公共の福祉とは?役割や身近な例をわかりやすく解説!

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公共の福祉という言葉は、普段あまり耳にすることはないかもしれません。しかし、日常生活のさまざまな場面で体験し、意識なく取り入れているものもあります。

この記事ではあらためて、公共の福祉とは何か、役割、身近な例、公共の福祉に反するとはどういうことか、SDGsとの関係を解説します。

公共の福祉とは

公共の福祉とは、ある人の権利と他の人の権利が衝突したときにそれを調整する原理を言います。例えば、たばこが好きな人には吸う権利がある一方で、嫌いな人には吸わされない権利があります。しかし、たばこを吸いたい人が好きな時間や場所で喫煙すると、吸いたくない人が吸わされてしまう場合もあります。こうした相反する権利を守り調整するのが公共の福祉です。

日本国憲法における公共の福祉

公共の福祉が日本で初めて明文化されたのは日本国憲法です。条文の4カ所に、公共の福祉という言葉があります。条文の一部を読みやすく言い換えて見ていきましょう。

(第十二条)

国民は、憲法が国民に保障する自由及び権利を濫用してはならず、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う。

(第十三条)

生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

(第二十二条)

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

(第二十九条)

財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。

日本国憲法は、人が生命や自由、幸福を追求し、居住や職業選択の自由、財産に関する権利があると定めています。しかし、これらを追求すると、喫煙権や嫌煙権のようにそれぞれの権利が重なることもあるでしょう。これを調整するのが公共の福祉であり、人の権利は無制限にあるわけではなく、他の人の権利を侵さない範囲内であるとしています。

世界の権利

日本国憲法(1946年)の中の公共の福祉は、アメリカ合衆国憲法(1787年)やドイツのワイマール憲法(1919)などの要素を取り入れながら、日本独自に構成されたものです。それでは今、公共の福祉のような原理を定めている国はあるのでしょうか。ドイツとアメリカ、そしてフランスの3カ国を取り上げます。

【ドイツ】(権利の)制約の制約(Schranken-Schranken)

ドイツの基本法(1949年)では、人には自由権や財産権、生存権などの基本権があり、国家はそれを法律などで制約できます。一方、その制約にも、基本権を侵害しない範囲という制約があり、「制約の制約」と呼んでいます。

権利を調整する点が、日本の公共の福祉の原理に共通しています。

【アメリカ】やむにやまれぬ政府利益(compelling interest)

アメリカでは、政府が個人の自由を制限できる審査基準を連邦最高裁の判例において策定しています。この基準は、表現の自由などの権利を政府が規制するときに、どうしても必要な措置なのかを審査するものです。

公共の福祉の権利の調整よりも厳しい基準が設けられています。

【フランス】公序(ordre public)

フランスでは、憲法をはじめ、民法や判例に公序という言葉が使われています。公序とは、社会の秩序や公衆の安全、衛生、表現の自由などを保護するための概念で、これに反する場合は、どのような取り決めも認められません。

公共の福祉とは性質が異なり、公序良俗に近い概念と言えます。

日本国憲法の成立前の明治憲法では、国家が社会の秩序を広く制限できました。そうした中で、諸外国の考え方を参考にし公共の福祉を組み入れたことは、大きな出来事だったと振り返ることができます。現在、公共の福祉に近い法や制度は国際的にも存在しています。

公共の福祉の役割

公共の福祉が、権利と権利の衝突を調整する原理であることは、すでに述べた通りです。しかし文字通りに解釈すると、個人の権利を制約できるのは他人の権利だけであると捉えることもできます。例えば、喫煙する人が喫煙所で吸わなければならないのは、嫌煙する人がいるからという説明です。

これを受けて今では、特徴などの共通点を整理し、公共の福祉には1つだけではない、いくつかの役割があると考えられています。次の4つを例に、まとめて確認していきましょう。

人権と人権の衝突の調整

1つ目は、人権と人権の衝突の調整です。冒頭に紹介した喫煙権や嫌煙権を例にすると、公共の福祉は両者の権利を調整する役割があります。喫煙所を設けるなどして、両者の権利を守るといった措置が当てはまります。

他人の人権を侵害する行為の禁止

2つ目は、すでに人権が侵害されているときに、その行為を禁止することです。悪口や誹謗中傷などにより他人の名誉を傷つけた場合、その行為を制約します。自由に発言はできても、他人の権利を侵すことはできません。

他人の利益のための人権の制限

3つ目は、個人や複数人、社会全体のために、個人の権利を制約することです。家を建てる権利はあっても、色・形は何でも良いというわけではありません。地域全体のために、景観条例などのルールを守る必要があります。

個人の利益のための個人の人権の制限

4つ目は、個人のために個人の人権を制限することです。例えば、車のシートベルトを締めることなどがあります。シートベルトの着用有無は自由ではなく、個人の生命を保護するという利益のために、ルールを守る必要があります。

公共の福祉の身近な例

続いて、身近な例から公共の福祉を理解していきましょう。前章の公共の福祉の役割をより詳しく紹介します。

大音量で音楽を楽しみたいAさん

音楽が好きなAさんは、自宅でアーティストの曲を大きな音で聞いています。しかし、隣に住むBさんは音をうるさく感じ、もっと静かに暮らしたいと思っています。

この場合、音楽を聞く権利は表現の自由*(憲法第二十二条)、静かに暮らしたいと願う権利は幸福の追求(第十三条)に当てはまります。そのため、人権と人権の衝突の調整が必要です。

調整には、多くの自治体にある生活環境保全条例や騒音規制条例のほか、トラブルになれば警察や民事上の差し止め請求などの方法があります。Aさんは音量や時間帯を守るという制限を受けつつも、音楽を楽しむ権利は失わず、Bさんの静かに暮らす権利も守ります。

SNSに「ブサイク」と書き込まれたCさん

CさんはSNSに「ブサイク」と書き込みをされました。心が傷ついたため、書き込みが目に入らないようにブロックしました。

SNSに「ブサイク」「頭が悪い」などと書き込むことは名誉権(憲法十三条)、また他人の実名や住所をさらすのはプライバシー権の侵害に関わり、他人の人権を侵害する行為の禁止が適用されます。

SNSに書き込むことに表現の自由はあります。ただし、他人の人格を否定するような悪口は認められません。Cさんが通報すれば、投稿の削除、アカウントの停止や凍結のほか、発信者の情報開示から慰謝料の請求、刑事処罰など、法的な措置の対象にもなります。

仲間から違法薬物をもらったDさん

Dさんは最近、プレッシャーにさらされストレスを感じることも多く、疲れもたまっていました。そんなとき、仲間から違法薬物をもらいました*。

違法薬物は、法律で禁止されている覚醒剤、大麻、麻薬、シンナーなどの薬物の総称です。違法薬物を使用すれば生命や健康を損ない、結果的に個人の自由を制限することになります。これは、個人の利益のための個人の人権の制限に当たります。

さらに、違法薬物の作用により他人を傷つけることがあれば、他人の人権を侵害する行為の禁止、治安を悪化させれば、他人の利益のための人権の制限が適用されます。違法薬物の規制は、公共の福祉のさまざまな役割に該当する事項です。

*違法薬物は、使用するだけでなく、所持することも禁じられています。

公共の福祉に反するとはどういうこと?

公共の福祉に反するとは、身近な例で見てきたように、個人や他人の人権を侵害する状態を言います。実際に公共の福祉に反するとはどういうことかがわかる、裁判の例を2つ見ていきましょう。

ブログに差別的な記事を投稿(判決2021)

2016年ごろからインターネット上で活動していた被告は、自身のブログを通じて、原告(当時中学3年生)が特定の民族であることを理由に侮辱し差別する記事を投稿していました。2019年、原告は、名誉を毀損され、民族的アイデンティティに関する人格権を侵害されたと主張し、損害賠償として300万円を求めた裁判です。

判決

第1審:2020年5月26日、横浜地方裁判所川崎支部投稿は、民族性を理由に被告を侮辱し、人種差別に該当する。原告の精神的苦痛に対する慰謝料として70万円の支払いが相当である。(平成31年(ワ)第190号)

原告は控訴し、翌年に判決が出ています。

控訴審:2021年5月12日、東京高等裁判所投稿は、原告の名誉感情を著しく害し、人格権を侵害する不法行為に該当する。慰謝料100万円の支払いを命じる。(令和2年(ネ)2495号)

この例では、表現の自由はあっても、差別的で人格を否定することは不法行為であることを示しています。公共の福祉の役割である、他人の人権を侵害する行為の禁止に該当する事例です。

ヘイトスピーチの実施(判決2022)

ヘイトスピーチとは、人種や宗教などを理由に侮辱的で差別的な言動をすることを言います。大阪市は、2016年1月に全国で初めてヘイトスピーチへの対処に関する条例を制定した市です。有識者で構成された審査会がヘイトスピーチと判断した場合は、その内容や氏名、団体名を公表するとしました。これに対し、ヘイトスピーチであると判断された市内在住の男女8人は、「表現の自由を萎縮させる」として住民提訴を起こしました。

判決

最高裁判所:2022年2月15日、最高裁判所表現の自由は、重要な権利である。一方で、無制限に保障されるものではなく、公共の福祉による合理的でやむを得ない程度の制限を受けることがある。条例の目的は、合理的であり正当なものである。(令和2年(行ヒ)第208号)

この裁判は、日本で初めてヘイトスピーチに関する最高裁判所判決が言い渡された事例です。公共の福祉の福祉に反するとは、表現の自由には合理的でやむを得ない程度の制限を越えてしまうことと言えるでしょう。

この2例は、いずれも差別的な言動についての問題ですが、公共の福祉に反することは他にもさまざまな場面であります。例えば、親の宗教上の問題で、子どもが医療を受けられないといった例は、公共の福祉に反します。(個人の利益のための個人の人権の制限)宗教の自由はあっても、子どもの健康が優先されるのが理由です。

公共の福祉とSDGs

最後に、公共の福祉とSDGsとの関係を確認します。公共の福祉は、個人の権利を調整しながら社会の利益を守る原理です。持続可能な社会を目指すSDGsの多くの目標に当てはまります。

  • 目標1「貧困をなくそう」
  • 目標3「すべての人に健康と福祉を」

目標1、3は、個人が生活するために最低限必要な権利を調整し守るという意味で、公共の福祉と同じ目的があります。財産の所有や使用を自由にできる財産権や、健康に生きる権利などを守るには、公共の福祉の原理が欠かせません。

  • 目標4「質の高い教育をみんなに」
  • 目標5「ジェンダー平等を実現しよう」
  • 目標10「人や国の不平等をなくそう」

目標4、5、10は、誰もが公平で質の高い教育を受けられること、ジェンダーの差別をなくすことなど、皆が平等に機会を得られる社会の実現を目指しています。平等や機会均等は、公共の福祉の人権と深い関わりを持っています。

  • 目標11「住み続けられるまちづくりを」
  • 目標13~15 気候変動対策、海や陸を守るなど、環境保全に関する事項

目標11〜15は、差別なく安全性の高い地域にする、豊かな環境の持続可能な社会を実現する、という観点から私たちの暮らしを支える目標です。公共の福祉の個人の利益のための個人の人権の制限として、他人の権利に配慮しながら、制約を受けつつも環境を守ることが関連しています。

>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

ある人の権利と他の人の権利が衝突したとき、それを調整する原理が公共の福祉です。しかし、普段は公共の福祉であると意識することは少ないかもしれません。喫煙所の利用、SNSの書き込みのルール、自治体などの条例、交通規則など、普段は自然に守っている規則も公共の福祉です。皆が暮らしやすい環境や、より良い社会をつくっていくためにも大切にしていきましょう。

<参考>
 「公共の福祉」: 法教育 | 関東弁護士会連合会
10人に1人は「SNSで誹謗中傷を受けたことがある」と回答!15歳〜59歳の男女3,000人を対象にアンケート調査を実施 | 株式会社アシロのプレスリリース
令和2年5月26日判決言渡し 平成31年(ワ)第190号 損害賠償請求事件 判決|武蔵小杉合同法律事務所
令和3年5月12日判決言渡 令和2年(ネ)第2495号 損害賠償請求控訴事件|武蔵小杉合同法律事務所
氏名公表のヘイトスピーチ抑止条例は「合憲」 最高裁が初判断:朝日新聞
法務省:ヘイトスピーチに関する最高裁判決
大阪市:「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」の運用について (人権&ヘイトスピーチ)

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この記事を書いた人

池田 さくら ライター

ライター、エッセイスト。メーカーや商社などに勤務ののち、フリーランスに転身。SDGsにどう取り組んで良いのか悩んでいる方が、「実践したい」「もっと知りたい」「楽しい」と思えるような、分かりやすく面白い記事を書いていきたいと思っています。

ライター、エッセイスト。メーカーや商社などに勤務ののち、フリーランスに転身。SDGsにどう取り組んで良いのか悩んでいる方が、「実践したい」「もっと知りたい」「楽しい」と思えるような、分かりやすく面白い記事を書いていきたいと思っています。

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