#インタビュー

株式会社アメディア|視覚障がい者が日本じゅう自由に歩ける社会をつくる

株式会社アメディア 望月優さん インタビュー

望月優

1958年 静岡生まれ。幼少時に失明 / 1987年 国立職業リハビリテーションセンター電子計算機課に入所。コンピュータープログラミングを学ぶ / 1989年 株式会社アメディアを設立し、視覚障害者へのパソコンやソフトウェアの販売事業を開始 / 1996年 印刷物読み上げソフト「ヨメール」発売 / 2003年 音声拡大読書機「よむべえ」を発売 / 2016年 ナビアプリの前身となる、録音ガイド作成アプリ「ナビレコ」を無料公開のちにナビレク・バリアフリーマップ作成ソフトの開発を経て、現在の仕組みを確立させる / 2022年 ソーシャルファーム事業所を設立。バリアフリーマップ配備事業を開始 / 2023年 音声ナビアプリ「ナビレコ」を「ナビレク」へ名称変更し、個人宅を出発する有料のガイド作成サービスを本格的に開始 

introduction

株式会社アメディアは創業から35年、特に視覚障がい者の「読む」不自由を解消するソリューションを提供してきました。現在、新たな技術の進化に合わせ、さらに視覚障がい者の「移動」の不自由の解決も実現しつつあります。

今回は、同社の事業に込められた想いと、これからの展望を代表の望月さんに聞きました。

視覚障がい者の自立を阻む2つの壁

–まずは御社の事業内容のご紹介をお願いします。

望月さん:

株式会社アメディアは、主に視覚障がい者の自立を支援する会社です。

経営理念として「ー 情報とテクノロジーで自立支援 ー 私たちは情報とコミュニケーションで人々がつながり、技術と交流で障がい者が自立できる環境作りを促進します」を掲げ、さまざまな商品の開発や提案を行っています。

視覚障がい者が直面する課題の中でも、自立に向けて特に注力しなければならないのが「読み書きの不自由」と「移動の不自由」です。この2つの課題に対し、解決のハードルを少しでも低くして、障がい者本人が自分でできることの範囲を広げていこうと研究開発を進めています。

「読み書きの不自由」を解決する具体的な商品としては、創業から7年後の1996年に開発し、2003年から「よむベえ」という名前で展開している音声読書機があります。

「よむべえ」は、例えば郵便であれば、封書の宛名部分をカメラに読み込ませると、音声で読み上げてくれるというものです。もちろん郵便以外にも、薬の注意書きや食品表示なども読み上げてくれます。

「移動の不自由」については「ナビレク」というサービスを提供しています。これは音声と振動で道案内をしてくれる歩行ナビアプリです。

運用を開始した2016年の段階では、1回目は自分で道を歩き、「ここで右に曲がる」「ここは段差がある」などの道案内や、注意点を自身の声で録音しておき、2回目以降にその音声が、その場所その場所で流れるという仕組みでした。

ただ、それでは1回目に道を歩く際の不安が大きいですよね。介助してくれる方がいれば良いのですが、すべての方がその状況にいるわけではありません。

そこで2019年に大幅なアップデートを行いました。まず健常者が視覚障害者用の地図を作り、それをナビレクにダウンロードして道案内をしてもらえるようにしたんです。

これなら一人で歩くことに抵抗がある方や、介助を依頼するのが難しい方でも、安心して利用できますよね。

全盲の自分だから気づける「できない」を解決する

–このようなサービスを提供するようになったきっかけを教えてください。

望月さん:

私は生まれつきほとんど視力がなく、6歳で全盲になりました。

その中で会社を立ち上げるきっかけのひとつとなったのは、私が企業に就職するのが難しかったということです。

創業した1989年当時、私はもう31歳でした。それくらいの年齢になると、当然経済的な自立を考えなければならないですよね。

そのため私は1980年代の半ばから、所沢にある国立職業リハビリテーションセンターの電子計算機科に入所して、プログラミングを勉強していました。今振り返ると大したスキルを持っていたわけでもなかったのですが、プログラマーとして就職できればと思っていたんです。

ところが、実際には就職は叶いませんでした。当時はまだ、企業が障がい者を受け入れる体制が十分ではなかったのです。それなら自分でビジネスを立ち上げようと思い、弊社を作るに至りました。

就職が叶わなかったのは辛い経験でしたが、得たこともあります。そのひとつが、私が学んだパソコンやプログラミングの技術が視覚障がい者の生活環境の改善に役立つという確信です。

先ほど紹介した「よむベえ」と「ナビレク」はもちろんですが、様々な不自由を解決できる商品を提案できているのも、これらの技術があってこそですから。

その中で、私たちの技術だけでは手が回らない部分に関しては、他社商品を紹介することもしています。

我々は「これができない」という「事実」から必要な「モノ」を考え、そしてその「解決策」を提供していく企業です。そのため自社商品なのか、それとも他社商品なのかということは関係がありません。

あくまでも障がい者の課題を解決し、自立を支援するのが弊社の活動の一番の目的です。ですから、弱視の方や盲の方など、どのようなフェーズの方にも使っていただける商品・サービスを揃えることを優先しています。

障がい者にも健常者にも知ってもらいたい社会の現状

–2024年3月には、クラウドファンディングを実施されています。こちらも、課題解決の一環で行われたものなのでしょうか?

望月さん:

そうですね。これは視覚障がい者自身の課題を解決すると同時に、社会の課題を解決することにもつながっていると思っています。

今回のクラウドファンディングは、ご支援いただいた資金をもとに、視覚障がい者に個別に「避難ナビマップ」を提供するものでした。避難ナビマップというのは、歩行ナビアプリ「ナビレク」で使用できる避難地図のことです。

これを始めた理由は大きく2つあって、1つは当然、障がい者自身の身を守ることです。そしてもう1つは、この現状を障がい者だけでなく健常者にも知ってもらいたかったからです。

通常のナビレクは、「アメディアナビ広場」というサイトに掲載している4,900通り以上(2024年5月末時点)のバリアフリーマップをダウンロードして使用する形式になっています。バリアフリーマップというのは、たとえば「東京メトロ銀座線虎ノ門駅から虎ノ門金刀比羅宮まで」「猿田彦神社から福岡市地下鉄空港線藤崎駅まで」といったものですね。

ただ、一般的に「避難」というのは、それぞれの自宅から最寄りの避難所まで移動することを言うはずです。したがって、1人ひとり異なった避難経路になるのは当然のことですが、セキュリティ面から自宅の場所がわかる地図をネット上に掲載するわけにもいきません。

そこで1人ひとりに地図を渡し、有事のときに役立ててもらうことはもちろん、平常時から何度も自宅から避難所までの道のりを練習できる環境を整えようと考えました。

これには、国の政策である「個別避難計画」も関係しています。個別避難計画とは、障がい者や高齢者などの自力での避難が困難な方ごとに作成する、避難支援のための計画です。

現在、2025年までに普及が完了する計画で各自治体が作成を進めているのですが、すぐに全員に行き渡るものでもありません。そこで、せめて希望する方だけでも、できる限り早く避難所までの道のりを示すものがあれば良いなと思ったのです。

これは健常者にも言えることですが、視覚障がい者の中にも災害に対する危機感が十分ではない人が多いんです。自分の身に地震や津波などの災害が降りかかるかもしれないことを想定していない方がたくさんいると感じます。

そのような危機感の欠如が原因で、有事の際にただ家にじっとしているしかないという状況になれば、もうその時点で命が「助かる」「助からない」の選択肢すらない状況になってしまいます。

だからこそ、何度でも避難所までの道のりを練習してほしいんです。弊社のナビレクを使わなくても構いません。とにかく身を守る手段を持ってもらいたいんです。

また、障がい者の災害対応としてこのようなサポートが必要なことを広く世間に知ってもらえば、災害対応への取り組みがより進みやすくなるのではとも考えています。

視覚障がい者が日本じゅうどこでも歩ける社会へ

–これまでもさまざまな事業に挑戦されてきた御社ですが、今後はどのような取り組みに注力されるのでしょうか?

望月さん:

現在は、2030年までに日本全国にバリアフリーマップを張り巡らせるべく活動を続けています。つまり、移動の不自由を完全に排除するということですね。

視覚障がい者がどこでも1人で移動できるようになれば、その先には新しい体験や地域の方との交流など、より充実した生活が待っているはずです。

2030年まではあと6年を切っていますが、今まで通り1つ1つ課題を解決して辿り着きたいですね。

–実現が楽しみです。最後に、望月さんが描く今後の御社の理想の姿について教えてください。

望月さん:

弊社の理想像は、大きく2つの面を持っていると思います。1つは社員がやりがいをもって働ける会社であり続けることです。弊社の事業の1つである「アメディア ナビレク事業所」は、2022年4月に東京都から「ソーシャルファーム」の認証をいただきました。

株式会社アメディア

これは障がい者のような就労困難者、つまり一般の企業ではなかなか雇ってもらえない方を雇い、健常者も含め一緒に働いて行こうとする企業に認められる認証制度です。

この認証をいただいた企業として弊社がある程度成功していけば、就労困難者を雇用することに対する不安や懸念が少しずつ解消されるはずです。そうなれば、自ずと就労困難者が減っていくと思っています。

また、バリアフリーサイクルに対応していける企業であり続けることも、弊社が大切にしている会社としてのあり方です。バリアフリーサイクルというのは、ある分野で世の中が大きく進歩すると、その瞬間に弱者が取り残される格差のようなものを言います。

たとえば歴史を振り返ると、グーテンベルクによって印刷技術が発明されたのが15世紀のことでした。それまで手書きの写本しかなかったところ、印刷で書籍が量産できるようになって、健常者は格段に勉強がしやすくなりましたよね。

ところが、健常者が大量の情報に触れられるようになった一方で、目で字を読むことのできない視覚障がい者は、情報量の面で大きな差をつけられることになってしまいました。

しかもこの格差の解決の糸口が見つかったのはなんと1800年代のこと。フランスのルイ・ブライユが点字を発明したときのことでした。この間に約300年も経過していることになります。

これはインターネットが普及し始めた90年代も同様でした。300年とは言わないまでも、音声を活用してインターネットが活用できるようになったのは最近のことです。

そして今は、生成AIの時代が到来しました。恐らくまた、バリアフリーサイクルによる格差が生まれてしまうでしょう。その差をできる限り短い時間で埋めていくのが、我々の使命だと思っています。

そのための取り組みというわけではありませんが、弊社の「よむべえ」も2024年の夏を目処に、生成AIの搭載を予定しています。

これまでは、書いてあることをそのまま音声にするに過ぎませんでしたが、生成AIが搭載されることによって、より早く求めている情報に辿り着けるようになるはずです。

例えば、留守中に宅配便の配達が来てしまった場合、不在配達票が入りますよね。

不在配達表っていろいろな情報が書かれていていますが、本当に知りたいことは「誰からの荷物なのか」「再配達をお願いするドライバーの電話番号は何番か」ということくらいのはずです。

生成AIを搭載することによって、そうした重要な情報だけを抽出できるようになります。

このように技術が進歩し続けても、常にバリアフリーサイクルを縮めていける存在でありたいですね。

–今後の御社の活躍も楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。