#インタビュー

株式会社Agoop|流動人口データを使ってよりよい社会をめざす。カギは、行動につながる『仕掛け』づくり

株式会社Agoop 取締役 兼 CTO 加藤さん インタビュー

加藤

2007年にソフトバンクBB株式会社に入社後、フロント開発エンジニアとしてWeb型のGISシステムの開発に従事。その後、2009年に株式会社Agoop、2012年にスマートフォンより位置情報ビッグデータを収集解析し、世界初となるビッグデータNW品質改善システムを構築。2015年にAgoopの取締役兼CTOに就任し、ビッグデータやAI、アプリ・サービス等の技術開発・事業を牽引。

introduction:

コロナ禍、ニュースでは毎日感染者数の増減や国の対策について報道されています。中でも、国からの「外出自粛要請」の影響を解説するデータとして、「流動人口データ」が活用されています。「流動人口データ」は、ユーザーの許諾取得済みのスマホアプリから取得した位置情報を秘匿化・統計加工した位置情報ビッグデータのことで、エリアごとに、時間帯別の来訪・滞在人口の推移や、人々の動きがどこからどこへ流れたのかなどを細やかに把握できます。

この流動人口データを扱う株式会社Agoopは、データ解析のプロとしてさまざまな問題解決に向けて活動している会社です。単に流動人口データの解析をするだけでなく、各方面で役に立つように情報を提供することで、数えきれない可能性が広がります。

今回は、この技術を活用したSDGsへの取り組みについて、株式会社Agoopの加藤さんにお話を伺いました。

コロナ禍で注目され始めた流動人口データの重要性

ーはじめに、御社のご紹介をお願いします。

加藤さん:

当社は、ソフトバンク株式会社の子会社として、2009年にスタートしました。スマホの位置情報を利用した流動人口データを解析して地図上に表示し、その情報の使用方法をさまざまな形でご提案しています。さらに、当社の持つアプリケーション技術とビッグデータを活用し、スマホアプリの配信事業も展開しています。

会社が立ちあがった当時私は入社3年目でしたが、創業メンバーとして参加しました。もともとAgoopはソフトバンクの通信品質の改善を目的にスタートしていまして、品質の悪い場所を特定するために日本中からデータを集めてきて、地図上で見られるようにすることをやっていたんです。

社名の「Agoop」は、「Any GIS of Object – Oriented Planner」の略で、「いつでも、どこでも、誰でも、地理情報を扱える」ことを意味しています。

わたしたちの一番の特長は、人がいつ・どこに・どれくらいの規模でいるかという流動人口データを非常に細かく地図上に表記することができるという点で、道単位の流動人口データが、分刻みでわかるほどの細かさなんです。

ー御社の技術はどんな場面で使われているんですか?

加藤さん:

主に観光地の集客分析や、バスの運行計画、街の商店や大型商業施設の顧客分析、屋外広告の効果測定などに活用されています。その他にも、来訪者数や通行人量をデータ化して、お店のターゲット層にあった商圏に出店するための分析などに活用できます。Agoopのデータは細かさが売りの一つなので、株式会社ニトリホールディングス様では、新規出店の候補地選定にも活用頂いてます。

当社が大きく知られるようになったきっかけは、新型コロナウイルスの流行により日本各地における人出の状況が日々ニュースで頻繁に取りあげられるようになったことですね。

コロナ禍での人流データを公開するにあたっては、早く世間の役に立ちたいという想いから2020年3月には提供を開始しました。我々が長年培ってきた、位置情報分析技術と、自動化処理の技術がここで大活躍しました。

AgoopHP上で毎日最新の人流解析レポートを無償で公開することで、メディアや政府、自治体の方がスピーディーに感染防止対策の効果検証に活用でき、社会貢献ができると考えました。

ー社会のさまざまなシーンでデータ活用が進んでいるのですね。スマホの位置情報の利用となると個人情報の取り扱いには注意が必要だろうと思いますが、どのように対策されているんですか?

加藤さん:

「個人特定が可能なデータを集めている会社と誤解されないように」という部分はとても気をつけています。

Agoopで扱うのは、氏名や住所といった個人情報は収集せず、さらにプライバシー保護として位置情報から個人が特定できないように秘匿化処理をしたデータとなっています。また、位置情報の取得には必ずユーザーごとに同意を得ています。同意が得られない場合、情報は一切収集しないということを徹底しています。

位置情報を収集されることに抵抗感を持っていらっしゃる方って多いですよね。スマホのアプリ画面で表示される許諾画面って、取得する情報の詳細や使途などたくさんの文章が書いてあって読みづらい。それを回避するために、位置情報収集についてはわかりやすくシンプルな許諾画面にして表記しています。この部分はとても大切にしています。

分析の先にある「行動」を引き出す『仕掛け』づくりで、ビッグデータを価値のあるものに。

ーここからは、御社がSDGsへ目を向けたきっかけをお聞きしたいです。

加藤さん:

ちょうど、Agoopがスタートして10年目のタイミングでした。第2創業期として、みんなでもう一度ビジョンについて考えたのがきっかけです。

創業メンバーと若手社員が入り交じったミーティングをして、社員全員に「何がしたいか?」や「どんな社会貢献がしたいか?」など意見を集め、出来上がったビジョンが「社会や人々を幸せにする『仕掛け』をつくる。~Big Data as a Value~」です。

特にこだわっているのが、「『仕掛け』をつくる」の部分です。

我々がビッグデータを分析できてそれで終わりではなく、受け取り手である企業や一個人が社会や課題解決のために活用できなければ意味がないんだと考えています。

「このデータはこんな風にするとこんな効果がありますよ」と伝えることで、企業や個人が次の一歩を踏み出せるようになる。そのための「『仕掛け』をつくる」ことをAgoopがやるべきだと考えています。

この考えをもとに、特に当社が持っているビッグデータを活用できる分野として「気候変動への対応」「災害・減災に貢献」「情報技術社会への発展」「健康増進・地域活性化」の4つの社会課題テーマに分けて取り組むことになりました。

ー例えばこれまでに、どんな『仕掛け』を作られたのですか?

加藤さん:

まず当社では「カーボンニュートラル」に注目しました。中でもCO2排出の要因として車の渋滞データに着目したんです。

ある交通渋滞のデータでは、通常走行の時速40kmのCO2の排出量と、渋滞時の時速20kmのCO2排出量データを比較すると、時速20kmの方が1.5倍の排出量になることがわかりました。

その他にも、渋滞が起きると救急車で搬送される患者の生存率が50%へ減少してしまう点や、抜け道走行による事故が増える点、そもそも車利用者全員の時間のロスにつながるなど、道路渋滞がもたらす問題点は多く、これらを解決するために渋滞を回避する対策が必要だと考えました。

これを解決するために、流動人口データの解析が活きてきます。

例えば、滋賀県日野町のご支援の事例ですが、元々「渋滞」に対して漠然とした課題を抱えていましたが、明確な渋滞原因が分からない状況でした。日野町は人口2万人ほどで、町内に複数の工場団地があり、人流データを見てみると、その周辺で朝の通勤時間帯に渋滞が起きていることが分かります。

工業団地周辺の流動人口データを見ると、工業団地へ通勤する人は、隣接する3市から来ることが多く、これが渋滞の原因になっているということがわかりました。

データを見たことによって原因がわかれば、対策も見えてきます。たとえば、「カーフリーデー(車を使わず出社する日)」を設けてもらったり、通勤にシャトルバスを活用したりするなどの対策ができるわけです。

この例でわかるように、データから根本原因を可視化できるから、的確な問題解決への糸口を探し、提案することができるんです。

カーボンニュートラルを目指す上での課題と解決策を洗い出した後は、解決に向けて人々の行動を変える『仕掛け』を作るわけですが、当社ではその一つとして自社スマホアプリ「アルコイン」を提供しています。

「アルコイン」は一言で言うと、無料の歩数計ポイ活アプリです。

ユーザーは歩数の目標を設定し、アプリの位置情報をオンにして歩きます。目標を達成するとコインを獲得でき、それを貯めていくと電子ギフト券や電子マネーのポイントなどに交換することができます。

歩くだけでコインが貯まるだけでなく、カロリー消費量も一目でわかるので、ウォーキングの習慣づけにも使えるアプリです。

ースマホアプリ「アルコイン」を開発するうえでどんな点にこだわりましたか?

加藤さん:

「アルコイン」では、ユーザー全体の総歩数を1日分のCO2削減量に換算して表示しているのですが、この「順番」にはこだわりました。「自分がどれくらい歩けたか」の記録よりもまずは、「CO2削減達成の規模を知る」こと。そして、「自分の成果を知り、日々の行動を変化させる」という順番です。自分の歩いた量だけがわかるのではなく、ユーザー全体が社会に与えている影響の規模感が分かることを大切にしています。

たとえば、国民1人が1日に1円貯金するとします。その人の月の貯金額は、31円となるわけです。それを「1日1円貯めると、国民全員で1日に1億2千万円貯まります。1年では400億円になります。」と紹介するとどうでしょうか?

わたしは、このような規模感を先に知ってもらうべきだと考えています。だから、「アルコイン」は、サービスサイトのトップ画面にユーザー全体でのCO2の削減量を提示してるんです。

「全体でこんなにたくさんのCO2が削減できているなら、自分はどうかな?今日は少し多めに歩こうかな?」という意識になるかもしれない。気がついたら、1日の歩数が増えて健康につながったとなれば、楽しくなりませんか?

このアプリの開発にはいろいろな苦労がありましたが、中でも一番は、社内の説得でした。立ち上げ当初は、わたしがミーティングで脱炭素の大切さについて声を挙げても、なかなか理解は得られませんでした。私の説明不足の問題が大きいとは思いますが、「環境問題はまだまだ人々の生活から距離があるんだろうな」と痛感しました。

今後は、個人がCO2削減にどれくらい貢献できたのかがわかる機能や、個人のCO2削減量に応じたポイント付与などのアプリ機能も拡充できたらいいなと思っています。

データと『仕掛け』で、社会課題に貢献していく

代表取締役社長 柴山様が熊本赤十字病院より表彰されている様子

ー今後は、流動人口データを始めとしたビッグデータやスマホアプリ「アルコイン」をどのように活用されていく予定でしょうか?

加藤さん:

「災害対策や減災」というのは、今後の大きなテーマの1つにあります。

例えば災害時に流動人口データを見れば、特定の場所にどれだけの人が集まっているかが分刻みでわかります。しかし自治体では、災害時にオンタイムで交通状況や避難が困難な状況が起きているエリアを把握する術がないんです。わたしはこれをとても重大な問題と捉えています。

ここ5年ほどはこのテーマの研究をしているのですが、令和2年に熊本豪雨で避難警報が出た際、我々は流動人口データを基に、避難所などへの人の集まり具合などの避難状況を解析し、熊本赤十字病院に提供したんです。

その結果、避難所の生活環境の改善を担うインフラ支援チームの目的地を迅速に意思決定でき、スムーズに災害対応にあたることができたそうです。

このように、災害時に流動人口データを最大限に活かせるよう、現在はデータを使った避難訓練の取組みに力を入れています。

2022年11月には北海道根室市での避難訓練で実証実験をさせてもらいました。参加者の方にスマホアプリ「アルコイン」をインストールしてもらって避難訓練を行い、訓練中に訓練時の動きを解析して可視化することで、避難行動をリアルタイムで自治体の方と分析し、また、避難訓練終了後には、訓練参加者の避難行動は正しかったのかを振り返りました。この振り返りは、自分たちの命を守るための大切な機会になります。

今後は、「アルコイン」に健康増進と防災、脱炭素の役割を担ってもらおうと開発しています。このように『仕掛け』づくりに尽力し、社会貢献に役立てていきたいと思っています。

ー位置情報のビッグデータの解析は、とてもいろんな可能性を秘めていますね。今回は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

株式会社Agoop:https://agoop.co.jp/