
「今以上、地球温暖化を進めないためにはCO2の排出量を減らすべきだ。」という考え方が広がりを見せています。日本政府は、2050年にカーボンニュートラルを達成すると宣言し、様々な施策を実行しようと動き始めました。
このカーボンニュートラルを達成するために押さえておきたいキーワードが「カーボンフリー」です。
今回はカーボンフリーとカーボンニュートラルの違い、カーボンフリーエネルギーとして認められている4つのエネルギー、カーボンフリーをめぐる世界と日本の現状、課題、カーボンフリーに取り組む企業の実例、SDGs目標との関わりなどについてまとめます。
目次
カーボンフリーとは

カーボンフリーとは、様々な活動においてCO2を含む温室効果ガスを全く排出しないことを意味します。イメージしやすい言葉の使われ方としては、
- カーボンフリーモビリティ→温室効果ガスを全く排出しない鉄道や車
- カーボンフリーエネルギー→発電時に温室効果ガスを全く排出しないエネルギー
などが挙げられます。
カーボンフリーと似た言葉にカーボンニュートラルやネットゼロがありますが、どのような違いがあるのでしょうか。
カーボンニュートラルとの違い
カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするという考え方です。カーボンフリーは温室効果ガスを排出しないことを意味するため、意味合い・役割ともに異なることが分かります。
【カーボンニュートラルの考え方】

カーボンニュートラルの「全体としてゼロ」というのは、削減しきれないCO2と森林などが吸収するCO2を等しくし、温出効果ガスの排出量と吸収量を等しくすることです。
このように聞くと、カーボンニュートラルよりもカーボンフリーの方が環境に優しいイメージを持つ人も多いと思います。
しかし今、世界が目指しているのは、カーボンニュートラルです。(2021年4月時点で、125カ国・1地域が、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを表明しています。)
なぜなら、そもそも全てをカーボンフリー化することは不可能であることに加えて、CO2がなくなりすぎると植物などが生きていけなくなってしまうからです。そのため、過剰に削減するのではなく、バランスの取れた環境を保つ必要があります。とはいえ、現在はCO2が増えすぎているため、カーボンフリーにできる部分はカーボンフリー化して排出を減らすことが大切です。そして将来目指すのが、バランスの取れたカーボンニュートラルな世界となります。
ネットゼロとの違い
ネットゼロとは、温室効果ガスの排出量を正味ゼロにするという意味です。資源エネルギー庁は「排出を全体としてゼロにする」とは、排出量から吸収量を差し引いた合計がゼロとなる(ネットゼロ、実質ゼロと同じ)と記述し、カーボンニュートラルと同じものとみなしています。
英語で表記される場合、カーボンニュートラルよりネットゼロと表記される例が多く見られますが、内容は同じと考えて差し支えありません。
【関連記事】脱炭素とは?カーボンニュートラルとの違いや企業の取り組み、SDGsとの関係を解説
カーボンフリーエネルギーとは
カーボンフリーはできるものとできないものがありますが、主に期待されているのはエネルギー面です。ここからはカーボンフリーと最も関係の深いエネルギーについて、理解を深めていきましょう。
先述したように、カーボンフリーエネルギーとは発電などをする際に、CO2を排出しないエネルギーのことです。主に、太陽光・風力・水力・地熱などの自然の力を利用した再生可能エネルギーがカーボンフリーエネルギーと言えます。それぞれの特徴を簡単に見ていきましょう。
太陽光
太陽光発電は日本を代表するカーボンフリーエネルギーです。太陽光パネルで太陽の光エネルギーを電気エネルギーに変換するもので、発電時にCO2など温室効果ガスを排出しません。
当初は高価だった導入コストも年々低下しており、導入数も増加傾向にあります。
【太陽光発電のシステム価格と導入量の推移】

再生可能エネルギーを固定した価格で買い取るFIT(固定買取)制度やFIP制度の恩恵を受け、2011年から大幅に導入数が増えました。送電線がない山間地でも利用できるため、非常時の電源としても期待されています。
また、安定資産形成しながらカーボンニュートラルの実現にも貢献できるとして太陽光投資も注目されています。
しかし、
- FIT制度の縮小や新設基準の厳格化により、新設メガソーラーの経済性が低下していること
- 発電量が天候に左右されること
- メガソーラーの設置時に森林伐採や地すべり・土砂崩れといった地盤への悪影響をもたらすこと
- 太陽光パネルの廃棄・リサイクル問題の顕在化
など、環境・経済両面の課題が指摘されています。2026年4月からは、地上設置太陽光の新設支援の一部が整理され、再エネ支援の重点が需給調整やFIP制度にシフトする方向が示されています。
風力発電
風力発電は、風の力を利用して発電する仕組みです。設置場所によって陸上風力発電・洋上風力発電などと呼ばれます。大規模な風力発電は、発電コストを火力・水力並みに抑えられ非常に経済的です。
しかし、風力発電機を設置する場所が限られることや、設置できる地域が北海道や東北地方など一部の地域に集中しているため、電力系統との連携に課題があります。*5)
水力発電
水力発電は河川などの高低差を利用して水を落下させ、そのエネルギーを発電に利用するものです。ダムを作って水をため、一定の速さで落下させることで発電量を調整できます。最近は農業用水や上下水道施設を利用した中小規模の水力発電も盛んです。
水力発電の問題点は、ダム建設時に森林破壊などの環境破壊を伴うことです。ダム建設による環境負荷を考えると、急激に増やすのは難しいといえます。
地熱発電
地熱発電は地熱を利用した発電方法です。地下深くに掘られた地熱井からくみ上げた熱水を使用して発電します。熱水の温度が低く十分な蒸気を得られない場合は沸点が低いペンタンなどを加熱して蒸気にし、タービンを回転させて発電します。
地熱発電にはフラッシュ方式とバイナリー方式の2種類がありますが、国が再生可能エネルギーとして認めているのはバイナリー方式のみです。
【バイナリー方式の地熱発電】

地熱発電の運用中はCO2を排出しませんが、地熱を取り出せる場所が限られることや長期間の開発が必要なため、コストが高くなるというデメリットがあります。
資源エネルギー庁「太陽光発電」
日本野鳥の会「早急な法整備を!急増するメガソーラー施設」
資源エネルギー庁「2040年、太陽光パネルのゴミが大量に出てくる?再エネの廃棄物問題」
Borderless「2026年エネルギー制作の大転換点-企業が直面する7つの制度変更を解説」
資源エネルギー庁「風力発電」
コトバンク「電力系統とは」
資源エネルギー庁「水力発電」
NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「第7章 地熱発電」(p4~5)
資源エネルギー庁「地熱発電」
資源エネルギー庁「制度の概要|FIT・FIP制度」
カーボンフリーの現状・取り組み
CO2を排出しないカーボンフリーのエネルギーについて、世界や日本はどのように取り組んでいるのでしょうか。
世界
カーボンニュートラルよりも条件が厳しいカーボンフリーについて、完全合意した国際協定はありません。
カーボンフリーと関係する国際的な協定のひとつとして、2015年12月に開催したCOP21で採択されたパリ協定が挙げられます。これは、1997年の京都議定書に代わる、2020年以降の温室効果ガス排出削減の国際的枠組みで、歴史上はじめてすべての国が参加したものです。
各国でCO2排出量を大幅に削減するためにも、カーボンフリーの取り組みはそれぞれで進められています。
日本
2021年4月、政府は2030年度に温室効果ガスの46%削減(2013年度比)を目指すというカーボンニュートラルを宣言しました。政府はカーボンニュートラルの推進を先導し、各自治体がそれに続いているというのが現状です。
日本は火力発電を主力としているため、CO2を全く排出しないカーボンフリーはかなり困難な状況です。そのため、できる箇所をカーボンフリー化してCO2排出量を削減しつつ、吸収量と等しくするカーボンニュートラルを進めていくこととなります。
カーボンフリーの課題
ここまで、カーボンフリーとカーボンニュートラル・ネットゼロとの違いや具体的なカーボンフリーエネルギー、カーボンフリーの現状についてまとめました。ここからは、カーボンフリーの課題について整理します。
開発時に自然環境に負荷を与えてしまう
カーボンフリーエネルギーの開発や維持管理のときに、環境負荷を与えてしまうという課題があります。
| 太陽光 | メガソーラーの設置時に森林破壊や土地の荒廃を招く恐れがある太陽光パネルの不法投棄で周辺環境が汚染される |
| 風力 | 騒音が発生するバードストライク(鳥による衝突)の発生 |
| 水力 | ダム建設時の森林破壊地域住民の立ち退き問題 |
| 地熱 | 森林破壊長期間の工事で環境に悪影響 |
地球環境を守るために導入されるカーボンフリーエネルギーですが、開発時に自然環境を破壊してしまうと、本末転倒になってしまいます。カーボンフリーエネルギー導入にあたっては、周辺環境への影響を事前に調べておく必要があるのです。
安定したエネルギー供給が難しい
エネルギーの安定供給の面でも課題があります。2018年に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」のなかでは、再生可能エネルギーを「主力電源化」することが決められました。
【日本の全発電電力量に占める自然エネルギーの割合の推移】

しかし、カーボンフリーエネルギーのうち太陽光発電と風力発電は天候によって発電量が不安定になるという弱点があります。国はこうした弱点を補うためには火力発電や原子力発電とバランスをとることが必要だと考えられているのが現状です。
資源エネルギー庁「制度の概要|FIT・FIP制度」
外務省「日本の排出削減目標」
総合資格navi「2026年4月施行・第2フェーズ「GX推進法改正」建設業はどう関わるのか?【経済産業省】」
経済産業省「排出量取引制度」
資源エネルギー庁「2040年、太陽光パネルのゴミが大量に出てくる?再エネの廃棄物問題」
資源エネルギー庁「再エネと安定供給~求められる「発電を続ける力」」
環境省「1. 再生可能エネルギー導入加速化の必要性」(p1)
環境エネルギー政策研究所「2021年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報)」
カーボンフリーに取り組む企業

カーボンフリーは非常に高い目標ですが、これに積極的に挑んでいるのがGoogleと花王です。それぞれの取り組みについてみてみましょう。
Googleは「2030年までに、世界中の自社データセンターとオフィスを24時間365日カーボンフリーエネルギーで運営する」という目標を掲げており、2020年以降の気候変動関連用語の整理やGHGプロトコルの改訂を背景に、24/7カーボンフリー電力(24時間365日カーボンフリー電力)の実現に向けた取り組みを進めてきました。
もともと、Googleは脱炭素に積極的に取り組む企業で、2007年にはカーボンニュートラルを達成し、さらに 2017年には年間消費電力のほぼ全てを再生可能エネルギーでまかなうことに成功しています。
2021年5月には、アメリカのバージニア州にあるGoogleデータセンターで24時間カーボンフリー電力の供給体制を実施し、稼働時間の90%以上をカーボンフリーエネルギーでまかなうことが示されています。
さらに、2024年以降、日本を含むグローバル各地で地熱発電・長期再エネPPAを含む24/7カーボンフリー電力供給の実績が拡大しており、2025年の事例では、JERAや伊藤忠商事などと長期再エネ供給契約を結ぶことで、地域の送電網にカーボンフリーエネルギーを供給する取り組みが進んでいます。
さらに、Googleはクリーンエネルギーのスタートアップ企業であるFervo社と地熱発電プロジェクトに関する契約を結びました。これにより、カーボンフリーエネルギーの安定供給を目指します。
花王
国内企業の中では花王の取り組みが注目されています。花王は2040年までにCO2排出量を事業活動ベースでゼロとする「カーボンゼロ」、2050年までにカーボンネガティブ(排出量より吸収量を上回る状態)を実現する目標を掲げており、2024年以降のESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」のもと、再生可能エネルギーの活用拡大やライフサイクル全体での排出削減を加速しています。
例えば、酒田工場ではグループ最大規模の2.8MW太陽光発電設備を稼働させ、工場で使用する電力の100%をカーボンフリーエネルギーでまかなうことが実現されました。
2025年に公開されたサステナビリティレポートでは、他の工場やグローバル事業でも再生可能エネルギーの導入や設備の低炭素化を拡大していることが示されています。
さらに、企業全体として2040年までのカーボンネガティブ達成に全力を注いでいます。
Google「サステナブルな運営 – Google データセンター」
ReChroma「【24/7 Carbon Free Energy を徹底解説】GHGプロトコルの改訂との関連性とは?」
JERA「24/7カーボンフリー電力とは?」
伊藤忠商事「Google向けの長期再エネ供給契約締結について」
ASCII.jp「AI需要で環境目標に苦戦、グーグル責任者が語ったエネルギー戦略」
Google「カーボンフリー エネルギーにおける Google の取り組みの進展」
PR Newswire「AES Announces First-of-Its-Kind Agreement to Supply 24/7 Carbon-Free Energy for Google Data Centers in Virginia」
Google「新しい地熱プロジェクトで、24 時間 365 日のカーボンフリー エネルギー化に全力前進」
花王「2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブ実現への活動を加速」
花王「酒田工場で花王グループ最大規模の2.8MW太陽光発電設備が稼働」
花王「花王サステナビリティレポート2025」
カーボンフリーとSDGsの関係
最後に、カーボンフリーとSDGsの関係を確認しましょう。
特にSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」と関係
カーボンフリーと深く関わるのが目標13「気候変動に具体的な対策を」です。
【各国の気候に関連した災害が起きた件数(1995年から2015年発生分)】

地球温暖化による気候変動の深刻化により、世界各地で自然災害が増加傾向にあると報告されています。とりわけ洪水や熱波、台風などの極端気象が頻発し、アジアを含む多くの地域で人的・経済的被害が拡大しています。
2021年に発表されたIPCCの第6次評価報告書では「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と明確に示されており、CO2排出と温暖化の関連性が科学的に裏付けられています。
こうした気候変動のリスクを軽減するため、カーボンフリーエネルギーの導入は、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」の実現に向けた重要な施策とされています。
CO2を排出しないカーボンフリーエネルギーは地球温暖化をストップさせる強力な一手となるでしょう。
Unicef「13.気候変動に具体的な対策を」
環境省「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書 第 1 作業部会報告書(自然科学的根拠)」
資源エネルギー庁「気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?」
まとめ
カーボンフリーはCO2を一切排出しないことで、カーボンニュートラル以上に厳しい目標です。カーボンフリーエネルギーとして期待されている太陽光・風力・水力・地熱なども、開発時の環境負荷とエネルギー供給の安定性などに課題があります。こうした問題が解決し、資金面での目処がつけばカーボンフリーの実現性が高まるでしょう。
現にGoogleや花王といった環境問題に積極的な企業が、カーボンフリーに向けて取り組みを開始しています。SDGs目標13を達成し、地球温暖化に歯止めをかけるため、今後もカーボンフリーエネルギーの積極的導入が望まれます。

〈参考・引用文献〉
*1)環境省「カーボンニュートラルとは」
*2)資源エネルギー庁「環境 | 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」」
*3)資源エネルギー庁「太陽光発電」
*4)日本野鳥の会「早急な法整備を!急増するメガソーラー施設」
*5)資源エネルギー庁「風力発電」
*6)コトバンク「電力系統とは」
*7)資源エネルギー庁「水力発電」
*8)NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「第7章 地熱発電」(p4~5)
*9)資源エネルギー庁「地熱発電」
*10)資源エネルギー庁「制度の概要|FIT・FIP制度」
*11)外務省「2020年以降の枠組み:パリ協定」
*12)環境省「地球温暖化対策計画(令和3年10月22日閣議決定)」
*13)資源エネルギー庁「2040年、太陽光パネルのゴミが大量に出てくる?再エネの廃棄物問題」
*14)資源エネルギー庁「再エネと安定供給~求められる「発電を続ける力」」
*15)環境省「1. 再生可能エネルギー導入加速化の必要性」(p1)
*16)環境エネルギー政策研究所「2021年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報)」
*17)Google「カーボンフリー エネルギーにおける Google の取り組みの進展」
*18)PR Newswire「AES Announces First-of-Its-Kind Agreement to Supply 24/7 Carbon-Free Energy for Google Data Centers in Virginia」
*19)Google「新しい地熱プロジェクトで、24 時間 365 日のカーボンフリー エネルギー化に全力前進」
*20)花王「2040年カーボンゼロ実現に向けて、コーポレートPPAを花王で初採用」
*21)花王「酒田工場で花王グループ最大規模の2.8MW太陽光発電設備が稼働」
*22)Unicef「13.気候変動に具体的な対策を」
*23)環境省「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書 第 1 作業部会報告書(自然科学的根拠)」
*24)資源エネルギー庁「気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?」
この記事を書いた人
馬場正裕 ライター
元学習塾、予備校講師。FP2級資格をもち、金融・経済・教育関連の記事や地理学・地学の観点からSDGsに関する記事を執筆しています。
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