
「SDGs(持続可能な開発目標)」が2015年9月に採択され、地球温暖化やマイクロプラスチックなどのキーワードを耳にする機会も増える中、身近なところでの活動が広まっています。本記事で取り上げるコンタクトケースのリサイクルもそのひとつです。
コンタクトケースを大切な資源としてとらえ、リサイクル活動を通して環境保全に貢献できるよう、理解を深めていきましょう。
目次
コンタクトの空きケースが膨大な数捨てられている現状
まずは、コンタクトレンズの現状について確認しましょう。
コンタクトレンズユーザーは1,500万〜1,800万人ともいわれ、国民の約10人に1人が着用している計算です。
近年、特に若者の間でファッションアイテムの一つとしてカラーコンタクトレンズが定着し、インターネットでも簡単に手に入るため市場が拡大傾向にあります。
さらに、衛生面を考えて1日や1週間ごとに交換する使い捨てタイプを使用している人が多く、交換頻度も高い分、空のコンタクトケースもごみとして多く捨てられているのが現状です。
ワンデーのコンタクトレンズを使用している場合、毎日2枚使うと年間730枚のコンタクトケースを捨てる計算になります。
コンタクトレンズユーザーの数を考えるとすごい量のコンタクトケースが捨てられていると想像できますよね。
では、コンタクトケースの廃棄が増えることで、どのような問題が発生するのでしょうか。
コンタクトの空きケースを廃棄することの問題
コンタクトケースは、プラスチックの一種であるポリプロピレンでできています。
プラスチックは「軽い」「耐久性がある」「安価」といったメリットがあるため、様々な商品のパッケージに使われています。
しかし、私たちの生活を豊かにしてくれる一方で、「生産・焼却時に大量のCO2を排出」「マイクロプラスチック化」など、自然界に深刻な問題を引き起こす原因になっています。
それぞれ内容を詳しく見ていきましょう。
焼却時CO2が排出され地球温暖化が加速
石油を原料として作られているプラスチックは、製造から廃棄までの過程で大量のCO2を排出しています。
具体的には、プラスチックごみ1kgに対し、CO2は約5kgも排出していると言われているのです。
このままだと2050年には、世界のプラスチックに関するCO2排出量が、カーボンバジェット(化石燃料からのCO2累積排出上限)の15パーセントにまで上昇すると予想されています。
マイクロプラスチック問題


プラスチックは自然に分解されない素材のため、適切な方法で処分をしなければ半永久的に残り続けるデメリットがあります。
ポイ捨てや風に飛ばされ放置されたプラスチックごみは、陸上から海へと流れ着き、紫外線の影響や波に打ちつけられる衝撃でやがてマイクロプラスチックと呼ばれる直径5mm以下の小さな粒子に変化していきます。
マイクロプラスチックを摂取したプランクトンを食べた魚は、いずれは人間の体内にも有害化学物質として取り込まれる可能性があり、生態系を壊すことに加え健康への被害も懸念されているのです。
【関連記事】マイクロプラスチックとは?生物に与える影響や原因、対策も
コンタクトの空きケースの回収場所
このような背景の中で、近年、コンタクトケースの回収に取り組む自治体や企業が増えています。
例えば、コンタクトレンズの製造・販売をしているHOYA株式会社アイケアカンパニーは、各自治体と協定を締結し、コンタクトケースの回収ボックスを市役所庁舎や地域センターに設置。
町全体でリサイクルに関わる仕組みづくりに率先して取り組んでいます。
コンタクトの空きケースは学校でも回収されている
他にも学生が中心となり、生徒、教師、保護者に呼びかけコンタクトケースの回収に取り組む学校が増えています。玄関やトイレなどに回収ボックスを設置し、気軽に回収に参加してもらえるような工夫がされているようです。
眼科・コンタクトレンズ販売店
コンタクトの空きケースは、眼科やコンタクトレンズ販売店でも回収されています。コンタクトを利用する方が多く訪れており、回収場所として適しているため、眼科やコンタクトレンズ販売店では回収スペースが確保されていることが多いです。
短いスパンで訪れる方は、コンタクトレンズを購入する際に店舗で空きケースを処理することが可能です。
付近に手軽に訪れられる場所がない方は、日ごろ通っている店舗での回収を試みてみましょう。
自治体の公共施設
自治体の公共施設でも処理されていることがあり、具体的に以下の場所で空きケースを回収していることがあります。
- 公民館
- 市役所
- 図書館
- 行政サービスセンター
実際に、栃木県足利市の公式サイトでは、市内の公共施設24ヶ所で回収ボックスを設置していることが明示されています。公共施設も安心して空きケース処理する場所としておすすめです。
では、回収されたコンタクトケースは何にリサイクルされているのでしょうか。
回収したコンタクトの空きケースのリサイクル先
回収されたコンタクトケースは、リサイクル工場で粉砕した後に加工され、再生ポリプロピレン素材になり、様々なリサイクル製品に生まれ変わります。
具体的には車や家電製品の部品、洋服、文房具、物流現場で使われるプラスチックパレットなどに加工され、新たな役割を与えられています。
このように、コンタクトケースをごみとして処分せずリサイクルし製品化することで、資源の有効活用や温室効果ガスの排出量削減、プラスチックごみ削減に貢献できるのです。
リサイクル後の製品について、詳細に解説するためご覧ください。
自動車部品
コンタクトの空きケースは軽くて耐久性や耐熱性があり、自動車部品の材料として適しています。自動車の部品にするまでの一般的な生産プロセスは、以下のとおりです。
- 回収・分別
- 洗浄・塗装除去
- 粉砕・再生ペレット化
- 物性評価・添加処理
- 成形部品化
最終的に、ドアパネルやバンパーに利用される部品として形成されます。HondaやToyotaでは、これらの工程を通じて仕様に合った部品の商用化に成功しています。
家電製品
空きケースはポリプロピレン製であり、電子レンジや炊飯器の内部トレイ・カバー部材などに使用されやすいです。ポリプロピレンは再利用しやすく、さまざまな商品に利用できる便利な素材です。
他にも、リモコンや掃除機・扇風機などの家電製品に利用されており、有効活用されています。
文房具
ポリプロピレンは加工しやすく変形性においても優れており、多様な文房具にも加工されます。空きケースから出来上がる主な文房具は、以下のとおりです。
- 定規
- ファイル
- ふせんホルダー
- ペン立て
再生プラスチックを使った文房具を販売する事例として、欧州でエコ用品を扱う企業もあります。
コンタクトの空きケースリサイクルに取り組む企業
ここでは、コンタクトケースのリサイクル事業を牽引している企業を紹介します。
どのようにリサイクルされ収益は何に使われているのかを理解し、取り組みに参加してみてはいかがでしょうか。
HOYA株式会社アイケアカンパニー
コンタクトレンズ販売店アイシティを全国に361店舗展開するHOYA株式会社アイケアカンパニー。
コンタクトケースをリサイクルに回す「アイシティecoプロジェクト」は2010年に始まり、企業や学校、自治体が参加するなど、活動が広がっています。
先ほど学生の間でもリサイクルの輪が広がっていることに触れましたが、同プロジェクトに参加している学校は3,227校にも及びます。(2023年5月時点)
2023年5月現在、コンタクトケース5億5,900万個分の回収、東京ドーム92.8個分のCO2削減を実現し、累計寄付金額は12,117,095円にのぼります。
リサイクル業者によるコンタクトケースの買取りで出た収益は、視覚障害のある方々の視力回復のために「日本アイバンク協会」へ全額寄付され、リサイクル業務では障がいのある方々に携わってもらい自立・就労の支援につなげているようです。
株式会社シード

コンタクトレンズメーカーの株式会社シードは、使い捨てコンタクトレンズのブリスター(空ケース)を回収し、新たな資源にリサイクルをする「BLUE SEED PROJECT」を立ち上げ活動しています。
回収されたブリスターは「ウォリア・ジャパン株式会社」により、需要の高い物流パレットにリサイクルされ物流関係会社などに出荷されています。
また、ブリスター回収による収益は「一般社団法人JEAN」に全額寄付され、環境保全に役立てられています。
株式会社シードはコンタクトレンズを売って終わりではなく、使用後の製品を資源としてリサイクルに回す、循環型の「サーキュレーターエコノミー」を提唱していることもポイントです。
クーパービジョン・ジャパン株式会社

コンタクトレンズメーカーのクーパービジョンは、コンタクトレンズ製品をより地球に配慮したものにしたいという社員の想いから「クーパービジョンみらいプロジェクト」を立ち上げました。
回収ボックスに集められたコンタクトケースは、再生プラスチック製品を作るリサイクル業者に買い取ってもらい収益を上げています。
この収益は、視覚障害者を援助するため設立された「Optometry Giving Sight(OGS)」に寄付され、適切な検診を受けてこられなかった人への基本的な眼科医療サービスの提供や、眼科医療従事者のトレーニング費用に充てられています。
コンタクトの空きケースのリサイクルに関するよくある質問
ここからは、実際に取り組みに参加する方法をご紹介します。回収場所、回収方法などを把握して正しくリサイクルしましょう。
コンタクトの空きケースの回収場所は?
コンタクトケースを個人で持ち込む場合、ほとんどがコンタクトレンズ販売店となります。以下のリンクに地域ごとの回収場所がまとめられているので参考にしてください。
アイシティ回収BOX設置場所:https://www.eyecity.jp/search/
SEED回収BOX設置場所:https://www.seed.co.jp/blueseed
クーパービジョン回収BOX設置場所:https://coopervision.jp/mirai-project
回収方法は?
回収方法は以下の2ステップのみでとても簡単です。
- コンタクトケースの水滴を取り除き、アルミシールを完全にはがす
- 各所に設置された回収ボックス入れる
アルミシールが残っているケースは回収対象外なので、はがし残しのないように注意しましょう。
アルミシールは各自治体の分別ルールに従って、燃えるごみや不燃ごみとして捨ててください。
コンタクトの空きケースは郵送できる?
2023年5月時点で、各企業のサイトには郵送に関する文言は見当たりません。
郵送ではなく、お近くのアイシティをはじめ、眼科、市役所の入り口など各設置場所を調べ、回収BOXに持ち込むようにしましょう。
また、企業や学校など団体で回収する場合、回収方法が個人と違うケースがあります。一度、取り組みをしている企業に問い合わせをして確認しましょう。
コンタクトの空きケースの回収ボックスがあるのはどこ?
コンタクト空きケースの回収ボックスは、以下の場所に設置されていることが多いです。
- 学校
- 眼科
- コンタクトレンズ販売店
- 公共施設
市の公共施設として、公民館や図書館に回収ボックスが設置されていることがあります。
どの公共施設に回収ボックスがあるかは、自治体のホームページを確認すれば判断できる可能性があるため、確認してみてください。
セブンーイレブンでのコンタクトの空きケース回収は2025年現在も行われている?
セブンーイレブンで2025年現在も回収活動が行われているかは、明示されていません。しかし、セブン銀行の2024年報告書では、社員がコンタクトレンズケース回収活動を実施したことが記されています。
そのため、2025年もコンタクトの空きケース回収活動が実施されている可能性があるでしょう。
手軽に回収したい方は、付近の店舗に聞いてみるのがおすすめです。
アイシティでもコンタクトの空きケース回収は行われてる?
アイシティでは、コンタクトの空きケース回収が行われています。以下は、アイシティの公式サイトの一部を抜粋したのです。
お近くのアイシティ店舗に空ケースを持ち込み、店頭にある回収ボックスの中に入れれば完了です。
※団体でご参加の場合は、貸出用の回収ツールをご利用いただけます。引用元:アイシティ公式サイト
全国に350店舗以上展開しているため、付近にアイシティが営業している可能性があります。
空きケース回収する際のひとつの選択肢として検討してみましょう。
コンタクトケースのリサイクルとSDGsの関係
最後に、コンタクトケースのリサイクルとSDGsの関係について解説します。
「SDGs(持続可能な開発目標)」はSustainable Development Goalsの略で、2015年9月に国連サミットで採択された、2016年から2030年までの間に持続可能でより良い世界を目指すために掲げた国際目標です。
SDGsは「17の目標」と「169のターゲット」から構成されていますが、今回は特に関係の深い3つの目標について解説します。
コンタクトケースをリサイクルする取り組みは目標12「つくる責任つかう責任」のターゲット12.4に当てはまります。
2020年までに、国際的な取り決めにしたがって、化学物質やあらゆる廃棄物(ごみ)を環境に害を与えないように管理できるようにする。人の健康や自然環境に与える悪い影響をできるかぎり小さくするために、大気、水、土壌へ化学物質やごみが出されることを大きく減らす。
リサイクルに関して正しい知識を持ち適切なステップで回収すると、焼却時のCO2削減への貢献、プラスチックの化学物質が水に溶け出すことを防ぎ、自然界にもたらす悪い影響を抑えられます。
海に流れるゴミを少しでも減らし、マイクロプラスチックにならないよう努める行動は目標14「海の豊かさをまもろう」のターゲット14.1に貢献できます。
2025年までに、海洋ごみや富栄養化など、特に陸上の人間の活動によるものをふくめ、あらゆる海の汚染をふせぎ、大きく減らす。
私たち一人ひとりがプラスチックごみを減らす努力をすれば海に流れ着く量も減り、マイクロプラスチック化を防ぐ手助けになります。
コンタクトケース自体は小さいものですが、リサイクルに取り組めば環境保全にとって大きな力になるのです。
回収されたコンタクトケースのアルミシールをはがす作業をはじめとする、リサイクル業務を障がいのある方々に担ってもらい、自立支援・就労支援につなげている点は目標8「働きがいも経済成長も」のターゲット8.5につながる取り組みといえます。
2030年までに、若い人たちや障害がある人たち、男性も女性も、働きがいのある人間らしい仕事をできるようにする。そして、同じ仕事に対しては、同じだけの給料が支払われるようにする。
「アイシティecoプロジェクト」では、リサイクル準備作業や回収協力者へ贈る小物製作など、障害のある方が働きがいを持って活躍できる場所を提供しています。リサイクル活動は、雇用を生み出し様々な方が輝ける未来に繋がります。
>>各目標について詳しくまとめた記事はこちらから
まとめ
コンタクトケースはリサイクルにとても適した素材のポリプロピレンで作られています。
一つひとつは小さいものですが、多くが集まれば新しい製品に生まれ変り、また私たちの暮らしを豊かにしてくれます。
日々の行動と意識を少し変えてリサイクルに回すだけで、ごみ焼却時のCO2やマイクロプラスチック削減につながります。環境保全のために、自分に何ができるのか身近なところに目を向け行動することが大切です。
ぜひ今日からはコンタクトケースは捨てず、リサイクルに回すように心がけてみてはいかがでしょうか。
参考:
消費者庁『コンタクトレンズによる眼障害について -カラーでも必ず眼科を受診し、異常があればすぐに使用中止を-』
総務省統計局『メガネ、コンタクトレンズの支出』
東京都環境局『プラスチック製容器包装 プラスチックをリサイクルする意義』
unicef 持続可能な世界への第一歩 SDGs CLUB
この記事を書いた人

スペースシップアース編集部 ライター
スペースシップアース編集部です!
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