別意識をどう克服するかが大きな課題として残っています。

カースト制の問題を知ることは、世界の不平等について考えるスタートラインになるのではないでしょうか。

まとめ

カースト制は、インドのヒンドゥー教社会で数千年にわたって続いてきた身分制度です。バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャ、シュードラと4つのヴァルナと、その枠外に置かれた不可触民(ダリット)で構成されています。

1950年のインド憲法でカーストに基づく差別は禁止されました。ただ、宗教的信仰や農村部の慣習、政治的な利用といった複合的な要因から、今なお社会に根づいているのが現状です。

カースト制の問題は、SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」と深く結びついています。「生まれ」で人の立場が決まる社会は、過去のものだけではありません。

インドだけの問題と思わずに、私たちの身の回りにある不平等にも目を向けるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

参考
*1)デジタル大辞泉「カーストとは? 意味や使い方
*2)山川 世界史小辞典 改定新版「ヴァルナとは?
*3)山川 世界史小辞典 改定新版「ヴェーダ
*4)山川 世界史小辞典 改定新版「シュードラ
*5)改定新版 世界大百科事典「不可触民
*6)改定新版 世界大百科事典「輪廻転生
*7)山川 世界史小辞典 改定新版「マヌ法典
*8)デジタル大辞泉「分割統治
*9)京都大学 現代インド研究「名誉殺人-現代インドにおける女性への暴力

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この記事を書いた人

馬場正裕 ライター

元学習塾、予備校講師。FP2級資格をもち、金融・経済・教育関連の記事や地理学・地学の観点からSDGsに関する記事を執筆しています。

元学習塾、予備校講師。FP2級資格をもち、金融・経済・教育関連の記事や地理学・地学の観点からSDGsに関する記事を執筆しています。

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