気候変動の大きな原因として考えられている温室効果ガスの排出。
二酸化炭素は温室効果ガスの大部分を占めるとされており、私たちが普段利用している車からは全ての二酸化炭素の約20%が排出されています。
エコ大国・オーストラリアのクイーンズランド州では、そんな自動車由来の二酸化炭素の排出量を削減するためにQueensland’s Zero Emission Vehicle Strategyを施行しました。
この記事では、Queensland’s Zero Emission Vehicle Strategyの概要や具体的な取り組み内容はもちろん、クイーンズランド州が懸念する自動車からの二酸化炭素排出に関しても解説していきます。
クイーンズランド州ってどこにあるの?
クイーンズランド州は、オーストラリア北東部に位置する州です。
州都をブリスベンに構えており、人口は約550万人と国内第3位の規模を誇ります。
クイーンズランド州はグレートバリアリーフ、フレーザー島、熱帯雨林といった有名な世界自然遺産を持つことから、クイーンズランド州はオーストラリア国内でも特に環境保全への関心が高い州として知られています。
クイーンズランド州が懸念する車からの二酸化炭素排出量
2021年に行われた調査によると、オーストラリアの乗用車からの二酸化炭素排出量は中国、EU、日本、米国の平均値と比べて53%も高いとされています。
国内における車両からの二酸化炭素の排出量は、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州、クイーンズランド州の順になっていますが、クイーンズランド州は二酸化炭素排出量が年々増加している州のひとつです。
1990年は11.3万トン、2005年は17.9万トンと少しずつ増えており、2018年では実に2,260万トンもの二酸化炭素が車両から排出されています。
そのうちの約45%が乗用車からの排出となっているため、クイーンズランド州では都市機能を維持しながら環境に優しい地域づくりを促進する必要があります。
Queensland’s Zero Emission Vehicle Strategyの概要
2022年3月16日、クイーンズランド政府によってQueensland’s Zero Emission Vehicle Strategyが施行されました。
二酸化炭素の排出量に関するマネジメントプランで、2022~2024年に焦点を当てた短期プランと2022~2032年を対象とした長期プランの2種類があります。
Queensland’s Zero Emission Vehicle Strategyの最終的な目標は、クイーンズランド州の二酸化炭素の排出量を2050年までにゼロにすることです。
短期プランは段階的に取り組みを実現していくための戦略であり、長期プランを確実に遂行するためのフレームワークとして作られています。
ゼロエミッションへの具体的な移行方法
Queensland’s Zero Emission Vehicle Strategyでは、クイーンズランド州の家庭、コミュニティ、企業、政府車両全体でのゼロエミッション車両の普及を目指しています。
ゼロエミッション車両の導入によって温室効果ガスの排出量が削減されるため、州内全体での環境保全を促進するには多方面へのアプローチが大切だと考えています。
以下は、Queensland’s Zero Emission Vehicle Strategy内でゼロエミッションを実現するために掲げられている戦略です。
- 2030年までに新車の乗用車販売の50%をゼロエミッションにする
- 2036年までには新車の乗用車販売の100%をゼロエミッションにする
- 2026年までにクイーンズランド州政府保有の車両を100%ゼロエミッションにする
- 公共のバスを2025年から2030年にかけてゼロエミッションバスにする
ここでは、それぞれの戦略に沿ってクイーンズランド州が実施している取り組みを見ていきましょう。
①車の購入費を割引
Queensland’s Zero Emission Vehicle Strategyでは、クイーンズランド州民がゼロエミッションの車両を経済的に購入できる支援を行っています。
年間収入が18万ドル(約1,800万円)以下の世帯には6,000ドル(約60万円)の割引率、その他の世帯では3,000ドル(約30万円)が適用されます。
割引の対象となる車両は2022年3月16日までに登録された新規ゼロエミッション車両で、割引を申請するには売買契約書などの購入を証明する書類が必要です。
尚、クイーンズランド政府は2030年までに新車販売の50%がゼロエミッションになることを想定しており、さらに2036年までに100%になることを計画しています。
②公共の充電施設を増設
電気自動車ユーザーの利便性を高めるため、クイーンズランド州内に公共の電気自動車急速充電スポットを増設しました。
1,000万ドルの共同基金によって計画は進められ、ゴールドコースト周辺からポート・ダグラス、ブリスベンからトゥーンバまでの範囲で31か所の急速充電スポットのネットワークを構築しています。
例え電気自動車の購入に意欲的な州民が多くても、電気自動車用の急速充電スポットが足りなければスムーズに切り替えることは困難です。
サスティナブルな未来を作るためにも、クイーンズランド州では人々が無理なく快適に電気自動車に乗れる環境を整えています。
③QFleetをゼロエミッションへ移行
Queensland’s Zero Emission Vehicle Strategy の一環として、QFleetのエコ車両への切り替えが進んでいます。
QFleetはクイーンズランド州政府が保有する車両管理会社のことで、クイーンズランド州政府の省庁と機関、政府所有の企業、地方自治体、非営利団体がビジネス目的で車両をリースできる仕組みになっています。
QFleetのリース期間が満了した車両を電気自動車へ順次切り替える予定にしており、QFleet車両を2026年までに100%ゼロエミッションにする予定です。
④公共交通機関におけるゼロエミッションバスの導入
Queensland’s Zero Emission Vehicle Strategyでは、乗用車やトラックだけでなく公共交通機関に関する対策も行っています。
クイーンズランド州ではTranslinkと呼ばれる公共交通機関サービスを運行していますが、州内を走るディーゼルバスを廃止して100台のゼロエミッションバスの導入を決定しました。
ディーゼルバスは順次切り替えられ、2025年以降に新しく調達されるバスは全てゼロエミッションバスになる予定です。
クイーンズランド州は二酸化炭素の排出量を最大で80%削減できると計算しており、バスの車庫も「クリーンエネルギーハブ」と呼ばれる環境に優しい仕様に生まれ変わる計画が進められています。
また、より多くの州民に公共交通機関を利用してもらうため、2024年内末には州都・ブリスベンに地下鉄を開通する予定になっています。
⑤Translinkの運営改善による温室効果ガスの削減
クイーンズランド州が保有する公共交通機関・Translinkは、ゼロエミッションバスの導入だけでなく、削減しきれなかった温室効果ガスを相殺するためにカーボンオフセットへの投資も実施しています。
また、ブリスベンに位置するTranslinkの大型オフィス・TCfSE(TransLink Centre for Service Excellence)の建物では、環境へのリスクが低い塗料の使用、センサー照明の導入、リサイクル専用施設の設置などを行っているのもポイントです。
TCfSEは建築環境における持続可能性を評価するThe Green Star rating systemで5つ星を獲得しており、間接的なアプローチによってQueensland’s Zero Emission Vehicle Strategyの目標達成に貢献しています。
まとめ
日本でも利用頻度が高い自動車は、環境への負荷が大きな乗り物として知られています。
私たちの生活から完全に自動車を排除することはできなくても、工夫を凝らすことで環境への悪影響を最小限に抑えることは可能です。
自動車の利用と環境保全のバランスを考えて、サスティナブルな未来づくりに貢献していきたいですね。