
「少数派」を意味する「マイノリティ」。何となく意味は分かっていても、どのような人々のことを指すのか、またどういった社会問題を抱えているのか、具体的なイメージはありますか?
この記事では「マイノリティとは何か」といった基礎的な部分から、マイノリティの具体例、マイノリティが抱える問題と解決への糸口、そしてSDGsとの関連について解説します!
目次
マイノリティ(minority)とは?マイノリティな人とは?簡単に解説
マイノリティとは、「少数」「少数派」を意味する英単語が由来です。日本語で「マイノリティ」という場合、ほとんどは「社会的少数者」のことをさします。マイノリティの種類には利き手や人種、性的指向など様々です。
英語で同じような意味を表す言葉として、minority groupがあります。
マイノリティとマジョリティの違い
マジョリティ(majority)は「多数」、「多数派」を意味し、マイノリティと対をなす言葉です。
ではこの「社会的少数者」とはどういう人々のことをいうのか、詳しくみていきましょう。
「社会的少数者」つまり「マイノリティ」は、ただ「少数派」を意味するというわけではありません! 様々な視点から見たときに社会のなかで少数派であり、そのことが原因で差別や偏見などを受けやすい人・集団のことを、「マイノリティ」と呼びます。
注意すべき点として、例えば大富豪のような、少数派でありつつも差別・偏見の対象になりづらい人・集団のことを「マイノリティ」として捉えることはありません。これは、“アパルトヘイト時代の南アフリカにおける白人”などにも同じことが言えます。
一方で、“女性”や“アパルトヘイト時代の南アフリカにおける黒人”などは、人口で見ると少数派ではないものの、差別・偏見の対象になりやすいことから「マイノリティ」とされることもあります。
社会的マイノリティ
社会的にマイノリティと判断される人々を特に社会的マイノリティと言います。障害を抱える人々や人種の違いなどでマイノリティとされている場合は、この社会的マイノリティだと言えます。
セクシャルマイノリティ
社会的マイノリティの中でも特に性自認や性的指向などでマイノリティと言われてしまう人々をセクシャルマイノリティ(性的少数者)と言います。
近年ではセクシャルマイノリティはLBGTQとも言われています。
マイノリティの7つの身近な例・具体事例
では続いて、具体的にマイノリティとされる人・集団についてみていきましょう。私たちの社会にどのようなマイノリティが存在し、どのような不利益を被っているのか、ご紹介します。
身近な例・具体事例 | 困っていること |
---|---|
①左利きやハーフ | ・日常生活において右利きを想定したものが多く、左利きだと不便 ・目や肌の色が異なることでいじめの対象になることがある |
②性的マイノリティ(セクシャルマイノリティ) | ・同性婚が認められていないなど法律上の制約 ・公共サービスを受けにくい、いじめや差別の対象になりやすい |
③貧困層 | ・教育や医療を受けにくい ・栄養不足など健康面のリスク ・世代を超えて貧困が連鎖しやすい |
④障がい・病気を抱える人 | ・就労や社会参加の機会で差別を受けやすい ・根拠のない偏見や差別の対象になることがある |
⑤少数民族(エスニックマイノリティ) | ・言語や文化の同化政策による不利益 ・民族の違いによる差別や偏見 |
⑥宗教的なマイノリティ | ・信仰や宗教的行動が偏見や差別の対象となる ・特定の宗教への差別や脅迫の事例もある |
⑦言語的なマイノリティ | ・方言や少数言語が衰退している ・日本語が不自由な人は行政・教育サービスで不利を感じることがある |
利き手・ハーフ
まずは、最も身近なところにあるマイノリティとして、ここでは
- 利き手
- 両親の一方が外国人であるいわゆるハーフ
について紹介します。
利き手については、日本人における左利きの割合は約10%程度と言われており、マイノリティと言えます。日常生活において右利きを想定して作られたものが多く、(例えばハサミやドアノブなど)左利きの方は不自由さを感じています。
また、ハーフの方々もマイノリティと言えます。厚生労働省がまとめた「父母の国籍別にみた出生数の年次推移」を見ると、その年に生まれた子どもの約2%が父母の一方が外国人であることが分かります。
マジョリティである日本人×日本人の親から生まれた子どもと、目や肌の色が異なるといっただけの理由でいじめの対象になるなど、苦しい立場に追いやられるケースも見られます。
性的マイノリティ
セクシャルマイノリティは、性のあり方が多数派と異なる人たちのことです。具体的には、
といった人たちが挙げられ、「LGBT」や「LGBTQ」などと表現されることも多くあります。
セクシャルマイノリティの人々は、公共サービスを受けるうえでの困難や、「いじめ」の対象になりやすいといった不利益を被っています。
現在日本の法律では、結婚することができるのは戸籍上の性別が異なる二人の間のみです。また近年、同性・両性愛者や性別違和については社会の理解が深まってきているものの、Xジェンダーやパンセクシャルなど、他にも無数にある性のあり方についてきちんと理解できているひとは、まだまだ少ないのではないでしょうか?
その社会において所得が少ない人々、つまり貧困層もマイノリティといえます。貧困の度合いは様々ですが、それがたとえ軽度のものであっても、食費を節約することによる栄養・健康上の問題などが起こりえます。より深刻な貧困層は、教育や医療などの最低限のサービスを受けることが難しいこともあります。
貧困は自力で抜け出すことが難しく、世代を超えて連鎖しやすいと言われています。これは海外に限った話でなく、日本国内においても同様です。
貧困層
また、貧困は他のマイノリティとも密接に関係しています。マイノリティは、
- 就労においての差別をうけることが多い
- 情報へのアクセスに制限がある
などといった理由から貧困に陥る可能性が比較的高いということがいえます。
身体的・知的・精神的な障がい、病気をかかえる人は、そうでない人に比べ様々な差別や偏見などを受けやすく、マイノリティと言えます。障がい者は日常生活に制限があるだけでなく、就労や地域活動など社会参加をするうえで差別を受けやすい立場にあります。
マイノリティが抱える課題や問題点
ここまで、マイノリティとは何か、そしてその具体例を見てきました。では、マイノリティの人々はどのような問題を抱えているのでしょうか。
様々な制度で対象とされない
マイノリティは様々な制度設計の際に存在が想定されていないことにより、対象から外されてしまうことがあります。
最もわかりやすい例が、性的マイノリティに対する「結婚」の問題です。日本の民法では現在、結婚は「一組の男女が夫婦となること」とされており、戸籍上の性別が異なる二人以外、婚姻届が受理されません。結婚に限らず、企業の人事・福利厚生制度などでも、性的マイノリティは制度の対象外にされてしまうことがあります。
また性的マイノリティ以外にも、様々な面から見たマイノリティの人が何らかの制度に合致しないことも考えられます。
一人一人がより理解を深め、改善していきたいものですね。
差別・抑圧・人権侵害
「マイノリティの具体例」の章でも述べたように、マイノリティは差別や抑圧、人権侵害を受けやすい存在です。
世界の歴史に目を向けると、第二次世界大戦中にナチスドイツがユダヤ人に対して行ったホロコースト(大量虐殺・絶滅政策)がその最たる例と言えるでしょう。また国内でも、ヘイトスピーチやヘイトクライムなどの問題が現在でも起きています。特に在日コリアンへのこれらの問題は大きな問題となっています。
さらに難民研究フォーラムの調査によると、世界70以上の国で同性愛に関連する行為(性行為や異性装など)が未だ違法とされており、終身刑や死刑とされる国もあります。
マイノリティ問題の解決に向けた世界の取り組み
続いては、マイノリティ問題の解決に向けた世界の取り組みを見ていきましょう。
ここでは、オランダの同性婚に関する制度について紹介します。
世界で初めて同性婚を認めたオランダ
日本では未だ同性婚は認められていませんが、オランダでは、2001年4月1日に世界初となる同性婚を認める法律を施行しました。当日には4組が結婚し、それ以降も増え続けていると言います。
また、LGBTQの平等な権利を守るために、
- ゲイ・プライドなどのイベントを開催
- 各国のオランダ王国大使館を通じて、LGBTQへの暴力・差別の廃止などを訴える
といった活動を展開しています。
ドイツ・フランスの障がい者雇用促進
ドイツやフランスでは、従業員20名以上の企業に対して障がい者雇用を義務付けています。ドイツは5%、フランスは6%の障がい者雇用率を定めており、未達の企業は納付金を納める必要があります。全く障がい者を雇用しない場合は追加で金銭的なペナルティ課せられます。
こういった雇用義務化は日本でも始まっていますが、浸透にはまだ課題が残っています。
マイノリティ問題の解決に向けた日本の取り組み
次に、マイノリティ問題の解決に向けた日本の取り組みを紹介します。
在日外国人の権利を守る取り組み
日本に住む外国人の人権を守るための取り組みを取り上げます。
日本では、外国人という理由で、
- アパートへの入居を断られる
- 公衆浴場への入場を拒否される
といった問題が発生しています。そこで、全国8か所の法務局・地方法務局に、外国人のための人権相談所を開設しました。日本語が話せない外国人でも相談できるよう、英語や中国語などの通訳を設置しています。また、外国人に対する差別・偏見をなくすことを目指して、啓発や調査救済活動も進めています。
参考:法務局
アイヌ民族を保護する施策
単一民族と考えられている日本人にとって民族問題は縁遠い問題のように感じます。ただ日本国内にも民族問題はあります。特にアイヌ民族との関わりは歴史上避けられない問題です。
アイヌ民族は元々北海道を中心として生活しており、北海道で狩猟や漁労、採取を行うことで生活を営んでいました。15世紀以降、和人によって侵略されたことからアイヌ民族が迫害を受けることとなり、特に明治以降は猟の禁止、アイヌ語の教育禁止等の同化政策により、それまで築いてきた独自の文化は侵害されました。
1997年「北海道旧土人保護法」等が廃止されて「アイヌ文化振興法」が、2019年には「アイヌ文化振興法」が廃止され「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」が施行されました。
現在、日本全体でアイヌの地域振興・産業振興を進めています。東京都ではアイヌの歴史や文化の普及を行っているなど、日本国内でも民族問題の解決に向けて動いています。
マイノリティ問題を解決するために私たちにできること
それでは、マイノリティを取り巻く問題を解決するために、どのようなことが必要なのでしょうか。ここでは2つ取り上げていきます。
マイノリティに関する認識のギャップに“気づく”
まず一番大切なことは、マイノリティに関する認識のギャップに“気づく”ことです。
例として、性的マイノリティと「学校の制服」の問題について考えてみましょう。ご存じのとおり日本では、多くの中学校・高校で男女別の制服が定められており、学校のある日は毎日着用することが当たり前になっています。近年では「LGBTへの配慮」などと謳い、女子がズボンを履いたり、男子がスカートを履くことを許容する学校も増えてきています。
では、性的マイノリティの当事者たちは、どのようにこのことを捉えているのでしょうか。
出生時の性別と性自認(自身の性別についてどのように認識しているか)が異なる“トランスジェンダー”の人々にとって、このような変化は歓迎的に受け入れられ、問題解決につながることもあると考えられます。しかし、性的マイノリティのなかでも“同性愛者”、“両性愛者”などは出生時の性別と性自認は一致しており、男女別の制服を着用することに不快を抱く人は多くありません。
それにも関わらず「LGBT」と一くくりにされることで、知識・理解の少ない人々から、自身の性自認と異なるタイプの制服を提案される、または“提案されることを懸念する”といったストレスを感じることもあるのです。
このように、マイノリティとそうでない人たちの間には、認識のギャップがある場合があります。まずはそれに”気付く”ことが、解決への糸口となります。
様々なマイノリティについて正しい知識を身につける
“様々なマイノリティについて正しい知識を身につける”ことも、問題解決には欠かせません。近年は様々なマイノリティがクローズアップされるようになり、その存在や、マイノリティの抱える問題点がだんだんと認識されるようになってきました。一方で、断片的な知識が身につくことによって、間違った認識が生まれてしまうこともあります。
例えば、言語的なマイノリティである、“外国から日本にやってきた日本語が不自由な人たち”について考えてみましょう!
彼らの母語は様々であり、必ずしも英語や中国語などのメジャーな言語を理解できるとは限りません。そのため行政サービスなどでは、多言語での案内に加えて、「やさしい日本語」とよばれる平易な表現を使用した日本語での案内も広がってきています。日本に暮らす外国人が理解できる言語を網羅して案内をすることは、現実的には困難です。それよりも「やさしい日本語」を使用するほうが、コストをかけずに多くの人に情報を届けることができます。
これはほんの一例ですが、このように正しい知識を身につけておくことが、課題解決にもつながります。
マイノリティに関するよくある質問
マイノリティの逆って何?
マイノリティの対義語は、多数派を表す「マジョリティ」になります。
この記事でも紹介していますが、場合によっては純粋に割合が多いからといってマジョリティとはならないこともあります。それぞれが持っている偏見や力関係によって、「マイノリティ」「マジョリティ」と呼ばれる対象は変わってきます。
積極的な発言をしない大衆のことを指す「サイレント・マジョリティ」という言葉もあります。
マイノリティの人って、だいたいどれくらいいるの?
マイノリティかどうかについては定義が曖昧なことが多く、正確な統計は取れていない場合が多いのですが、以下にいくつかのマイノリティの目安の割合を記載します。
- 左利き:日本人の約10%
- ハーフ:日本人の約2%
- セクシャルマイノリティ:日本人の約1.6~8.9%
- 相対的貧困層:日本人の約15.7%
- 身体的障がい者:日本人の約3.4%
- 知的障がい者:日本人の約0.8%
- 精神的障がい者:日本人の約3.1%
- キリスト教:日本人の約1%
このように数字で見ると「少数派」に見えるかもしれませんが、実際には誰もが何らかの側面でマイノリティになり得ます。例えば、利き手や宗教の違いも含まれるため、「マイノリティ=特別な人」ではなく、社会の多様性そのものを表す存在だといえるでしょう。
自分もマイノリティになることってあるの?
誰でも状況によってマイノリティになることがあります。たとえば、左利きやメガネをかけている人、方言を話す人も少数派といえます。また、海外に行けば「外国人」として自分がマイノリティになることもあります。つまりマイノリティは「特別な存在」ではなく、誰でもなり得る可能性があるのです。
マイノリティとマジョリティって対立するものなの?
マイノリティとマジョリティは、必ずしも対立するものではありません。マジョリティは「多数派」、マイノリティは「少数派」を表すだけで、どちらも社会を形づくる大切な一部です。
ただし、歴史的にはマジョリティの価値観や制度が優先されやすく、それが差別や排除につながることがあります。大切なのは「多数派・少数派」という立場の違いを理解し、お互いを尊重して共に生きることです。
マイノリティへの理解が深まるとSDGsの課題解決にもつながる
ここまで、マイノリティとは何か、そしてマイノリティが抱える問題やその解決に必要なことを見てきました。最後に“マイノリティへの理解が深まると、SDGsの課題解決にもつながる”こともお伝えします。
SDGsとは2015年に国連で採択された国際目標のことで、”Sustainable Development Goals”の略です。日本語では「持続可能な開発目標」と訳されていて、2030年までに達成すべき17の目標が明記されています。そのどれもが、今後「環境」「社会」「経済」の3つの面からよりよい世界をつくっていくためには、欠かすことができない目標です。
ここでは、17の目標のうちマイノリティが関わるものをいくつか取り上げてみていきます。
SDGsの17の目標については、当サイトでも分かりやすくまとめています。興味を持たれた方は、ぜひSDGsの目標もチェックしてみてくださいね。
マイノリティと目標1「貧困をなくそう」の関係

SDGs目標1は「貧困をなくそう」。貧困そのものがマイノリティであることに加え、マイノリティの人々は、そうでない人々に比べて貧困に陥りやすいと言われています。
SDGsで“貧困”と聞くと、発展途上国の貧しい人々を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし着目すべき点はそれだけでなく、それぞれの国における貧困を解決することが求められているのです。
マイノリティと目標10「人や国の不平等をなくそう」の関係

続いて、SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」。目標10では、さらに細分化された10個のターゲットが設定されており、その中でも特に、
10.2 2030年までに、年齢、性別、障がい、人種、民族、生まれ、宗教、経済状態などにかかわらず、すべての人が、能力を高め、社会的、経済的、政治的に取り残されないようにすすめる。
は、マイノリティを取り巻く問題とも大きく関連しています。
マイノリティであっても、全ての人が平等に社会・経済・政治に参画できる社会づくりを進めていくことが大切です。
まとめ:マイノリティの事例や言葉の使い方や意味を知って、課題の解決を目指そう
今回はマイノリティについて、具体例や抱える問題、その解決の糸口からSDGsとの関わりまでご紹介しました。
あなたの身の回りにも、マイノリティの方は必ずいます。そのような方々を知らぬ間に苦しめることのないよう、正しい知識を身につけることからはじめて、お互いに住みやすい社会を作っていきたいですね。
参考文献
社会的マイノリティへの関心に与える個人内の要因の検討 バリアフリー教育開発研究センター 2017 年度リサーチアシスタント 天野 快
NHK放送文化研究所「放送研究と調査 2019年4月号」より「日本人の宗教的意識と行動はどう変わったか」
The Huffington Post 「「ムスリムへの無知と偏見が酷すぎる」イスラム教徒を憎悪するハガキに、非難の声相次ぐ」
国立アイヌ民族博物館
難民研究フォーラム「LGBT への迫害状況 国別レポート」
この記事を書いた人

田中 宏樹 ライター
台湾第二の都市・台中に暮らしながら、日本語教師とwebライターをしています。自身がセクシャルマイノリティの当事者であり、また日本では公立学校での勤務経験もあるため、マイノリティの人権や教育といったテーマが得意。最近は少し「厄介ごと」のように思われてしまうことも増えてきたSDGsですが、読者の皆さんがもっと「自分ごと」と捉え、「思いやり」の気持ちを持つきっかけになるような記事を目指しています。
台湾第二の都市・台中に暮らしながら、日本語教師とwebライターをしています。自身がセクシャルマイノリティの当事者であり、また日本では公立学校での勤務経験もあるため、マイノリティの人権や教育といったテーマが得意。最近は少し「厄介ごと」のように思われてしまうことも増えてきたSDGsですが、読者の皆さんがもっと「自分ごと」と捉え、「思いやり」の気持ちを持つきっかけになるような記事を目指しています。