日本の太陽光発電導入量は世界第3位、国土面積当たりでは主要国の中で最大級と、世界的にも高い実績を誇っています。そして今、太陽光発電に使用されている太陽光パネルは、近い将来に大量廃棄される問題に直面しています。そこで議論されているのが、太陽光パネルのリサイクル制度です。
この記事では、太陽光パネルのリサイクル制度とは何か、現状、なぜリサイクルが求められているのか、課題、企業事例、SDGsとの関係を解説します。
太陽光パネルのリサイクル制度とは

太陽光パネルのリサイクル制度とは、使用済みの太陽光パネルを繰り返し使用したり(リユース)、分解した材料を再生利用したりする(リサイクル)制度です。
経済産業省は2024年9月、太陽光パネルのリサイクル制度の在り方を検討する「太陽光発電設備リサイクル制度小委員会」を設置しました。この小委員会は、リサイクルの義務化に向けた内容を議論し、2025年の通常国会に関連法案を提出する予定です。関連法が成立すれば、太陽光パネルのリサイクルが義務付けられることになります。
太陽光パネルの現状
太陽光パネルのリサイクル制度が始まる前に、現在の状況について、設置形態や処分するまでの流れ、リユース・リサイクルの実態を確認していきましょう。
設置形態
まず、太陽光パネルの設置形態です。太陽光パネルは、住宅用の屋根置き、非住宅用の地上設置型、その他の建物一体型や集光型、独立型があります。
■太陽光パネル設置形態
このうち、FIT・FIP認定発電設備は、設置容量10キロワット未満が21.0%、10キロワット以上が79.0%という内訳です。(2024年3月末時点)
太陽光のリサイクル制度は、住宅用、非住宅用などの形態を問わず適用される方向で進められています。
処分までの流れ
リサイクル制度の関連法が成立するまでは、太陽光パネルは廃棄物処理法の規定により処理されます。現行法では、リサイクルは義務付けられていません。ただし、循環型社会形成推進基本法に基づき、①発生抑制(リデュース)、②再使用(リユース)、③再生利用(リサイクル)、④熱回収、⑤埋立処分という優先順で処分されます。
次の図は、関係者別の太陽光パネルの製造から処分までの流れと、①〜⑤を表しています。
■太陽光パネルの製造から処分までの流れ(関係者別)
具体的なリサイクル方法については、環境省が作成した「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けた ガイドライン (第三版)」にまとめられています。ただし、義務ではないこともあり、リサイクルの可否については各事業者の判断に任せられているのが現状です。
リユース・リサイクルの実態
太陽光パネルの処理を行う中間処理業者は、全国に約1万社あります。そのうち適正処理・リユース・リサイクルに取り組んでいる41社から得た太陽光パネルの処理実態に関するアンケートの回答があります。それによると、在庫品や故障品として回収した太陽光パネルは、およそ20%がリユースされ、54%がリサイクルされています。
■太陽光パネルの処理実態(2022年度抽出調査)
一方、リユースやリサイクルができない場合は、産業廃棄物の金属くず、ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず、廃プラスチック類の混合物として埋立処分することになります。3
なぜ太陽光パネルのリサイクルが求められているのか
前述の通り太陽光パネルは、リユース・リサイクルが優先された上で、廃棄物処理法の規定により処理されています。ではなぜ今、太陽光パネルのリサイクルがあらためて求められているのでしょうか。大きな2つの理由を取り上げます。
2030年以降に廃棄のピークが到来
太陽光発電は2000年代に広がり、2009年には電力会社による余剰電力買い取りが義務付けられるなどして普及しました。太陽光発電に必要な太陽光パネルは、20〜30年で寿命を迎えるといわれています。つまり、太陽光パネルの排出は2030年代から増加し、年間最大50万トンに達すると推定されています。
■太陽光パネル推計排出量
例えば、自動車リサイクル法により処理される自動車の量は約46万トン(令和5年度実績)、家電リサイクル法による家電は約57万トン(令和5年度実績)と、予想される太陽光パネルの排出量と同程度です。これらすべてを埋立処分する場合、最終処分場の不足につながります。この先の太陽光パネルの大量廃棄に備え、リサイクルを進めていく必要があります。
リサイクルのさらなる促進
太陽光パネルには、アルミや銀のほか、重量の6割を占めるガラス、プラスチック、シリコンなどが使用されています。アルミや銀は資源として活用される一方で、ガラスは市場原理のみではリサイクルが進みにくいのが実情です。4
こうした状況を解消するためには、技術開発や利用用途の開拓に取り組むと同時に、制度を確立してリサイクルをさらに推進していく必要があります。リサイクル制度は、現在施行されている容器包装リサイクル法や自動車リサイクル法、家電リサイクル法などを参考に検討される方針です。
太陽光パネルをリサイクルする上での課題
続いて、太陽光パネルをリサイクルする上での課題を見ていきましょう。現状のリサイクルに関する課題のほか、実際に制度が開始された際に特に問題になる2つの点を取り上げます。
有害物質の処理
1つ目の課題は、有害物質を適正に処理することです。太陽光パネルの種類には、95%のシェアを占めるシリコン系のほか、化合物系、有機系があります。それぞれに含まれる有害物質は、鉛やヒ素をはじめ、カドミウム、セレンなどです。
■太陽光パネル(太陽電池)に含まれる主な有害物質
2025年1月時点では、太陽光パネルメーカーと販売業者は、有害物質の情報の開示をすることとされています。そして発電事業者や住宅所有者は、その情報を撤去・解体事業者に伝達して処理を行います。
ただし、有害物質の情報が正しく伝達されない場合も考えられます。こうした事態をいかに避けるかは、リサイクルを進める上での課題の1つです。
費用の負担
もう1つは、太陽光パネルを廃棄・リサイクルする際の費用負担の問題です。現状では、FIT・FIP認定を受けた事業用太陽光発電事業者(10キロワット以上)と、この事業者との間で特定契約を締結する電気事業者に、廃棄等費用積立が義務付けられています。積み立てた費用は、太陽光設備の解体・撤去に充てられます。
リサイクル制度が施行されると、解体・撤去のほか、太陽光パネルをリサイクルするための費用も必要です。2024年12月に開催された小委員会の合同会議では、解体費用については設備所有者、リサイクル費用は製造業者や輸入業者が負担するという案が提出されています。
太陽光パネルのリサイクル制度を導入するに当たり、費用の負担は大きな論点になりそうです。
太陽光パネルのリサイクルに取り組む企業事例
現時点では、太陽光パネルのリサイクル制度は義務化されていませんが、すでにリサイクルに取り組んでいる企業があります。リサイクル事業者、販売業者、リユースに取り組む企業の3事例を紹介します。
平林金属株式会社[岡山県岡山市]
ガラス分離装置※ホットナイフ分離法(株式会社エヌ・ピー・シー製)
平林金属株式会社は、鉄・非鉄金属および使用済み家電・自動車のリサイクルを手掛ける会社です。同社では、2019年より太陽光パネルリサイクルの研究プロジェクトを開始しました。
太陽光パネルに使用されている板ガラスは、ホットナイフ分離法により分解し、大学や企業と相談しながら再利用に向けた研究を進めています。また、アルミフレームはアルミニウムとして出荷し、太陽光フィルムは精錬メーカーによる銀や銅の回収を行っています。リサイクル事業者による取り組みの一例です。
株式会社新見ソーラーカンパニー[岡山県新見市]
佐久本式ソーラーパネル熱分解装置 Atmos
株式会社新見ソーラーカンパニーは、ソーラーシステムの販売、ソーラーパネルリサイクル装置の販売を行う会社です。2017年より太陽光パネルの廃棄問題に取り組んでいます。
2024年には、太陽光パネルを95%リサイクルできる熱分析装置を開発しました。二酸化炭素を排出しないことに加え、熱分解により高純度の素材を抽出できる装置です。同社は太陽光パネルを循環させるモデルを開発し、第11回プラチナ大賞「環境イノベーション賞」を受賞しています。
三井化学株式会社[東京都中央区]/株式会社Sustech[東京都港区]
三井化学株式会社と株式会社Sustechは、中古の太陽光パネルをリユースすることで、新たな再エネ導入スキームを実証する取り組みを行っています。三井化学は太陽光発電所の診断・コンサルティングなどの実績があり、Sustechは再生可能エネルギーの運用知見と開発・O&Mを手掛けてきました。
新たなスキームでは、FIT発電所から発生する中古の太陽光パネルの調達を三井化学が担当し、設置と電力運用、保守・管理をSustechが行います。
■中古太陽光パネルリユースによる再エネ導入スキーム実証の取り組み(イメージ)
リサイクル事業者や製造・販売会社によるリサイクル以外の、リユースの取り組みの事例です。
太陽光パネルのリサイクルに関してよくある疑問
ここでは、太陽光パネルのリサイクルに関してよくある疑問を取り上げます。
費用はどのくらいかかる?
令和4年度環境省委託事業の調査では、シリコン系太陽光パネルの処理費用の相場は1枚3,000円です。
このうち、太陽光パネルに含まれるアルミフレームはアルミニウムとして1キログラム当たり100〜300円で買い取られます。また、セル・EVA・バックシートは銀・銅として1キログラム当たり2〜数百円、板ガラスはガラスとして1〜3円になります。
海外ではどうリサイクルしている?
欧州では、EU委員会が太陽光パネルをWEEE指令(電気・電子機器廃棄物に関する規制)に指定し、リサイクルを義務化しています。例えばフランスでは、適正処理をする事業体が回収・リサイクルをして一元管理をする仕組みです。5
また、非営利団体「PV CYCLE」(本部ベルギー)は、WEEE指令に基づいて太陽光パネルの回収・リサイクル・適正処分を行っています。この組織は、欧州太陽光発電協会(EPIA)、ドイツソーラー産業協会(BSW)、太陽電池モジュールメーカー6社により設立されました。2010年の設立以降、2017年までに累積19,195トンを回収しています。
廃棄できないの?
廃棄すれば最終処分量が増え、処分場の確保が難しくなることが考えられます。
太陽光パネルをリサイクルせず、すべてを埋立処分した場合、2030年代には年間最大50万トンに上ると考えられます。これは、2021年度の自動車、家電などの最終処分量869万トンの約5%に相当し、決して少ない割合ではありません。
太陽光パネルのリサイクルとSDGs
最後に、太陽光パネルのリサイクルとSDGsの関係を確認しましょう。太陽光パネルのリサイクルは、持続可能な社会や環境を目指すSDGsに貢献します。
特に目標12「つくる責任つかう責任」は、廃棄物を再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)することを通じて、廃棄量を削減することを掲げています。太陽光パネルのリサイクルを進めることで、SDGsの目標の達成につながります。
まとめ
太陽光パネル廃棄のピークを迎える2030年代を控え、リサイクル制度の在り方が問われています。リサイクル関連法が成立すれば、太陽光パネルのリサイクルが義務化され、廃棄量の削減につながることが期待されます。
一方、リサイクル技術の開発や有害物質の適正な処理をどう進めていくのかが課題です。リサイクルに取り組む企業の成果も出ています。今後リサイクル制度がどのように決着するのか注目したいところです。
「太陽光発電設備の廃棄・リサイクル制度の論点について」経済産業省 環境省
太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けた ガイドライン (第三版)」 令和6年 環境省 環境再生・資源循環局 総務課 リサイクル推進室
「太陽光発電設備のリサイクル制度のあり方について(案)参考資料」経済産業省 環境省
「太陽光発電設備の廃棄・リサイクル制度の論点について」経済産業省 環境省
「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルに係る現状及び課題について」環境省
廃棄等費用積立ガイドライン 2024 年4月改定|資源エネルギー庁
資料1 太陽光発電設備のリサイクル制度のあり方について(案)|環境省
太陽光パネルリサイクル研究プロジェクト開始 | 平林金属オフィシャルサイト | MOTTAINAI ARIGATAI
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