【小学生もわかる!】インフレとは?デフレとの違いや起きる理由を解説!

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「最近、以前より物の値段が高くなった」と感じることはありませんか。その正体は、私たちの暮らしに深く関わる「インフレ(インフレーション)」です。

経済の基本的な動きを理解することは、将来への漠然とした不安を解消する手段の一つになります。なぜインフレが起きるのか、その理由と対極にあるデフレとの明確な違いなどを、小学生にもわかる言葉で解説していきます。

お金の価値が変動する時代を賢く生き抜くための、第一歩を踏み出しましょう。

インフレとは

スーパーやコンビニで「以前より物の値段が上がったな…」と感じたことはありませんか?このように、物の値段(=物価)が全体的に上がる現象「インフレ(インフレーション)」といいます。

このような物価の変動は、私たちの日々の買い物や将来の資産形成に直結する重要なテーマです。まずはインフレの基本から確認していきましょう。

物価はどう決まるの?インフレの基本的な仕組み

物の値段は、買う人と売る人の「やりとり」で決まります。この値段の動きが「物価の変動」と呼ばれ、経済の基本ルールです。

物価の変動には以下のような大きな特徴があります。

  • 人気がある物は高くなりやすい:人が欲しいと思うものは、たとえ高くても売れます。すると売る側は値段を上げます。
  • 作るのが難しい物や数が少ない物も高くなる:原材料が高かったり、手間がかかったりする商品も価格が上がります。

つまり、「需要(買いたい人の数)」と「供給(売る物の量)」のバランスによって物価は動きます。たとえば、お米が不作になると、売る量が減って価格が上がります。反対に、大量に作られて余ってしまえば、安く売られるようになります。

【モノの価格は需要と供給が等しくなるところで決まる】

景気の影響

景気※が良くなると消費が活発になり、

  1. 企業の売上が増加
  2. 企業は従業員の給与を上げる
  3. 消費者の購買力が向上
  4. さらに消費が拡大

という好循環が生まれます。この過程で、需要の増加に供給が追いつかなくなり、商品やサービスの価格が上昇していきます。

また、原材料費人件費の上昇も価格に反映されます。例えば、ガソリン代が上がれば運送費が高くなり、最終的に商品価格が上がるのです。

このように、インフレには複数の要因が複雑に絡み合っています。

景気

売買や取引など経済活動全体の状況や流れのこと。

お金の価値が相対的に下がる現象が起こる

インフレが進行すると、同じ金額で購入できるモノやサービスの量が減少します。これは、物価が上がることでお金の価値が相対的に下がるためです。

例えば、今まで100円で買えていたパンが110円になった場合、同じ1,000円を持っていても購入できるパンの数が10個から約9個に減ってしまいます。現金の価値が目減りしてしまうのがインフレの重要な特徴です。

【インフレによってモノに対する、お金の価値が下がってしまう現象】

これは貯蓄にも大きな影響を与えます。銀行に預けたお金の金額は変わらなくても、物価上昇により、その金額での実質的な購買力は低下していきます。

例えば、年2%の物価上昇が10年間続けば、現在の100万円の価値は約82万円相当まで目減りしてしまうのです。

日常生活での具体的な現れ方

インフレは私たちの生活のあらゆる場面で実感できます。

  • 食料品
  • ガソリン
  • 電気代
  • 家賃

など、インフレの影響は生活必需品の価格上昇として表れることが多く、家計に直接的な影響を与えます。

日本では2021年後半から物価が上がり始め、現在もその状態が続いています。スーパーマーケットでの買い物で「前より高くなった」と感じる機会が増えているのは、まさにインフレの影響です。

企業への影響

また、企業活動にも変化が見られます。

  • 人手不足による賃金上昇
  • 原材料費の高騰
  • エネルギーコストの増加

などが製品価格に反映され、消費者物価※の押し上げ要因となっています。これらの動きは単独ではなく、相互に影響し合いながらインフレを形成しているのです。

消費者物価

消費者が実際に商品やサービスを買うときの価格水準。家計の支出に直結し、物価の動きを示す指標として「消費者物価指数(CPI)」が使われる。総務省統計局が毎月公表し、金融政策や年金改定の基準となる。

このように、インフレ(インフレーション)は経済の自然な動きの一部で、私たちの生活にも大きな影響を与えます。次の章では、インフレと対をなすデフレとの違いについて解説していきます。*1)

インフレとデフレの違い

物価の変動は、私たちの暮らしに大きな影響を与えますが、その方向性によって私たちが受ける影響は大きく変わります。前章で確認したインフレの対象的な現象である、デフレ(デフレーション)について見ていきましょう。

デフレとは(デフレーション)

デフレとは、インフレとは正反対に、経済全体でモノやサービスの価格(物価)が継続的に下落し、相対的にお金の価値が上がり続ける現象です。

【モノの価格が下がり続ける状態が「デフレ(デフレーション)」】

モノの値段が下がるため、一見すると消費者にとっては喜ばしい状況に思えるかもしれません。しかし、デフレが深刻化すると、経済全体が「デフレスパイラル」と呼ばれる悪循環に陥る危険性があるのです。

デフレスパイラル

モノの値段が下がり続けると、企業は売上や利益が減少し、

  • 従業員の給料を下げる
  • 新たな設備投資を控える
  • 場合によっては人員削減(リストラ)

などを行わざるを得ません。すると、

  1. 家計の所得が減る
  2. 将来への不安から人々は消費を控える
  3. 余剰資金は貯蓄に回す
  4. 物が売れなくなる
  5. さらに企業の利益が減少する

という現象が起こります。「明日になればもっと安くなるかもしれない」という心理も、買い控えに拍車をかけます。この悪循環を「デフレスパイラル」と呼びます。

消費が冷え込み、モノがさらに売れなくなると、企業は価格を一層引き下げて対応しようとします。これがさらなる利益の減少と所得の低下を招く、というように、経済活動が螺旋状に縮小していくのがデフレスパイラルの恐ろしさです。

かつて日本が「失われた20年(30年)」と呼ばれ、長く経済の停滞に苦しんだ背景には、この深刻なデフレがありました。

【デフレスパイラル】

お金と経済の循環における違い

インフレとデフレでは、世の中を巡るお金の流れ方や、それに対する人々の考え方が全く逆の方向に作用します。

インフレの時の経済循環

緩やかなインフレの状況下では、経済は拡大するサイクルに入りやすくなります。企業の売上が増加し、それが従業員の賃金上昇につながります。

所得が増え、かつお金の価値が少しずつ下がっていくため、人々は価値が目減りする前にモノを買ったり、サービスを利用したりしようとします。活発な消費がさらなる企業の売上を支え、経済全体にお金が活発に循環するのです。

デフレの時の経済循環

一方、デフレの状況下では経済は縮小サイクルに陥ります。モノの値段が下がり、企業の売上が減少するため、賃金は上がらず、むしろ下がる圧力にさらされます。

相対的なお金の価値が時間とともに上がっていくため、人々は急いで使う必要がなくなり、消費よりも貯蓄を優先します。お金が使われずに滞留し、世の中の経済循環が鈍化してしまうのです。

このように、インフレとデフレは単に物価が上下するだけの現象ではありません。経済の成長と停滞、そして私たちのお金に対する価値観や行動そのものを左右する、根本的な違いがあるのです。

インフレとデフレはコインの表裏のような関係にあり、適切なバランスの維持が経済安定化の鍵です。次の章では、インフレの持つ光と影についてさらに知識を深めていきましょう。*2)

インフレにも良し悪しがある

「インフレ」と聞くと、モノの値段が上がって生活が苦しくなるイメージを持つ人も多いでしょう。しかし、インフレには一面だけでなく、経済全体にとって良い影響も悪い影響も存在します。

インフレが経済や私たちの暮らしにどんな作用をもたらすのか、その違いを知ることが大切です。

良いインフレ:景気回復と経済成長のエンジン

良いインフレとは、需要が増えることで物価が上昇し、経済が活性化する状態を指します。この場合、消費者が積極的にモノやサービスを買い、企業の売上が伸びます。

その結果、企業は従業員の給与を上げやすくなり、さらに消費が増える好循環が生まれます。日本で言えば、高度経済成長期に見られた「良いインフレ」が典型的な例です。

このようなインフレは

  • 景気回復
  • 雇用拡大
  • 技術革新

などを後押しし、生活水準の向上にもつながります。適度なインフレが経済成長の原動力になると言われ、各国の中央銀行も「適度なインフレ率(年2%前後のインフレ率)」の維持を目標としています。

また、借金の実質的負担が軽くなる点も注目されます。たとえば、固定金利の住宅ローンを抱える家庭では、インフレによって返済額の実質価値が目減りするため、負担が相対的に軽くなることがあります。

悪いインフレ:生活を圧迫する物価高

一方で悪いインフレは、原材料価格の高騰や供給不足など、需要以外の理由で物価が上がる場合です。この場合、消費者は物価上昇で生活が苦しくなる一方、企業も利益が伸びず、賃金アップにはつながりません。

たとえば、エネルギー価格の高騰や世界的な食糧不足が原因で物価が上がる状況です。このようなインフレは「コストプッシュ型インフレ」とも呼ばれ、経済成長に寄与せず、むしろ家計や企業を圧迫します。

2022年以降の世界的な物価上昇は、この悪いインフレの要素が強く見られます。過去には、1920年代のドイツのハイパーインフレや、近年のベネズエラ、ジンバブエなどで深刻な事例が発生しており、制御不能なインフレが社会不安を引き起こすリスクがあることを示しています。

【1923年のドイツ、紙幣がほとんど価値を失ったため壁紙代わりに使われている】

インフレの良し悪しを分ける最大のポイントは、「賃金の上昇が伴っているか」という点にあります。次の章ではインフレやデフレが起こる仕組みについて解説していきます。*3)

なぜインフレやデフレが起こるのか

私たちの暮らしに大きな影響を及ぼすインフレやデフレは、決して偶然に発生するわけではありません。その背景には、経済の天秤を動かすいくつかの明確な要因が存在します。

インフレが引き起こされる要因をタイプ別に確認してみましょう。

需要が供給を上回る「デマンドプル型」

デマンドプル型インフレは、消費者の購買意欲(需要)が生産能力(供給)を超えた際に発生します。好景気で雇用が拡大し賃金が上昇すると、人々はより多くの商品を求めるようになります。

例えば2021年のアメリカでは、コロナ禍後の経済再開に伴い小売売上高が前年比18%増加し、自動車や家電製品の供給が需要に追いつかなくなりました。

現代では中央銀行が毎年2%程度の緩やかなインフレを目標に設定し、適切な金融政策で需要を調整しています。ただし、過度な金融緩和※が行き過ぎると、需要が急激に膨張し制御不能なインフレを招くリスクがあります。

金融緩和

中央銀行が政策金利の引き下げや資金供給量の増加を通じて、市場にお金を多く流し経済を活性化させる政策。日本銀行が主導し景気低迷やデフレ時に実施される。

コスト増が価格を押し上げる「コストプッシュ型」

コストプッシュ型インフレは、原材料費や人件費の上昇が価格転嫁されることで発生します。2022年の日本では、円安による輸入エネルギー価格の高騰が電力料金に反映され、企業の生産コストが12〜15%上昇しました。

このタイプのインフレは企業収益を圧迫し、賃金上昇につながらない「悪性インフレ」となる危険性があります。

歴史的に見ると、1970年代の石油危機(オイルショック)では原油価格が4倍に跳ね上がり、日本で狂乱物価と呼ばれる23%の物価上昇を記録しました。近年ではグローバルサプライチェーンの混乱が、半導体不足から自動車価格の高騰を引き起こすなど、複雑な要因が絡み合っています。

負の連鎖が生む「デフレスパイラル」

デフレ発生の原因は需要と供給の悪循環にあります。物価下落が続くと企業は収益悪化で賃金を抑制し、消費者は支出を控えるようになります。

代表的な例では、1980年代後半のバブル景気で急騰した土地や株価は、1990年以降の金融引き締めや総量規制などの政策転換をきっかけに急落し、多くの企業や個人が資産価値の下落による債務超過に陥りました。(バブル経済の崩壊)

銀行は不良債権※を抱え、貸し渋りが発生し、企業の投資や消費が冷え込む「デフレスパイラル」と呼ばれる悪循環が続きました。この現象が「資産デフレ」として1990年代から長期にわたり日本経済に大きな影響を与えたのです。

不良債権

銀行や企業が貸したお金が、相手の経営悪化や倒産で約束通り返ってこない状態の債権。バブル崩壊後の日本では企業倒産が増え、不良債権が社会問題となった。金融システム全体の安定にも影響を与える。

経済停滞と物価上昇が共存する「スタグフレーション」

スタグフレーション景気後退と物価高騰が同時発生する特殊な現象です。1970年代のオイルショック時、日本では実質GDPが1.2%減少したにもかかわらず、消費者物価が23.2%上昇しました。

この矛盾した状態の典型的な引き金となるのが供給ショックです。例えば、2022年のウクライナ危機ではエネルギー・食糧価格が急騰し、欧州諸国で失業率上昇と物価高騰が並存しました。対策として中央銀行が利上げすると景気が冷え込み、利下げするとインフレが加速するジレンマに陥ります。

これら経済のメカニズムは相互に影響し合い、経済の複雑系を形成しています。次の章では、こうした仕組みを踏まえつつ日本の現状を分析してみましょう。*4)

日本の現状はインフレ?デフレ?

スーパーの商品価格や光熱費の値上げが続く中、日本経済は本当はどのような状況なのでしょうか。2025年現在の物価動向を多角的な視点から観察し、未来への道筋を探ってみましょう。

統計が示す「インフレ継続」の現実

消費者物価指数(CPI)※は2025年4月時点で前年比3.6%上昇しており、この数値は過去30年で最高水準です。特に食品価格は5.6%の上昇幅を記録し、米類では80%超の急騰品目も出現しています。

消費者物価指数(CPI)

消費者が実際に買う商品やサービスの価格がどれくらい変わったかを示す数字。総務省が毎月発表し、物価やインフレの動きを知る「経済の体温計」として使われる。基準年を100として計算し、景気判断や年金改定にも使われる。

【長期的な主食用米の価格の動向】

これは円安による輸入コスト増と、2024年春闘での平均4.97%賃上げが価格転嫁された結果です。経済学者からは「コアCPI上昇率が3%前後で安定している状況は、日本が明確なインフレ段階に入ったことを示す」と分析する意見もあります。

政府と日銀の認識のズレ

しかし、政府は「デフレ脱却未完了」との見解を示し続けています。その根拠は実質賃金※の低下(2024年でマイナス1.8%)と、中小企業の価格転嫁率※の低さ(大企業の78%に対し54%)です。

一方、日本銀行は2025年1月の展望レポートで「2%インフレ持続の確度が高まった」と判断し、17年ぶりの利上げ※を実施しました。この背景には、輸入物価の上昇持続と期待インフレ率の上昇(2.1%→2.4%)があります。

実質賃金

もらった給料(名目賃金)から物価の変動を差し引いて計算する「本当の生活力」を示す指標。物価が上がると同じ給料でも買える量が減り、実質賃金は下がる。厚生労働省が毎月勤労統計調査で発表する。

価格転嫁率

企業が原材料費や人件費などコストの上昇分を、どれだけ販売価格に上乗せできたかを示す割合。たとえばコストが100円増えても、価格転嫁率が40%なら40円しか価格に反映できない。価格競争や取引先との力関係が影響する。

利上げ

中央銀行が景気の過熱やインフレを抑えるために、政策金利を引き上げること。金利が上がると、銀行からお金を借りるコストが増え、企業や個人の消費・投資が減りやすくなる。日本銀行やFRBなどが実施し、物価や株価、ローン金利に広く影響する。

今後の日本経済は?未来を分ける2つのシナリオ

今後の日本経済では、「良いインフレ」を定着させ、本格的な成長軌道に乗れるかどうかが最大の焦点です。専門家の間でも見方は分かれており、主に2つのシナリオが考えられます。

ポジティブシナリオ:好循環の定着

ポジティブシナリオ(楽観シナリオ)では、賃金上昇(2025年春闘で5.1%予想)が消費を刺激し、需要主導型インフレに移行します。国際通貨基金(IMF)は2025年のインフレ率を2.36%と予測し、持続可能な物価上昇を期待しています。

ネガティブシナリオ:スタグフレーションへの懸念

ネガティブシナリオ(悲観シナリオ)では、米国経済減速による輸出減少と、エネルギー価格急騰(2025年3月時点で原油価格+18%)が景気を冷やし、スタグフレーション(景気後退+インフレ)へ突入するリスクが懸念されます。

現状は「コストプッシュ型インフレ」の段階ですが、今後の賃金と消費の動向が経済の行方を左右します。次の章では、こうした環境下で個人が取るべき具体的な対策を考えていきましょう。*5)

今日からできるインフレ対策

インフレによって物価が上がり、お金の価値が実質的に下がっていくのであれば、私たちはどうすれば自分の暮らしや資産を守れるのでしょうか。特別な知識や多額の資金がなくても、日々の意識と行動を少し変えるだけで始められる対策から始めてみましょう。

資産を分散させる「投資の基本」

現金のみの保有では、インフレリスクに対応できません。1万円札のままでは10年後も同じ金額ですが、物価が2%上昇すると実質価値は20%減少します。

この解決策は株式・不動産・金など異なる特性の資産を組み合わせることです。例えばNISAを活用した投資信託なら、1万円から世界の株式やREITに分散投資でき、非課税で複利効果を得られます。

生活防衛の「固定費見直し」

光熱費や通信費など毎月必ずかかる支出の見直しは即効性があります。電力会社の切り替えで年間2万円、スマホプラン見直しで月1,000円の節約例は珍しくありません。

特にサブスクリプションサービスの「幽霊契約」に要注意です。例えば「初月無料」で始めたサービスを未使用のまま継続しているのに気が付いていない場合もあり、定期的な見直しが必要です。

【家計管理】

「税制優遇」制度を活用

政府はNISAiDeCoはなどの税制優遇制度で、個人の資産形成を支援しています。NISAでは年間120万円まで投資でき、この投資利益が非課税になります。

一方で、iDeCo(個人型確定拠出年金)は掛金全額が所得控除対象です。例えば年収500万円の方が月2万円をiDeCoで積み立てると、年間4万円の節税効果があります。

【NISAでは運用益(売却益・配当/分配金)が非課税】

【NISA制度の内容】

「これらの制度を活用しないのは、国からのボーナスを捨てるようなもの」と指摘する専門家の声もあり、政府も積極的な利用を推奨しています。

【iDeCoの仕組み】

自分の価値を高める「自己投資」

最も確実で効果的なインフレ対策は、インフレ率を上回るペースで自分自身の収入、つまり「稼ぐ力」を高めることです。物価が上がっても、それ以上に所得が増えれば、生活水準を維持、向上させることができます。

現在の仕事に関連する資格を取得して専門性を高める、ほかにも語学やプログラミングといった将来性のあるスキルを学ぶことは、昇進やより良い条件での転職につながる可能性があります。

また、副業に挑戦して収入の柱を増やすことも有効な手段です。自分自身の価値を高める「自己投資」こそが、どんな経済状況にも負けない、最強の資産形成と言えるでしょう。

このような対策を複数組み合わせることで、物価上昇による家計圧迫を抑え、安心して暮らせる土台を築きましょう。*6)

インフレとSDGs

インフレという経済現象への理解と、SDGsが掲げる目標は、経済の安定を基盤に人々の生活を守り、持続可能な社会を目指すという点で深く結びついています。特に関連の強いSDGs目標を見ていきましょう。

SDGs目標1:貧困をなくそう

急激なインフレ、特に生活必需品の値上がりは、経済的に最も弱い立場にある人々の生活を直撃します。

物価が上昇しても、全ての人の収入が同じように増えるわけではありません。収入の大部分を食費や光熱費が占める低所得者層や、受け取る額が固定されている年金生活者にとって、物価高は実質的な購買力の著しい低下を意味します。

インフレから資産を守るための投資などの手段を持たない人々は、価値が目減りしていく現金や預貯金に頼らざるを得ず、生活がより一層困窮し、貧困が深刻化する一因となります。

SDGs目標8:働きがいも経済成長も

インフレの「質」は、経済の成長人々の働きがいに大きく関わっています。

賃金の上昇を伴う「良いインフレ」は、まさに目標8が目指す姿と重なります。企業の収益が増加し、それが従業員の待遇改善や新たな雇用創出につながる好循環は、経済を持続的に成長させ、「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」を実現する土台となります。

一方で、賃金が上がらない「悪いインフレ」や、経済活動が縮小するデフレは、企業の投資意欲を削ぎ、雇用の不安定化を招きます。

SDGs目標10:人や国の不平等をなくそう

インフレは、その影響がすべての人に平等に及ぶわけではなく、社会の中、そして国家間の経済的な「格差」を拡大させる側面を持ちます。

国内においては、不動産や株式といった資産を持つ富裕層は、インフレによって資産価値が上昇する恩恵を受けることがあります。一方で、資産の大部分を現金や預貯金で持つ低所得者層や中間層は、資産の実質的な価値が目減りし、賃金の上昇が物価高に追いつかなければ、生活はより苦しくなります。

このように、インフレは資産の有無によって人々の間に新たな不平等を生み出し、社会の分断を深めるリスクをはらんでいるのです。国際的にも、資源や食料を輸入に頼る開発途上国は、世界的なインフレによってより深刻な打撃を受けます。*7)


>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

インフレ(インフレーション)とは、物価が上がりお金の価値が下がることです。ここで重要なのが、「賃金の上昇が伴うか」で、それによって社会への影響が大きく変わります。2025年現在、日本は高い賃上げ率を背景に「良いインフレ」へ移行できるかの重要な岐路に立っており、日本銀行の今後の金融政策の舵取りが、私たちの生活に直結する局面を迎えています。

インフレによって、先進国では資産防衛が課題となる一方、多くの開発途上国では、食料やエネルギー価格の高騰は人々の生存そのものを脅かします。

先進国の金融政策が、意図せずして国家間の経済格差を広げてしまうという現実から、私たちは目を背けるべきではありません。

このように経済や社会について学ぶことは、単なる知識の習得にとどまらず、自分の資産を守り、社会の大きな流れを読み解き、賢明な選択を下すための「羅針盤」を手に入れることです。まずは家計を具体的に見直し、自分自身の価値を高める自己投資から始めてみるのはいかがでしょうか。

<参考・引用文献>
*1)インフレとは
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Wikipedia『消費者物価指数』
Wikipedia『日本のインフレーション』
NOMURA『いまさら聞けないインフレの基礎』
NOMURA『【3分で読める】日銀はなぜ「物価の安定」をめざすのか ~日本銀行の役割とその影響~』
野村アセットマネジメント『消費者物価指数(CPI(Consumer Price Index))』
大和証券『インフレーション  (いんふれーしょん)』
Reuters『コラム:低迷続くインフレ、大規模刺激策にも無反応の不思議』(2020年8月)
統計局『2020年基準 消 費 者 物価指数』(2025年5月)
金融広報中央委員会『消費者物価指数(Consumer Price Indexes)とは』(2015年10月)
金融広報中央委員会『金融政策とは』(2015年10月)
日本銀行『2%の「物価安定の目標」』
*2)インフレとデフレの違い
金融経済教育推進機構『デフレーション(デフレ)』
金融経済教育推進機構『デフレスパイラル』
国際通貨基金『中央銀行の革命者』(2023年3月)
MUFG『「インフレ」「デフレ」をおさらいしよう!経済現象の基礎用語を解説』(2020年8月)
MUFG『売りオペ・買いオペって説明できる?金融政策の仕組みと基礎用語をおさらいしよう』
Wikipedia『デフレーション』
Wikipedia『日本のデフレーション』
内閣府『第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題 第2節 経済をめぐる現状と課題 Q13 デフレによってどのような問題が生じていますか。』
内閣府『第2章 「デフレ」「デフレ・スパイラル」のメカニズム』(1999年6月)
大阪大学『デフレはどうして悪いのか-所得分配の不公平が悪影響-』(2001年4月)
Bloomberg『国際金融都市へ日本の存在感高まる、デフレ脱却視野で-金融庁幹部』(2024年3月)
nikkei4946『「2%物価上昇」の行方は?~インフレとデフレの基本を知る』(2013年6月)
*3)インフレにも良し悪しがある
WIKIMEDIA COMMONS『Bundesarchiv Bild 102-00104, Inflation, Tapezieren mit Geldscheinen』
日本銀行『2%の「物価安定の目標」』
金融庁『金融行政の課題と方向性』(2024年12月)
NOMURA『2種類のインフレを知っていますか?』
NOMURAウェルスタイル『悪いインフレ? 生活にも影響する「スタグフレーション」とは』(2022年3月)
SMBC日興証券『インフレ (インフレ)』
SMBC日興証券『スタグフレーション (スタグフレーション)』
日本経済新聞『良いインフレ? 悪いインフレ? 変わる投資の環境』(2022年2月)
東洋経済ONLINE『悪いインフレは、本当に起きないといえるのか』(2013年7月)
PIMCO『インフレーションとは』
外務省『ジンバブエ共和国(Republic of Zimbabwe)』
在ジンバブエ日本大使館『ジンバブエ経済(経済情報の週間とりまとめ:1月第5週目)』
日経ビジネス『ジンバブエからの警告「インフレで所得増?本気か」』(2020年5月)
*4)なぜインフレやデフレが起こるのか
NOMURA『いまさら聞けないインフレの基礎』
NOMURA『2種類のインフレを知っていますか?』
NOMURA『スタグフレーション』
MUFG『インフレと円安の関係は? 日本の将来と外貨預金について考えよう』
MUFG『「第一の力」と「第二の力」が消費者物価に及ぼす影響~円高トレンドへの転換で賃上げによる物価上昇圧力はほぼ相殺~』(2024年8月)
Wikipedia『スタグフレーション』
東洋経済ONLINE『インフレに慌てる日本を襲う「次なる危機」の正体 「スタグフレーション」に転落する瀬戸際』(2022年10月)
経済産業研究所『需要より供給サイドにある? デフレによる本当の弊害』
電力中央研究所『デフレスパイラルに陥った日本経済』
*5)日本の現状はインフレ?デフレ?
農林水産省『長期的な主食用米の価格の動向』(2025年4月)
金融庁『今後の金融行政の方向性』(2025年1月)
日本銀行『経済・物価情勢の展望(2025 年1月)』(2025年1月)
統計局『2020年基準 消 費 者 物価指数  全 国 2025年(令和7年)4月分』(2025年5月)
N&N未来創発ラボ『インフレとデフレを巡る政府と日銀の認識の差が露呈』(2025年2月)
東京財団『2025年の日本で気にすべきは、インフレか、それともデフレか -政府はデフレを気にし、日本銀行はインフレを気にしている?-』(2025年2月)
N&N未来創発ラボ『日銀はインフレ期待を何で測るのか?』(2024年4月)
経済産業研究所『日本のトレンドインフレレジームと金融政策レジーム』
日本経済新聞『3月の消費者物価3.2%上昇 コメは伸び率92%で過去最大』(2025年4月)
日本経済新聞『1〜3月GDP改定値、年率0.2%減に上方修正 個人消費が上振れ』(2025年6月)
Reuters『日本のインフレ率は2%で持続へ、成長リスクは下方に=IMF』(2025年4月)
日本総研『日 本 経 済 展 望』(2025年5月)
*6)今日からできるインフレ対策
金融庁『NISAとは』
国民年金連合会『iDeCo(イデコ)の特徴』
金融庁『資産運用立国の実現に向けて』(2024年4月)
日本総研『インフレ対策は低所得世帯への支援に重点を ―価格上昇はガソリン以外にも広く波及―』(2022年10月)
大和証券『インフレとは?今からできるインフレ対策をプロが解説!』(2022年8月)
政府広報オンライン『「金融リテラシー」って何? 最低限身に付けておきたいお金の知識と判断力』(2024年10月)
Spaceship Earth『金融リテラシー(マネーリテラシー)とは?高い人・低い人の特徴と高めるための勉強方法・診断』(2025年6月)
中央労金『インフレ・円安に負けない家計づくりとは?』
日本経済新聞『インフレに備える家計術 資産目減り、運用・節約で補う』(2022年3月)
日経ヴェリタス『インフレ対策 日本株投資が1番人気』(2023年12月)
リベラルアーツ大学『【初心者向け】知っておくべき5つの投資商品の種類と特徴を解説!』(2025年2月)
リベラルアーツ大学『【6年ぶり】警告!貯金オンリーの人が知っておくべき「円安の現状」』(2025年2月)
NOMURA『2.インフレ なぜ今、資産運用が必要なの?』
*7)インフレとSDGs
外務省『持続可能な開発目標(SDGs)外務省仮訳』
国際連合広報センター『持続可能な開発目標(SDGs)とは』
消費者庁『持続可能な開発目標(SDGs)の推進と消費者政策』
農林水産省『SDGs(持続可能な開発目標)×多面的機能支払交付金』
厚生労働省『第2節 家計に与える物価の影響』
N&N未来創発ラボ『低所得者に厳しい物価高が続く:6月消費者物価統計』(2022年7月)
労働政策研究・研修機構『世界経済は減速しつつあり、労働市場に陰りがみられる
 ―ILO「雇用・社会見通し 2025」』(2025年2月)
経済産業研究所『格差問題の解消につながるインフレの所得再配分効果』
厚生労働省『ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)について』
Reuters『コラム:忍び寄るインフレ課税、格差拡大し不満増幅する構図=熊野英生氏』(2022年8月)
東洋経済ONLINE『エネルギー高騰などインフレで拡大する生活格差 低所得者や地方ほど価格上昇が大きな負担に』(2024年7月)

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この記事を書いた人

松本 淳和 ライター

生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。

生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。

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