オーストラリアの固有種・タスマニアデビルをご存知ですか?
カンガルーやコアラと同様にお腹に袋を持つ有袋類の動物ですが、現在はタスマニア州でのみ野生の個体が確認されている絶滅危惧種です。
ロードキルとデビル顔面腫瘍病と呼ばれる病気が主な原因となっており、オーストラリアでは個体数を増やすためにさまざまな取り組みを行っています。
この記事では、タスマニアデビルに関する環境保全活動について理解を深めるために、タスマニアデビルの基本情報、直面する問題点、具体的に実施している保護活動の詳細を解説していきます。
タスマニアデビルってどんな生き物?

タスマニアデビルは、世界最大の有袋類の肉食動物です。
「デビル」という名前は、唸るような鳴き声が悪魔の雄叫びのように聞こえたことから、ヨーロッパ人入植者が名付けたとされています。
タスマニアデビルの体重は4kg~14kg前後、体高は30cmと、小型犬と同程度のサイズ感です。
ツキノワグマを彷彿とさせるような黒い毛皮が特徴的で、約85%の個体の胸元に白い模様が入っています。
また、小型のカンガルー程度のサイズの生き物まで食べることから、最大80度まで開く大きな口と牙を持つことでも知られています。
野生のタスマニアデビルは現在タスマニア州でのみ生息

名称からも分かるように、野生のタスマニアデビルはオーストラリアのタスマニア州でのみ生息しています。
元々はオーストラリア全域に生息していたものの、人によって持ち込まれたディンゴによって本土の野生のタスマニアデビルは約3,500年前に絶滅しました。
タスマニア州は離島となっており、ディンゴが持ち込まれなかったと言われています。
その証拠として、オーストラリア国内で唯一、タスマニア州内ではディンゴの化石が発掘されていません。
タスマニアデビルの天敵となるディンゴがいなかったため、タスマニア州のタスマニアデビルは2023年現在でも野生の個体群が生息しています。
タスマニアデビルが直面する問題とは?

タスマニアデビルは、2023年時点でレッドリストの絶滅危惧に分類されています。
過去10年間で60%の個体数が減少したと言われており、主な原因は以下のようになっています。
① ロードキル
タスマニア州で生息している野生のタスマニアデビルは、現代ではロードキルによって個体数が減少しています。
一見すると小熊のような可愛らしい見た目とサイズ感ですが、有袋類の中では最大の肉食動物です。
ウォンバット、ワラビー、ウサギ、コアラなどを餌とする獰猛な動物であり、ハイエナのように骨や毛皮まで全て噛み砕いて食べるという特性を持ちます。
さらに、動物の死体も食べる腐肉食動物なので、ロードキルが原因で死んでいる野生動物を餌にすることも多くなっています。
死体を食べるために長時間にわたって道路に座り込むタスマニアデビルの姿も頻繁に目撃されており、通りかかった車がタスマニアデビルに気付かずに車ではねてしまうという事故も多発しているのです。
また、車にはねられたタスマニアデビルを食べるために別のタスマニアデビルが出てきて、さらにロードキルに遭うという悪循環も生まれています。
特に夜間は黒い毛皮が見えにくいといった理由から、事故の発生頻度が高くなっています。
② デビル顔面腫瘍病
タスマニアデビルの個体数が減少しているもうひとつの原因が、デビル顔面腫瘍病(DFTD)です。
タスマニアデビルのみが感染する病気であり、伝染性の癌として知られています。
感染した場合の致死率はほぼ100%で、野生下で死亡するタスマニアデビルの死因の実に90%がデビル顔面腫瘍病です。
餌を奪い合う際にタスマニアデビル同士が顔を噛み合うことで感染することが分かっており、個体数の増加には感染していない個体群を確立することが必要不可欠です。
タスマニアデビル保護のために行うエコ活動とは?
ここでは、オーストラリアが行う保全活動を見ていきましょう。
① タスマニアデビル救出プロジェクト

デビル顔面腫瘍病からタスマニアデビルを守るため、2012年に大規模な保護プロジェクトが実施されました。
プロジェクトが行われたのは、タスマニア南東部に位置するマリア島です。
デビル顔面腫瘍病にかかっていない健康な個体28頭をマリア島内に放してモニタリングを行ったところ、2016年までに約100頭に個体数が増加しました。
このプロジェクトの成功により、マリア島はデビル顔面腫瘍病が存在しない生息域として確立されました。
繁殖を続けることでデビル顔面腫瘍病にかかっていないタスマニアデビルの数を増やせるため、絶滅の危機に対する大きな成果を生み出したプロジェクトです。
② 国立公園への転換

マリア島での個体群確立に成功したオーストラリアですが、1か所のみでは将来的に近親交配が進むなどの懸念があります。
そこで、次なる生息域の候補地として挙がっているのが、タスマニア州の北西に位置するタカイナ/タルカインの森(Takayna/Tarkine Forest)です。
タカイナ/タルカインの森は、デビル顔面腫瘍病にかかっていない個体数が比較的多いエリアとして知られています。
遺伝的多様性が高い個体が多いという研究結果が出ており、遺伝的多様性が低い個体群と比べるとデビル顔面腫瘍病に対する抵抗力が高い点が特徴です。
次なる保護地として適切な個体が多く生息していることから、Wilderness Societyを含む環境保護団体は森林を国立公園にする策定を支援しています。
国立公園にすることで、タスマニアデビルのモニタリングがしやすくなると同時に、伐採道路や採掘道路の拡張なども防げます。
結果としてタスマニアデビルの個体数と生息地の保護に繋がるため、タスマニアデビルがより自然な形で繁殖できるように国立公園への取り組みに力を入れているのです。
③ デビル顔面腫瘍病の研究

タスマニア大学メンジーズ医学研究所が主導して6年間実施した研究により、デビル顔面腫瘍疾患は治癒可能であることが判明しました。
免疫療法を使うことで腫瘍が3ヶ月にわたって収縮及び消失したことが確認され、実質的にデビル顔面腫瘍疾患を治せる方法が見つかったとされています。
また、ワクチンの開発も並行しており、2023年6月には最初の臨床試験が行われました。
これまでは治療方法が確立されていなかったものの、病気のメカニズムが解明されたことで致死率100%とされていたデビル顔面腫瘍疾患から生存する個体の増加が期待されています。
④ 一般市民が目撃情報をレポートできるアプリ

タスマニアデビルのロードキルを改善するために、オーストラリアではTasmanian Roadkill Reporterアプリを運用しています。
タスマニアデビルの目撃情報を一般市民がアプリ内に書き込める仕様になっており、ロードキルのほか、病気やケガに関するレポートもできるシステムです。
正確な位置、日付、時刻をアプリ内でレポートすることによって、詳細が道路所有者や管理者に通知されます。
タスマニアデビルは道路に沿って移動する可能性が高いため、位置情報やタスマニアデビルの状態などを把握することで病気やケガをしている個体を保護することにも繋がります。
⑤ 寄付金活動
タスマニアデビルの保護に関心を持つ国民は多いものの、肉食獣であるタスマニアデビルに直接関わるのは難しい傾向にあります。
そこで活用されているのが、タスマニアデビルの支援に関連する寄付システムです。
現在、オーストラリアではさまざまな野生動物保護団体がタスマニアデビルを保護するためのプロジェクトを立ち上げており、公式ホームページなどから気軽に寄付できる仕組みになっています。
経済的支援を通して、間接的にタスマニアデビルの保護に携われるというメリットがあります。
まとめ

オーストラリアでは、タスマニア州でのみ生息するタスマニアデビルを守るためにさまざまな取り組みを行っています。
保護プロジェクトやタスマニア大学の研究によって、少しずつですがタスマニアデビルの個体数増加の目途が立ってきました。
残念ながら、2023年10月に日本で唯一飼育されていたタスマニアデビルが亡くなったことから、日本国内でタスマニアデビルを見られる施設はありません。
「本物のタスマニアデビルを見てみたい」「記事を読んでタスマニアデビルに興味がわいてきた」という方は、ぜひオーストラリアを訪れた際にタスマニアデビルに会いに行ってみてはいかがでしょう?