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【SDGs未来都市】愛媛県松山市役所 |先人から受け継いだ地域の宝を守り続けたい

愛媛県松山市役所 伊藤 さん インタビュー

愛媛県松山市役所 伊藤 さん

伊藤 智祥

1971年、愛媛県松山市生まれ。愛媛大学卒業後、1996年4月に松山市役所に入庁。環境分析、公害行政、廃棄物処理施設の維持管理、廃棄物行政、環境教育、地球温暖化対策など環境行政全般を担当。2020年3月には、福岡大学大学院で博士(工学)の学位を取得。2021年4月から総合政策部企画戦略課SDGs推進担当課長に着任。SDGsの推進に向け、地域や学校、企業などを奔走中。

Introduction

2020年、SDGs未来都市に選ばれた愛媛県松山市。SDGsが採択される前から、日照時間が長く、降雨量が少ない地域特性を生かし環境に配慮した取り組みを行っています。

今回は松山市役所様に、行政とSDGsを関連させたきっかけや、SDGs未来都市としての取り組み、今後の展望などについてお話を伺いました。

“環境モデル都市”に選ばれた松山市

-松山市について教えてください。

伊藤さん:

松山市は愛媛県の中央に位置し、人口約51万人を有する四国最大の都市です。松山平野に位置し、都市部の利便性や、山間部や島の豊かさ、自然環境がコンパクトに繋がったさまざまな魅力を持ち合わせています。

また、温暖な瀬戸内海式気候に属していて、日照時間は全国でもトップクラスを誇ります。

他にも道後温泉や松山城など、さまざまな観光地があり、第3次産業が約8割を占めるなどの特性があります。

松山市庁舎
松山市庁舎

– 松山市では特に環境に力を入れてまちづくりを進めている印象があります。SDGsについて伺う前に、環境面について詳しく教えていただけますか?

伊藤さん:

仰る通り、これまで松山市は環境面に力を入れた取り組みを進めてきました。

2012年3月には、低炭素社会の実現に向けた取り組みが評価され、「環境モデル都市」に選定されています。さらに、2018年3月には持続可能な都市と地域を目指す自治体協議会・イクレイ(※)に加盟し、加盟団体と連携を深めてきました。

イクレイとは

持続可能な社会の実現を目指す2,500以上の自治体で構成された国際ネットワーク。

-世界屈指の環境都市である、ドイツのフライブルク市とも姉妹都市提携を結んでいますよね。

伊藤さん:

はい。1989年に姉妹都市提携の調印をしており、以降、環境分野をはじめ、さまざまな交流を続けています。

また、2018年10月にフライブルク市で第1回国際姉妹都市会議が開催されました。そこでは、松山市を含むフライブルク市の姉妹都市・13市がSDGsの達成に向けた姉妹都市宣言に署名しています。

姉妹都市提携30周年記念訪問団 フライブルク市訪問
姉妹都市提携30周年記念訪問団 フライブルク市訪問

「サンシャインプロジェクト」で脱炭素化を目指す

-では、具体的に松山市ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。

伊藤さん:

松山市は日照時間が長いという特性があるため、「太陽エネルギー」に注目し、クリーンエネルギーの導入を促進してきました。

2007年から、太陽エネルギーを活用した「サンシャインプロジェクト」という、脱炭素化と産業創出を目的とした計画を始めており、太陽光発電システムの世帯普及率は、中核市でトップクラスの水準を誇っています。

また、ゴミの少ない町としても知られています。人口50万人以上の都市において、1人が1日当たりに排出するゴミの量が少ない自治体として、毎年上位に位置しているんです。

-それらが土台となってSDGsに取り組み始めたということでしょうか。

伊藤さん:

そうですね。長きに渡って「持続可能」「環境」をテーマにまちづくりを進めていたので、SDGsを行政に取り込むことは自然な流れでした。

とはいえ、SDGsは環境だけではなく、社会や経済の側面についても考える必要があります。そのため、SDGs未来都市計画では、その辺りの要素もしっかり組み込んで策定しました。

安全で環境に優しい持続可能な観光未来都市を目指す

-では、SDGs未来都市の計画内容を教えていただけますか?

伊藤さん:

松山市には、世界に誇れる道後温泉や松山城などの観光資源をはじめ、太陽の恵み豊かな自然環境、さらに、お接待の精神が宿る地域コミュニティ、多様な主体が活躍できる文化的土壌など多くの宝があります。

これらがさらに50年後、100年後の松山市を支えるものとなるよう、さまざまなステークホルダーが協力して、「安全で環境にやさしい持続可能な観光未来都市を目指す」という計画になっています。

-具体的にはどのような取り組みを進めているのでしょう?

伊藤さん:

具体的に、経済面では”魅力向上で選ばれる都市づくり”、社会面では”生活に安らぎがある安全安心で快適な暮らしの実現”、環境面では温暖な気候や瀬戸内海の島々など豊かな環境との共生”というように、それぞれでテーマを掲げて取り組んでいます。とはいえ、三側面を繋いで統合的に取り組みを進めていかなければなりません。

そこで「松山SDGsプラットフォーム事業」を立ち上げました。

現在200を超える団体が松山市SDGs推進協議会に所属している

松山市SDGs推進協議会
推進協議会シンボルマーク

-松山SDGsプラットフォーム事業というのは、どのような活動になるのでしょうか?

伊藤さん:

プラットフォームとして「松山市SDGs推進協議会」を立ち上げました。このプラットフォームは、新しい価値を創出しながら、持続可能性を高めていくことを目指しています。当初は約90団体でスタートしましたが、現在は200を超える団体に参加していただいています。

-企業がメインのプラットフォームでしょうか?

伊藤さん:

企業以外にも、経済団体・大学・高校・NPO法人・市民団体・金融機関・松山圏域を形成する周辺の2市3町など、さまざまな団体に参加していただいています。

プラットフォームでは、SDGsの勉強会としてSDGsの知見や地域のニーズ、課題を共有したり、ワークショップでどのように課題の解決ができるかを話し合ったりしています。その中でマッチングが進み、具体的な地域課題を解決するような分科会も立ち上がっています。先行する分科会では、観光を切り口に地域の賑わいを創出する話も出ています。

松山市SDGs推進協議会
推進協議会総会

-どのような話が出ているのでしょうか?

伊藤さん:

まず、松山市の回遊性を向上させることです。

松山市は、市役所、松山城、道後温泉、空港、港、駅などが、中心部にギュッと詰まっているまちです。その利便性の良さから観光客は増加していましたが、コンパクトゆえの課題もあります。

-どのような課題でしょう?

伊藤さん:

1泊すれば松山市にあるだいたいの観光地を訪れることができるので、観光客の滞在日数が少ない傾向にあります。

そこで、「フィールドミュージアム構想」を掲げ、中心部だけでなく郊外を含めた、それぞれのエリアの魅力を繋いでいこうとしています。

スマートアイランドの活用

中島の風景
中島の風景

-具体的に教えていただけますか?

伊藤さん:

松山市には、瀬戸内海国立公園の中に浮かぶ離島・中島があります。

中島には、青く澄んだ海と多島美など美しい自然環境に加え、豊富な柑橘や魚介類などを味わうことができます。道後温泉や松山城などの中心地に加えて、この中島へも足を運んでもらえるようにしたいんです。

そのために、中島で立ち上がっているプロジェクト「スマートアイランド」を活用できればと考えています。

このプロジェクトでは、島に設置している太陽光発電から作られた電力を、グリーンスローモビリティやEバイクなどに利用して島内を回れるようにしています。このような取り組み(※)を発信することで、サステナブルツーリズムのニーズを取りこめるのではないかと。

-確かに興味のある方は、明日はそちらに行ってみようとなりそうです。

伊藤さん:

そうなれば、市内電車やバス、フェリー乗り場など、交通結節点の観光コンテンツともリンクさせることができます。さらには、人の移動があれば経済循環にもつながるだろうと。

中島では、みかんの収穫体験や、お茶摘み・お茶もみなどのさまざまな体験も可能です。「フィールドミュージアム構想」で、これらのコンテンツを結びつけられるようにしていきたいですね。

グリーンスローモビリティ
グリーンスローモビリティ

小学生向けにローカル版のSDGs冊子を配布

-他にも注目の取り組みとして、松山市は小学生向けのSDGs冊子も配っていますよね?

伊藤さん:

はい。「みんなで始めよう未来のために」という小学校の高学年向けに作ったローカル版のSDGs冊子があります。これは、松山国際交流協会や地元NPO、愛媛大学や小学校の先生の知見に、株式会社学研プラスのノウハウを加えて作った冊子で、“松山から持続可能な世界へ”ということで、各小学校に配布しています。

ローカル版のSDGs冊子
ローカル版のSDGs冊子

-どのような内容でしょう?

伊藤さん:

生徒はもちろん先生にもSDGsについて勉強できるような内容にしています。

「身の回りのSDGs」をテーマに「教室の中でどんなSDGsがあるか」「松山市がどのように世界と繋がってるか」「あなたが校長先生だったらどういう学校行事をしますか?」といった書き込みができるようになっています。

SDGsの目標1から内容を理解するという冊子はあるものの、このような自分ごとで考えるものはあまりないなと感じていたので、松山市でも積極的に活用しています。

-松山市版SDGs冊子は、自分ごと化しやすそうです。

伊藤さん:

そうですね。おかげさまで好評をいただいていますし、他の自治体からも「これを使っていいか?」とお問い合わせを頂きました。

-このような取り組みを進める中で、住民の方や企業に変化はありましたか?

伊藤さん:

松山市では毎年「市民意識調査」を行っていますが、2018年12月に実施した調査で初めて「SDGsを知っていますか?」という設問を入れました。

その後、SDGs未来都市に選ばれてはいるものの、周知自体は2020年から本格的に取り組み始めたこともあってか、2020年度の調査でも「まだ知らない」と回答した方が6割にのぼりました。

その結果をもとに、新聞や広報誌・繁華街のストリートビジョン・電車やバスの中吊り広告など、さまざまな媒体で周知啓発を行いました。また、市民の皆さんが集まるコミュニティに、市職員が直接伺って、市の取り組みを説明するまちかど講座なども行っています。

-環境イベントや防災の訓練と合わせてSDGsの講習会も開催されていますよね?

伊藤さん:

はい。SDGsと親和性が高いイベントでは、こちらから積極的に働きかけをして、啓発時間をもらったり、ブースを出展させてもらったりしています。

そのような機会を増やしていったことで「かなり認知がされてきたかな?」と、私自身手応えを感じています。次回の市民調査でのSDGs認知度には期待をしています。

SDGsの講習会
防災訓練

-啓発のために、色々な取り組みを進めているんですね。

伊藤さん:

そうですね。他にも、個人でSDGsの取り組みを応援してくれる方向けに「松山市SDGsサポーターズクラブ」を作っています。現在は、新型コロナウイルスの影響もあり、イベント情報やSDGsを達成するために個人でも取り組めることなどを配信するメルマガのみとなっていますが、今後は応援してくれる方々と企業が取り組んでいるプロジェクトを結び付けたいと考えています。

より具体的な行動を促し、持続可能な松山市へ

環境イベント
環境イベント

-では最後に、今後の展望を教えてください。

伊藤さん:

現段階ではSDGsやプラットフォームの仕組みを知ってもらうことをメインに行っていますが、2030年まで時間もないので「実際に行動につなげていく」ことを目標に掲げています。

まず企業等の活動については、先ほどお話した「松山市SDGs推進協議会」での、セミナーやワークショップの充実を、行政としても後押ししたいと考えています。

コロナ禍ということもあり、なかなか対面での交流ができないので、2020年度にデジタルプラットフォームを導入しています。デジタルプラットフォーム上で会員同士の交流や、企業の取り組み、イベント情報などを知ることができます。

-さまざまなマッチングも生まれそうですね。

伊藤さん:

実際にマッチングが起こってはいるものの、やはりデジタル上のみで関係性を築くのは難しいとも感じています。

今後は新型コロナウイルスの感染状況を見ながらではありますが、会員ニーズに合わせたテーマ設定をして、対面での交流会を企画したいと考えています。

-対面での交流会が実現すれば、また新しい取り組みが生まれそうですね。

伊藤さん:

期待しています。また、学習指導要領が改訂され、その中に「持続可能な社会の創り手の育成」が明記されました。学校現場では、SDGsに関する人材を求めています。

そこで、SDGsに取り組む企業に学校への出前講座を促し、より具体的な行動を起こすためのヒントをお届けしたいと考えています。

他にも、60歳以上の方はSDGsそのものを知らないという現状を変えていきたいと思います。お年寄りが集まるコミュニティで講座を開催したり、テレビでSDGsの情報を流したりするなど、アプローチ方法も検討していきます。

最後に、この記事をお読みいただいたみなさまには、松山市の取り組みに興味を持っていただき、ぜひお越しいただければ嬉しいです!

取材 大越/ 執筆 Risa

インタビュー動画

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