インポスター症候群とは？特徴や原因、治し方も

周りに謙虚な方はたくさんいらっしゃいますか？また、会話していても「それって謙遜しすぎ！」と言ったり言われたりしたことはありませんか？

そんな評価を受ける方々は多くの場合、周囲とうまくやれる方々です。日本人にとって「謙虚」は美徳の１つと言えるかもしれません。

しかし、謙虚な言動の裏側に、当人は大きなストレスを抱えている場合があるのです。インポスター症候群と呼ばれる心理です。どんな心理で、どんな原因でなるのか、また治し方も分かりやすく解説しました。是非一緒に考えていきましょう。

インポスター症候群とは

インポスター症候群とは、自分の成し遂げたことを肯定できず、自己を過小評価する傾向のことです。ペテン師症候群あるいは詐欺師症候群とも呼ばれます。

「ペテン師」⁉ 「詐欺師」⁉

インポスター症候群は、英語で “ impostor syndrome “と言われます。” imposter “は詐称者を意味するので、ペテン師や詐欺師のついた別名で呼ばれますが、法的な犯罪に関係するわけではありません。成功してもそれは自分の力ではなく、自分は詐称者であると感じてしまう傾向があるので、そう呼ばれているのです。

精神疾患⁉

インポスター症候群は、精神疾患と認定されているわけではありません。そのため診断基準も患者数などの正確なデータもありません。誰もがなる可能性のある感じ方・考え方の傾向で、「症候群」という名称に疑問をもつ研究者もいます。

インポスター症候群の傾向は、周囲から「謙虚」と見られることが多く、社会的トラブルにはなりにくい傾向があります。しかし自己肯定感を著しく持てない場合、自分をペテン師だとまで考えてしまうのは当人にとっては大変なストレスです。傾向の分析などが多くの心理学者の研究対象となっています。

インポスター症候群の特徴

精神疾患ではなく、誰もがもつ可能性のある「傾向」であるのに、「症候群」と呼ばれてしまう特徴を整理してみましょう。

特徴①：成功を認めない

インポスター症候群の定義とも言える「自己肯定感の無さ」・「自己評価の低さ」は、自分の成功を認めず、「運がよかっただけ」とか「周囲の人のサポートのおかげ」と考えます。昂じると「自分の力のバケの皮がはがれるのではないか」と不安になり、落ち込んでしまいます。

特徴②：失敗を恐れる

自分の実力を認められないので、チャンスを与えられても「自分にはできない」としり込みをしてしまいます。しり込みはチャンスを逃し、それを繰り返せば元々の実力さえ減退させかねません。

特徴③：実力を隠す

自分の力を偽物と考えているので、それを人に知られることを嫌がります。自分の知性や能力を見せたら人から嫌われたりバカにされたりすると考え、本来実力があるのにそれを隠す結果となります。

インポスター症候群に陥る原因

では何故「症候群」と呼ばれるほどのネガティブな心理傾向を持ってしまうのでしょうか。

その原因について考えてみましょう。

インポスター症候群は精神疾患ではなく、医学的な原因が明確になっているわけではありません。しかし、次の気質や環境を持つ人に多いと言われています。

気質によるもの：勤勉・完璧主義

1978年にインポスター症候群という言葉を世に広めたアメリカの心理学者、アイムスとクランスは、インポスター症候群は特に高いキャリアを持つ女性に多く、気質的に「勤勉である」という共通点を見つけました。

成功という結果を得たことは、「謙虚さ」や「周囲の協力」などを差し引いても、本人の実力を否定するものではありません。しかし本人はそれを認められない上に、人の評価を恐れるので、ますます熱心に頑張り、完璧にやり遂げようとします。

それでまたさらなる成功を収めても、自分の力ではない、自分は偽物だと益々考え、褒められて周囲から目立つことも恐れてしまいます。不安や緊張を自ら肥大化させてしまうネガティブなスパイラルに入り込んでしまうのです。

成育環境によるもの：比較や強いられた同調

兄弟姉妹が多くいる家庭で、常に優劣を比較されたり、個性より同調を求められる教育環境にあると、親や周囲の目を伺ってしまい自己肯定感が低くなりがちです。このような経験が続くとインポスター症候群に陥りやすいと言われています。

社会的人間関係によるもの：大きな賞賛と期待

成育環境と同様に、大人になってからの周囲との人間関係も原因の１つに挙げられます。

上司や同僚を始め、仕事上で関係する人から必要以上に褒められると、期待を過大に感じてしまいます。元々勤勉な気質の上に、さらに大きなプレッシャーを与えられると、プレッシャーを恐れる気持が助長されてインポスター症候群になってしまいやすくなります。

インポスター症候群の治し方

精神疾患ではないとしても、本人が大きなストレスを抱え苦しんでいることには変わりありません。医学的あるいは生理学的な根拠が明確にならないうちは、薬物療法なども期待できません。では、どのような治し方があるのでしょう。臨床的、あるいは悩んだ方の経験談に学ぶ中から、インポスター症候群を緩和するヒントを見つけていきましょう。

対策➀：成功事実を整理

他人から評価された事柄を、自分の感情を抜いて「いつ、どこで・・・」のように客観的に整理していくことで、事実を冷静に見つめられる可能性が大きく広がります。気持ちを吐露するための日記ではなく、「記録」をつけることで自分の行動を整理するのです。

元々能力のある方なのですから、整理した記録から事実を分析でき、自分の成し遂げたことのプラスの部分も見えてくるはずです。

対策②：信頼できる人との対話

人と話すことは、多くの場合ストレスを緩和してくれます。話して心に溜まってしまったものを言葉で表現することは、ストレスを発散することになります。また話す過程で自分を整理することもできます。

対話は多くのネガティブな心理を治すのに有効ですが、インポスター症候群の場合、誰と対話するかがより大切なポイントです。対等で「正直にフィードバックしてくれる」あるいは「この人の言う事なら自己評価より信じられる」と思える人との対話がお勧めです。親友、先輩など当人が敬愛している人・メンターと考える方が適任と言えます。

SNSのコメントは一方的なものが多く、ウェブサイトでは一度に多くの記事や投稿を目にするので、比較してしまいがちになります。インポスター症候群の症状が疑われる場合は、気持ちが安定するまでSNSから離れるのも効果的な方法の１つです。

対策③：自分に優しく

周囲から評価されたということは、多かれ少なかれそれに値することがあったということです。自分が感じたマイナスの部分を取り除いたところに、わずかでも功績があったのです。

前述した「事実整理」はその功績を見つける作業でもあります。

見つかったら、是非自分を褒めましょう。「自分へのご褒美」を上手に設定することができれば、次の行動への意欲に繋がります。

インポスター症候群は完璧主義の人がなりやすいと言われています。完璧の度合いを調整し、少し甘い評価基準に設定し直すことも有効です。自分に適度に優しくすることが、次への意欲を持てる場合も多いことを心に留めておくとよいでしょう。

インポスター症候群に関してよくある疑問

ここからはインポスター症候群に関してよくある疑問にお答えしていきます。

うつ病とは違う？

インポスター症候群は、落ち込んだりやる気をなくしたりなどうつ病 ※ と同じような症状をみせることがあります。

しかしうつ病は、気分障害の１つとして医学的にも認定されているものです。また、神経伝達物質の異常など生理学的な原因も大分把握され、診断基準もあり、薬物・心理行動療法など治療法も広まっています。

インポスター症候群は、多くは「謙虚過ぎ」と周囲から思われる思考傾向・心理です。

※ うつ病：うつ病とは？

セルフチェックはできる？

多くの医療機関がチェックリストを公開しています。ホームページ等では、必要なデータを入れるとすぐに結果を見られるものもあります。

とはいえ、セルフチェックはあくまで目安です。インポスター症候群が疑われる人は、自己評価の低い特徴を持っています。正しい診断は医療機関や専門医から受けることをお勧めします。

インポスター症候群の有名人はいる？

インポスター症候群である有名人を紹介します。

女優：エマ・ワトソン

映画ハリーポッターでハーマイオニー役を務めたエマ・ワトソンは、2013年、Rookie誌のインタビューで、自分がインポスター症候群であることを話しています。

撮影で成功を収めた当時、

” 自分がうまくやればやるほど、自分の不十分さが増していくような感じ “

“ 今にも誰かが私なんて完全な詐欺師で、自分が成し遂げたことの何一つとして値しない人間だって見破ってしまう “

と感じ、期待に応えられないと思ったそうです。そして時に精神のバランスを崩してしまうほど不安に陥ったとも話しています。

しかしそこから立ち直った経緯も述べています。

この２点は、前章の治療の姿に一致しています。特に日記を書くことで

“ 自分の考えが目の前のページに書き出せれば、ずっと怖くなくなる “

と言っています。

記事（“ “ 内 ）引用：I Want It to Be Worth It: An Interview With Emma Watson

文豪：夏目漱石

日本ではインポスター症候群であることを公に発言している有名人は見あたりませんが、著作や経歴からインポスター症候群ではなかったかと思われているのが、夏目漱石です。

研究者は、

などをその根拠に挙げ、葛藤期間が長いことなどからインポスター症候群ではないかと言われています。作品やエッセイなどから漱石の完璧主義に言及する研究者もいます。

インポスター症候群とSDGs

最後にインポスター症候群とSDGsの関わりについてお話しします。

SDGsの17の目標のうち関わりの深いものは、次の２つです。

SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」との関わり

この目標との関わりは、特に日本の現状に関連します。

インポスター症候群は女性に多いことが知られています。インポスター症候群の女性は、仕事で実績をあげたり管理職に登用されたりしても、自分の実力では無いと思ってしまうので、さらなる飛躍を望まず「自分には無理」と判断してしまいます。

SDGs目標5の日本における達成度は、健康と教育領域ではほぼ100％なのに比べ、政治と経済参画が著しく低くなっています。

日本の歴史的な家父長制が基盤にあるとは言え、インポスター症候群という面からも配慮し、能力をもつ多くの女性が自信を持って経済・政治領域でも力を発揮できるようになることで、目標達成に貢献できると考えられます。

SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」との関わり

インポスター症候群は周囲との関わりが発症の場面と言えます。他人からの評価に異常にプレッシャーを感じ、自己肯定感を持てない人を助ける手だての１つが「信頼できる人との対話」と解説しました。

身近な人の理解と支援は非常に効果的な治療になります。またエマ・ワトソンの体験公表のように、発症者の経験自体が他の発症者を助けることにもなります。このようなパートナーシップが広がれば、相互に助け合える社会、「誰も取り残されない」というSDGsの理念を実現できる社会の基盤となると言えます。

>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

インポスター症候群について、その特徴を解説し、原因や治し方をお話ししてきました。また、インポスター症候群に関してよくある疑問にもお答えしてきました。

「謙遜しすぎ！」などと言われる人は、周囲に少なからずいるのではないでしょうか。そんな方は「謙虚」と判断されて、周囲とトラブルになる事は少ないはずです。しかし、その謙虚さの裏側で自己肯定感を持てず、ストレスを抱えていたり、もっとある能力を生かせないでいる人がいる可能性があるのです。

もしそのような方がいると気づかれたら、インポスター症候群の可能性を考え、話をきいてあげてください。それが素晴らしいパートナーシップの発揮となります。

＜参考資料・文献＞
*1) インポスター症候群とは　
*2) インポスター症候群の特徴
インポスター症候群 – Wikipedia
インポスター症候群とは？ 特徴や原因、対処法をわかりやすく – カオナビ人事用語集
人間心理のふしぎ現象：内藤誼人（王様文庫）
*3) インポスター症候群に陥る原因
インポスター症候群とは｜原因や克服する方法について解説 | オンライン研修・人材育成 – Schoo（スクー）法人・企業向けサービス
*4) インポスター症候群の治し方
インポスター症候群とは？仕事への影響と対処法 – HR BLOG | 経営者と役員とともに社会を『HAPPY』にする
*5) インポスター症候群に関してよくある疑問
うつ病とは？原因や症状は？うつ病の人がとる行動とは？うつ病診断方法や治療法・予防法を簡単に解説！ – Spaceship Earth（スペースシップ・アース）｜SDGs・ESGの取り組み事例から私たちにできる情報をすべての人に提供するメディア
W杯サッカーの代表監督から、アインシュタインまで！ ビッグな彼らが明かす、インポスター症候群。 | Vogue Japan
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I Want It to Be Worth It: An Interview With Emma Watson
夏目漱石｜近代日本人の肖像 | 国立国会図書館
*6) インポスター症候群とSDGs
男女共同参画に関する国際的な指数 | 内閣府男女共同参画局
SDGs：蟹江憲史（中公新書）