インドの貧困率は?現状・改善に向けた対策と取り組みを紹介!出生率が高い理由や人口増加の問題点を解説

img

インドについてどのようなイメージをお持ちでしょうか?「貧しい途上国?」「でも、最近はITがすごいらしい?」など様々なイメージを持っているかもしれませんね。

インドは広く、多様な文化を持ち、そして貧富の差が激しい国です。世界のトップ10に入るような大富豪もいれば、その日食べるものにさえ困るような暮らしをしている人もいるのが現状です。

この記事では、

  • インドの貧困問題の原因や現状
  • インドの貧困問題を解決するための取り組み
  • インドの貧困問題を解決するために私たちができること
  • SDGsとの関係

をお伝えします。

インドに住んだ経験を持つ筆者の体験も交えながら、インドの貧困について紹介していきます。

目次

インドはどんな国?

まずインドはどんな国か、人口や文化、経済について見ていきましょう。

世界一の人口・多様な言語と宗教

南アジアに位置するインドの面積は328万7,469平方キロメートルで日本の約9倍です。そしてインドの人口は2022年に推計14億1,200万人に達し、すでに中国を抜いて世界一になっている可能性があると言われています。

インドの公用語は英語とヒンディー語で、他に憲法で公認されている州の言語が21言語あります。これとは別に、インドには約2,000もの言語が存在すると言われています。州や地域、民族が異なると違う言語を話し、インド北部と南部では共通言語を持たないため、インド人同士であっても英語で会話するという状況です。

さらにインドには多くの宗教が存在します。

  • ヒンドゥー教徒 79.8%
  • イスラム教徒 14.2%
  • キリスト教徒 2.3%
  • シク教徒 1.7%
  • 仏教徒 0.7%
  • ジャイナ教徒 0.4%

インド全体で見ると上記の割合ですが、これも地域によって仏教徒の多いエリア、シク教徒の多いエリアなどがあります。

ちなみに「インド人=ターバンを巻いている人」のイメージがある人もいるかもしれませんが、ターバンを巻いているのはシク教徒で、実はインド全体で1.7%しかいないのです。

広大な国土に多くの人口を抱え、多言語・多宗教であるのがインドの特徴の一つと言えます。

経済成長

ここ数年のインドの経済成長はすさまじく、2022年の7~9月期の実質国内総生産(GDP)前年同期比6.3%増となっています。インドのGDPは近々世界5位に浮上するとの予測も出ていて、2027年には日本を抜いて世界3位になる見通しもあるほどです。

さらにインドは「0」を発見した国でもあり、数字に強い国としても知られています。近年はIT分野の成長にも注目が集まっており、世界のIT技術者の数を調べた2021年の調査によると、インドはアメリカ・中国に次いで世界3位の226万人で、日本は4位の132万人でした。

インドのIT人材は世界中に輩出されており、GoogleやマイクロソフトのCEOにインド人が就任しています。このように、インドは優秀なIT人材を世界に輩出しているのです。

インドの貧困問題

「そんなに経済が発展しているのに、貧困問題があるの?」と不思議に思う人もいるでしょう。しかし、インドはあまりに多様で、格差の大きい社会なのです。

まず貧困の定義について世界銀行は以下のように定めています。

「国際貧困ライン」

1日1.90ドル(約200円)以下で暮らす人々を「貧困層」として設定。

世界銀行によると、世界の貧困率は1990年には36%だったのに対して、2015年には10%まで減少しました。人口にすると、1990年には18億9,500万人もの人々が貧困層だったのに対して、2015年には7億3,400万人まで改善しています。

では、インドの貧困状況はどのようになっているのか、見ていきましょう。

高い貧困率と地域差

外務省の調査によると、1973年にはインドの貧困率は54.9%を占め、実に国民の半分以上が貧困層に属していました。しかし高い貧困率は年々改善を続け、国連開発計画(UNDP)の調査によると、2005-06年から2019-21年の15年間で、4億1,500万人もの人々が貧困から抜け出したと言われています。特に、栄養や衛生、調理用燃料、資産の分野で大幅な改善を達成しました。

しかし、貧困の発生率は都市部と農村部で大きな開きがあります。インド全体の貧困率は2015-16年では36.6%でしたが、2019-21年には農村部で21.2%に、都市部では9.0%~5.5%になったと報告されています。2015年の世界の貧困率が10%だったのに対して、インドの都市部の貧困は、世界水準と同程度あるいは下回るほどに改善していることがわかるでしょう。

しかし農村部での貧困率は依然として高く農村地域が貧困層の90%近くを占めているという調査もあり、インドにおける貧困問題は地域差が大きいことがわかります。

徐々に貧困を改善してきたインドですが、新型コロナウイルスの影響によって貧困の状況が後退してしまうのではないかとも推測されています。事実、経済封鎖により少なくとも4億人以上の人が失業したとも言われており、今後の動向に注意が必要です。

インドの貧困問題の原因

近年、改善してきたとはいえ、インドではまだまだ多くの人が貧困に苦しんでいる状況です。では、インドの貧困の原因とは一体なんでしょうか。

ここからは、インドの貧困の特徴と言える「格差社会」と「カースト制度」について見ていきましょう。

格差社会

インドは日本をはるかにしのぐ「格差社会」と言われています。以下は、2000年から2020年までの、インドにおける所得別人口の推移を表しています。

低所得層は、2000~2020年の間に95.6%から66.4%まで減少。逆に中間層は、同期間で4.1%から32.8%にまで増加しました。インドでは経済発展も目覚ましく、今後はこの中間層がますます増えることが予測されています。

しかし依然として格差が大きいことに変わりはなく、インドでは富の85%は人口の10%が所有しているとも言われるほどです。

さらに、地域間格差もあります。インドでは以前より北部や東部、北東部の貧困率が高く、特に北東部では改善が遅れています。2004年から2011年の州別貧困率を見ると、東部のオディシャ州は57.2%から32.6%に、北部のビハール州は54.4%から33.7%に改善しました。

しかし、依然として貧困率が30%を超える州は多く、中でも北東部のアルナチャル・プラデシュ州やアッサム州では貧困率が30%台のまま大きな変動が見られません。インド政府はこの北東部に位置する7州すべてを、財政上の優遇措置が受けられる特別カテゴリー州に分類していますが、目立った効果は見られていないのが現状です。

他にも、保健医療格差やジェンダー格差、世代間格差、情報の格差、民族による格差、環境格差などインドには多くの格差が存在しています。

カースト制度

インドの大多数を占めるヒンドゥー教に存在する「カースト制度」が、貧困問題にも深く関わっています。

「カースト制度」は、「バラモン」(司祭者)、「クシャトリヤ」(王族)、「バイシャ」(庶民)、「シュードラ」(隷民)の4つを基礎に、2,000以上も細かく分類されたカーストが残っていると言われています。現在、インド憲法はカースト制度を否定していますが、それでもなお人々の生活には深く根付いているのです。

このカースト制度で特に不当な扱いを受けているのが「カースト外」の存在で、「ダリット」や「ハリジャン」などと呼ばれる人々と、少数民族です。

インドでは、カースト外の特定カーストに属する者を「指定カースト」、少数民族に相当する者を「指定部族」と分類しています。2011年の調査によると、指定カーストは全人口の16.9%、指定部族は8.6%の割合でした。これらの人々の貧困率は全国平均よりも高く、指定カーストは29%、指定部族は43%が貧困層に属しています。

人口に占める割合貧困率
指定カースト16.9%29%
指定部族8.6%43%
参照:JICA インド JICA 国別分析ペーパーより作成

指定カースト5つの州に集中し、指定部族は農村部の遠隔地や僻地に居住している場合が多く、歴史的に社会や経済、教育に関して平等な機会を与えられないことが多かったとされています。

現在、インド政府はこの差別を是正しようと、指定カーストと指定部族に教育や就業の機会を与える優遇措置を取っています。さらにIT業や金融業などのカーストが誕生した時代にはなかった職業は、「カーストに関係なく就職できる」ものとして、若者の間で人気です。

ここまでお読みいただき「上位カースト=豊か」というイメージを持たれるかもしれませんが、一概にそうとは言えないことを最後に付け加えておきます。上位カーストであるがゆえに、仕事を探しても下位カーストの職には就けず、貧困に陥る場合もあるのです。

インドでは宗教やカースト、性別、地域性などが複雑に絡み合っているのが現状です。現在の目覚ましい経済発展によってインドの貧困問題がどのように変化していくのか、注視していく必要があるでしょう。

インドの貧困問題の現状

では、現在のインドの貧困状況はどのようになっているのでしょうか。教育・子ども・スラムの順に見ていきましょう。

教育

JETRO(日本貿易振興機構)が行った2021年の調査によると、インドの初等・中等学校に通う児童・生徒数は約2億5,000万人です。初等・中等教育にアクセスできる人口は増えてきたものの、高等教育への進学率は依然として25%程度にとどまっています。

また、総務省によると2021年のインドの識字率は、全体で74.4%、うち男性82.4%、女性65.8%となっています。識字率は女性の方が低く、また格差の項目でも述べた貧困層の多い州で識字率が低くなっています。

このように、インドでは貧しさから学校に通えない子ども、また学校に通っていたものの、貧困を理由に途中で諦めなければいけない子どももいます。さらに学校に通えたとしても、

  • 先生の質が悪い
  • 机やイスなどの備品が揃っていない
  • 壁や天井がなく雨が吹き込む中で勉強しなければいけない

など、教育を受ける環境が十分に整っていない場合もあるのです。

またインドでは、女児を年齢の若いうちから結婚させる「児童婚」の習慣も根強く、「女子に教育は不要」「家のことだけやっていればいい」という考えで、女子を学校に行かせない場合もあります。

子ども

インドにはいまだ、児童労働の問題も残っています。2011年の国勢調査によると、インドの5~14歳の働く子どもの数は1,010万人で、子どもの総人口の3.9%を占めています。さらに働く子どもの大多数が、低カーストまたはカースト外の低い地位に属しているとも言われています。

貧困ゆえに物乞いも多い現状があります。

  • 子どもが単独で物乞いをしている
  • 母親が小さな赤ん坊を抱きながら物乞いをしている

様子もよく見かけました。首都ニューデリーのような大都市は裕福なインド人も多いため、物乞いも集まってきます。彼らは通行量の多い道路にも入り込み、停車中の車に近寄って物乞いをするのです。

また物乞いビジネスも存在し、子ども達に物乞いをさせ、それを取り締まる大人が利益を奪っている場合もあります。

インドに住んでいた筆者も、たびたび物乞いに遭遇しました。実際に、ボロボロの服を着てすすや埃で真っ黒な子ども達に近づいて来られると困惑しましたが、「この子にお金をあげても組織に取られるだけかもしれない」と思うと判断に迷うことも多くありました。

スラム

インドでは貧困を理由にスラムで生活している人も多くいるのが現状です。2011年には、インドのスラムに暮らす人は約6,600万人と言われていましたが、現在はこの数が増えていることが予測されています。

インド第2の都市ムンバイには、「アジア最大」とも言われる「ダラヴィ・スラム」があります。アカデミー賞を受賞した映画「スラムドッグ$ミリオネア」の舞台となった場所です。広大なエリアに建物が密集して建ち、路地には太陽の光も届かないほど密集した場所で、多くの人々が暮らしています。

スラムはトイレの場所が限られているケースが多く見受けられます。特に女性は夜間トイレに行くときに性被害に遭う場合もあり、危険にさらされています。

インドにはダラヴィ・スラムのように大規模なスラムだけではなく、ビニールシートで覆っただけの粗末な小屋がいくつか並んでいる場所もあります。大都市のきれいなショッピングモールのすぐ横にスラムがある場所もあり、インドの大きな格差を強烈に感じました。

インドの人口はなぜ多い?増えすぎた理由を解説

インドの人口はなぜここまで増えたのでしょうか。背景には高い出生率や人口抑制政策の失敗など、複数の要因があります。次で詳しく解説します。

インドの出生率が高い理由

インドの人口増加を支えている最大の要因は、高い出生率です。特に農村部では「子どもは多いほど良い」という価値観が根強く残っており、教育や避妊に関する知識も十分に広がっていません。また、医療技術の向上により乳児の生存率が上がったことも、結果的に人口を押し上げています。

都市部では近年やや出生率が低下傾向にあるものの、農村との格差が大きく、国全体としては依然として人口増加が続いています。経済発展が進む一方で、伝統的な価値観や教育環境の未整備が、人口増加の背景として複雑に絡み合っています。

医療の発展で乳児死亡率が低下

インドでは近年、医療インフラの改善が進み、乳児死亡率が大きく下がりました。かつては5歳未満の子どもが亡くなるケースが非常に多く、家庭では「生き残るために多く産む」という考え方が一般的でした。

しかし、予防接種の普及や妊産婦の医療支援体制が整備されたことにより、子どもの生存率が向上。出生数は減っていない一方で、育つ子どもが増えたことで、人口増加につながっています。医療の進歩自体は望ましいものですが、その効果を考慮した上での人口政策や教育の強化が必要とされています。

若年層の割合が非常に高い

インドの人口構成は非常に若く、全人口の半数以上が30歳未満と言われています。この若年層の多さが、今後の出生数にも影響を与えると考えられます。労働力の豊富さという面では大きな強みですが、教育・雇用・医療など社会資源が追いつかなければ、貧困の連鎖を断ち切れません。

若い世代が家庭を持つ時期に差し掛かるため、しばらくは人口の自然増が続く見通しです。人口ボーナス期を活かすためには、若年層への投資と社会制度の整備が重要となります。

教育・就業への不安が出生数に影響

インドでは貧困層を中心に、子どもを「将来の働き手」と見なす傾向が今も残っています。特に教育を十分に受けられない地域では、子どもを多く産むことで家庭の労働力を確保しようとする意識が強く、出生率の低下を妨げています。

学校に通うよりも農作業や家事の手伝いを優先する家庭も多く、教育格差は世代を超えて引き継がれています。これにより、将来の就業機会も限られ、また次の世代も同じ価値観のもとに多産傾向を続けるという悪循環が生まれています。

農村地域の家族構成と価値観

インドの農村では、大家族での暮らしが一般的で、家族の人数が多いほど安心だと考えられる傾向があります。農業を主な生業とする家庭にとって、子どもは重要な労働力でもあり、また将来の介護要員としても期待されています。

そのため、子どもを多く持つことが「生活の安定」につながるという価値観が根付いています。こうした背景が、都市化や経済成長が進んでもなお、高い出生率を維持する理由のひとつとなっています。人口増加の抑制には、こうした価値観への丁寧なアプローチが欠かせません。

インドの人口増加によって起きている問題点

インドの急激な人口増加は、社会や経済にさまざまな影響を及ぼしています。ここでは、具体的にどのような問題が起きているのかを見ていきましょう。

教育や医療のインフラが追いつかない

急激な人口増加により、インドでは教育や医療といった社会インフラが深刻に不足しています。特に農村部では学校の数が足りず、教員一人あたりの生徒数が過密状態です。また、医療面でも病院や医師の数が需要に追いつかず、十分な治療を受けられない人が多く存在します。

こうした状況では、健康や教育の格差が拡大し、次世代の可能性が閉ざされてしまいます。人口推移を見ても今後さらに負担が増す見込みで、持続可能な社会の実現には、人口増加に見合ったインフラ整備が不可欠です。

若者の就職難と貧困の連鎖

インドでは若年層の人口が急増していますが、雇用の受け皿が十分ではありません。学歴があっても働き口が見つからない若者が多く、非正規労働や低賃金の仕事に就かざるを得ないケースも目立ちます。このような状況では生活が安定せず、将来への希望も持ちにくくなります。

結果として、家庭を支えるためにさらに子どもを働き手として期待するという悪循環が生まれ、貧困が次の世代へと引き継がれていきます。人口ボーナスを活かすには、雇用創出と教育の質の向上が鍵となります。

都市の過密化とスラムの拡大

人口の集中は都市部に顕著で、特にムンバイやデリーといった大都市では過密状態が深刻です。住宅の供給が追いつかず、スラム街が拡大しています。こうした地域では水道・電気などのインフラが整備されておらず、不衛生な環境での生活を強いられる人も多く存在します。

住居だけでなく、通勤ラッシュや交通渋滞、騒音といった問題も複合的に絡み合い、都市生活の質を大きく損なっています。都市の健全な成長を妨げる要因として、人口増加と都市計画の遅れが挙げられます。

水・電力・食料など資源の不足

人口が急増するインドでは、水・電力・食料などの生活資源が慢性的に不足しています。特に農業に依存する地域では水資源の争奪が激しく、干ばつや灌漑不足による収穫の不安定化も深刻です。また、都市部では電力供給が追いつかず、停電が頻発することもあります。

食料も人口に比例して需要が増すため、価格の上昇や栄養不足の問題が広がっています。こうした資源問題は国全体の持続可能性を脅かす要因となっており、人口増加と並行した資源管理の強化が求められています。

環境汚染やごみ問題の深刻化

人口の増加は環境負荷を加速させています。インドでは排気ガスや産業廃棄物による大気・水質汚染が深刻で、特に大都市では世界最悪レベルの大気汚染が報告されています。

ごみの処理能力も限界を迎えており、都市のいたるところに不法投棄された廃棄物があふれています。衛生面の問題だけでなく、健康被害や生態系への影響も無視できません。持続可能な発展を目指すうえで、人口増加に対応した環境政策と廃棄物管理の体制整備が急務となっています。

インドの人口抑制政策が失敗した理由

インドの人口抑制政策が失敗した理由は、主に以下の4つに集約されます。

1. 強制的な手法に対する国民の不信感

1970年代に実施された「強制的な不妊手術政策」が、大きな社会不安を招きました。特に非常事態宣言下(1975〜1977年)では、本人の同意なしに不妊手術が行われる例もあり、政府への不信感が根深く残る結果となりました。これにより、避妊や家族計画全般に対する心理的抵抗が強まってしまいました。

2. 教育の普及不足と識字率の低さ

農村部や貧困層では教育水準が低く、避妊や出生制限に関する知識が行き届いていません。特に女性の教育機会が限られている地域では、「子どもは多いほど安心」という伝統的価値観が根強く、出生率の抑制が難航しました。

3. 州ごとの取り組みのばらつき

インドは連邦制国家であり、人口抑制政策は各州の裁量に任される部分も大きくあります。そのため、先進的な州では成果が出ている一方、貧困や教育格差が深刻な州ではほとんど効果が見られないという地域差が問題になりました。

4. 社会保障制度の未整備

インドでは高齢期の生活を子どもに頼る文化が残っており、「多くの子を持つ=将来の生活保障」という考えが根付いています。公的年金や医療保障が不十分な中では、子どもを持つことがリスクヘッジとされ、少子化を促す環境とは言えませんでした。

インドの貧困問題を解決するための取り組み

これまでインドの貧困問題を取り上げてきましたが、この問題を解決するために、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

ここからはインドの貧困問題に取り組む企業や団体をご紹介します。

【ユニリーバ(イギリス)】職業訓練で現地女性の地位向上に貢献

食品・ヘアケアなどの家庭用品メーカーであるユニリーバは、インドで小売流通業・小売店業向けのプログラムを実施。現地の人々、特に女性に職業訓練を提供し、小規模事業主として製品を販売してもらっています。この取り組みによって、インドの人々の世帯収入を増やし、女性の経済的・社会的自立に貢献しています。

【サグリ株式会社 × JICA】日本のスタートアップ企業とJICAが共同で農業支援

日本のスタートアップ企業・サグリ株式会社が、JICAとともに「衛生データを用いた新しい農法」を提供する事業に取り組んでいます。

サグリは人工衛星データや各種農業データを駆使し、農薬や肥料の最適なまき方や収穫時期などの情報を提供する事業を展開しています。インドでは農業が盛んなものの、いまだ非効率な方法を取っている農家が多いため、サグリの技術を活用してインドの農業技術の向上と収入アップにつなげるねらいです。JICAと共同することで、インドの関連企業からの信用を獲得し、事業を成長させている取り組みです。

【認定NPO法人ワールド・ビジョン・ジャパン】長期にわたりインドの子ども達をサポート

ワールド・ビジョン・ジャパンは、約100か国において保健や水衛生、生計向上、教育、栄養の分野での開発援助や緊急人道支援を通して、困難な状況で生きる子どもたちのために活動している団体です。インドでも5~6か所の地域で活動しており、主に栄養改善や保健衛生、子どもの権利保護、教育支援などの活動をしています。

しかも、これらの活動を短期間ではなく10~15年にわたって行っており、じっくりと腰をすえた影響力のある活動です。

認定NPO法人ワールド・ビジョン・ジャパン公式サイト

【認定NPO法人かものはしプロジェクト】インドの人身売買問題に取り組む

インドで活動する、商業的性的搾取の被害に遭う子ども達の支援活動をしている団体です。サバイバー(人身売買被害者)が自分の人生を取り戻すための「サバイバーに寄り添う」活動と、人身売買ビジネスが成り立たないよう「社会の仕組みをつくる」活動の2つを軸に、事業を展開しています。

人身取引の被害者に、セラピーや語学教育、職業研修などのリハビリプログラムを提供し、サポート。また現地の警察や検察官、裁判官などの政府各機関やNGOと連携し、人身取引の取締り強化や被害者への補償金の充実などに取り組んでいます。

認定NPO法人かものはしプロジェクト公式サイト

インドの貧困問題を解決するために私たちができること

ここまでお読みいただき「インドの貧困問題を解決するために、私にできることなんてない」と感じるかもしれません。けれど、小さくても一人一人の力が集まれば、大きなエネルギーとなりインドの貧困解決に役立てられます。

ここからは、私たちが日常生活の中でできることをご紹介します。

【ショッピング】インドのかわいいものを買って貢献!

インドには優れた布製品や、職人による手仕事が今も多く残っています。これらのインド製品を直接職人から仕入れたり、女性の雇用創出に取り組んだりしているアパレルブランドの商品を買うことで、インドの貧困問題に貢献できるのです。かわいいものを買って、インドにも貢献できるなんてうれしいと思いませんか?

では、インドで商品を作っているブランドを3つご紹介します。

ニマイニタイ

ニマイニタイは、インドでも貧困率の高いビハール州を拠点にしているアパレルブランドです。服作りをすることで現地の雇用を生み、人々の生活自立に貢献しています。固定店舗は持たず、全国の百貨店での展示会やオンラインショップにて購入可能です。

ニマイニタイ公式サイト

キヤリコ

キヤリコは、インド現地の職人たちとともに、オーガニックコットンや手紡ぎ・手織りの布「カディ」を使った布製品、伝統的な製法を守りながら作られる商品などを製作しています。インドでも消えつつある伝統的な製法を守るためにも活動しているブランドです。

奈良県奈良市に店舗を構える他、全国の展示会やオンラインショップにて購入可能です。

キヤリコ公式サイト

シサム工房

シサム工房は、関西地方を中心にフェアトレードショップを展開しているブランドです。取引先はインドだけではなく、フィリピンやバングラデシュ、ネパールなど多岐にわたります。インドの伝統的な刺繍や織物、布製品などを使った商品を取り扱っています。

全国に9店舗を展開し、オンラインショップでも購入可能です。

シサム工房公式サイト

【寄付】インドで貧困支援に取り組む団体をサポートしよう!

貧困問題に取り組む団体に寄付をすることも、当然大きな意味があります。特にNPO・NGO団体は常に資金不足の問題を抱えているので、あなたの寄付が大きな力となることでしょう。

前述した「ワールド・ビジョン・ジャパン」や「かものはしプロジェクト」でも、寄付を受け付けています。他にも、インドで活動する団体がクラウドファンディングに取り組んでいることもあるので、様々な活動を調べて選んでみてください。

インドの貧困問題や人口増加に関するよくある質問

インドの人口増加や貧困に関しては、多くの人が疑問や不安を抱えています。ここでは、よくある質問とその答えをわかりやすくまとめました。

なぜインドは世界一人口が多い?

インドが世界一の人口を抱える背景には、高い出生率、若年層の多さ、そして人口抑制政策の遅れがあります。特に農村部では「子どもは多い方が安心」という価値観が根強く、教育や避妊に関する知識が行き渡っていないことも出生数の多さに影響しています。

また、医療の発展により乳児死亡率が下がり、生まれた子どもが育つ確率が高まったことも一因です。経済発展が進む一方で、家族計画の意識が十分に浸透しておらず、人口増加に歯止めがかかっていない状況です。

中国とインドの人口が多い理由は?

中国とインドは、どちらも肥沃な大河流域を中心に農業が発達し、古代から大規模な人口を支えられる環境にありました。さらに、長期的な安定政権のもとで人口増加が促進され、伝統的に子だくさんを良しとする文化も定着しています。

中国は「一人っ子政策」により一時的に人口抑制に成功しましたが、インドは個人の自由を重視した政策方針のもと、抑制が難航しました。その結果、現在ではインドの人口が中国を上回り、世界最多の人口国となっています。

インドの人口推移は?

インドの人口は1950年ごろには約3.6億人でしたが、そこから急激に増加を続け、2023年には約14億人を突破し、中国を抜いて世界一となりました。人口推移のグラフを見ると、特に1990年代以降の伸びが顕著です。

若年層の割合が高く、今後もしばらくは増加傾向が続くと見込まれています。一方で都市化の進行により出生率がやや低下する地域も出てきており、将来的には人口増加が鈍化する可能性もあります。現在は「人口ボーナス期」の真っただ中といえます。

インドの貧困率はなぜ高いままなの?

インドでは急速な経済成長にもかかわらず、貧困層が多く残っています。その理由には教育機会の不足、就業機会の偏り、農村と都市の格差、そしてカースト制度による社会的固定などが挙げられます。

特に農村部では基本的な医療や教育を受けられない人が多く、貧困が世代を超えて連鎖する傾向があります。また、インフラや行政サービスの整備が追いついておらず、福祉政策が十分に機能していない地域も存在します。持続的な貧困解消には、構造的な改革と教育投資が不可欠です。

人口増加が貧困問題を悪化させるのはなぜ?

人口が急増すると、教育・医療・住居・雇用といった社会資源の需要が爆発的に増えます。しかし、インフラ整備や政策対応が追いつかなければ、リソースの供給が不足し、一人ひとりへの支援が届きにくくなります。

特に貧困層にとっては、教育や医療を受ける機会がさらに制限され、貧困から抜け出すハードルが高まります。また、人口過密な地域では環境の悪化や雇用競争の激化も起こり、生活の質が大きく損なわれることになります。人口問題は貧困と密接に結びついているのです。

インドの貧困問題とSDGsの関係

ここまでインドの貧困問題の現状や解決方法についてお伝えしてきましたが、この問題はもちろんSDGsにも関わります。

インドの貧困問題を解決することは、すべての目標と関わりがあります。

貧困問題を解決するには、

  • 飢餓をなくすこと
  • すべての人が保健衛生教育水資源エネルギーにアクセスできる環境を整えること
  • ジェンダー差別をなくし女性の地位向上をはかる

など、様々な側面から取り組みを進めていかなければなりません。(目標1〜7に該当)

そして、これらの問題を解決するには、経済面での課題(目標8〜12に該当)にも取り組む必要があります。

また、インド北部は大気汚染が深刻で、人々の健康を害している事実もあります。環境問題に取り組むことも貧困問題の解決には欠かせません。(目標13〜15に該当)

当然、平和で公正な社会でなければ富の分配はできません。そしてインドの貧困問題に取り組む団体は数多く、そのような国境を超えたパートナーシップを結ぶことで問題解決が加速していくでしょう。(目標16,17に該当)

このように、貧困問題はSDGsすべての目標に関わっているのです。

まとめ

インドの貧困問題について、筆者のインド滞在経験も交えながらお伝えしました。筆者自身、インドで直接見た光景や物乞いに迫られた体験でショックを受けたことも多く、自分にはどうすることもできない無力感を覚えたのも事実です。

インドは「カースト制度」という他の国にはないインド独特の制度があることで、様々な問題が複雑に絡み合っている側面もある一方、将来性を感じさせる要素もたくさんあります。著しい経済成長やIT分野の発展、若い人口が多いことによるエネルギーあふれる国力があることなど、高いポテンシャルを秘めた国でもあると思います。

この記事を読み、少しでもインドに興味を持った人は、記事内で紹介した団体や取り組みについてさらに調べてみてください。あなたのその行動一つが、インドの明るい未来につながっています。

参考文献

日本経済新聞
産経新聞
世界銀行
The Economic Times
国連開発計画(UNDP) 
外務省 第3章 インドの概要・概況 
国連開発計画(UNDP)
在インド日本大使館 | 「3.インドの人口・貧困状況」
JICA インド JICA 国別分析ペーパー
外務省:インド(India)基礎データ
JETRO(日本貿易振興機構)
国際労働機関
東洋経済ONLINE
ユニリーバ
JICA

SHARE

この記事を書いた人

中谷秋絵 ライター

旅するノマドライターを目指し、ライターとして活動中。大学では国際協力を専攻し、環境活動サークルに所属。インド・ニュージーランドに長期滞在の経験があり、大のインド好き。早く海外へ飛び立ちたくてうずうずしている。

旅するノマドライターを目指し、ライターとして活動中。大学では国際協力を専攻し、環境活動サークルに所属。インド・ニュージーランドに長期滞在の経験があり、大のインド好き。早く海外へ飛び立ちたくてうずうずしている。

前の記事へ 次の記事へ

関連記事