ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?症状や原因、治療についても

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手足が動かなくなる病気は、いくつもあります。筋萎縮性側索硬化症もその1つです。読むのも書くのも難しい病名なので、英語のイニシャルからALSと呼ばれることが多くなっています。
手足が不自由になってしまうことは同じでも、ALSには他の疾病とは違った原因があります。そのため症状や治療法にも特徴があります。それらを詳しく、そして分かりやすく解説していきますので、是非一緒に考えていきましょう。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?


ALSは、次のような意味をもつそれぞれ英語のイニシャルです。

  • Aamyotrophi;筋肉が縮む=筋委縮性
  • Lleteral;側部、人体では脳の命令が下りてくる通り道=側索
  • Ssclerpsis;壊れたあとが硬くなって働かなくなってしまうこと=硬化症

日本語では「筋委縮性側索硬化症」となります。
つまり、筋肉を動かす神経が障害を受け、筋肉自体に疾病はないのに脳からの「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなる病気です。

使われなくなった筋肉はやせて弱くなります。その結果、手足を動かすことや舌や唇を動かすことが徐々にできなくなってしまいます。まだ不明な点が多く、難病の1つに指定されています。

現在の患者数

患者数は2000年以降増加し、コロナ禍後の最新調査結果では9768人となっています。
年齢別の患者数を見ると、30代後半から増え、最もかかりやすい年齢は60代ですが、中年以降どの年代も高い数値を示しています。また男女の患者数にもやや差があり、男性の方が女性より1.3〜1.5倍という結果になっています。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の症状


神経は中枢神経末梢神経に大別することができます。末梢神経はさらに知覚神経運動神経自律神経の3つの種類があります。

  • 中枢神経
  • 末梢神経  
  • 知覚神経
  • 運動神経・・・ダメージを受けやすい機能
  • 自律神経

ALSは、側索を通る運動神経が、変性したり無くなってしまったり、壊れたりしてしまうために起こります。そのため症状が出やすい部位と出にくい部位があります。それぞれ解説していきましょう。

ダメージを受けやすい部位・機能

ダメージが特に目立ちやすい3つのパターンがあります。

目立つ初期症状進行すると割合
下肢型足があがらない・つまづく手足のどちらかから始まり、他方に広がる。70%
上肢型物が握りにくい・つまめない
球麻痺型話しにくい・飲み込みにくい・声の変化呼吸困難・嚥下障害・言語障害30%

どの部位から始まっても、やがて全身の筋肉がやせて力が入らなくなり、身体を動かすことが難しくなります。

ダメージを受けにくい部位・機能

反対に、知覚神経や自律神経が司る部位・機能には症状は出にくくなっています。

知覚神経が司る感覚、つまり視覚聴覚味覚などには比較的障害が現れにくいので、見たり聞いたり、あるいは痛みや冷たさなどを感じたりすることは、病状が進行してもできることが多くなっています。
自膣神経が関わる排泄機能もダメージを受けにくくなっています。

  1. 眼球運動障害
  2. 感覚障害
  3. 膀胱直腸障害
  4. 褥瘡

これらをALSの四大陰性症状(徴候)と呼んでいます。

自分で手足を動かせないけれど感覚・知覚は残っていて、それが精神的ストレスとなってしまう患者さんも少なくありません。

ALSの診断

ALSの診断は、最終的に神経内科での症状観察・諸検査で行われます。
似たような他の疾病の症状が多い上、ALSを単一検査で特定する方法がないので、担当医の判断の下、段階的にスクリーニングのための検査を進めていきます。

検査は、血液検査の他、筋電図検査遺伝子検査が行われます。疑いが濃い場合はMRI筋生検検査が行われます。これらを経て、専門医の総合的判断を待つことになります。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因

原因はまだ十分解明されていません。しかし幾つかの有力な説があるので、ご紹介しましょう

遺伝的要因:家族性ALS

ALSの約95%は遺伝しませんが、残りの約5%は家族内で発症することが分かっていて、家族性ALSと呼ばれています。
関連する遺伝子も見つかっていて40近くあります。そのうちのどの遺伝子の影響が最も強いかは、人種や国によって違いがあることも分かっています。

前章で、診断検査の1つに遺伝子検査を挙げましたが、血の繋がった親族にALS患者がいれば、スクリーニングの1つとして遺伝子検査が行われます。

神経の老化と酸化ストレス

多くの物が経年劣化をしていくように、人の身体も加齢によって痛んできます。この老化現象が運動神経に起こり、ALSを発症してしまうということが言われています。

人は取り入れた栄養を燃やす、つまり酸化することでエネルギーを得ています。この酸化作用が細胞を傷つけるなど生体にとって有害な作用を起こしてしまうことがあります。これを酸化ストレスと言います。
鉄が過剰な酸化作用によって錆びついてしまうように、酸化ストレスを受けた運動神経は壊れ、脳からの命令を受けられなくなってしまうのです。

このように、ALSの原因には遺伝子及び老化現象と関わる点が多くあります。
アルツハイマー病の原因とされるタンパク質分解障害や、エネルギー生成に重要な役割を担うミトコンドリアの機能異常なども原因として挙げられており、現在究明のための研究が進んでいます。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療について

ALSは進行性の難病で、原因も完全には解明されていないため、根治的な治療法は確立されていません。現在行われている治療は、

  • 進行を遅らせること
  • 心身の痛みなどを緩和すること

の2つを目標としています。
治療方法は、主に薬物療法対症療法を併用した形で行われます。

薬物療法

現在日本では4種のALS対応の薬剤が保険承認されています。その他にも主に次のような薬剤が使用されています。

目  的薬    品
進行を遅らせる〇リルゾール 〇エダラボン 〇メコバラミン 〇トフェルセン
痛みを緩和する〇オピオイド
精神的不安解消安定剤 睡眠剤 抗うつ剤など

いずれも専門医の指示で処方されます。服用に不安があるときは必ず担当医に相談しましょう。

対症療法

リハビリテーション

早期からのリハビリテーションは、ALSに伴なう痛みの緩和に有効であることが分かっています。
近年はロボットスーツあるいはパワードスーツと呼ばれる歩行運動器具(上画像参照)の使用が保険適応となり、歩行機能の改善に役立っています。利用については、主治医や担当ケアマネージャーに相談の上、リハビリ施設の専門員の指導の下に行います。

呼吸補助

末期になるとのどの筋力が低下し、呼吸や食事が難しくなります。
呼吸補助については、マスクを用いる方法と人工呼吸装置を装着する方法があります。後者の場合は気管を切開する外科的処置が必要になります。どちらの場合も、自宅で継続治療を行う場合は、たんの吸引や電源の確保対策も必要になってきます。訪問診療なども利用できるので、ぜひ主治医やケアマネージャー、地域の支援センターなどの助けを受けましょう。

呼吸が困難になるのと同様に嚥下も難しくなってきます。栄養補給のための流動食高カロリー食も必要になる場合があります。

期待される再生医療

日本で現在最も期待されているALS治療法はiPS細胞 ※ の活用です。

※ iPS細胞

英語名 induced Pluripontent Stem cell ;人口多様性幹細胞。様々な組織や臓器の細胞に分化し、増殖する能力を持つ。2006年に山中伸弥氏と京都大学の研究グループによって初めて作られた

このiPS細胞で新たに運動神経を作ったり、培養された細胞を使って薬の効果を確かめたりすることが可能で、現在研究が進められています。
患者由来のiPS細胞を使えば、拒絶反応のリスクが非常に低くなることも期待されています。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)に関してよくある疑問


ALS(筋萎縮性側索硬化症)について基本的なことを解説し、まとめてきました。ここからは、ALSについてよくある疑問にお答えしていきましょう。

完治する?

現段階で完治した人は確認されていません。
しかし、iPS細胞の活用や新薬開発について、近年日進月歩で研究が進んでいます。パーキンソン病や1型糖尿病で効果があったという症例も報告されています。
適切な薬物療法やリハビリなどで進行を遅らせる治療を続けるうちに、有効な治療法が見るかる可能性はとても高くなっています。

寿命は?

ALS患者の寿命は、人工呼吸器を使わない場合約2〜5年と言われています。しかし個人差が大きく、約1割程の人が10年以上生きています。また近年治療法の進歩を鑑みると、近い将来は20年以上生きられる方もいるのではと予想されています。

公表している有名人はいる?

公表している有名人を紹介します。

MLBで活躍:ルー・ゲーリック

ルー・ゲーリックという名は野球に詳しくない方でも耳にしたことのあるのではないでしょうか。1920年代から1930年代にかけて、ニューヨーク。ヤンキーズで活躍した野球選手です。三冠王をはじめ数々のタイトルを獲得しています。36歳の時には、史上最年少で野球殿堂入りを果たしています。その活躍を称え、ヤンキーズは彼の背番号を永久欠番としています。

35歳でALSを発症したルー・ゲーリックは36歳で引退しましたが、その後も球団の仕事ばかりでなく、仮釈放委員会委員にも就任しまし、すでに手が不自由になり始めていましたが、夫人の介助を受けて囚人との面談に臨み、熱心に業務にあたりました。死の1か月前まで仕事に臨んでいたとのことです。その後足も動かなくなり自宅で過ごす中、37歳で死去しました。

現役選手としての活躍ばかりでなく、ALSを発症した後の意欲的な福祉活動ぶりから、アメリカではALSを「ルー・ゲーリック病」と呼んでいます。

イギリスの理論物理学者:スティーブン・ホーキンス博士

すでに多くのメディアで「車椅子の物理学者」として取り上げられているので、ご存じの方も多いことでしょう。
ホーキンス博士は学生時代にALSを発症しましたが、ALS患者の平均寿命が発症から2〜5と言われる中、途中で進行が弱まり、その後50年以上にわたり研究活動を続けました。
意思伝達装置を使用したり、コンピュータプログラムによる合成音声によるスピーチをしたりする姿は、世界の人々を驚嘆させました。

ホーキンス博士が76歳まで生存できた理由に、呼吸・嚥下機能が維持されたことと、進行が非常に緩やかだったこととが挙げられています。そして物理学に没頭できたことで精神的な支えがあったことも大きいと言われています。

日本の病院王・元国会議員:徳田虎雄氏

日本にもALSを発症しながらも、病床から多方面に意欲的に指示を出し続けた方がいます。
1938年生まれの徳田氏は、医学部を卒業後、公立病院の勤務医からスタートしましたが、やがて徳田病院を設立、医療法人徳洲会を設立した方です。衆議院議員として政治にも関わりました。

徳田氏がALSを発症したのは2002年です。2005年に政界は引退しましたが、車椅子や文字盤による意思伝達装置を使い、関連団体への指示を出し続けました。2019年81歳の頃には車椅子への移乗が困難になりましたが、86歳(2024年)まで生存しました。

3氏に共通するのは、進行を遅らせる治療を積極的に受けたことと、大きな生きがいを持っていたことです。スティーブン・ホーキング博士や徳田氏の例は、ALSのダメージを受けにくい知的神経や中枢神経が司る機能を発揮して活躍できたよい例、と言えるのではないでしょうか。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とSDGs


ALSはSDGsの17の目標の中の次の3つに深く関わっています。

  • SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」
  • SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
  • SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」

今最も期待されているALSの治療法がiPSによる再生医療です。それに最も関わりの深い SDGs目標「産業と技術革新の基盤をつくろう」についてお話ししましょう。

SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」との関わり

SDGs目標9は、「レジリエントなインフラを構築し、だれもが参画できる持続可能な産業化を促進し、イノベーションを推進する」ことを目指すものです。

iPS細胞は、2006年に山中伸弥氏と京都大学の研究グループによって初めて作られた人工多能性幹細胞です。ALSの原因・治療法の研究から、それらが老化や他の難病の究明にも関わることをお話ししました。まさに「レジリエント(弾力的な)」再生医療技術です。
山中氏は2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞しましたが、この技術が広まることをめざしてライセンスの無償化などを主張してきました。これは「イノベーションを推進する」姿と言えるのではないでしょうか。

1つの症例報告が、国内ばかりでなく世界の医療研究者にも影響を与えています。研究者や医療機関がデータや成果を共有することは、

  • SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」

の達成にも貢献し、さらに

  • SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」

に結びつきます。

>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

今回はALS(筋萎縮性側索硬化症)について、症状や原因、治療法などを解説しました。よくある疑問にもお答えし、SDGsとの関わりもまとめました。

ALSにおいてダメージを受けにくい部分があり、それを駆使して意欲的に生きてきた有名人をご紹介しました。他にもまだ病気と闘いながら仕事に励んでおられる方々がいます。
iPS細胞の活用を始め、近年のALS研究の進化を考えると、進行を遅らせる治療がけして一時しのぎや気休めではないことを証明しています。

また生きがいをもって何かに前向きに取り組むことが、患者さんの寿命さえ左右する可能性があるという事例もご紹介しました。努力し続ける医療を見守り、応援し、患者さんが生きがいや希望を持てるようサポートすることが私たちにできる一歩ではないでしょうか。

<参考資料・文献>
*1) ALSとは?
筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)(難病情報センター)
日本におけるALS患者さんの動向|筋萎縮性側索硬化症の情報サイト「ALSステーション」
(疾患・用語編) 筋萎縮性側索硬化症(ALS)(日本神経学会)
筋萎縮性側索硬化症(慶応義塾大学医学部神経内科)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは | 健康長寿ネット
*2) ALSの症状
ALSという病気の概略 | JALSA / 日本ALS協会
筋萎縮性側索硬化症 – Wikipedia
ALSの症状|筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは?|筋萎縮性側索硬化症の情報サイト「ALSステーション」
筋萎縮性側索硬化症(ALS) | 看護roo![カンゴルー]
*3)ALSの原因
日本生物学的精神医学会誌24巻4号
酸化ストレス | 健康長寿ネット
*4) ALSの治療について
ALSについて知っておきたいこと | 東京都立病院機構
ルーゲーリック病(ALS)の寿命
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)の寿命」はご存知ですか?寝たきりになるまでの期間も解説! | メディカルドック
*5) ALSに関してよくある疑問
筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2) – 難病情報センター
毎年6月2日が「ルー・ゲーリッグ・デー」に MLB機構が発表 – MLB.JP | MLB日本語公式サイト
ルー・ゲーリッグ – Wikipedia
【訃報】 スティーブン・ホーキング博士 – BBCニュース
スティーヴン・ホーキング – Wikipedia
徳田虎雄 徳洲会009 – 西日本新聞フォトライブラリー
徳田虎雄 – Wikipedia
*6) ALSとSDGs
ASGs:蟹江憲史(中公新書)

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この記事を書いた人

くりきんとん ライター

教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。

教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。

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