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I-REC(International Renewable Energy Certificate)とは?非化石証書との違いもわかりやすく解説!

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再生可能エネルギーの利用を証明するI-RECは、企業の環境経営に重要なツールとなることが予想されています。しかし、I-RECはまだ新しい制度で、認知度が低いのが現状です。

今後のビジネスのために、I-RECの特徴や仕組み、非化石証書との違いをわかりやすく解説します。

また、I-RECの活用で企業がSDGsの達成や地域経済の活性化にどう貢献できるかを解説しています。I-RECの本質と活用ポイントを確認しておきましょう!

目次

I-REC(International Renewable Energy Certificate)とは

【I-REC発行国(2023年)】

I-RECとは、International Renewable Energy Certificateの略称で、再生可能エネルギーの発電属性を証明する国際的な証書システムです。日本語では「再エネ属性証書」と呼ばれることもあります。

I-RECは、非営利団体のI-REC Standard Foundationが運営する制度です。この財団は、属性追跡システムの開発に関する基準を提供し、二重計上や二重主張を避けるための最善策の遵守を保証しています。

日本でも、2023年1月から認定機関によって発行が始まっています。I-RECは世界約50カ国で発行されており、国際的な市場で取引することができます。

発電属性とは

発電属性とは、発電された電力の「環境への影響」を表す言葉です。具体的には、以下のような要素が含まれます。

  • 温室効果ガス排出量:発電時に排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの量
  • 再生可能エネルギー比率:使用する燃料の割合のうち、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが占める割合
  • 大気汚染物質の排出量:発電時に排出される硫黄酸化物や窒素酸化物などの大気汚染物質の量
  • 水資源への影響:水力発電など、水資源を利用する発電方法の場合、水資源への影響

二重計上・二重主張とは

二重計上・二重主張は、再生可能エネルギーの利用促進において、同じ環境価値を複数回主張したり、数えたりすることを指します。これは、不正な環境貢献度を主張することにつながり、再生可能エネルギーの価値を低下させるだけでなく、消費者や投資家を欺く行為にもなります。

次では、I-RECの特徴について詳しく見ていきます。

GHGプロトコルとの連携

I-RECは、GHGプロトコル※が推奨する「Scope 2 Quality Criteria」※を満たす証書システムです。I-RECを利用しない電力消費には、「残渣ミックス」※と呼ばれる排出係数を適用する必要があります。

GHGプロトコル

温室効果ガスの排出量を算定・報告するための国際的な基準。企業などが自社の温室効果ガス排出量を透明性高く、比較可能な形で報告することを目的として、2001年に策定された。

【関連記事】GHGプロトコルとは?スコープ1〜3との関係や算定方法も

Scope 2 Quality Criteria

スコープ2排出量算定における市場ベース方式の品質基準を定めたもの。GHGプロトコルが定めた国際的な基準であり、企業が自社の電力消費に伴う温室効果ガス排出量を市場ベース方式で算定する場合に、適用する必要がある。

残渣ミックス

I-RECなどの非化石証書を利用していない電力の温室効果ガス排出係数を表す指標です。一般に、系統平均排出係数とも呼ばれる。残渣ミックスは、特定のエリアにおける年間総発電量から、非化石証書で裏付けられた電力量を差し引いた発電量を、そのエリアにおける年間総排出量で割って算出される。

国際イニシアチブでの利用が可能

I-RECは、CDP※、SBT※、RE100※といった国際的な環境イニシアチブで利用が認められています。これらのイニシアチブが定める厳しい基準をクリアしているため、企業は I-RECを活用して自社の再生可能エネルギー利用状況を正当に主張できるのが特徴です。

CDP

Carbon Disclosure Projectの略称で、企業の環境情報開示を促進する国際的な非営利団体。2000年に英国で設立され、現在では世界180以上の国と地域から8,400社以上の企業が参加している。

【関連記事】CDPとは?気候変動・水・フォレストレポートの詳細やA入り企業の紹介も

SBT

Science Based Targetsの略称で、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のこと。企業が地球温暖化対策として、自社の事業活動による温室効果ガス排出量を削減するための目標。※SBT

【関連記事】SBTとは?メリットや認定条件、日本の認定企業一覧、取り組み事例を紹介

RE100

Renewable Energy 100の略称で、2050年までに事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目指す国際的なイニシアティブ。RE100は、英国の非営利団体であるThe Climate Groupによって設立され、現在では世界120カ国以上から380社以上の企業が参加している。

【関連記事】RE100とは?日本企業一覧・加盟条件・取り組み事例やメリットを解説

相対取引で価格に差がある

I-RECは相対取引※で売買されるため、発電方法や属性により価格に差が生まれます。環境負荷の低い再生可能エネルギーや新しい発電所の証書ほど高値で取引される傾向があり、これによって企業は自社の目的に合った I-RECを柔軟に調達できるのです。

相対取引

証券取引所などの市場を介さずに、売り手と買い手が当事者間で価格、数量、決済方法などを直接合意して行う取引。相対取引は、市場取引と比べて流動性が低く、手数料が高いというデメリットがあるが、価格交渉が可能であったり、大口取引に適していたりと、独自のメリットもある。

I-RECは、国際基準に基づいた再エネ属性証明制度であり、企業にとって環境貢献度を示すための重要なツールです。I-RECを活用することで、企業は国際イニシアティブへの対応、新たなビジネスチャンスの創出、国際市場への参入が可能になります。*1)

I-RECとその他証書・制度との違い

I-RECは国際的な再エネ証書制度ですが、世界中で唯一の制度ではありません。他の国際的な再エネ証書制度や、日本の非化石証書制度と比較してみましょう。

GO(Guarantee of Origin)

GO(Guarantee of Origin)は、欧州連合(EU)が定めた制度です。この証書は、発電方法、発電量、発電機関などの情報が記載されており、I-RECと同様に再生可能エネルギーの利用・属性を証明することができます。

【関連記事】Gold Standard(GS)とは?特徴やメリット・デメリット、導入企業事例も

GO(Guarantee of Origin)とI-RECとの違い

I-RECは、国際的な再エネ証書制度であり、世界中の発電設備で発行可能という点が特徴です。一方、GOは当初、EU域内のみで発行される証書でした。

しかし、現在ではEU域外でもGOを導入している国や地域もあります。以下にEU域外でGOを導入している例を挙げます。

  • オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド、フィジー)
  • アジア(シンガポール、インド、台湾)
  • 北米(カナダ・メキシコ)
  • 南米(ブラジル・チリ)
  • アフリカ(南アフリカ・モロッコ)

RECs

RECs(Renewable Energy Certificates:再生可能エネルギー証書)も、再生可能エネルギーの発電量を証明する仕組みです。再生可能エネルギー発電所が電力を生産すると、その量に対応するRECsが発行され、発電属性を示す証拠として取引されます。

RECsは、主に北米やオーストラリアなどで広く使われています。

RECsとI-RECとの違い

RECsとI-RECの主な違いは、地域性と国際性にあります。RECsは主に特定の地域や国での再生可能エネルギーの証明に使用されるのに対し、I-RECは国際的な規模で再生可能エネルギーの取引を可能にすることを目的としています。

また、RECsは地域ごとに異なる取引システムや規制が存在するのに対し、I-RECは国際的な標準化された取引プロセスを提供することで、再生可能エネルギー市場の透明性と信頼性を高めています。

非化石証書

非化石証書は日本の制度です。この証書には、発電方法、発電量、発行機関などの情報が記載されており、再生可能エネルギーの利用を証明することができます。

非化石証書は、主に以下の2種類に分類されます。

  1. FIT証書:固定価格買取制度(FIT)で認定された再生可能エネルギー由来の電力のみに付与される証書
  2. 非FIT非化石証書:FIT制度で認定されていない非化石電源由来の電力のみに付与される証書

FIT証書は、FIT制度で定められた価格で電力会社が買い取るため、安定した収益を得ることができます。一方、非FIT非化石証書は市場価格で取引されるため、価格変動リスクがありますが、市場原理※によりFIT制度の枠を超えた再生可能エネルギーの利用を促進することができます。

【関連記事】非化石証書とは?種類や仕組み、取引市場と購入方法、メリット・デメリットをわかりやすく解説

市場原理

市場経済において価格が需要と供給のバランスによって決定される仕組み。需要と供給の関係により市場価格が形成され、競争によって効率的な資源配分が実現されることを特徴としている。

非化石証書とI-RECとの違い

非化石証書は、再生可能エネルギー由来の電力であることを証明する制度であり、I-RECとは異なる概念です。I-RECは、国際的な再生可能エネルギー証書制度であり、再生可能エネルギーの取引を国際的に可能にする枠組みを提供します。

一方、非化石証書は、再生可能エネルギーが化石燃料を使用していないことを証明することに焦点を当てています。

グリーン電力証書・グリーン熱証書

グリーン電力証書は、再生可能エネルギーによって発電された電力の量を証明する仕組みです。再生可能エネルギー発電事業者が発行し、消費者や企業が購入することで、環境にやさしい電力の利用を促進します。

この証書には、発電方法、発電量、発行機関などの情報が記載されており、自社の事業で再生可能エネルギー由来の電力を利用していることを証明することができます。

グリーン電力証書は、主に以下の2種類に分類されます。

  • FITグリーン電力証書:FIT制度で認定された再生可能エネルギー由来の電力のみに付与される証書
  • 非FITグリーン電力証書:固定価格買取制度(FIT)で認定されていない再生可能エネルギー由来の電力のみに付与される証書

【関連記事】グリーン電力証書とは?メリット・デメリット、非化石証書との違いも

グリーン電力証書・グリーン熱証書とI-RECとの違い

I-RECは、国際的な再生可能エネルギー証書制度であり、世界中の発電設備で発行可能です。一方、グリーン電力証書・グリーン熱証書は日本の制度であり、日本の再生可能エネルギー由来の電力・熱量のみを対象としています。

J-クレジット(再エネ)

J-クレジットは、二酸化炭素(CO2)相当量の温室効果ガスの排出削減量に対して証書が付与されます。この証書には、排出削減方法、削減量、発行機関などの情報が記載されており、自社の事業で温室効果ガスの排出量を削減していることを証明することができます。

【関連記事】J-クレジットとは?目的や仕組み、メリット・デメリットをわかりやすく!

J-クレジットとI-RECとの違い

J-クレジットとI-RECの主な違いは、発行される場所や取引のスケールにあります。J-クレジットは日本国内で再生可能エネルギーの取引を促進するために使用されます。対してI-RECは、国際的な再生可能エネルギーの取引を可能にするために使用されます。

【I-RECとその他証書・制度との違い】

発行主体価値購入者取引方法発行量
認証量
用途
I-REC各国・地域で1組織再エネ誰でも可相対取引約2.8億MWh(2023年)再エネ価値の主張
GO指定機関(AIB)再エネ誰でも可相対取引、一部入札販売約10億MWh(2023年)再エネ価値の主張
RECs各地域のトラッキングシステム運営者再エネ誰でも可相対取引約2.7億MWh※1約3.5億MWh※2再エネ価値の主張・RPS制度の義務履行
非化石証書FIT証書電力広域的運営推進機関※国が認証再エネ電力小売・仲介事業者・最終需要家入札販売・仲介事業者との相対取引約1,221億kWh(2022年度)SHK制度でのCO2削減利用
非化石証書非FIT証書(再エネ指定)発電事業者※国が認証再エネ電力小売(一部相対のみ最終需要家)相対取引・入札販売約1,015億kWh(2022年度)高度化法非化石比率の算定・SHK制度でのCO2削減利用
グリーン電力証書証書発行事業者※第三者認証再エネ最終需要家相対取引約8.6億kWh(2022年度)SHK制度でのCO2削減利用(国が認証したものに限る)
グリーン熱証書証書発行事業者※第三者認証再エネ最終需要家相対取引約3,497百万MJ(累計値)SHK制度でのCO2削減利用(国が認証したものに限る)
J-クレジット(再エネ)経済産業省・環境省・農林水産省温室効果ガス排出量の削減電力小売・仲介事業者・最終需要家相対取引・入札販売約9.4億kWh(2022年度)SHK制度でのCO2削減利用
出典:経済産省『国内外の証書制度の整理』(2024年2月)より筆者作成

※1:ボランタリーRECs(2022年)
※2:コンプライアンスRECs(2022年)
※3:国内クレジット・J-VER含む

それぞれの証書・制度は、異なる特徴と利用目的を持っています。自社の状況や目的に合った証書・制度を選択することが重要です。*2)

I-RECが注目される背景

I-RECは、まだ新しい制度ではありますが、グローバル企業を中心に注目が集まっています。I-RECが注目される理由を確認していきましょう。

グローバルな再エネ利用の進展

近年、世界各国で脱炭素社会への移行が加速し、再生可能エネルギーの利用が急速に進んでいます。企業にとっても、環境への取り組みを積極的に示すことが重要視され、再生可能エネルギー由来の電力を使用していることを顧客や投資家にアピールすることは、企業にとって大きなメリットとなります。

国際イニシアチブへの対応

CDP、SBT、RE100などの国際イニシアチブでは、企業に対して自社の温室効果ガス排出量削減目標や再エネ利用状況の報告を求めています。これらの報告において、正当な再エネ電力使用を証明するためには、I-RECのような国際標準のエネルギー属性証書が必要となります。

再エネの属性価値の向上

I-RECは、再生可能エネルギー由来の電力の属性を証明する証書です。属性には、発電場所、発電方式、CO2排出量など様々な情報が含まれており、需要家はこれらの情報に基づいて、より高品質な再エネを選ぶことが可能となります。

非化石証書の限界

日本では、I-REC導入以前から非化石証書と呼ばれる制度が存在しました。しかし、非化石証書はI-RECと異なり、属性の唯一性※や追跡性を担保する仕組みが十分ではありません。そのため、国際イニシアチブへの報告などにおいては、I-RECの方がより有効なツールとなります。

属性の唯一性

特定の発電方法や施設から生み出された電力が、他の発電方法や施設から生み出された電力と区別されること。この属性の唯一性を示すために、証書や証明書が使用され、再生可能エネルギーの取引や利用において重要な役割を果たしている。

再生可能エネルギーの利用拡大は、企業の環境貢献度を客観的に示すための重要な指標の1つです。しかし、単に再生可能エネルギーを使用するだけでは、その価値を実際に証明することが難しい問題が浮上しました。

そこで、2023年1月より、日本でもI-RECの発行が開始されました。政府は、I-RECの普及促進に向け、制度整備や啓蒙活動を進めています。*3)

I-RECのメリット

I-RECには、企業や投資家にとってさまざまなメリットがあります。代表的なメリットを確認しましょう。

再エネ利用の正当性を証明できる

I-RECには「唯一性」※と「追跡性」※という特徴があり、再生可能エネルギーの発電から消費までの履歴が明確に記録されています。企業は、I-RECを活用することで自社の再エネ利用状況を、国際的な基準に沿って正当に証明できます。

I-RECの唯一性

それぞれの I-REC には、世界で1つだけの番号が割り当てられ、この番号により、I-REC が偽造されることを防ぐ。

I-RECの追跡性

 I-REC の発行や取引に関するすべての情報が、専用のデータベースに記録される。近年では、ブロックチェーン技術を活用することで、I-REC の追跡性をさらに強化する取り組みが進められている。※I-RECの追跡性

グローバル企業の要求に応えられる

グローバルに事業を展開する企業の多くは、CDP、SBT、RE100など国際的な環境イニシアチブに参加しています。I-RECはこれらのイニシアチブが求める「Scope 2 Quality Criteria」に適合しており、企業の目標達成に役立てることができます。

投資家に訴求力のある情報を提供できる

投資家にとって、企業の環境対策は重要な評価ポイントです。I-RECを活用することで、企業は自社の再エネ利用状況を具体的な数値で示すことができ、投資家に対してアピール力の高い情報を提供できるようになります。

リスク管理

地球温暖化対策として、世界各国では温室効果ガス排出量削減に向けた規制が強化されています。これらの規制を遵守しなければ、いつか生産活動の停止や巨額の罰金などのリスクを負う可能性があります。

そうならないよう、I-RECを活用することで、企業は自社の再生可能エネルギー利用状況を客観的に証明することができます。これは、規制対応の強化につながり、環境リスクを低減することができます。

I-RECは、企業にとって多様な面でメリットをもたらす、環境貢献度を示すためのツールです。I-RECを活用することで、企業は環境リスクを低減し、新たなビジネスチャンスを生み出すことができます。*4)

I-RECのデメリット・課題

I-RECには多くのメリットがありますが、一方でデメリットや課題も存在します。

高コスト

 I-RECの取得や管理には一定のコストがかかります。特に中小企業や新興企業にとっては負担となる可能性があります。この高コストが再生可能エネルギーの普及を阻害する要因となっています。

認知度の低さ

I-RECは日本では2023年1月から発行が始まった比較的新しい制度です。そのため、企業の間でI-RECがまだ十分に認知されていないのが現状です。I-RECの仕組みや活用方法について理解を深める必要があります。

非化石証書との棲み分けが不明確

日本では従来から非化石証書が運用されてきましたが、I-RECとの使い分けが企業にとって分かりにくいという指摘があります。両者の特徴や適用範囲の違いを理解し、適切に使い分けることが求められます。

市場規模が小さい

I-RECはまだ発行量が少なく、市場の流動性が低い状況です。そのため、購入を希望する企業が必要な量のI-RECを調達できない可能性があります。I-RECの普及に向けて、発行体制の拡充や需要家の理解促進など、様々な取り組みが必要とされています。

これらのデメリットや課題に対しては、I-RECの仕組みや位置づけの理解促進、国内制度との関係性の整理、市場拡大に向けた取り組みなどが求められます。I-RECを適切に活用するためには、こうした課題への理解と対応も重要になってくるでしょう。*5)

世界におけるI-RECの現状

I-RECの導入状況は地域によって様々であり、普及にはいくつかの課題も存在します。この章では、I-RECの導入状況、導入が進んでいない地域と理由、世界的に見たI-RECの今後の展望について、ビジネス視点から見ていきましょう。

I-RECの導入状況

【世界でのI-RECの導入量推移】

I-RECは日本をはじめ、以下の国や地域で導入されています。

  • アジア:中国、インド、韓国、台湾、ベトナムなど
  • 欧州:トルコ、ウクライナ、グルジアなど
  • アフリカ:モロッコ、南アフリカなど
  • 中東:イスラエル、ヨルダンなど
  • 北米:メキシコ
  • 南米:ブラジル、チリなど

I-RECの導入が進んでいない地域と理由

一方で、日本やEU加盟国など一部の地域では、I-RECの導入が進んでいません。その理由として、既存の国内制度との棲み分けが不明確であったり、I-RECの認知度が低いことが挙げられます。各地域の事情に合わせた制度設計が課題となっています。

世界的に見たI-RECの今後の展望

こうした課題はありますが、グローバル企業の再生可能エネルギー調達ニーズの高まりを受け、I-RECの適用範囲は今後さらに拡大していくと期待されています。再エネ種別の多様化や、発行体制の強化などにより、I-RECの信頼性と選択肢が広がっていくことが見込まれます。

企業にとって、今後I-RECはグローバルな環境経営を実践する上で重要な選択肢の1つとなっていくでしょう。そして、今後の地域間の連携強化により、世界中で活用されていくことが期待されます。*6)

日本におけるI-RECの現状

世界的な視点で見たI-RECの導入状況と比較すると、日本国内での導入状況は必ずしも順調とは言えません。しかし、企業の環境経営に大きな影響を及ぼすI-RECの現状を理解し、今後の活用を検討することは重要です。

では、日本企業は、I-RECをどのように捉え、活用すべきなのでしょうか?

日本のI-REC導入状況

【日本の再エネ価値取引市場の取引推移】

日本では、I-RECの発行や利用が限定的な状況にあります。例えば、非化石証書などの既存の国内制度との整理が不十分であり、I-RECの認知度も低いのが現状です。

これは、企業にとっては、I-RECの活用方法がまだ一般的に明確でないため、普及がなかなか進まない状況と考えることができます。

しかし、上のグラフからもわかるように、日本の再生可能エネルギー価値の取引量は増加傾向にあり、この増加に牽引される形で、I-RECの普及も進むと予想されています。

I-REC導入の遅れの理由

そのほかにも、以下のような理由で日本でのI-RECの導入は世界と比較して遅れていると言われています。

  • 制度整備の遅れ:I-RECは比較的新しい制度であり、国内制度の整備が進んでいるとは言えません。
  • 経済的な課題:I-RECの発行にはコストがかかります。国内では、FIT制度の影響により、I-RECの経済性が十分に検証されていない状況です。
  • 認識度の低さ:I-RECは比較的新しい制度であり、企業や一般市民の間で認知度が低い場合があります。

I-RECの日本での今後の展望

一方で、経済産業省は非化石証書制度の見直しを検討しており、I-RECと同等の証書制度の整備を目指しています。日本でもI-RECの活用が進めば、企業の再エネ調達の選択肢が広がるでしょう。

今後は政府の制度整備と企業の理解促進が、I-RECの普及に向けた鍵となります。

現状から見る日本におけるI-RECの課題

政府の取り組みもあり、I-RECの日本での普及は徐々に進みつつありますが、以下のような課題も依然として残されています。

  • 制度の簡素化:複雑な制度は、企業にとって負担となります。制度の簡素化が求められています。
  • 経済性の向上:FIT制度の影響がなくなるなど、I-RECの経済性を向上させるための取り組みが必要です。
  • 認知度向上:I-RECに関する情報発信をさらに強化し、企業やステークホルダーの認知度を高める必要があります。

また、日本企業においても、国内外の環境要求に応えていくことが求められています。政府の動向を注視しつつ、自社の環境戦略に合わせてI-RECの活用を検討することが大切です。*7)

企業はI-RECをどのように活用すれば良いのか

ここまで読んでも、I-RECをどのように活用すれば良いのか、具体的なイメージを持つのは難しいかもしれません。この章では、企業がI-RECをどのように活用できるのか考えていきましょう。

環境への取り組みを可視化することの重要性

現代社会において、企業にとって環境への取り組みは、単なるオプションではなく、必須条件となっています。しかし、企業が実際にどのような取り組みを行っているのか、消費者や投資家は容易に把握することができません。

そこで重要なのが、環境への取り組みを可視化することです。I-RECを活用することで、企業は再生可能エネルギーの利用量やCO2排出量の削減量などを客観的に示すことができます。

I-RECによる環境貢献の可視化例

具体的にI-RECによる環境貢献の可視化例をいくつか確認してみましょう。

  • 企業報告書:I-RECの取得量や利用状況を記載することで、企業の環境貢献度をアピールすることができます。
  • ウェブサイト:I-RECに関する情報を掲載することで、顧客や投資家に企業の環境への取り組みを積極的に伝えることができます。
  • 商品・サービスへの表示:I-REC由来の再生可能エネルギーを使用していることを商品・サービスに表示することで、顧客の購買意欲を高めることができます。

中小企業はどう取り組むべきか

大企業に比べて、中小企業にとってI-RECの活用はハードルが高いかもしれません。しかし、以下の点に留意すれば、中小企業でもI-RECを活用した環境貢献活動を行うことができます。

  • 情報収集:I-RECに関する情報収集を積極的に行い、自社のニーズに合った活用方法を検討しましょう。
  • 専門家の支援:必要に応じて、I-RECに関する専門家の支援を受けましょう。
  • 小さな一歩から:最初から大規模な取り組みを行う必要はありません。まずは、小さな一歩から始めてみましょう。

日本でI-RECを活用する条件

ここからは、日本でI-RECを活用するにはどうすればいいのかを確認しましょう。日本で活用する際には、以下の2つの条件を満たす必要があります。

①非化石証書を発行している場合

  • I-RECを発行する電力量と非化石証書の使用先が一致すること
  • 非化石証書がトラッキング付きの場合は、非化石証書の属性情報とI-RECの属性が一致すること

②電源に相対契約等がある場合

  • I-RECの償却先は、当該電源からの電気を消費する需要家となること
  • 需要家に電気を供給する小売電気事業者をも償却先とすることができる

つまり、日本においてI-RECを活用するには、非化石証書との関係性や電源の契約形態など、一定の条件を満たす必要があるという特徴があります。

 I-RECの発行手順と購入方法

【日本のI-REC体制】

発行手順①:登録者になる

I-RECを発行するには、まずI-RECの登録者となることから始まります。登録の際には、事業者の登記簿謄本や決算書などの書類が必要です。

ローカルグッドにこれらの書類を提出し、審査を受けます。

発行手順②:発電設備を登録する

審査が通り登録者となったら、次は発電設備を登録します。ここでは、発電設備の写真や単線結線図、所有者情報などの書類が必要です。

発電設備の登録には通常、1週間程度の時間がかかります。

発行手順③: 発電量を登録し、I-REC発行申請を行う

発電設備の登録が済んだら、発電量を証明する書類(検針票など)を提出します。同時にI-REC発行申請書も提出し、これらは通常1週間程度で発行されます。

発行開始当初はダブルチェックがあり、通常よりさらに時間がかかる可能性があるので注意が必要です。

購入方法

【I-REC償却証明書イメージ(国際版)】

I-RECは、オンラインプラットフォームを通じて購入することができます。取引価格は、発電方法、産地、運転開始日などの環境特性に基づいて決定されます。

具体的に購入方法を確認してみましょう。

  1. オンラインプラットフォームに登録:I-RECの取引を行うオンラインプラットフォームに登録します。
  2. I-RECを検索:希望する条件に合致するI-RECを検索します。
  3. 購入手続き:I-RECを購入する手続きを行います。

I-RECを活用することで、企業は環境への取り組みを可視化し、社会的責任を果たすことができます。持続可能なビジネスモデルの構築が重要になってきている現代において、環境への取り組みを始める際には、その取り組みをどう消費者や投資家に理解してもらうかも同時に考えることが必要です。*8)

I-RECとSDGs

最後に、I-RECとSDGsの関係性について見ていきましょう。

再生可能エネルギー証書であるI-RECと、持続可能な社会の実現を目指すSDGsは、その目的や理念において共通点が多く見られます。一方で、両者の違いや特性も理解しておく必要もあります。

I-RECは、SDGsの目標達成に貢献する共通点と相違点を以下のように持つことができます。

共通点

  • 持続可能なエネルギー
    I-RECは、再生可能エネルギーの利用拡大を促進することで、持続可能なエネルギーの実現に貢献します。これはSDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」にも共通しています。
  • 気候変動対策
    I-RECは、温室効果ガスの排出量削減に貢献することで、気候変動対策に役立ちます。これはSDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」にも共通しています。
  • 環境保全
    I-RECは、再生可能エネルギーの利用拡大を通じて、環境保全に貢献します。これはSDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」にも共通しています。

相違点

  • 直接的な貢献
    I-RECは、SDGsの目標達成に直接的に貢献するものではありません。I-RECは、再生可能エネルギーの利用拡大を促進するためのツールであり、その利用方法によってSDGsへの貢献度が変化します。
  • 限定的な対象
    I-RECは、再生可能エネルギーのみを対象としています。SDGsは、エネルギーだけでなく、貧困や教育、ジェンダー平等など、様々な分野における持続可能な開発を目指しています。
  • 目的の違い
    I-RECは再エネ利用実績の証明が主な目的ですが、SDGsは17の目標を包括的に達成することが目的です。
  • 取り組みの範囲
    I-RECは企業の自主的な取り組みを後押しするツールである一方、SDGsはより広範な社会変革を求めています。
  • 主体の違い
    I-RECの活用は企業を中心としています。しかし、SDGsは企業、政府、地域、個人など、あらゆる主体による取り組みを期待しています。

I-RECがSDGsの達成に貢献する3つのポイント

 I-RECがSDGsの達成に貢献する理由として、以下の3つが考えられます。

①再生可能エネルギーの利用拡大

I-RECは、企業の再生可能エネルギーの利用を後押ししています。企業がI-RECを活用することで、自社の再生可能エネルギー利用実績を証明することができるのです。

このような情報をもとに、環境への取り組みを重要視する投資家からの資金が集まることで、企業は再生可能エネルギーの導入を促進することができます。

こうして、再生可能エネルギー利用の拡大につながり、SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」の達成に大きく貢献します。

②企業の環境配慮を可視化

I-RECを活用することで、企業の環境への取り組みが外部に明確に示されます。再生可能エネルギーの利用実績を証明できるI-RECは、企業の環境経営を可視化する手段として有効です。

企業は自らの生産活動や製品・サービスの環境影響を理解し、責任を持って行動することが求められています。I-RECの活用は、企業の環境配慮を広く社会に示すことで、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」達成にもつながります。

③地域経済の活性化

I-RECの発行には発電事業者による情報開示が義務付けられています。その中で、発電地域への貢献度合いが示されることで、企業がそうした地域貢献型のI-RECを選択して購入することができます。

これにより、再生可能エネルギー発電事業者は地域への投資を促進され、雇用機会の創出地域経済の活性化につながります。つまり、I-RECの活用を通じて、SDGsの目標8「働きがいも 経済成長も」の実現に貢献できるのです。

このように、I-RECには再生可能エネルギーの利用拡大や企業の環境配慮の可視化など、SDGsの目標達成に貢献する機能が備わっています。企業がI-RECを戦略的に活用することで、持続可能な社会の実現に向けた取り組みの加速が期待できます。*9)

SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

I-RECとは、再生可能エネルギーの利用実績と発電属性を証明する国際的な仕組みです。I-RECの活用により、企業は自社の環境配慮を可視化し、SDGsの目標達成にも貢献することができます。

また、地域経済の活性化にもつながる優れた特徴を持っています。今後、気候変動の深刻化と脱炭素社会実現への要請はますます高まっていくでしょう。

企業にとって、自社の環境取り組みを国際的な基準に沿って証明することは、ステークホルダーからの信頼を得るために不可欠となります。

企業にとってのI-REC活用

I-RECを活用することで、企業は国際的な基準に沿って自社の環境への取り組みを証明することができます。これは、今後ますます、投資家や消費者から信頼を得るために、非常に重要になっていくと考えられています。また、

  • 投資家からの評価向上
  • 顧客の獲得
  • ブランドイメージの向上
  • リスク管理
  • 新たなビジネスチャンス

など、I-RECを活用により、さまざまなメリットが期待できます。企業は、I-RECに関する情報収集を積極的に行い、自社のニーズに合った活用方法を検討しましょう。

投資家、個人にとってのI-REC活用

I-RECを活用することで、投資家や個人は環境に配慮した企業に投資したり、購入したりすることができます。これは、持続可能な社会の実現に向けた経済の流れを作ることになります。

環境貢献に積極的な企業に資金が集まりやすくするだけでなく、環境に配慮した企業は、長期的な視点で経営を行っているため、投資家としても長期的な利益が期待できます。また、消費者としても、 I-RECに関する情報収集を行うことで、環境に配慮した企業を識別できるようになります。

そして、環境意識の高い企業の製品やサービスを積極的に購入することで、企業の環境への取り組みを促進することができます。

I-RECは、まだ発展途上の制度ですが、今後ますます重要性が高まっていくことが予想されます。企業、投資家、個人は、I-RECのような基準や制度に関する情報収集を積極的に行い、これらを活用した行動を取ることが重要です。

変化の激しい、不確実性の高い時代において、情報収集やそれらを読み取るリテラシーはとても大切です。I-RECは、普通に生活していると無縁のように思われるものかもしれませんが、実は社会の一員として、無関係な人はいないのです。

I-RECをはじめ、地球の環境や自然、社会について、あなたも個人として積極的に知識を広げ、より良い環境と社会に向けて、有効な行動を心がけましょう。

<参考・引用文献>
*1)I-REC(International Renewable Energy Certificate)とは
NORSUS『Residual Mix methodology for IREC issuing countries』(2023年)
GHGプロトコルとは?スコープ1〜3との関係や算定方法も
CDPとは?気候変動・水・フォレストレポートの詳細やA入り企業の紹介も
SBTとは?メリットや認定条件、日本の認定企業一覧、取り組み事例を紹介
RE100とは?日本企業一覧・加盟条件・取り組み事例やメリットを解説
環境省『温室効果ガス(GHG)プロトコル』
日本経済新聞『SCSK、I-REC規格財団プラットフォームオペレーター認定を取得』(2023年7月)
低炭素社会戦略センター『グローバル企業による信頼性の高い再エネ調達のために- GHG プロトコルへの準拠とトラッキングシステムの必要性-』(2018年3月)
ローカルグッド『I-RECの発行について』
SCSK『I-RECとは』
ローカルグッド『国際的に認められる再エネの電源証明とは』(2023年1月)
*2)I-RECとその他証書・制度との違い
Gold Standard(GS)とは?特徴やメリット・デメリット、導入企業事例も
非化石証書とは?種類や仕組み、取引市場と購入方法、メリット・デメリットをわかりやすく解説
グリーン電力証書とは?メリット・デメリット、非化石証書との違いも
J-クレジットとは?目的や仕組み、メリット・デメリットをわかりやすく!
経済産省『国内外の証書制度の整理』(2024年2月
NORSUS『Residual Mix methodology for IREC issuing countries』(2023年)
資源エネルギー庁『グリーンエネルギーCO2削減相当量認証制度 概要』
資源エネルギー庁『グリーンエネルギーCO2削減相当量認証制度の概要』
RE100『再エネ市場概況レポート 日本』(2020年3月)
経済産業省『需要家による再エネ活用推進のための環境整備(事務局資料)』(2021年3月)
*3)I-RECが注目される背景
SCSK『なぜ日本で「I-REC」が必要なのか? 再生可能エネルギー経済学の専門家に聞く』(2023年8月)
日本経済新聞『SCSK・東急不動産・リエネ、三井住友銀行のコーディネートのもとI-RECの発行を伴うコーポレート電力購入契約を締結』(2024年3月)
日本経済新聞『ファストリ、取引工場の再エネ導入支援 供給網も脱炭素』(2024年3月)
SCSK『国際的に普及が進む、再エネ属性証書「I-REC」とは?』(2023年7月)
JETRO『中国における脱炭素に向けた取組・方法に関する調査』(2023年3月)
*4)I-RECのメリット
SCSK『日本の再エネ証書と比較して、I-RECのメリットは?』(2023年12月)
環境ビジネスオンライン『国際規格の再エネ属性証書「I-REC」 急増する需要家ニーズとその背景』(2024年3月)
SCSK『「信頼性」を支えるI-RECの管理体制』(2023年12月)
*5)I-RECのデメリット・課題
資源エネルギー庁『トラッキング実証について』(2021年12月)
環境省『3. 再生可能エネルギーの大量導入に向けた課題と対応方策』
三菱総合研究所『RE100・SBT時代に求められる再エネ電力調達戦略』(2019年7月)
*6)世界におけるI-RECの現状
ローカルグッド『日本でのI-REC発行について』(2023年12月)
SCSK『I-RECが生まれた国際的な背景』(2023年12月)
SCSK『「属性証書」は、電力の属性を証明するしくみ』(2023年12月)
The International Tracking Standard Foundation『Empowering energy purchasers through international standardization and local implementation』
ローカルグッド『国際的に認められる再エネ電源証明とは』(2023年1月)
*7)日本におけるI-RECの現状
資源エネルギー庁『再エネ価値取引市場について』(2022年11月)
ローカルグッド『日本でのI-REC発行について』(2023年12月)
ローカルグッド『日本でのI-REC発行について(概要)』(2024年1月)
資源エネルギー庁『再エネ価値取引市場について』(2021年11月)
環境省『RE100 加盟企業に対する文献調査結果』
*8)企業はI-RECをどのように活用すれば良いのか
ローカルグッド『日本でのI-REC発行について』(2023年12月
ローカルグッド『I-RECの発行について』
SCSK『日本でI-RECが取得できる!高品質で使いやすい再エネ属性証書』
環境省『パナソニックの環境取り組み』(2022年3月)
*9)I-RECとSDGs
国際連合広報センター『SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン』