
双極性障害は2つの極端な症状をもつ病気であることを、その名前から想像していただけるのではないでしょうか。2つの極端な症状とは、躁とうつです。しかし、うつ病に躁症状が加わったというだけの病気でないことが分かってきました。
うつの状態が重い人に対して、家族を始め周囲の人々は、自殺も視野に入れていろいろ心配してしまいます。しかし、双極性障害は躁状態も大変な問題につながってしまうのです。
躁状態とは?原因や治療は?などを整理し解説していきますので、是非一緒に考えていきましょう。
目次
双極性障害とは

双極性障害とは、双極症とも言われ、「躁」状態と「うつ」状態を繰り返す脳の病気です。以前は躁うつ病と言われていました。
双極性障害の種類
双極性障害には大きく分けて双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害の2つがあります。
双極Ⅰ型障害は非常に激しい躁状態を伴うもので、それに比べて軽躁状態を伴う場合を双極Ⅱ型と言います。Ⅱ型の躁状態は「とても明るい」「調子が非常に良い」などと本人も周囲も思い、病気と認識されない場合が多くあります。
また躁とうつの変化を急に、あるいは頻繁に繰り返すケースを急速交代型双極性障害と呼びます。この方は双極性障害患者の10~15%に見られています。
双極性障害と診断するほどではない軽い躁とうつを繰り返すものを「気分循環性障害」と言います。どちらも軽い症状なので、なんとか社会生活を送れることが多いのですが、治療せずに放っておくと双極性障害へと進む可能性があります。
日本の双極性障害患者数は、Ⅰ型・Ⅱ型を合わせても0.4〜0.7%、1,000人に4〜7人弱程度と言われています。WHO(世界保健機構)は世界には約4,000万程の人が双極性障害を抱えていると推定しています。
どの年代でも発症する可能性がありますが、10~20歳代が多いとされています。また男女差はほとんどありません。
参考:双極性障害(躁うつ病)|こころの情報サイト,双極性障害 | 公益社団法人 日本WHO協会
うつ病との違い
双極性障害は以前「躁うつ症(病)」と言われていたように、うつ病に躁状態が加わったものと考えられていました。しかし近年の研究から、うつ病と双極性障害は全く別の病気であることが分かってきました。そこで病名も双極性障害と呼ぶことになったのです。
大きな違いは、軽躁を含む躁状態の有無ですが、主な見極めの観点は下の通りです。
双極性障害 | うつ病 | |
状態 | 躁状態があり、躁とうつの状態を繰り返す | うつ状態が継続 |
男女差 | ほとんどない | 男性より女性に多い |
遺伝の影響 | やや強い | 弱い |
治療 | 気分安定薬などが重いな治療薬抗うつ薬は補助的に使う | 抗うつ薬が主な治療薬 |
躁状態の時は、本人は身体的にも思考的にも「調子がよい」状態で、結果的に周囲に迷惑をかけていても自覚しにくい状況です。反対にうつ状態が進むと学業や仕事をする気も失せてくるため、医療機関を受診する場合が多く出てきます。うつ状態で診察を受けるので、うつ病と診断される場合も多くなります。
双極性障害を正しく診断するには、数か月以上観察する必要があります。うつ病の症状で受診した患者さんの約16%が双極性障害の疑いがあると言われています。
症状が似ているその他の病気
躁とうつの両方の症状を持つ病気が他にもあります。
- 統合失調症:思考や感情などの精神活動にまとまりがない
- パーソナリティ障害:物の考え方や言動が一般の非常に異なる
- 不安症:生活に支障が出るほど不安を感じる
- ADHD(注意欠陥多動性障害)
などです。どれも双極性障害とよく似ています。併発している場合もあり、正しく対処するには専門家の診断が必要です。
また、脳や神経の疾患、薬の影響なども考えられるので、精神科医療機関で身体の検査が行われます。
双極性障害の症状

双極性障害は躁とうつの2つの症状が現れます。実際にどのような状態になるのか、具体的に見ていきましょう。
一般的な症状
主に次のような症状が現れます。
躁状態の症状 | うつ状態の症状 |
・気分が高まっていて元気がある ・眠らなくても平気 ・自己評価が高くなり、上から目線の言動が増える ・おしゃべりになる ・自分が否定されると怒るなど | ・気分が落ち込む ・疲れやすく感じ、寝てばかりいる ・やる気が起きない ・何にも集中できず、楽しめない ・自己評評価が著しく低くなるなど |
末期症状は?
「おしゃべり」な人はたくさんいる、と思われる方はたくさんおられるでしょう。しかし双極性障害の躁状態である場合、放っておくとどのようになってしまうでしょう。双極性障害の症状が重症化が進み、末期になるとどうなってしまうかを整理していきます。
うつ状態の重症化
自己評価が著しく低くなった先は「自分は生きている価値がない」と自分を全面否定するに至ります。その結果、自殺願望が大きくなってしまいます。また他の心的病気を併発してしまう場合も少なくなく、アルコールや薬物に依存してしまう場合も出てきます。
双極性障害のうつ状態は、うつ病よりも自殺率が高いと言われています。
躁状態の重症化
軽躁状態の時は、「テンションが高い」程度の言動で、日常生活にそれほど深刻な影響は出てきません。しかし重度になると本人は最高の気分ですが、他人にたいして攻撃的になり、誇大妄想、性的逸脱状態が現れます。
このような状態になると、他人を傷つけたり、買い物依存、ギャンブル依存になったりすることも多く、入院して治療する必要があります。
躁もうつも、自分や他人の命に関わる末期症状となってしまいます。
双極性障害の原因
双極性障害は脳の病気です。つまり脳の機能の不具合によって起こるのですが、そのメカニズムはまだはっきり解明されていません。ですが、いくつかの要因が考えられています。有力なものを解説します。
脳内の異常
現在、脳の細胞内小器官の機能異常が原因の1つではないかという研究が進められています。
ミトコンドリアと呼ばれる小器官は、本来はATP ※ などを生成する大切な役割をになっています。このミトコンドリアが機能しないことが原因の1つであることが分かってきました。さらなる研究成果が待たれます。
遺伝の影響
双極性障害は、遺伝による影響が強いと言われています。しかし関連遺伝子が複数あり、それらの組み合わせと、ストレスなどの外的要因が重なると発症すると推測されています。
環境・日常生活の影響
脳や遺伝子のように直接の原因ではありませんが、ストレスは発症の大きなきっかけになっているといえます。日常の様々なことや、受験、就職、結婚、出産等々人生のイベントが、発症のきっかけとなる可能性を秘めています。
双極性障害の治し方(治療法)

双極性障害は、完治することが難しいと言われています。一旦症状が治まって安定したように見えても、再発の可能性が高い病気なのです。そのため「完治」というより「いかに再発を防ぐか」「安定期を長く維持するか」が、治療の大事な目的になっています。
治療は長期にわたることがほとんどですが、生活習慣を整えた上で適切な治療を継続することで、十分な効果が期待できます。
治療法は薬物療法と精神療法を両輪とし、生活習慣を管理していくことで進められます。
薬物療法
双極性障害治療のターゲットは、
- 躁・軽躁状態に対する治療
- うつ状態に対する治療
- 再発防止のための治療
に分けられます。いずれの場合も中心になるのが薬物療法です。主な薬をまとめました。
薬名 | 一般名 | 効果 | 注意点 |
気分安定薬 | リチウムバルプロ酸カルバマゼピンラモトリギンなど | ・躁うつの波を小さくする。・どのターゲットにも効果が期待できる基本薬 | 長期間の服用が必要 |
抗精神病薬 | オランザピンルラシドンなど | ・神経伝達物質のバランスを調整しすることで気分の安定を図る | 代謝異常を起こすという報告もある |
抗うつ薬 | フルボキサミンミルナシプランなど | ・うつ病の改善がターゲット | 躁転誘発や急速交代化のリスクがあり、単独服用は推奨されない |
他にも、患者さんのもともとの体質や持病などによって、専門医の判断の下ホルモン薬や鎮静薬が処方される場合があります。
精神療法
薬物療法と併用して行われるのが精神療法です。広く行われているものをご紹介します。
心理教育
心理教育は、精神療法中でも中心的な役割を担っている療法です。
双極性障害は長期の治療が必要な病気です。特に躁・軽躁状態の治療については、本人が「元気だ」と思い込んでいるので病気の自覚や治療継続が難しく、再発につながってしまいます。カウンセラーの指導のもと、病気を理解し、治療に積極的に取り組めるようになることを目指します。
患者本人ばかりでなく、家族を対象として行われることもあります。
認知行動療法
ものの考え方や受け取り方(認知)の歪みを治し、行動のクセを修正していく療法です。
うつ状態では、楽しみや達成感を得られる活動を行い、躁状態では気分にかかわらず安定した行動ができるよう練習をします。
気分や考えを書き出して整理し、修正や別の考えを記録していくコラム法などがあります。
対人関係社会リズム療法
対人関係療法と社会リズム療法を併用して行う治療法で、主に再発防止をターゲットとする治療法です。
対人関係療法では、治療者との対話を通して対人関係の問題を考えていきます。社会リズム療法では、生活パターンを記録し、生活リズムを整えるよう修正をします。そうして生活リズムを整えるクセをつけていきます。
双極性障害の人との接し方

重症化すると、うつ状態では自ら命を絶つ心配があり、躁状態では散財、周囲とのトラブル、警察沙汰など、深刻な結果にむすびついてしまう双極性障害です。本人にとってはまず専門医の診察をうけることが大切ですが、家族や周囲のひとはどうすればよいか一緒に考えていきましょう。
うつ状態への対応:傾聴と見守り
まず患者さんの気持ちをよく聞いてあげることが大切です。「死にたい」は「死ぬことがいい」と思っていることと違います。励ましや叱咤は、それに応えられない自分を情けなく思う気持ちを起こさせてしまい、逆効果になることが少なくありません。
そして「あなたを大切に思っている」「生きているだけでうれしい」といった、いつも寄り添っていることを伝え、患者を孤立させないよう見守りましょう。
躁状態への対応:病気への正しい理解
治療法の章で、心理教育が中心的治療となることをお話ししました。
躁状態のときは家族の心配をなかなか受け入れられず、反発する場合が多くあります。しかしほとんどの患者さんは、心の奥では何とかしたいと思っています。爆買いしてしまった後はお金が無くなりますし、職を失って困るのはまず本人なのです。
ですから「これは病気だ」と本人も家族も認識すること、どんな病気か理解することで、初めて治療への方向へ目が向きます。
かかりつけの主治医を
家族や周囲の方の対応の基盤をお話ししましたが、その後の対応については、専門医との連携がかかせません。重症度や生活の様子によって治療法が違ってくるのは他の病気と同じです。
診察は精神科や神経科で受けられます。厚生労働省「こころの耳」 ※ を始め、多くの紹介サイトで調べることができます。また地域の保健センターなどに相談することもできます。
※ 全国医療機関検索|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
双極性障害に関してよくある疑問

ここからは、双極性障害に関してよくある疑問にお答えしていきます。
頭がいい人が多い?
「双極性障害の人は頭がいい」という評価は、医学的な根拠はありません。
リーダーシップとってる姿がある、物事をてきぱき処理している、いろいろなアイデアを思いつくなど、躁状態の時の様子からそのように言われていると推測できます。
末路は?
双極性障害は、治療をせずに症状が進むと、末期症状についてお話した通り様々な末路に行きついてしまいます。
周囲の人々との関係が失われる人間関係の末路、買い物・ギャンブルなどへの依存は経済的末路、職を失ったり周囲から孤立する社会的末路などです。最も心配されるのが、自殺という健康的末路です。
自殺の原因・動機として最も多いのが「健康問題」であり、そのうちうつ状態からの自殺率が最多となっています。
早期発見・早期治療は他の病気でも大切ですが、双極性障害では「自殺」という末路を防ぐため特に重要な手段となります。


チェック方法はある?
医療機関及び医療関連サイトでチェックシートを目にすることができます。下のような質問形式になっていて、いずれも第1段階は数分間でチェックすることができます。
専門医の問診でもほぼ同内容の質問を受けます。
<チェックシート>
また、経過観察用のシートもあります。主治医の指導の下で記入していくことで、再発や重症化を防ぐ手だてとして活用されています。

双極性障害とSDGs
最後に双極性障害とSDGsの関わりについてお話しします。
SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」との関わり
双極性障害で特徴的なのは、躁状態に対する理解や対応、治療です。
躁状態の患者はやる気にあふれて元気なので、本人が病気に気付くことは難しく、うつ状態を見ても、うつ病や他の病気との区別がつきにくい病気です。
日常的に観察できるパートナーを始めとする家族、周囲の人々の観察が不可欠です。身近な人の理解と支援は、患者さんにとって不可欠です。さらに、治療に長期間を要すること、薬物と精神の両方の治療が必要であることから、専門医との連携もとても重要です。
患者さんを支えるこのようなパートナーシップは、市民社会から日本、世界に広がる基盤となると言えます。
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ
双極性障害について、症状や原因、治療法や接し方を解説してきました。さらによくある疑問にもお答えし、SDGsとの関わりもまとめました。
躁うつ病と呼ばれて「躁状態の加わったうつ病」という認識から、躁とうつという「双の極を持つ別の病気であることが分かってきたように、医学的な原因究明が進んでいます。その結果薬も精神療法も進歩してきています。
双極性障害は、現在でも適切な治療を受ければ安定した日常を送ることが可能な病気です。しかし再発しやすく、治療に長期間を要する点が大変な病気でもあります。
医学のさらなる進歩に期待しつつ、患者本人、家族や周囲の人々、医療機関の三位一体でパートナーシップを取りながら前向きに対応していくことが大切ではないでしょうか。
<参考資料・文献>
双極性障害(双極症)ABC
双極性障害(躁うつ病)|こころの情報サイト
双極性障害 | 公益社団法人 日本WHO協会
【簡単】躁鬱チェック(双極性障害)
ミトコンドリアって何?|名古屋学芸大学 管理栄養学部
ミトコンドリアの異常に着目し双極性障害の病態解明に迫る – Juntendo Research(順天堂大学)
双極性障害とつきあうためにVer5.2012
全国医療機関検索|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
令和6年中における自殺の状況(厚生労働省)
双極性障害セルフチェックシート
ライフチャートうつ病学会横型2013.pptx(双極症委員会)
TOGETHER | 国連広報センター
SDGs:蟹江憲史(中公新書)
HSPと不安障害:高田明和(廣済堂出版)
双極性障害:野村総一郎(法研)
双極性障害:加藤忠史(ちくま新書)
この記事を書いた人

くりきんとん ライター
教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。
教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。