桜はなぜ日本文化になった?歴史や雑学も

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毎年桜の花の咲く季節を楽しみにしている方も多いと思います。桜は日本を象徴する花であり、菊と並んで国花として愛されています。桜はなぜ、日本でこれほど親しまれているのでしょうか。歴史や雑学などに触れながら、日本文化との関わりを解説します。

桜の歴史

桜の語源の一説に登場するコノハナサクヤヒメの像(鹿児島県南さつま市)

桜といえば、春の行事として長い間親しまれている花見が思い浮かびます。まずは、桜はいつ頃から日本に自生していたのか、そして観賞する文化はどのように生まれたのかを見ていきます。

日本人の祖先より長い歴史を持つ桜

桜は、日本列島に日本人の祖先が現れる前から自生していたといわれています。日本人の祖先の起源については、近年の研究によりさまざまなことが分かっていますが、一般的には、北海道から沖縄までの広い範囲で生活していた縄文人と、大陸から渡ってきた弥生人に由来していると考えられています。年代でいうと、およそ1万5千年から3千年前です。これ以前に桜があったということは、縄文人や弥生人も桜を見ていたことになります。

【桜の語源の一説】

長い歴史を持つ桜には、語源になったといわれている伝説があります。『古事記』神代巻に登場する美しい女性「木花開耶姫(コノハナサクヤヒメ)の伝説」です。直接の記述はありませんが、木花(コノハナ)は桜を指すと解釈されています。ある学説によると、音韻の変化により「サクヤ」が「サクラ」になったとも。木花(コノハナ)を辞書で調べると、「木に咲く花。特に、桜の花を言う。」(精選版日本国語大辞典)という意味もあり、現代にもこの伝説は生きています。

万葉集に詠われた桜

奈良時代になると、中国の文化が日本に伝わると同時に、梅も移入されます。中国にはもともと、梅の花を観賞して詩を詠むという宮廷文化がありました。この影響もあってか、『万葉集』には桜を愛でた歌が40首ほどあるのに対し、梅は100首以上もあります。当時の桜は、現代に多く見られるソメイヨシノではなく、山に咲くヤマザクラが主でした。万葉歌人をはじめ、日本人が梅をはじめ桜の美しさも楽しんでいたことがうかがえます。

花見の始まり~貴族から庶民へ

平安時代になると、日本に自生している桜の花見が始まります。『日本後紀』には、812年に嵯峨天皇の命により花の宴が行われたと記され、記録に残る最初の桜の花見といわれています。鎌倉時代になると、京の上流文化を取り入れようと考えた武士たちにより、花見の文化は受け継がれていきました。桃山時代にも、大規模な花見が催されます。やがて花見は庶民にも広がり、江戸時代には行楽として親しまれ、現在に至ります。

自生する桜の花見の歴史は古いものの、現在のソメイヨシノが全国に広まったのは明治時代です。桜を見るために人が集まり、お弁当やお酒などを持ち寄るとういう風習は、花の宴の後に定着したと考えられており、他の国にはない日本独自の文化といわれています。

日本文化と桜の関係

続いて、日本文化と桜の関係を見ていきましょう。桜はこれまで、和歌や文学、浮世絵、絵画などに表現されてきたほか、鎌倉時代や室町時代には政治に花見が取り入れられました。こうして日本人の精神性と深く結び付くとともに、日本文化に深く根を下ろしたと考えられます。

それでは現代に戻り、私たちが桜を見たとき、どのような感情が湧いてくるでしょうか。咲いている桜には美しさや華やかさ、また散ってゆく姿にははかなさを感じることもあるでしょう。ここでは、この「はかなさ」について、日本文化との関わりから2つのキーワードを取り上げます。

無常観

仏教が日本に伝来した6世紀、世の中は常に変わり続けるという「諸行無常」の教えが日本人に伝わります。平安末期には、戦乱や地震、大火、飢饉などが起こり、人々は不安にとらわれます。この後、鎌倉時代の『方丈記』や『平家物語』には、現世のはかなさが表れているほか、『新古今和歌集』には、桜の散る姿を嘆く歌が多く詠まれました。こうした心情は仏教の諸行無常の教えと重なり、一切の物は変化して永遠ではないという無常観につながっていきます。

私たちの生きるこの世にも、地震や自然災害、戦争などが起きれば、昨日の平安が明日も続くとは限らない現実があります。無常観は、今も昔も変わらない人々の心のあり様を捉え、散りゆく桜にその心情を見ているのかもしれません。こうした桜の捉え方は、今も引き継がれていると考えられます。

軍国主義

江戸時代の国学者・本居宣長は、次のような歌を詠んでいます。

「敷島の大和心(やまとごころ)を人とはば朝日に匂ふ山桜花」

大和心は、今では日本人の心と解されるようになりましたが、明治時代以降の国粋主義の時代には、漢学ではなく日本人独自の思考や行動と解釈されました。日清・日露戦争を経て、政府はより国民の士気を高めようとした時期でもあるため、当時の富国強兵や戦争との関わりが指摘されています。

この影響は、昭和初期以降の軍国主義の時代にも及びました。太平洋戦争時には、桜の潔く散りゆく様と、戦う兵士の命を重ねた軍歌『同期の桜』も作られています。歌詞には「同期の桜(中略)咲いた花なら 散るのは覚悟 みごと散りましょ 国のため」とあり、軍国主義との強い結び付きがうかがえます。桜は、日本文化の暗い一面も映し出しています。1)

日本の生活文化と桜

桜は、日本人の意識や精神を表すほかにも、食べたり道具として使用したりして暮らしの中に役立てられてきた歴史もあります。観賞するだけでない、実用的な桜に触れていきます。

食品

桜餅に巻かれている桜の葉や桜の花の塩漬けなど、桜を使用した食べ物はいくつかあります。

■桜を使用した食品

葉の塩漬け

桜餅(餅に巻く)、桜あんぱん(細かく刻んで餡に入れるなど)、桜きんつば(前に同じ)、蒸し料理(魚や鶏肉を包んで蒸すことで香りを楽しめる)など

花の塩漬け

桜飯(桜の花の塩漬けと一緒に炊く、もしくはご飯の上にのせるなど)、桜茶(桜の花の塩漬けに湯を注ぐ。結婚式などで出される)、桜のお酒など

葉や花のほか、桜をかたどったお菓子なども、日頃から桜に親しんでいる、暮らしの中の文化と言えるでしょう。

工芸品

桜の工芸品には、樺細工(かばざいく)と呼ばれるヤマザクラ類の樹皮を利用した工芸品があります。その歴史は古く、正倉院の筆や弓などにも使われていました。現在は、茶筒、文箱、茶だんす、タイピン、ブローチなど、数十以上の樺細工があります。

医術

桜の葉や花びらを使用した食品には香りがあります。この香りは、人の心をリラックスさせるリハビリ効果があるといわれています。また、芳香成分には喘息を抑えて痰を取るほか、咳止めや二日酔いにも効くそうです。さらに、桜の葉は胃腸を整え、下痢止め効果があるとも考えられています。

このように人々は、葉や花、樹皮を使って、生活に必要な食品や道具、医術に利用してきました。桜は、日本の暮らしに欠かせないほど溶け込んでいます。

桜に関する雑学

古来より観賞されてきた桜「ヤマザクラ」

春の到来がより楽しみになるような、桜に関する雑学を7つ集めました。知っているようで知らない豆知識を紹介します。

桜には毒がある

桜の葉と花びらには、生物毒の一種であるクマリンという物質が含まれています。生物毒とは、動植物が身を守るために体内に作り出す毒のことです。ただし、毒を持つようになるのは、葉や花が木から離れて地面に落ちたときです。この毒により、桜の周辺には雑草が生えにくいと言います。

それでは、桜餅の葉や花の塩漬けなどを食べても問題ないのでしょうか。桜餅に使われている葉に毒はありますが、1、2枚なら害はありません。実はこの毒には、抗菌化作用が期待できること、塩漬けをすることで香りが楽しめることといった良い点もあります。

桜にサクランボはならない

日本の桜の多くを占めるソメイヨシノに果実はつきますが、販売している食用のサクランボはなりません。日本で栽培されているサクランボの多くは、ヨーロッパから西アジア原産の桜、セイヨウミザクラという品種で、ソメイヨシノとは異なります。

山形県のサクランボ「佐藤錦」も、セイヨウミザクラに由来しています。セイヨウミザクラは、イタリアやドイツ、フランス、アメリカの一部の州などで栽培されています。鮮やかな赤色の「アメリカンチェリー」も、産地や見た目、味などが異なりますが、実は同じセイヨウミザクラ由来です。

桜の品種は100以上

日本国内には、野生種とも呼ばれる9種の桜があります。その他、人の手により作られた栽培品種があり、その種類は100以上もあります。

■野生種

ヤマザクラ、オオヤマザクラ、オオシマザクラ、カスミザクラ、エドヒガン、マメザクラ、タカネザクラ、チョウジザクラ、ミヤマザクラ

■栽培種

シダレザクラ、ソメイヨシノ、カワヅザクラ、フゲンゾウ、ジュウガツザクラ、ウコン、ヨウキヒ、シロタエ、ジンダイアケボノなど

栽培種も含めると桜の品種は多いことが分かります。そうとは知らずに見ている桜もあるのかもしれません。

日本最古の桜は「山高神代桜」推定樹齢2000年

桜は、適切な生育環境があれば、ほぼ半永久的に生き続けられる木です。ただし、長生きするためには、日当たりの良さ、水分の吸収や呼吸のしやすい土壌、病害虫の発生に対応して保護する必要があります。そして、日本最古・最大級の巨木は、推定樹齢2000年といわれる山梨県の「山高神代桜」です。

山高神代桜は、エドヒガンザクラであり、福島県「三春滝桜」、 岐阜県「淡墨桜」と並ぶ 日本三大桜の一つです。大正時代には国指定天然記念物第1号、平成2年には新日本名木百選にも選ばれています。「淡墨桜」もエドヒガンザクラであり、樹齢は「山高神代桜」に次ぐ1500年余りです。

県の花「桜」は4都府県

県を代表する花を「桜」としているのは、東京都、山梨県、京都府、奈良県の4都府県です。桜の種類は、下表のようにそれぞれ異なります。

■県の花「桜」

都府県名桜の種類説明
東京都ソメイヨシノ江戸末期から明治初期に、染井村(現在の豊島区駒込)の植木職人がヤマザクラの品種を改良したといわれている
山梨県フジザクラ厳しい富士の風雪に耐え、つつましやかに咲く花は、「和と忍耐」を表しています
京都府シダレザクラ流れるような柔らかさと、うすくれない色の花をつけた美しさは京情緒そのもの。しかし、たおやかさの中にも風雪に折れないシンの強さがあり、京都人気質に通じます
奈良県ナラノヤエザクラ奈良県奈良市・知足院で栽培されているナラノヤエザクラは、国の天然記念物に指定されています

※説明は、奈良県を除き各都府県のサイトからの引用・要約

県の花は4都府県でしたが、市町村の花になるともっと増えるかもしれません。47都道府県のうち4都府県というのは、少ないのでしょうか、多いのでしょうか。

開花が最も早いのは沖縄の1月

桜の開花は地域や種類によって異なるため、さまざまな時期に見ることができます。中でも、最も早いのが沖縄県で咲くカンヒザクラの1月です。

■桜の開花時期

1月:沖縄(カンヒザクラ)

2月上旬:伊豆半島下田(カワヅザクラ)

2月:各地(カンザクラ、ツバキカンザクラ、カンザキオオシマなど)

3月:各地(エドヒガンザクラ、ソメイヨシノ)

10月:各地(ジュウガツザクラ、フユザクラ)

桜というと、春のイメージが強いかもしれませんが、秋ごろに咲く品種もあります。例えば、ジュウガツザクラは春と秋に冬に咲く桜です。肌寒い時期に見るのも、また違った味わいがありそうです。

桜にまつわることわざ4選

古くから日本にある桜には、いくつかのことわざもあります。そのうち4つを紹介しましょう。

■桜にまつわることわざ

・花より団子(はなよりだんご)

桜の花を見るよりも、団子を食べる方が良いという意味。風流よりも実利を取ることの例え。室町時代の俳諧書に詠われており、長い歴史があります。

・桜伐る馬鹿、梅伐らぬ馬鹿(さくらきるばか、うめきらぬばか)

桜の枝を切ると、切り口がふさがりにくく菌が入って腐食することが多いことを言います。一方、梅の枝は長く伸びると花芽がつきにくくなるため、切る必要があります。それぞれの性質に合わせた手入れが必要であることを指します。

・花は桜木、人は武士(はなはさくらぎ、ひとはぶし)

花の中で桜が最も優れているように、人の中では武士が優れているという意味があります。仮名草子『尤之双紙』(1632年)の狂歌に詠われています。

・さくらは花に顕る(さくらははなにあらわる)

桜は花が咲くと、森の中でそれと分かる美しさがあるという意味です。才能ある人は機会を得るとそれを発揮するということの例え。2)

海外にも桜はある?

ワシントンD.C.ポトマック河畔の桜

桜は北半球の温帯に広く分布し、中国や朝鮮半島にも多くの種類があります。中国奥地やヒマラヤ地方などにはヒマラヤ桜が分布し、ヨーロッパにはサクランボのなるセイヨウミザクラがあります。ここでは、海外の中でも桜の名所として知られているポトマック湖畔の桜を取り上げます。

ポトマック河畔の桜

アメリカのワシントンD.C.にあるポトマック湖畔に桜並木があります。この桜並木は、1912年、当時の東京市長が贈った11種3,000本余りの苗木が植樹されています。実はそれ以前の1909年にも2,000本が贈られましたが、病害虫の被害を受けて焼却処分をされました。2度目にしてようやく実現したのです。ポトマック河畔の桜は100年を越え、日米の交流の象徴になっています。

日本文化とSDGs

最後に、日本文化とSDGsとの関係を確認します。私たちが、日本文化として桜を守っていくことを考えるとき、すべての人が観賞できる場所や環境を確保していくことは必要です。(目標11「住み続けられるまちづくりを」)また、桜を保護していく観点では、広く自然環境や生態系を持続可能にすることも求められます。(目標15「陸の豊かさも守ろう」

一方、生活の中で桜の葉や花、樹皮という天然由来の資源を有効に活用している点で、環境に配慮した消費が可能です。(目標12「つくる責任つかう責任」)日本文化の中で育まれた桜は、こうしたつながりを持ちながら、SDGsに貢献しています。

>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

桜は日本文化と強い結び付きを持ちながら、今日まで親しまれてきした。毎年春になれば、桜の開花情報が伝えられます。人々がこうして桜を観賞してきたことはもちろん、日本人の精神性を重ねてきたことも、日本文化を語る上で大きな要素です。葉や花などを生活の中で利用してきた背景も含めて、桜は日本を象徴する花木になりました。環境を守りながら、これからも桜の文化を豊かに育んでいきましょう。

<参考>
田中秀明監修、2003、『桜信仰と日本人』、青春出版社
安藤潔、2004、『カラー版「桜と日本人」ノート』、文芸社
岩﨑文雄、2018、『サクラの文化史』、北隆館
1)日本文化と桜の関係
七十二候「桜始開」 桜の様々な品種をご紹介 – ウェザーニュース
美空ひばり 同期の桜 歌詞 – 歌ネット
2)桜に関する雑学
桜の葉や花には毒がある! だったら桜餅は食べても大丈夫? ←専門家「毒は生存戦略かつ香りの成分」 | ラジトピ ラジオ関西トピックス
日本の桜の歴史:農林水産省:農林水産省
山高神代桜 | 北杜市観光協会
根尾谷淡墨ザクラ |観光スポット|岐阜県観光公式サイト 「岐阜の旅ガイド」
各都道府県のシンボル/都道府県情報/全国知事会
都の紋章・花・木・鳥・歌|都の概要|都庁総合ホームページ
山梨県/山梨県のシンボル
京都府のシンボル/京都府ホームページ
さくらの基礎知識 | 公益財団法人 日本さくらの会

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この記事を書いた人

池田 さくら ライター

ライター、エッセイスト。メーカーや商社などに勤務ののち、フリーランスに転身。SDGsにどう取り組んで良いのか悩んでいる方が、「実践したい」「もっと知りたい」「楽しい」と思えるような、分かりやすく面白い記事を書いていきたいと思っています。

ライター、エッセイスト。メーカーや商社などに勤務ののち、フリーランスに転身。SDGsにどう取り組んで良いのか悩んでいる方が、「実践したい」「もっと知りたい」「楽しい」と思えるような、分かりやすく面白い記事を書いていきたいと思っています。

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