2018年、世界需要の数百年分のレアアースが、東京・小笠原諸島の南鳥島周辺海底に存在することが、早稲田大学や東京大学などのチームの調査で明らかになりました。
レアアースは、テレビやパソコン、スマホなどのハイテク製品に使われる金属です。日本では、その供給をほぼ輸入に頼っているため、国内でレアアースが発見されたニュースは、大きな話題になりました。
レアアースとは一体どのようなものなのでしょうか。この記事では、レアアースとは何か、その用途や主な産出国、課題、今後の展望、そしてSDGsとの関係について解説します。
レアアースとは
レアアースとは、鉱物から抽出される金属のうち、次の17種類の元素を一つにまとめた呼び名です。
【レアアースの17元素】
Sc | スカンジウム | Y | イットリウム | La | ランタン |
Ce | セリウム | Pr | プラセオジム | Nd | ネオジム |
Pm | プロメチウム | Sm | サマリウム | Eu | ユウロビウム |
Gd | ガドリニウム | Tb | テルビウム | Dy | ジスプロシウム |
Ho | ホルミウム | Er | エルビウム | Tm | ツリウム |
Yb | イッテルビウム | Lu | ルテチウム |
鉱物とは、地殻の中に存在する固体のことで、世界に4,000種以上あるといわれています。その多くは、Fe(鉄)やCu(銅)などの金属元素を含んでおり、特有の性質や機能を持っています。鉱物に含まれる金属元素を次の表で確認していきましょう。
【元素記号表】
各元素には色が付いており、緑色は「ベースメタル」、水色は「貴金属」、赤色は「レアアース」、黄色は「その他のレアメタル」と分類されています。この表では色分けされていますが、レアアースはレアメタルに属しています。
ベースメタル、レアメタルとの違い
表の中に、ベースメタル、レアメタル、レアアースといった表記が出てきたので、違いを確認します。
生産量が多く、さまざまな材料に使われる鉄やアルミニウムをベースメタルと呼びます。一方レアメタルは、
「地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属」のうち、工業需要が現に存在する(今後見込まれる)ため、安定供給の確保が政策的に重要であるもの ※[1]
資源エネルギー庁「レアメタル・レアアース(リサイクル優先5鉱種)の現状」
と、鉱業審議会によって定義されています。
そしてレアアースはレアメタルの一種で、下位に分類されています。現在34鉱種あるレアメタルのうちの1鉱種がレアアースです。レアアースを含むレアメタルは、ベースメタルとは異なり、産出量が少なく、需要に対して安定的な供給が難しい金属です。
希土類とも呼ばれる
補足情報となりますが、レアアース(rare earth)は「希土類」(きどるい)と訳されています。レアアースが発見されたのは1794年で、発見者であるフィンランドの学者、ヨハン・ガドリン(Johan Gadolin)が名付けました。
名前の由来は、
- 鉱物の中に少量存在しているために見分けにくい
- 鉱石から抽出するのが困難
- 分離が難しい
- 用途が少ない
という理由から「希な、珍しい」という意味の「希」の付いた「希土類(レアアース)」になったといわれています。しかし、現在では①~④は解決されており、本来の意味は失われて名前だけが残っています。※[2]
それでは、レアメタルはどのような製品に使われているのかを次から確認していきましょう。
レアアースの用途
レアアースの各元素には、超伝導や強磁性、触媒、光学、蛍光など、さまざまな特性があります。それらを活かして、永久磁石やガラス研磨剤、蛍光体などがつくられています。
主なレアアースの用途(世界)
元素 | 主要用途 |
---|---|
Ce(セリウム) | 研磨剤、自動車用排ガス触媒、鉄鋼・Al添加剤、ガラス添加剤(UVカット他)、FCC触媒、蛍光体、ニッケル-水素電池 |
La(ランタン | FCC触媒、光学レンズ、ニッケル-水素電池、鉄鋼・鋳造添加剤、蛍光体、研磨剤、セラミックコンデンサー |
Nd(ネオジム) | ネオジム磁石、FCC触媒、ガラス添加剤、ニッケル-水素電池、セラミックコンデンサー |
Y(イットリウム) | ジルコニア安定剤、蛍光体(赤)、光学ガラス |
Pr(プラセオジム) | 磁石、セラミックタイル発色材(黄)、ガラス着色剤(緑)、セラミックコンデンサー |
Gd(ガドリニウム) | 磁石、光学ガラス、蛍光体(緑)、放射線遮蔽材(医療用、原子炉、他) |
Dy(ジスプロシウム) | ネオジム磁石 |
Sm(サマリウム) | サマリウムコバルト磁石 |
Er(エルビウム) | ガラス添加剤 |
Eu(ユウロピウム) | 蛍光体(青・赤) |
Tb(テルビウム) | 蛍光体(緑) |
レアアースの特性の中でも、光学がとりわけ力を発揮し、発色や紫外線吸収、ガラスの着色・強化などに多く利用されています。※[3]
レアアースは主にハイテク製品に使われる
そしてレアアースを利用した材料から、テレビやスマートフォン、EV車の小型モーターなどのハイテク製品がつくられています。
レアアースは、高機能材や小型軽量化、省エネ化、環境対策に役立つ素材として、重要な材料と位置付けられていますが、現時点で日本国内での生産はほとんどされておらず、輸入に頼っている状況です。主要な産出国や埋蔵国については、次で詳しく見ていきましょう。
レアアースの主な産出国
レアアースの主な産出国は、中国(全体の58%)、次にアメリカ(38%)と続きます。
中国が生産国のトップになっている理由は、
- レアアースを取り出しやすい鉱石が集中していること
- レアアースを取り出すときに使う化学薬品などに対する環境面の規制が緩やかなこと
が挙げられます。
中国には、レアアースの原料になる酸化物を簡単に取り出すことができる、特殊な鉱石が存在します。この種類の鉱石は、中国以外の国で見られることはあまりありません。
また、中国はレアアースを取り出す際に使う化学薬品を、環境への影響に配慮せず比較的自由に使用していました。規制は厳しくなりつつありますが、危険な化学薬品も使うことができたのです。そのため、コストを抑えて生産ができるというメリットもあり、主要な生産国になっていると考えられます。※[4]
埋蔵量ランキング
次に、レアアースの埋蔵量を国別に確認していきましょう。
■埋蔵量ランキング
- 中国 37%
- ベトナム 18%
- ブラジル 18%
- ロシア 10%
- インド 6%
[国名,数量,構成比%](数値:希土類酸化物(REO千t)、2020年世界計) 出典:USGS2021
アメリカ地質調査所(USGS)によると、レアアースが埋蔵されているのは、ランキングに掲載されている国のほか、アメリカやオーストラリア、カナダ、南アフリカなどです。レアアースは、比較的広い範囲に豊富に存在していると言えるでしょう。※[5]
日本が抱えるレアアースの課題
私たちの生活に欠かせないレアアースですが、主要な産出国でも埋蔵国でもない日本には、いくつかの課題があります。主な2つのポイントを見ていきましょう。
安定供給が難しい
レアアースの課題の1つ目は、安定した供給が難しく、供給リスクが高いことです。現在日本は、レアアースの供給のほとんどを輸入に依存しています。また、そのうちの半分以上は、中国からの輸入です。
<日本のレアアース輸入における中国依存度(2018年)>
このような状況の中、2010年9月21日以降、レアアースの輸出が停滞していることが確認されました。アメリカのニューヨーク・タイムズ紙は、同年9月7日に尖閣諸島沖の日本の領域で起きた漁船追突事件※の報復として、中国がレアアースを禁輸したと報道したのです。これに対して中国は、禁輸の事実はなく、密輸を取り締まるために手続きを厳格化していると説明しました。
レアアースは、日常の生活を支えるハイテク製品に不可欠な材料です。特定の国への依存が高まれば、感染症や社会情勢などにより供給が途絶えることも考えられます。安定的な供給をどのように確保していくかは、レアアースの課題と言えるでしょう。※[6]
価格の変動幅が大きい
2つ目の課題は、価格変動の幅が大きいため、資源を利用する際のリスクが高いことです。
主要生産国である中国では、2021年11月以降、レアアース価格が上昇基調にあります。この背景には、中国国内で政策や冬季の石炭供給不足などにより、従来型の工業電気モーターから省エネレアメタル電気モーターに代替する計画を発表したことが関係しています。この計画を受け、市場は強気になっているとの見方もあるのです。※[7]
レアアースは、市場や国際情勢の動向によって価格変動の影響を受けやすいのも事実です。このような状況を最小限に抑えるため、リサイクル技術の開発も進められています。しかしコストの問題などから、なかなか進んでいないのが現状です。
レアアースの今後|日本も南鳥島沖で採掘に乗り出すって本当?
繰り返しになりますが、日本では、レアアースの供給をほぼ輸入に依存しています。しかし2022年10月、政府は小笠原諸島・南鳥島沖の水深6,000メートルの海底で確認されているレアアース泥の採掘に乗り出すと発表しました。2023年度に技術開発に着手し、5年以内の試掘を目指すとしています。※[8]
国内での供給に向けた一歩が踏み出されましたが、実際に利用できるのはまだ先です。このような状況の中、政府はレアアースに関連するリスクについて対応策をまとめています。
開発支援
政府はこれまで、レアアースの採掘や生産、精鉱を行う権利を確保するため、オーストラリアのライナス社への出融資を実施してきました。この結果、日本に向けた販売権を獲得しています。また、北米とアフリカでは、外国企業と共同探鉱を実施しました。
この事例を踏まえ、今後も国際協力や支援を進め、一国に依存している状態から、供給リスクを分散していく方針です。
精錬所支援・備蓄
政府は、レアアースの鉱石を分離精製する事業への支援を検討しています。支援した事業に対してレアアースを備蓄対象鉱種に指定すれば、安定した供給につながると期待しています。これを実現するためには、精錬所の支援をより強化していくことが必要です。
技術開発
レアアースの使用量を減らす省資源化や、代わりになる材料の技術開発も進められています。特に、ジスプロシウム磁石やネオジム磁石などの省資源化について、政府は引き続き支援を行っていきたいとしています。実用化の時期については未定ですが、実現できれば安定供給に一定の効果があるでしょう。また、リサイクルを促進するための政策支援も併せて進めていく予定です。
レアアースとSDGsの関係
最後に、レアアースとSDGsの関係について見ていきましょう。
SDGs(エスディージーズ)とは、“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発目標」と訳されています。2015年に国連サミットで採択された17の目標と169のターゲットから成る国際目標です。健康や福祉、産業と技術革新の問題など、経済・社会・環境にわたる具体的な目標が設定されています。
レアアースは、これら17の目標のうち、目標12「つくる責任つかう責任」と関係があります。
【関連記事】SDGsとは|1〜17の目標一覧と意味や達成状況、世界・日本の取り組み事例を紹介
特に目標12「つくる責任つかう責任」と関係
目標12「つくる責任つかう責任」は、「持続可能な消費・生産形態を確実にする」という目標で、天然資源の持続可能な管理と効率的な利用を実現することを目指します。その他にも、廃棄物を「出さない」「減らす」「再生利用する」「再利用する」といった内容も掲げられています。
レアアースは、鉱物から抽出される限りある天然資源です。際限なく利用すれば、いずれ枯渇してしまうでしょう。また、生産する過程で及ぼしかねない環境への影響を考え、持続可能な方法を選択していく必要もあります。
レアアースが使われているテレビやパソコン、自動車などのハイテク製品は、私たちの生活になくてはならないものになりました。それらを大切に使い、再利用することは、個人でもできる取り組みです。レアアースと私たちの暮らしとの関係をあらためて考えることで、持続可能な社会の実現に貢献できます。
【関連記事】SDGs12「つくる責任つかう責任」|日本の現状と取り組み、問題点、私たちにできること
まとめ
この記事では、レアアースについて詳しく見てきました。
レアアースは、鉱物に含まれる17種類の元素の総称で、産出量が少なく、安定的な供給が難しいことが特徴です。鉄などのベースメタルや貴金属の種類の中では、レアメタルという種類に属しています。
テレビやパソコン、スマートフォン、EV車など私たちの生活に欠かせない製品には、レアアースが使われています。そのため、安定的な供給が必要ですが、日本はほぼ輸入に頼っているのが現状です。今後は、レアアースを採掘する権利を獲得するほか、省資源化や代替品開発を進めるなどして、供給を安定させていく必要があるでしょう。
レアアースはSDGsの目標12「つくる責任つかう責任」にも関係があります。限りある資源を大切に使い、再利用をすることで、SDGsの達成に貢献できるでしょう。
※[1] 資源エネルギー庁「レアメタル・レアアース(リサイクル優先5鉱種)の現状」
※[2] 日本鉱業会誌/100 1152 (’84-2)153「特殊金属小特集⑥希土類について」
※[3] 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「鉱物資源マテリアルフロー2021 レアアース(REE)」
※[4] 日本経済新聞社「レアアースの生産、中国になぜ集中?」2019年6月27日 6:00配信
※[5] USGS “Annual Publications 2020-RARE EARTHS”
※[6] 資源エネルギー庁資源・燃料部鉱物資源課「2050年カーボンニュートラル実現に向けた鉱物資源政策」令和3年3月30日
※[7] JOGMEC金属資源情報「中国:2021年第4四半期のレアアース市況見通し」
※[8] 讀賣新聞オンライン「レアアースの脱中国依存へ、南鳥島沖の水深6000m海底から採掘…技術開発に着手」2022/10/31 07:49配信