#インタビュー

北海道札幌市|市民や企業とともに新たなまちづくりを実現したい

北海道札幌市 環境局 環境政策課 佐竹さん インタビュー 

佐竹 輝洋

1979年宮城県出身。北海道大学理学部卒業後、2004年に札幌市入庁。2008年より環境計画課へ配属となり、環境教育や温暖化対策等の環境政策を担当。環境省地球温暖化対策課への出向経験などを経て、2015年よりSDGsに関わり、2020年に現職。2018年3月に策定した第2次札幌市環境基本計画へのSDGs導入や、2018年6月に札幌市を含む全国29都市が選定された「SDGs未来都市」などを担当するとともに、SDGsの普及や実践に向けた様々なセミナーや講演会等へ登壇している。

Introduction

2018年にSDGs未来都市に選出されるなどSDGs推進都市として有名な札幌市ですが、実はSDGsが採択される以前から環境問題やフェアトレードに対する取り組みを行っています。

今回は札幌市と環境問題、SDGs未来都市としての取り組みや、フェアトレードタウンとして認定された経緯、今後の展望などについて伺いました。

197万人が住む北海道の中心都市・札幌

–まず、札幌市について教えてください。

佐竹さん:

札幌市は、197万人が住む北海道の中心都市です。1年間に約5mもの雪が降るにも関わらずこれだけ多くの人口を持つ都市は、世界でも札幌だけです。おいしい食べ物や豊かな四季にも恵まれており、海外の方からも人気の観光地となっています。

また、市民の満足度が高いのも特徴の1つと言えます。毎年行っている市民アンケートでは9割以上の人が「札幌が好き」と回答しています。その理由としては、「自然豊かなところ」という回答が上位に来ており、少し足を伸ばせば、北海道の大自然に触れられるという立地の良さも魅力だと思います。

–自然が多いというのはあまりイメージにありませんでした!

佐竹さん:

札幌市全域で見ると、実は森林が6割を占めており、熊や鹿なども市内に生息しています。

2018年3月に策定した「第2次札幌市環境基本計画」では、その中の取り組みの1つとして、「都市と自然との共生」を掲げています。動植物と共生するために、人間が気をつけなければならないことはたくさんあります。

–具体的にはどういった心掛けでしょうか?

佐竹さん:

例えば、庭に生ごみを出しておくとそれを狙った動物が現れ、市街地に野生生物が出没する可能性が高まりますので、ごみの処理の仕方に気をつけたり、生き物が人間の存在に早めに気づけるよう、住居エリアと森林の間の草刈りを行い、見通しを良くすることで野生生物が人間に気付きやすいようにしておく、といったこともあります。野生生物と共生していくための心がけがとても重要だと思っています。

1972年に開催された札幌オリンピックを機に環境問題と向き合う

–札幌市では、自然や生物との共生といった環境への意識が市民の中に根付いているのですね。

佐竹さん:

そうですね。これまでの歴史の中で自然と身に付いたのかもしれません。

歴史を少しお話すると、1950~1970年代の札幌の環境は必ずしも良いものではありませんでした。石炭を燃やして暖をとっていたため、その石炭から出る”すす”によって、空気が汚れてしまっていたのです。

また、1960~1970年代初頭には、工場排水によって川の水が汚れ、鮭が戻らなくなってしまったこともありました。その時は、水質浄化やそれによって鮭の遡上を目的とした市民主体の「カムバックサーモン運動」が行われました。

そのような状況の中、1972年には札幌での冬季オリンピックの開催が控えており、汚れた空気で世界中の皆さんを迎えるわけにはいかないと、札幌駅から大通駅あたりの地中にパイプを設置し都心エリアの暖房や給湯のための温水を通す「地域熱供給システム」が導入されました。

–約50年前から環境に対する取り組みが行われていたんですね。

佐竹さん:

はい。その後、1998年には「第1次札幌市環境基本計画」が策定され、環境問題に対し、総合的に取り組む形になりましたが、当時は、オゾン層の破壊や酸性雨といったいわゆる「目に見える」環境問題が取り上げられていました。

一方、地球温暖化に伴う気候変動により、大雨や台風といった気象災害が徐々に増え、環境問題が地球規模での課題となってきたこともあり、先ほどの「第2次札幌市環境基本計画」を策定し、その中にSDGsの要素も反映させました。

次世代の子どもたちが笑顔で暮らせる持続可能な都市を目指す

–それがきっかけで未来都市に選出されたのでしょうか?

佐竹さん:

そうですね。SDGs未来都市の公募が始まったのがちょうど「第2次札幌市環境基本計画」を策定したタイミングでした。札幌市としてもSDGsに率先して取り組むこととしていましたので手を挙げた形です。

–SDGs未来都市として具体的にどのような取り組みをされていますか?

佐竹さん:

政府からSDGs未来都市に選定されたことを受けて策定した「SDGs未来都市計画」では、「第2次札幌市環境基本計画」と同じく、「次世代の子供たちが笑顔で暮らせる持続可能な都市『環境首都・SAPP‿RO」』を目指す姿としています。

環境の取り組みを起点として、北海道という地域を活かした取り組みを進め、寒冷地における環境都市の世界モデルを目指すことを計画の中で位置づけています。

取り組みは大きく分けて5つありますが、今回はそのうちの2つを紹介します。

1つ目は、「日本一の断熱性能を誇る住宅の普及」です。札幌市は非常に寒い地域ですので、冬場の暖房器具は欠かせません。灯油やガスを使ってそれをまかなうと、二酸化炭素の排出は避けられませんよね。そこで高断熱・高気密住宅の普及を促進し、省エネルギー化を実現しようとしています。

–住宅そのものの断熱性を高め、暖房エネルギーをできるだけ抑える取り組みですね。

佐竹さん:

はい。またこのような住宅は外に熱が逃げにくく家全体を暖かく保つことができるので、窓の結露から発生するカビによるアレルギーや、お風呂場やトイレなど寒くなりがちな場所での高齢者のヒートショックを防ぐなど、様々な効果があります。

札幌市では、このような省エネルギーの住宅に対し国が設定しているものよりもさらに高いレベルの基準を設定し、一定の基準を満たした住宅には、補助金を支給するなどの普及促進を行っています。

–理にかなった施策ですね。

佐竹さん:

ありがとうございます。2つ目は、北海道内の経済循環に向けた取り組みの推進です。

札幌市には、北海道の人口の4割弱を占める197万人が暮らしていますが、そこで食べられる食物や使われるエネルギーなどの資源は、北海道内の他都市や本州、そして世界中から取り寄せています。つまり、札幌市は消費型の都市と言えます。

だからこそ、使う側の責任をしっかりと考え、できるだけ北海道内の食べ物や資源を使うことで、道内の経済活性化につなげていければと思っています。SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」につながる考え方ですね。

SDGs未来都市に選ばれたことで、横のつながりが生まれた

–SDGs未来都市に選定されたことによる変化はありますか?

佐竹さん:

SDGsを札幌市として推進することで、さまざまな企業、学校が関心を持ってくれるようになりました。

現在、札幌市内の一部の高校では、SDGsの要素を取り入れ、社会課題や地域課題を学び、それに対する解決策を自分たちで考え、行動につなげていくための授業を行っています。私たち札幌市の職員も、SDGsのレクチャーや取り組みのサポートをさせていただいています。

ほかにも、札幌商工会議所では企業のSDGsの取り組みを紹介する特設サイトを制作するなど、少しずつSDGsを市民や事業者が取り組んでいくための変化が出てきていると思います。

SDGsは「持続可能な社会に向けて、すべての分野の取り組みをみんなで進めていく」ための共通言語でもあるので、分野を超えた関わりが生まれているように感じています。

市民団体とともに実現させたフェアトレードタウン認定

–話は変わりますが、札幌市はフェアトレードタウンの認定も受けていますよね?

佐竹さん:

はい、2019年にフェアトレードタウンとしての認定を受けました。フェアトレードタウンとは、市民や行政、企業が一丸となり「まち全体で」フェアトレードを積極的に推進する市町村が認定されるものです。

SDGs未来都市になった2018年時点では、熊本県熊本市、愛知県名古屋市、神奈川県逗子市と静岡県浜松市の4カ所のみが認定されている状態でしたが、札幌市も市民団体と力を合わせて動いたことで無事に2019年に認定を受けられました。

–フェアトレードタウンとして認定を受けるまで、ご苦労もあったのではないですか?

佐竹さん:

そうですね。フェアトレードタウン制度は元々イギリスで始まった制度です。現在世界中に2,000都市ほど存在しますが、日本ではなかなか認知されていないのが現状です。また、フェアトレードタウンとして認定してもらうには厳正な基準をクリアしなければなりません。

例えば人口1万人当たり、1店舗以上フェアトレードを扱っている店が存在しないといけません。札幌の人口は197万人なので、197店舗以上が必要という計算になります。しかし、かつてはフェアトレード商品を扱っている店は多くはありませんでした。

そんな折、2017年に市民団体・大学・企業などが参画する「フェアトレードタウンさっぽろ戦略会議」という団体が設立されました。この団体と札幌市が連携し、少しずつ普及啓発に努めました。

–フェアトレードタウンとして認定されるために具体的にどのような取り組みを行いましたか?

佐竹さん:

先ほどお話した人口1万人当たり1店舗以上という基準については、SDGsの社会的な推進も後押しし、大手スーパーなどでも商品を置くようになったことで基準をクリアしましたが、札幌市議会での議決、札幌市長の宣言など、フェアトレードタウンの認定に必要な基準を1つ1つクリアしていきました。

市民団体とともに力を合わせた結果、2019年6月に国内5番目の都市として認定されました。

–この活動を通して市民にも良い影響があったのではないでしょうか?

佐竹さん:

そうですね。フェアトレードタウンに認定されてから、関心を持ってくれる人が増えてきたと感じています。企業とも連携が加速しており、札幌市内にある店舗ではフェアトレード商品を紹介するコーナーも設置いただきました。そこに札幌市が作っているパンフレットも置かせてもらいました。

SDGsの視点を持った新たな札幌市を目指して

–最後に今後の展望を教えてください。

佐竹さん:

札幌市は、1972年に開催された札幌オリンピックの際に都心エリアや地下街などの街のインフラが整備されました。それから50年経過しているので、再整備・再開発の時期が訪れています。

また2030年には北海道新幹線が函館から札幌まで延伸する計画もあります。さらに2030年に行われる冬季オリンピック・パラリンピックを札幌に招致しようとしています。

このように2030年は札幌にとっても重要な年になりますので、SDGs達成に向けて持続可能な札幌市の実現を目指したいと思っています。そのためにも、企業や市民と一丸となって取り組んでいきたいです。

–ありがとうございました。

インタビュー動画

関連リンク

>>北海道札幌市ホームページ

>>国連「持続可能な開発目標(SDGs)」の推進

>>第2次札幌市環境基本計画

>>フェアトレードの推進

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