大学の学部にある「国際学部」は何を学ぶ学部かご存じでしょうか。大学によって学べる内容は変わってきますが、主に国際的な問題に関わる政治・経済・社会・文化・言語・宗教など幅広い内容を学ぶ学問です。
一方「国際問題」となると、国と国とが抱えるトラブルという意味合いになります。国境を超えたグローバルな問題と言い換えてもよいでしょう。
今回は、貧困・教育・人権・紛争・難民・食糧・健康・気候変動など幅広い国際問題を取り上げ、国際問題の解決に向けて私たちができることや、SDGsとの関わりについて解説します。
国際問題とは
国際問題とは、世界の多くの国や地域が関わる問題のことで、貧困や人権、紛争、難民、食糧、気候変動などがあてはまります。国際問題の解決は一国だけでは難しいため、多くの国々が話し合い、協力して取り組まなければなりません。
国際問題自体は、古い時代から存在していました。古い時代になればなるほど、国同士の争いは武力で解決するのが一般的であったため、世界各地で戦争が起きていました。その中で16世紀から17世紀にかけて、ヨーロッパで国際法の考え方ができあがり、国際問題の解決のための話し合いや条約締結が行われるようになりました。
国際法による国際問題の解決
国際法の理論的基礎を固めたのはオランダのグロティウスです。17世紀前半に起きた三十年戦争の時代に生きたグロティウスは、1625年に『戦争と平和の法』という本を書き、戦争の防止や終結には国際法が必要だと主張しました。
1644年、ドイツ西部のウェストファリア地方で国際的な講和会議が開かれ、戦争の当事者たちが集合して話し合いが持たれました。会議は3年続きましたが、1648年のウェストファリア条約の締結までこぎつけました。関係する国が終結して会議を行い、国際問題を解決するスタイルができ上ったといってよいでしょう。
国際問題の種類
国際問題と一口に言っても、実に様々な問題が存在します。今回は、貧困・教育・人権・紛争・難民・食糧・健康・気候変動など各分野の代表的な問題を取り上げつつ、それぞれの内容を整理していきます。
貧困
貧困には、「絶対的貧困」と「相対的貧困」の2種類があります。このうち、国際問題とかかわりが深いのは絶対的貧困です。
絶対的貧困とは、世界銀行が定める国際貧困ラインである1日2.15ドル未満で生活する人々のことです。*1)絶対的貧困に区分される人々は、必要最低限の食糧や物資の入手にも事欠く生活をしています。
【世界のGDPの分布】
絶対的貧困の国々は、アフリカや南アジア・東南アジアに見られます。その中でも特に、1人あたりGDPが低い国々はアフリカに集中しています。アフリカで貧困が絶えない理由として、以下の理由が考えられます。
- 一次産業中心で経済的基盤が弱い
- 紛争や内戦で国が混乱している
- 対外債務を背負っている国が多い
*2)
こうした問題を解決するため、国際会議や国連機関による支援が行われていますが、必ずしもうまくいっているとは言えない状況です。
教育
日本国憲法では、三大義務の一つに「子女に普通教育を受けさせる義務」を負うと定められているため、私たちは学校に行くのがあたりまえと考えているかもしれません。しかし、世界には学校に通うことができない子どもも少なくありません。
子どもが教育を受けられているかを見る指標の一つに識字率があります。
識字率が低い国・地域のワースト3は、中央アフリカ共和国・ニジェール共和国・南スーダンの3か国で、いずれもアフリカの国々です。*4)識字率が低い理由として、貧困や紛争、学校を設置するための財源不足などがあります。
人権
世界的に人権を重視する傾向が強まってはいますが、まだまだ、人権侵害が行われているのが実情です。そもそも、人権侵害とは国家や特定の集団が、正当な理由なく、基本的人権を犯すことです。主な人権問題は以下のとおりです。
*7)
こうした人権侵害は、特定の国の中で起きることもあれば、国境をまたいで発生することもあります。国境をまたぐケースは国際問題に発展することも少なくありません。
また、欧米や日本など人権を重視する国とロシアや中国のように国家権力を重視する国の対立は、しばしば国際的な対立の原因となってきました。
紛争
スウェーデンの政治学者、ウォーレンスティーンは紛争を「少なくとも2つ以上の主体が、希少な資源(富や権力など)を同時に獲得しようとして相争う社会状況」と定義しました。*8)
紛争が発生しやすい国には、3つの特徴があるとされます。
- 安全保障のギャップ
- 行政能力のギャップ
- 正当性のギャップ
安全が保障されない状態で、政府の行政能力が低く、国民から正当性がある政府だとみなされていない政権は不安定であり、紛争が発生しやすくなるのです。*8)一度紛争が発生すると、社会インフラが寸断され、人々が通常の生活をすることすらままならなくなります。
たとえば、コンゴでは、内戦に周辺のルワンダ、ウガンダ、アンゴラ、ブルンジ、チャド、ナミビア、ジンバブエなどが参戦して大戦争に発展しました。
難民
難民とは、天災や戦禍などから逃れるため住んでいる地を離れた人々のことです。*9)それ以外にも、人種や宗教、政治的な意見の違いによる迫害を逃れて国外に避難した人々のことも難民といいます。*9)
難民には、
- 国境を越えて他国に避難する人々
- 国内で別な地域に避難する国内避難民
の2種類が有りますが、国際問題に発展するのは他国に逃れる難民です。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、紛争や迫害によって住んでいる土地を追われた人々は1億840万人、そのうち、国外に逃れた難民は3,530万人にのぼります。難民の主な出身国はシリア、ウクライナ、アフガニスタンの3カ国で、全体52%を占めています。
食料
2023年は食糧危機が浮き彫りになった年でもありました。国連世界食糧計画(WFP)は、2023年に3億3,300万人が食糧不安に直面すると発表しています。これは、新型コロナウィルスの流行以前よりも2億人以上多い数字です。*10)
WFPは、ブルキナファソ・マリ・ソマリア・南スーダンなどで少なくとも12万9,000人が飢餓に瀕していると想定しています。*10)これらの国は紛争が絶えず、経済的基盤が弱体な後発発展途上国です。
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻の影響で肥料価格が高騰し、トウモロコシや米、大豆、小麦の生産量が減少しました。それによって食糧価格が上昇、WFPや他のNGO・NPOによる食糧支援が難しくなっています。*10)
WFPは世界各地で発生する食糧問題に対応するため、政府や金融機関、民間部門の協力者と連携することで食糧問題の解決を目指していますが、飢餓をゼロにするには、紛争地域での政治的な行動が必要であると訴えています。*10)
健康
医療も国際問題のテーマの一つです。2017年に世界銀行と世界保健機関(WHO)が発表した報告書によれば、基礎的な保険サービスを受けられない人の数は世界人口の半数に及び、多くの世帯で貧困が原因で医療サービスを受けられていないとしています。*11)
2000年のG8九州・沖縄サミットでは、途上国の感染症問題が議題の一つとして取り上げられ、先進国が支援する仕組みが検討されました。これがきっかけとなり、2002年に世界エイズ・結核・マラリア対策基金(以下、世界基金)が創設されました。*12)
感染症は国境を越えて広がるため、国際的な解決策が必要となります。新型コロナウイルスのパンデミックのような事態が、今後も発生する可能性があるため、非常時に備えた対策づくりが必要です。
気候変動
地球環境問題も、世界の国々が話し合って解決する必要がある国際問題です。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、第6次報告書で「人間活動が主に温出効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がなく」と記しているように、温暖化は国境を超えた人間活動によって引き起こされました。*13)
2015年に締結されたパリ協定で、世界共通の長期目標として産業革命以前に比べ、気温の上昇を2℃以下に保ちつつ、上昇温度を1.5°C以下に抑える努力を追求するとしました。*14)
2023年12月に開かれたCOP28では、長期目標の達成に向けた進捗状況を評価する仕組みや気候資金に関する話し合いが行われましたが、今後も継続して二酸化炭素排出削減の取り組みを続ける必要があるでしょう。*15)
【2024年最新】主な国際問題一覧
ここからは、2023年の主な国際問題を取り上げます。2024年も引き続き解決に向けた動きが必要となる問題です。
イスラエルによるガザ侵攻
2023年10月、ガザ地区を実効支配していたハマスがイスラエル領を奇襲しました。
イスラエル側は戦時内閣を組織して反撃に転じ、ガザ地区各地を空爆するだけではなく、地上軍を派遣して、同地域の制圧をはかっています。戦闘と休戦、一部の人質解放などの動きはありますが、依然として終結の目途は立っていません。2024年もガザ侵攻問題は大きな国際問題であり続けるでしょう。
終結が見通せないウクライナ戦争
2022年2月に始まったウクライナ戦争も泥沼化の一途をたどっています。ロシア軍はウクライナの首都キーウを目指す作戦に失敗したものの、ウクライナ東部から南部にかけての広大な地域を占領しています。
アメリカのバイデン政権やEUはウクライナを支援していますが、2023年12月段階で戦況は膠着しています。一時期に比べ、ウクライナ軍は攻勢に転じていますが、ロシア軍の抵抗も根強く、早期決着は難しい状況です。
【窒素質肥料の貿易フロー(2021年)】
ロシアは化学肥料の世界的な輸出国であり、ロシア産の肥料輸出が制限されると、世界の食糧生産は大きな影響を受けます。
【世界の穀物等輸出に占めるロシア・ウクライナのシェア】
ロシアもウクライナも世界的な穀物輸出国であり、輸出が制限されることで世界の食糧問題に悪影響が出てしまいます。
超大国アメリカの分断
2024年にはアメリカ大統領選挙が控えています。冷戦終結後、アメリカは世界ナンバー1の超大国として君臨してきました。しかし、大国アメリカは分断の危機にさらされています。もともと、アメリカには保守的傾向が強いとされる共和党と、リベラル層が支持する民主党の2大政党が存在していました。
両者は議会や大統領選挙で激しく対立し、政治が膠着する傾向が見られます。この背景にはアメリカ社会の変化があります。主な変化は以下の2つです。
- 白人割合の低下
- メディアの多様化
2010年には、全人口の63.7%を占めていた白人の割合は2020年には57.8%に低下し、ヒスパニックをはじめとする他の人種の占める割合が増加しています。*19)
メディアが多様化したことも大きな変化の一つです。かつては3大ネットワークしかなかったテレビの選択肢は、数百ものケーブルテレビとなり3大ネットワークもそのうちの一つでしかありません。
さらには、インターネットやSNSで自分にとって好ましいチャンネルを見る傾向が強まるため、考えが偏りがちだという指摘もあります。自分が信じたい情報を選ぶ傾向を「確証バイアス」といいますが、メディアの多様化は確証バイアスを強化する可能性があります。*21)
こうした変化が背景にあり、保守的な共和党とリベラル派の民主党が以前よりも妥協せず対立を深めています。
超大国アメリカで分断が起きることは、国際問題を解決するうえで大きな障害となります。アメリカ大統領選挙でアメリカの分断が深まれば、国際問題解決のハードルが高くなる恐れがあるのです。
BRICSの拡大
BRICSとは、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカのそれぞれの頭文字をとったものです。2024年1月、BRICSにサウジアラビア、UAE、イラン、エチオピア、エジプト、アルゼンチンの6カ国が加わります。*22)
2024年のBRICS議長国であるロシアは、拡大BRICSの場を利用して西側諸国に対する反発を強めることが予想されます。中国とロシアがBRICSを通じて、より一層結びつく可能性があります。
国際問題の解決に向けて私たちができること
では、これらの国際問題の解決に向けて、私たちができることはあるのでしょうか。
国際問題の理解
始めにするべきことは、国際問題に関する理解を深めることです。その際に注意すべきことは、以下の2つです。
- ファクトチェックを徹底する
- 複数の媒体で情報を調べる
ファクトチェックをすることはとても重要です。情報は発信者の考えや利益が反映されていることがあるため、事実と違っていたり、脚色・誇張されていたりする可能性があります。
国際問題を理解する際も、それぞれの陣営が自分たちに有利になるよう、情報を発信している可能性があります。ファクトチェックをしっかり行い、情報の正確性を確認しましょう。
動画サイトやSNSで知った事柄を鵜吞みにせず、新聞やテレビ、インターネット上の他のサイト、書籍などで総合的に調べるようにしましょう。そうすることで、偏った理解にならず、問題の本質を理解できるようになります。
寄附やボランティアで支援活動に参加
国や国連機関のほかに、国際問題解決にとりくむNGOやNPOがあります。それらの団体に寄附を行ったり、ボランティアとして参加したりすることでも国際問題解決に貢献できます。
たとえば、UNHCRの公式支援窓口である国連UNHCRに寄附したり、国境を越えて医療活動を行っている国境なき医師団に寄付したりすることも一つの支援方法です。
また、JICA海外協力隊として、海外でボランティア活動することも支援活動の一つです。海外協力隊では、環境問題や格差の問題、医療・農業など様々な問題に取り組んでいるため、直接・間接両面で国際問題解決に貢献できるでしょう。
国際問題とSDGs
国と国との対立や勢力間の対立によって国際問題が引き起こされます。ひとたび紛争が発生すれば、今回取り上げたような貧困・教育・人権・難民・食糧・健康などの問題が一気に悪化してしまいます。国際問題とSDGsの関わりについてみてみましょう。
目標16「平和と公正をすべての人に」
SDGs目標16は、争いのない平和な世の中を実現するために掲げられた目標です。紛争が原因で地域経済がマヒして貧困が悪化したり、子どもが学校に通えなくなったり、暴力によって多くの人がなくなったりといった事態が生じます。
もちろん、全ての問題が紛争に絡むわけではありません。気候変動問題などは、紛争の有無にかかわらず世界各国が強調して取り組むべき問題です。しかし、紛争を抑制することで多くの地域の平和が維持されるのも事実です。
国内紛争・国際紛争とも、国や地域、ひいては世界全体の状況を悪化させ、暴力の連鎖を生む原因となるでしょう。国際紛争を抑制し、平和と公正を維持することは、すべての人が持続可能な生活を送るための最低限の基礎なのです。
まとめ
今回は国際問題を取り上げました。国と国の争いである国際問題ですが、その原因は多岐にわたります。片方の陣営だけが絶対悪と決めつけると、納得できないもう片方の陣営が捲土重来を測って立て直そうとするため、対立が長期化しがちです。ただ、この連鎖をどこかで断ち切らなければ、地域の人々の人権が守られません。
私たちが国際問題の解決に力を尽くすことは、外国のためだけでなく、自国の安全を考えるうえでも重要なことです。世界が紛争だらけになってしまえば、日本だけが無事というわけにはいかず、難民や物価など、何らかの形で私たちの生活に悪影響を与えるでしょう。
そうなるまえに、私たちは国際問題に関心を持ち、寄附やボランティアなどの形で国際問題解決を考えてもよいのではないでしょうか。
参考
*1)UNICEF「ユニセフ・世界銀行 新たな推計公表 世界の子どもの6人に1人が極度の貧困 SDGs達成は困難か 国連総会を前に警鐘 (unicef.or.jp)」
*2)スペースシップアース「絶対的貧困とは?相対的貧困との違い、世界の現状、原因、解決策も」
*3)IMF「World Economic Outlook (October 2023) – GDP per capita, current prices」
*4)デジタル大辞泉「識字率(シキジリツ)とは? 意味や使い方」
*5)UNICEF『世界子供白書2023』
*6)スペースシップアース「識字率とは?世界・日本の現状と2022年ランキング、文字が読めないとどうなる?」
*7)外務省「国際協力と人権」
*8)JICA「2.用語の定義 – 2−1 紛争とは何か」
*9)デジタル大辞泉「難民(なんみん)とは? 意味や使い方」
*10)国連世界食糧計画「https://ja.wfp.org/global-hunger-crisis」
*11)世界銀行「世界銀行とWHO:世界の人口の半数が基礎的保健医療サービスを利用できず、1億人が医療費が原因で極度の貧困状態に」
*12)外務省「外務省: わかる!国際情勢 Vol.4 三大感染症対策~日本の取組と世界基金」
*13)環境省「IPCC 第 6 次評価報告書 統合報告書 政策決定者向け要約」
*14)外務省「2020年以降の枠組み:パリ協定」
*15)外務省「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)結果概要」
*16)BBC「https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-67069031」
*17)BBC「戦闘再開1日でガザの死者178人、「延長交渉が決裂」と情報筋 イスラエル人人質6人の死亡確認」
*18)農林水産省「第2部 ロシアのウクライナ侵攻と 世界食料需給への影響」
*19)日本経済新聞「米の白人人口初の減少 20年国勢調査、多様化進む」
*20)百科事典マイペディア「ヒスパニックとは? 意味や使い方」
*21)グロービス経営大学院「確証バイアス|グロービス経営大学院 創造と変革のMBA」
*22)NHK「【解説】2024年注目の国際ニュースは? 変わりゆく世界の力関係 | NHK | イスラエル・パレスチナ」
*23)