#インタビュー

認定NPO法人フードバンク渋谷|みんなが当たり前に助け合い、笑顔で暮らせる社会を目指して

認定NPO法人フードバンク渋谷 久保田さん インタビュー

久保田寿江(くぼた ひさえ)

1975年1月7日、静岡県富士市生まれ。1993年、静岡県立清水南高等学校卒業。1997年、東北芸術工科大学卒業。現在は、プロテスタントキリスト教会「宗教法人Kingdom Seekers」の責任役員。2010年に寄付という形でイスラエルのフードバンク支援を始める。2016年より、教会の中で生活に困った方を対象にフードバンク活動を開始。その後、聖書に書かれている「隣人を愛しなさい」の実践から、活動を地域に広げるため「NPO法人フードバンク渋谷」を教会メンバーたちとともに設立。自身は事務局長を務めている。渋谷区の行政や関連機関・団体、ボランティアの方々と連携・協力しながら、地域に根ざした支援ネットワークづくりに取り組んでいる。2021年9月に東京都より認定NPO法人の認定を受ける。11月に渋谷サステナブル・アワード2021の大賞を受賞。

introduction

フードバンク渋谷では、まだ安全に消費できるにも関わらず、さまざまな理由で廃棄せざるをえなくなった食品を企業や個人から提供していただき、食糧支援を必要としている方に無償で渡しています。実際はフードバンクだけの活動に留まらず、暮らしに困る人々の話を聞き、渋谷区の行政や関連機関・団体との連携を通してまちづくりへの貢献も果たしています。

今回はフードバンク渋谷の久保田さんに、フードバンクでの取り組みについてお話を伺いました。

「他人を思いやる」から始まったフードバンク活動

<フードバンク渋谷のロゴ画像>

–まず、なぜフードバンクの活動を始めようと思ったのか、その経緯を教えてください。

久保田さん:

2010年より、寄付という形でイスラエルのフードバンクを長年支援してきました。「日本にもこういった仕組みが必要」と思う中、浅草橋にあるフードバンク「セカンドハーベストジャパン」の活動記事を目にし、所属している教会で私たちもやってみようと2016年にフードバンク活動をスタートしました。まずは教会員の中で生活に困っている人々を対象に「セカンドハーベストジャパン」に協力してもらって食品を提供いただき、それを渡したのです。

–フードバンク渋谷の母体はキリスト教会なのですね。宗教団体が社会貢献に努めている例は多いですが、なぜこういったケースが多いと思いますか?

久保田さん:

私たちの場合は、聖書に書かれてある通りのことをしているまでです。聖書の中の申命記には、神は孤児や未亡人を保護し、在留異国人を愛して食物と衣服を与える、と書いてあります。ほかにも、世の中には常に貧しい人たちがいるので彼らに手を差し伸べなさい、と書かれているので、それらを実践しています。

私たち以外にもキリスト教会が社会貢献活動を行っているケースは世界中にあり、例えばアメリカや香港では、キリスト教会が母体となっているフードバンクが多くあると聞いています。

–今でこそ、お金を支払えば多様なサービスを受けられる世の中ですが、元をたどれば「他の人を思いやる」という気持ちがベースにありますね。

久保田さん:

そうですね。それが人間の活動の根幹にあるべきだと思います。それに、自分が助けてもらった経験をすると、いつか自分も誰かを助けたいという気持ちになるのではないでしょうか。「他人への思いやり」を出発点とした、ある意味で見返りを求めない活動は、本来の人間として当たり前なのだと思います。

性別・年代に関係なくフードバンク利用は増えている

–フードバンク渋谷は渋谷区近隣エリアを中心に活動されていますが、サービスを利用したい人はどのように申し込むのでしょうか。

久保田さん:

渋谷区の行政と連携していて、区役所の生活支援相談窓口で食糧支援が必要な方に案内状を発行して貰っています。ほかには、自分でフードバンク渋谷のウェブサイトを見て「支援してほしい」と連絡いただく方もいれば、他のフードバンク団体からの紹介という場合もあります。

–利用者にはどんな方がいるのでしょうか。

久保田さん:

多いのは40〜50代の単身男性で、非正規雇用で働く人たちです。社会保険や福利厚生が不完全な環境で働いているため、怪我や病気・失業によって、ただちに生活が困窮してしまうのが原因です。コロナ禍にあってはひとり親の利用が増えました。

また最近は、若い方の利用も増えてきています。コロナの影響で、クリエイター職の人が従来のような活動ができなくなってしまい、十分な収入が得られなかったりというケースもあります。フリーランスの方々は大変な状況だと思います。

–渋谷区には、多様なバックグラウンドを持った方々が暮らしていると思いますが、利用者の中には外国人もいますか?

久保田さん:

はい。日本語学院の学生さんが利用しています。多くはコンビニや飲食店といった場所でアルバイトしているため、コロナの影響などによって解雇されてしまい、生活が困窮することもあるようです。

–ひと口に「生活困窮者」といっても、いろんなケースがあるということですね。

街の中の「見えにくい“つらい”」を発見する

–フードバンクのサービスを利用するには何通りかの入り口があるとは言え、自分からはなかなか助けを求められない人もいるのではないかと思います。そういった人たちに向けて、どのようなアプローチを取っているのか教えてください。

久保田さん:

はい。フードバンクの活動は今年で6年になりますが、最近は利用者の年齢層が幅広くなり、より多くの人たちにアプローチすることが大切だと感じています。

一昨年より渋谷区の行政と連携して、ひとり親の家庭にチラシを送付しています。今ではそれを見て連絡をくれる人も増えています。

ただ、初めて利用される人の中には「私が利用していいの?」と疑問に思う人も少なくありません。そもそも「生活困窮者」という単語も良くないのではないかと思いますが、自分が生活困窮者に該当するとは自覚していないケースもしばしばあるのが現状です。

<配布しているチラシ>

–確かに、世間一般の「生活困窮者」「貧困」へのステレオタイプな印象から、自分がそういった立場におかれた時に、自覚しづらい人もいるのかもしれませんね。

久保田さん:

2020年から新型コロナウイルスのパンデミックが始まりましたが、その影響で仕事が減り、収入に影響が出ている人々の利用が多くなっています。「私なんかがフードバンクを利用していいんですか?」という人でも実際に話を聞くと、生活が大変だと感じるケースは多いです。

誰かに「大変ではないですか!」と声をかけられて、初めて「あ、やっぱり大変なんだ」と気づくことも多いのではないでしょうか。みんなが大変な状況だから…と、自分が支援が必要であることを自覚しづらいのかもしれません。

<活動の様子>

–SNSなどの情報から容易に他人と比べることができる世の中になっていることも、支援が必要なことを自覚しにくい環境に繋がっている気がします。

久保田さん:

厚生労働省の調査では「相対的貧困」の所得ラインは1ヶ月約10万円です。フードバンク渋谷を利用する人の中には、ある程度高い家賃を払っている人もおり、日本における相対的貧困の所得ラインと比べると所得は高めかもしれません。しかし、実際に困っているかどうかは単純に所得だけでは測れないのも事実です。

–所得はあっても家賃などが高額で、生活に使えるお金がなくなってしまうような、生活困窮に陥る場合もあるということですね。

久保田さん:

例えば、急に離婚することになり、世帯収入が減ってしまい、かといって引っ越せる金銭的余裕がない場合、結局は無理をしながら暮らさなければなりません。子供を塾に行かせるために、フルタイムの仕事を終えてさらにアルバイトをしているひとり親の方もいます。

一般的には「食べていけない=困窮」と思われがちですが、何らかの理由で世帯収入が減ったり、子供の成長とともに必要な支出が増えると、生活が維持できなくなるといった状況そのものが「生活が困窮している」とも言えるのです。しかも人によって状況が異なるため、一概に周りの人とは比べられないと思います。

だから、フードパントリーを利用しに来てくれる人の話を直接聞いて、それは大変なことなんだよ、とこちらが気づいて言葉にしてあげることも大事だと考えています。

–確かに、利用者の今いる状況を客観的にみて声をかけるようなサポートも必要ですね。

久保田さん:

コロナ禍では、テレワークで収入にいっさい影響を受けない人もいれば、失業してもなかなか仕事が見つからなかったり、シフトが減ったまま長期的に収入が減ってしまっても転職活動をする時間も精神的な余裕もない方々がいます。

お子さんを抱えたひとり親世帯がかなりの影響を受けていますが、こういった状況は社会構造上の問題でもあるので、個々で抱えるのではなく社会全体で思いやる雰囲気が大切ではないでしょうか。まずは立ち止まって一緒に考えよう、みたいな一息ついてもらうことが必要だと思っています。コロナ禍の休業支援があってもそこにたどり着けない方もたくさんいるので一緒に考える伴走者になりたいです。

–現状から抜け出すために忙しく働き、ゆっくりと考える時間の余裕がなくなる。立ち止まれない人が多いという状況も、現代の社会が抱える大きな問題のひとつなのかなと感じます。

自治体や団体と協力して、もっと支援の幅を広げたい

<生活福祉課、社会福祉協議会、関連団体、フードバンク渋谷との検討会議>

–フードバンク渋谷では、渋谷区の行政と連携して具体的にどのような取り組みを行ってるのでしょうか。

久保田さん:

清掃リサイクル課が実施しているフードドライブで区民の方々から集めた食品を提供してもらい、防災課には入れ替えの時期がきた防災備蓄品を提供してもらっています。

生活福祉課とは、生活支援相談窓口で食糧支援が必要な方に案内状を発行してもらったり、逆にフードパントリーを利用した方を生活支援相談窓口に繋いだりと相互的な連携をしています。

ほかにも子ども青少年課に、児童扶養手当を受給しているひとり親世帯への郵便物にフードパントリーのチラシを同封してもらい、利用を呼びかける取り組みを行っています。

–さまざまな連携を行っているのですね。フードバンクで集まった食糧を配布する「フードパントリー」は、どこで実施しているのでしょうか。

久保田さん:

利用者の利便性を考えて、地域のコミュニティセンターや子育て支援施設などを会場にして、いくつかのエリアで「フードパントリー」を実施しています。協力団体との共催も含めると月に6回実施していますが、今後は区の地域振興課とも連携し、まちづくりの観点を取り入れながら、さらに受け取り場所を増やしていけたらと考えています。

–学生さんが運営主体となっているフードパントリーもあるそうですね。

久保田さん:

はい。明治大学の学生さんが中心となり、外国人留学生を対象とした受け取り場所も2020年から始まりました。

この学生さんは、自身が海外留学をした時期に新型コロナウイルスが流行し、情報が少なくてとても大変な思いをしたそうです。その経験から、自分と同じような思いをしている学生を助けたいと思い、私たちに相談を持ち掛けてくれました。

また同時期に、日本語学院から「生活資金が賄えなくなり困っている学生たちのために、食糧を提供してもらえないか」と相談がありました。そこで、じゃあ一緒にやろうということになり、日本語学院に場所を提供してもらって、外国人留学生向けのフードパントリー「Food pantry Bloom」が始まったのです。

–協力者が増えれば、できることも増えますね。フードバンク渋谷として、食糧の提供以外にも生活支援を行うことはあるのでしょうか。

久保田さん:

食糧支援を通じて人との関係が構築されていくので、寄り添って話を聞き、必要に応じて母子生活支援施設や生活保護といったサービスへ繋げることはあります。そうでなくても、常に「この人のために、ほかにできることはないか」を意識しています。

フードバンクは本当に社会問題を解決できるか?誰もが平等に暮らせる社会のためにできることとは

–フードバンク・フードパントリーの取り組み自体は、本当に素晴らしいと思います。ただ一方で、企業が余るほど食べ物を生産する必要があるのか、という現代社会の仕組みそのものが問われている気もします。

過剰生産や破棄を含めた「食品ロス」問題を解決できる方法はないのでしょうか。

久保田さん:

例えば、渋谷区内で発生する全ての食品ロスを集めたとすると、フードバンク渋谷だけではとても活用しきれないのが実態かと思います。一つの解決策としては、需要と供給を可視化できるシステムがあればいいなと思っています。企業の食品ロスを可視化し、フードバンクも含め食品ロスを有効活用できる福祉団体や市民団体とマッチングができるようになると良いですね。

また、寄付の問い合わせが多いのは防災備蓄品ですが、何ヶ月か賞味期限に余裕を持って備蓄品の入れ替えを行う企業も多いため、例えば企業の備蓄品の賞味期限や量のデータベースがあって、公費で防災備蓄品を購入するような公共機関に寄付できるような仕組みがあれば、備蓄品を購入しなくても、ある程度は回るようになるかもしれません。備蓄品の廃棄量はとても多いので有効活用する必要があると思います。

–そうすれば、食品ロスが削減できるような気がします。

久保田さん:

また、フードパントリーにあっては、誰を食糧支援の対象とするのかという共通認識が必要だと思っています。ひとことで「食糧支援を必要としている人」といっても人によって認識はさまざまです。

–それはどういうことですか?

久保田さん:

食品を提供する企業側からすると、本来なら売れるはずだった商品である以上、本当に必要な人にだけ届けて欲しいと考えますが、渋谷区においてはその日の食べ物にも困っている人だけを対象とするならば、その需要はわずかです。「本当に必要な人」といっても定義は曖昧ですよね。

相対的貧困ラインの人だけを対象とするのか、就学援助対象世帯も対象とするのか、ひとり親世帯全てを対象とするのか、孤立しがちな世帯も対象とするのかなど、関係者の中で共通認識があると良いなと思いますが、協議する場もないのでそれぞれが認識の異なるイメージを持って関わっているというのが現状です。

食品ロス削減に積極的に取り組んでいけば集まる食品の量も増えますし、食品が増えれば利用者も増やさなければバランスが取れません。低所得者を対象にある程度の幅を持たせベーシックインカム的な継続利用を可能にしていくのが良いのではないかと考えています。

–そもそも商品化する量を減らせないのか?とも思ってしまいますが…。

久保田さん:

そうですね。消費者が好む季節限定品やイベント商品は販売期間が限られているので大量の食品ロスが発生しますし、いわゆる賞味期間の1/3以内で小売店舗に納品する「1/3ルール」などの商慣習も変えないと、食品ロスは無くせません。根本的に、そこから変わるといいなと思います。食品ロスは、フードバンクの存在以前に、社会全体で解決すべき問題と捉えています。

パートナーシップで仲間を作り、誰もが暮らしやすい世の中を

–では最後に、今後の展望や目標を教えてください。

久保田さん:

今までフードバンク活動に携わってきましたが、この2年ほどで「支援したい!」と名乗りを上げてくれる人がとても増えているなと感じています。同時に、活動を通して「こういう活動をしている人がいるのか!」と、さまざまな出会いにも恵まれました。

今後はこういった出会いを活かして、フードバンク渋谷だけではできないことをしたいと考えています。パートナーシップの範囲を広げ、自分ができることを持ち寄って、社会の変革につなげたいです。

–まさにSDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」の貢献にもつながりますね。

久保田さん:

はい。実は、今までフードバンク渋谷の活動目的は「食品を渡す」までしか定義されていなかったのですが、「その人々が食品以外にも必要とする生活支援や相談窓口につなぐことを通して、地域の人々がお互いに助け合える仕組みを作り、笑顔を創出するまちづくりに貢献する」という言葉を今年度追加したところです。

みんなの思いがうまくまとまれば、社会を変える大きな力になると思います。 支援したい人の思いと支援を必要としている人をどうやって繋げるか、その仕組みづくりを今まさに模索しているところです。 私個人としても、フードバンク渋谷としても、持続可能な社会づくりの一員として関わっていきたいです。

–本日は貴重なお話をありがとうございました!

◆フードバンク渋谷では、食糧寄付・寄付金を受け付けています。(食糧寄付は渋谷区民限定)詳しくはウェブサイトからメールでお問い合わせください。

インタビュー動画

関連リンク

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