#インタビュー

株式会社新澤醸造店|既成概念にとらわれない環境整備・働き方・酒造りで業界を牽引 

株式会社新澤醸造店 新澤 巖夫さん インタビュー

新澤 巖夫(にいざわ いわお)

株式会社新澤醸造店 5代目蔵元

1975年宮城県生まれ。東京農業大学農学部醸造学科卒業。大学卒業後、家業である酒造りを継ぐため酒造りを始動。25歳で杜氏に就任。同年に究極の食中酒「伯楽星」を生み出す。「伯楽星」はJAL国際線ビジネスクラス・ファーストクラスに12年連続搭載され続け、ミラノ万博公式酒、2010年・2014年FIFAワールドカップ公式酒になるなど、国内外で注目される。36歳の時に代表取締役に就任。2016年には世界最大の出品数を誇る『SAKE COMPETITION』で純米酒部門世界一を取得するなど、実力蔵へと成長を遂げる。現在は25歳の女性杜氏に製造指揮権を譲り、指導者として幅広く活動。利き酒能力を評価され、毎年サケコンペティションの審査員を務める。

Introduction

「究極の食中酒」の名を持ち、日本航空ファーストクラスにも搭載される日本酒「伯楽星(はくらくせい)」を製造している新澤醸造店。2018年には当時22歳の全国最年少女性杜氏※が就任したほか、初めての外国人副杜氏の起用など、年齢・経歴・性別関係なく意見を言い合い、協力しながら酒造りを行っています。今回は代表取締役である新澤巖夫さんにSDGsへの取り組みについてお話を伺いました。

杜氏とは

酒造りの製造責任者

震災をきっかけに、事業継続リスクの低減と社会環境への配慮をした事業運営を

–本日はよろしくお願いします。まず簡単に御社のご紹介をお願いします。

新澤さん:

私たちは宮城県に本社を構える醸造所で、主に「愛宕の松」「伯楽星」という日本酒を製造しています。大正時代に創業以来、150年の歴史をつないでおり、現在では26歳になる女性杜氏を筆頭に、37名で日々酒造りをしています。

–150年も続く酒蔵なのですね。

新澤さん:

はい。創業以来宮城県大崎市にて酒造りをしていましたが、東日本大震災の際に蔵3棟および自宅のすべてが全壊してしまいました。現在では本社は大崎市に残しておりますが、そこから70キロ程離れた川崎町に酒蔵を移転して酒づくりをしています。

–震災で大きな被害にあわれたのですね。

新澤さん:

はい。本社から70キロ離れることになったことをきっかけに、自社での助成金制度を作って社用車のハイブリッド化を進めています。災害時の電源供給も考慮したEV化も検討していますが、電源インフラの整備状況をみながら、実際に災害にあった我々だからこその判断をしていけたらと考えています。

–SDGsの目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」にも繋がるお話ですね。

新澤さん:

そうですね。また、エネルギー関連では、災害時の人命救助と事業の電源供給を考慮し、今期ソーラーパネルを導入する予定です。

–災害時に事業継続が難しくなるリスクを回避しつつ、社会や環境への配慮が両立しますね。

新澤さん:

はい。そして日本酒って実は、とてもエコなんですよ。製造過程で出てきてしまう酒粕や米ぬかも再利用されているんです。

–どのように再利用されているのですか?

新澤さん:

酒粕は「販売」したり、「地元企業との研究・新商品開発」などに活用しています。また、米ぬかは、食用油へ活用しており、産業廃棄物がほとんど出ないような仕組みづくりをしています。

現場からの改善提案で常に進化する蔵造り

–SDGsの目標12「つくる責任・つかう責任」にも通ずる取り組みですね。

新澤さん:

はい。加えて資材関係も、瓶、段ボール、古紙、粕袋のリサイクルも積極的に進めています。そのほかにも資材の再利用および回収のプロジェクトが最終段階まで進んでいますが、これは現場発案で動いているものです。

–具体的に教えてください。

新澤さん:

自社だけではなく、取引先の資材屋さんの負担を増やさないためにはどうしたらいいのかを考え、通常資材の回収・再利用や過重包装の見直しなどを進めています。このような資材回収は今までの商習慣では珍しい取り組みなんです。

–現場の方々が発案された改善案なのですね。

新澤さん:

私たちの会社では蔵を移転して以降、従業員からの提案制度を設けて、社員主導での業務改善を行っています。これまで10年間で約2千件ほどの改善を実行してきました。年間にすると毎年約200件。ほぼ毎日何かが変化していることになります。

–ものすごい数です。日々蔵の中が新しくなっているのですね。

新澤さん:

SDGsだから特別なことをしているという考えというよりか、社会や環境への配慮は当たり前のこととして、企業成長にもつながる提案をしてもらうよう社内でお願いしています。そして社員からの提案を無駄にしないように、実行可否を可能な限り即決して、次の動きにつなげています。

–取り組みを進められて効果はどのように感じていますか?

新澤さん:

SDGsには、知恵を絞っていくと企業が成長するヒントがたくさん隠れていると思います。コスト削減に貢献するものもありますし、新たな施策を検討して初めは金額的にマイナスになってしまったとしても、そこから改善をして、長期的にプラスにしていけたらと考えています。SDGsという考える枠組みができたことで、発想の幅が広がり、新しい動きに繋がるようなきっかけができたことがよかったと考えています。

性別や国籍にとらわれず、ライフサイクルに合わせた働き方や成長のステージを提供する

–人材についてもお伺いしたいです。ユースエール(ホワイト企業)認定をうけているなど、従業員の満足度を上げる取り組みも積極的に行われていますね。

新澤さん:

はい。有給休暇取得率は80%ですし、リフレッシュの場として休憩室を完備したり、労働時間の短縮、変形労働性によるライフサイクルに合わせた働き方を認めるなど、働きやすい職場づくりにむけた施策を行っています。

–綺麗な休憩スペースですね。

新澤さん:

働きやすさだけではなく、早期の管理職就任など若いうちから責任あるポジションについてもらうことで、多様な経験がつめるような機会も用意しています。実際に2018年には当時22歳の全国最年少女性杜氏が就任しています。働くことは、従業員の人間性を磨くことでもあると考えています。

–働きやすさも、働きがいもある職場で、年齢や性別に関係なく機会を提供しているのですね。

新澤さん:

ジェンダーでいえば、女性従業員は全体の60%以上、女性管理職の割合は50%になります。また2019年に外国人(アメリカ人)が副杜氏として就任いたしました(現在はイギリスへ留学中)。2022年からは米プリンストン大学の外郭団体PiA(プリンストン・イン・アジア)と連携して、外国人留学生の受け入れを行っています。

–外国人の造り手さんもいらっしゃるのですね。

新澤さん:

外国人だから、女性だからという区別はしていません。大きく見たら人間は同じだし、日本も地元、世界も地元です。国籍などにとらわれず、酒造りに興味のある人にはそのステージを用意しようと考えています。

–先進的なお考えですね。

新澤さん:

震災をきっかけに、常に変化し続けるという意識が生まれました。伝統を大事にしながらも、世界基準に沿って進化していくことで、企業として次のステージにいけるのかなと考えています。

時代を先読みし、日本酒業界の課題を解決できるような会社でありたい

–最後に、今後の展望を教えてください。

新澤さん:

常にホワイトオーシャンで行きたいと考えています。あまり食中酒が知られていなかった時代に、我々の蔵ではそれを目指し、『究極の食中酒』と呼ばれた銘柄「伯楽星」が誕生しました。また、世界一磨いた日本酒も製造したことによって、法律も変わりました。

–昔も今も、未開拓の領域を切り開く存在であり続けるということですね。

新澤さん:

日本酒の特化集団として、日本酒の可能性を信じ、自由な発想で、自由に表現できる蔵造りをしていきたいです。例えば最年少外国人杜氏が生まれても面白いと思いますし、日本酒業界での課題に対する解決策が出せるような会社でありたいです。今後も時代の先読みをして、技術者を育て、よりより良いお酒づくりを目指していきます。

–本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。

関連リンク

株式会社新澤醸造店:https://niizawa-brewery.co.jp/