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D&Iとは?必要とされる背景や企業の取り組み事例も

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人口減少、高齢化、グローバル化...。激動の時代と言っても過言ではないこの状況の中、企業には多様な人材を活かし、個性を尊重するD&Iへの取り組みが必要だと言われています。

では、なぜD&Iが注目されているのでしょうか?本記事では、企業が取り組むべきポイントや個人ができることについてわかりやすく解説します。

D&Iについて理解を深め、企業と個人が協調して取り組むべき方向性を確認しておきましょう。

目次

D&Iとは

D&Iとは、

の2つを合わせた略語です。これは、職場や社会において、性別、年齢、人種、国籍、障がいの有無などさまざまな属性の人々が互いに尊重し合い、活躍できる環境を作ることを意味しています。

D:ダイバーシティ/Diversity(多様性)

ダイバーシティとは、組織や社会において、性別、年齢、障がいの有無、人種、国籍などの属性が異なる人々が共存し、その多様性を受け入れ尊重し合うことです。一人ひとりの個性や価値観の違いを認め合い、それぞれの強みを活かすことで、新しいアイデアや発想を生み出すことができます

I:インクルージョン/Inclusion(包括性・受容性)

インクルージョンとは、多様な人材が積極的に受け入れられ、安心して活躍できる環境を指します。一人ひとりが孤立せず、互いに尊重され、公平な機会を得られるよう配慮することが重要です。ダイバーシティを実現するには、インクルージョンの取り組みが不可欠です。

【補足】近年はD&Iに加えてE:エクイティ/Equity(公平性)の重要性も

近年、ダイバーシティとインクルージョンに加えて、Equity(エクイティ=公平性)の概念が注目されるようになってきました。単に多様性を受け入れるだけでなく、一人ひとりの状況に応じて、誰にも公平・公正な機会を提供することも重要なのです。

公平性とは

これらをスポーツチームに例えて考えてみましょう。スポーツチームには能力・体格・経験などさまざまな選手がいます。

しかし、練習試合では、能力の高い選手ばかりが試合に出場し、能力の低い選手はベンチに座っているだけだとします。このような状況は、能力によって出場機会が異なるため、能力の低い選手が成長する機会を奪われているという問題があると考えることができます。

この場合、エクイティを実現するためには、能力に関係なく、すべての選手が試合に出場できる機会を作る必要があります。例えば、ローテーション制を採用することで、すべての選手が試合に出場し、経験を積むことができるようにするなどの工夫で、チーム全体が成長するように促すことができます。

企業や組織においてD&Iに取り組むことで、従業員一人ひとりの能力を最大限に発揮させ、イノベーションの創出や生産性の向上につなげることができます。また、多様性のある企業の方が、顧客ニーズにも柔軟に対応できるなどの効果も期待できます。

このように、D&Iは企業にとっても、また社会にとっても、重要な取り組みなのです。*1)

D&Iが注目される背景

近年、企業や組織においてD&Iが注目されるようになってきた背景には、いくつかの重要なポイントがあります。

少子高齢化と多様な人材の活用の必要性

日本の人口は減少傾向にあり、少子高齢化が進んでいます。そのため、企業にとって優秀な人材を確保することが重要な課題となっています。

その中で、今後の社会では、性別、年齢、国籍、障がいの有無など、従来の枠にとらわれることなく、多様な人材を積極的に活用していくことが重要となっていきます。

グローバル化の進展と顧客ニーズの多様化

企業の事業がグローバル化する中で、顧客ニーズも多様化してきました。そのため、多様な価値観や文化的背景を持つ従業員が、それぞれの強みを活かすことで、顧客の多様なニーズに柔軟に対応できるようになります。

人権意識の高まりと社会的責任

企業に対する社会的責任が高まる中で、企業には従業員の人権尊重や、ダイバーシティの推進が求められるようになってきました。単に法的義務を果たすだけでなく、積極的に社会課題の解決に取り組む企業姿勢が高く評価されるようになってきています。

生産性向上とイノベーション創出

多様な価値観や発想を持つ従業員が協力し合うことで、企業の生産性向上イノベーションの創出につながります。従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、活かすことが企業にとって大きなメリットとなるのです。

このように、企業をはじめ、社会全体においてD&Iが注目されるようになった背景には、さまざまな要因が影響しています。企業にとってD&Iの取り組みは、今後の社会で経営を持続していく上で、重要な取り組みなのです。*2)

D&Iに取り組むためには具体的に何をすれば良いのか

D&Iの重要性は理解できたものの、実際に何をすれば良いのかわからない、という方も多いのではないでしょうか?ここでは、具体的にどのような取り組みがD&Iを推進するのか確認していきましょう。

意識改革と教育プログラム

D&Iを推進するためにはまず、従業員一人ひとりの意識改革が重要です。このためには、継続的な教育プログラムや研修を実施し、D&Iの重要性や意義について理解を深める必要があります。

研修では、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)※について学んだり、多様な価値観を持つ人々とのコミュニケーションを練習したりするなど、実践的な内容を取り入れることが効果的です。また、D&Iに関する社内イベントや啓蒙活動を実施することで、従業員の関心を高め、D&Iへの理解を深めることも有効です。

無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)

私たちが無意識のうちに持っている先入観や偏見のこと。性別、年齢、人種、外見といった個人の属性に基づいて、無意識のうちに判断や評価をしてしまうこと。

多様性を尊重した採用・登用制度

D&Iを推進するためには、多様性を尊重した採用・登用制度に見直す必要があります。性別、年齢、人種、民族、宗教、性的指向、障がいなどの属性に偏りがないように、公平な選考基準を設けることが重要です。

また、潜在能力の高い人材を発掘するために、バイアスのかからない面接方法を採用したり、多様なバックグラウンドを持つ人材を評価できる仕組みを導入したりする必要があります。さらに、登用においても、能力や実績を重視し、性別や年齢などの属性によって機会が制限されないようにする必要があります。

インクルーシブな職場環境の整備

D&Iを推進するためには、誰もが安心して能力を発揮できるインクルーシブな職場環境を整備することが重要です。そのためには、多様な働き方に対応できる制度を導入したり、ハラスメントや差別を防止するための対策を講じたりする必要があります。

また、従業員同士が互いを尊重し、協力し合える環境を作るために、コミュニケーション活性化のための取り組みを推進するのも効果的です。例えば、チームビルディング研修や社内交流イベントなどを開催することで、従業員同士の親睦を深め、協力体制を強化することができます。

データに基づいた取り組み

D&Iの取り組みを効果的に推進するためには、データに基づいた意思決定が重要です。例えば、従業員の属性データやエンゲージメント調査の結果などを分析することで課題を特定し、効果的な施策を策定します。

また、取り組みの効果を測定し、必要に応じて改善していくことも重要です。データに基づいた取り組みを行うことで、D&Iの推進状況を客観的に把握し、より効果的な施策を展開することができます。

経営層のコミットメント

D&Iを推進するためには、経営層が積極的に関わることが不可欠です。経営層は、D&Iを経営戦略において重要なものと位置づけ、積極的に推進していく必要があります。

具体的には、D&Iに関する目標を掲げ、進捗状況を定期的にレビューするなど、経営層がリーダーシップを発揮することが重要です。また、従業員に対してD&Iの重要性を積極的に伝え、理解と協力を得ることも必要です。

経営層が積極的にD&Iにコミットすることで、組織全体にD&Iの意識が浸透し、より効果的な取り組みを進めることができます。また、D&Iを推進するにあたっては、従業員一人ひとりの理解と協力を得ながら、継続的に取り組むことが成功への鍵となります。*3)

D&Iを推進するメリット

企業が多様性と包摂性(D&I)を推進することには、さまざまな恩恵があります。多様な価値観や経験を組織に取り入れることで、新たな発想や創造性が生まれ、企業の競争力の向上につながります。また、従業員の満足度や生産性の向上にも期待できます。ここでは、D&Iを推進することのメリットについて詳しく見ていきましょう。

多様な人材の活躍による企業の競争力向上

性別、年齢、国籍、障がいの有無など、さまざまな属性を持つ従業員が活躍することは、柔軟な発想や斬新なアイデアを生むために重要です。これらの新しいアプローチが、製品・サービスの開発や問題解決に活かされ、企業の競争力が高まります。

顧客ニーズへの的確な対応

顧客の声にもより敏感に対応するためには、自社の従業員が顧客層の多様性を反映していなければ困難です。顧客一人ひとりの視点に立った商品・サービスの提供が可能になり、顧客満足度の向上につながります。

優秀な人材の確保と定着

優秀な人材が集まるようにするためには、多様性を受け入れ、全従業員の能力を最大限引き出す企業であることが重要です。また、従業員の満足度や働きがいの向上により、離職率の低下が期待できます。

イノベーションの創出

新しいアイデアやソリューションを創出するためには、異なる価値観や経験を持つ従業員同士の議論や協働が効果的です。従業員一人ひとりの創造性が発揮され、イノベーションが創出されやすい環境を構築できます。

社会的責任の果たし、企業イメージの向上

近年では、社会からの信頼を得るためには、多様性を尊重し、公平・公正な企業文化を構築しているかは、重要な評価ポイントです。優良な企業としての評価が高まり、優秀な人材の確保新規事業開拓など、さまざまな面で好影響を期待できます。

このように、D&Iは多くのメリットが期待できるだけでなく、今後は社会のスタンダードとなっていくことが予想されます。*4)

D&Iを推進する上でのデメリット・課題

多くのメリットが期待できるD&Iですが、D&Iを推進する上でさまざまなデメリットや課題をともなうこともわかってきました。

効果が実感できるまでに時間がかかる

D&Iを推進しても、短期的には業績や生産性の向上といった目に見えるメリットが得られにくい傾向があります。多様性を受け入れる組織文化を根付かせるには時間がかかり、その効果を客観的に示すのは容易ではありません。経営者がD&Iの価値を理解し、中長期的な視点で取り組むことが求められます。

D&Iに取り組む余裕がない

地方の中小企業の経営者は、日々の事業運営に追われ、D&Iの取り組みを十分に検討する余裕がない場合も少なくありません。人手不足や売上の確保など、目前の経営課題に集中せざるを得ない状況にあり、D&Iの重要性を認識しつつも、具体的な行動に移すのが難しい状況にあります。

D&Iについて知識や経験が不足している

D&Iの推進方法やそのための具体的な施策について、企業側の知識や経験が不足していることも課題です。どのように多様な人材を確保し、公平な処遇を実現するか、従業員のインクルージョンをどう醸成するかなど、実践的なノウハウが不足しています。外部の支援などを得ながら、一歩ずつ取り組みを進めていくことが重要です。

ダイバーシティとインクルージョンでは不十分という動向

D&Iでの企業の取り組みは、ダイバーシティ(D)とインクルージョン(I)に主眼が置かれていました。しかし、多様性の確保と包摂性の向上だけでは不十分であり、先述したエクイティ(E、公平性)の視点も重要であると認識されるようになりました。

そこで、D&Iにエクイティを加えたDEIDE&I)が、すべての人が活躍できる環境を整えるためには必要だと考えられています。

【関連記事】DEIとは?注目される背景や取り組み事例も!

DEIは、ダイバーシティ、インクルージョン、エクイティの3つの要素を包括的に捉え、企業がより公平で包摂的な組織となることを目指す取り組みです。DEIはD&Iの改良形と捉えることができるので、D&Iの知識は無用ではありません。

しかし、現在では公平性にも配慮することが求められていることは大切なポイントと言えます。*5)

D&Iを推進する企業の取り組み事例

実際にD&Iの推進に積極的に取り組む企業の具体的な2つの事例を紹介します。

大橋運輸株式会社

【大橋運輸株式会社】

愛知県瀬戸市に本拠を置く大橋運輸株式会社は、運輸業を中心に、遺品整理やポータブル冷凍庫の自動車部品輸送など、幅広い事業を手がける中小企業です。この大橋運輸株式会社は、10年以上の歳月をかけて、ダイバーシティの推進に力を注いできました。

現在では女性従業員の割合が2割超

かつては長時間労働が課題でしたが、現在、大橋運輸株式会社は、女性従業員の割合が2割を超え、外国籍やLGBTQ、障がいのある従業員も活躍するなど、多様性ある職場に変貌を遂げています。この変革の背景には、企業存続の危機意識がありました。

このような状況の中、大手企業の下請けとして、長時間労働に疲弊していた大橋運輸株式会社は、高付加価値の案件に集中することで、事業の方向性を大きく転換しました。

採用活動を見直し、多様な人材を確保

この転換期に、大橋運輸は採用活動を見直し、短時間かつ柔軟な勤務形態での募集を行いました。その結果、多様な人材を確保することができ、以降、多様な働き方を可能にする社内環境の整備に取り組んでいきます。

また、「社長直通メール」の導入など、意見の通りやすい環境づくりにも注力しています。こうした取り組みは、短期的には逆風にもなりましたが、社長が率先して、ダイバーシティの推進が自社にとって欠かせないと、粘り強く社員に訴え続けました。

その結果、多様な人材の活躍を通じて、経営成果を上げることができたのです。

6年連続の新卒採用の成功や、多様な意見を取り入れて生まれた新規事業の立ち上げなど、大橋運輸株式会社のダイバーシティ経営は着実な成果を生み出しています。その取り組みが評価され、経済産業省の「新・ダイバーシティ経営100選プライム」※に選定されるなど、ダイバーシティ経営のロールモデルとして注目を集めています。

新・ダイバーシティ経営100選プライム

中長期的な視点でダイバーシティ経営を推進し、特に先駆的な取組を行っている企業を表彰する経済産業省が017年度から2020年度まで実施した制度。

株式会社由利

【株式会社由利】

兵庫県豊岡市に本社を置く株式会社由利は、鞄やサイフの企画・製造・販売を手がける中小企業です。由利は、ダイバーシティ経営に力を入れ始めた2018年頃から、粘り強い取り組みにより、女性の管理職登用を大幅に進めてきました。

業績悪化を契機にダイバーシティ経営を推進

由利がダイバーシティ経営に舵を切ったのは、新卒社員の早期退職や、コロナ禍による業績悪化を契機としています。そこで、理想の人材を求めるのではなく、むしろ自社に入社してくれた人材がもっと活躍できるよう、経営を改革することに注力しました。

働き方改革から着手

その中で由利は、まず、働き方改革に取り組みました。

  • 残業時間の削減
  • 「プチ勤務制度」※の導入

など、ワーク・ライフ・バランスの改善に着手。その上で、仕事のプロセスを見直し、特定の社員に依存しない体制を構築しました。

この変革には従業員の不安もあったため、丁寧な対話を重ねて理解を得ていきました。

プチ勤務制度

育児や介護で忙しい人や、体力に自信がない人でも、無理なく働くことができる超短時間勤務制度。

女性管理職の少なさにも注目

さらに、女性の活躍推進にも尽力しました。それまで、由利の社員の7割が女性にもかかわらず、管理職は男性が大半を占めていました。

そこで、評価制度の改定や、女性に対する働きかけを強化した結果、女性管理職の割合が54%にまで高まりました。

こうした取り組みにより、有休消化率の向上や時間外労働の削減など、従業員の働きやすさが高まりました。さらに、社外からの評判も高まり、新卒採用にも好影響が現れています。

由利の取り組みは、D&Iへの取り組みを通じて、持続可能な経営の実現に向かう良い事例と言えます。*6)

企業がD&Iを推進する際のポイント

多様な人材が活躍できる組織づくりは、企業の競争力を高め、イノベーションを生み出すと考えられています。では、企業がD&Iを実践的に進めていくためのポイントは何でしょうか。経済産業省の推奨する、具体的な7つのアクションを紹介します。

①経営戦略への組み込み

企業の経営層が、D&Iが経営戦略に不可欠であることを明確にし、具体的なKPIとロードマップを策定することが重要です。経営トップ自らがリーダーシップを発揮し、D&Iに取り組む姿勢を示すことで、組織全体のコミットメントを高めることができます。

【実践例】

  • D&Iを経営理念に明記し、全社に共有する
  • D&Iに関する委員会を設置し、経営層と現場をつなぐ
  • D&Iに関する研修を経営層から現場まで実施する
  • 経営計画にD&Iの具体的な目標数値を設定する

②推進体制の構築

D&Iの取り組みを全社的かつ継続的に進めるために、専門部門やプロジェクトチームなど、しっかりとした推進体制を構築する必要があります。そして、経営トップが実行に責任を持つ体制を整備することが欠かせません。

【実践例】

  • D&I推進担当者を任命し、専任部署を設置する
  • D&Iに関する社内ポータルサイトを構築する
  • D&Iに関する社内イベントを開催する

③ガバナンスの改革

取締役会の構成員のジェンダーや国際性など、多様性を確保することで取締役会の監督機能が高まります。取締役会がD&Iの取り組みを適切に監督する体制を構築することが重要です。

【実践例】

  • 取締役会の構成員選定において、D&Iを考慮する
  • 取締役会にD&Iに関する議題を取り上げる
  • D&Iに関する社外監査を実施する

④全社的な環境・ルールの整備

属性に関わらず全ての従業員が活躍できる人事制度の見直しや、柔軟な働き方の実現など、企業全体のルールやシステムを整備することが不可欠です。

【実践例】

  • ジョブローテーション※やジョブシェア※を導入する
  • テレワークやフレックスタイム制を導入する
  • 育児・介護休暇制度を充実させる

⑤管理職の行動・意識改革

管理職一人ひとりが、部下の多様性を理解し、それを活かせるマネジメントを実践できるよう、教育・研修などを通じて意識改革を行うことが重要です。

【実践例】

  • 管理職向けD&I研修を実施する
  • 無意識の偏見に関する研修を実施する
  • D&Iに関する評価制度を導入する

⑥従業員の行動・意識改革

従業員一人ひとりがキャリアオーナーシップ※を持ち、自律的な行動ができる環境を整備することも欠かせません。そのためには、多様なキャリアパスの構築などが求められます。

【実践例】

  • 多様なキャリアパスの提示
  • 自律的なキャリア形成の支援
  • 多様な価値観の理解促進
  • 柔軟な働き方の選択肢拡大
キャリアオーナーシップ

個人が主体的に自身のキャリアを考え、行動し、責任を持つこと。

⑦情報開示と対話

一貫した人材戦略を示し、労働市場投資家などに対して、D&Iの方針と取り組み成果を積極的に発信し、対話を行うことが重要です。

【実践例】

  • D&Iに関する統合報告書を作成・公開する
  • D&Iに関する投資家向け説明会を開催する
  • D&Iに関する求人情報に明記する

D&Iは、企業だけでなく、社会全体にとって重要な課題です。一人ひとりが多様性を理解し、尊重することで、よりインクルーシブで持続可能な社会を実現することができます。*7)

D&IとSDGs

D&Iは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に欠かせない重要な要素です。なぜなら、多様性を尊重し、誰一人取り残さないという理念は、SDGsが目指す「誰一人取り残さない」という基本的な考え方と同じ目標に向かうものだからです。

その中でも、D&Iは特に以下のようなSDGs目標の達成に大きく貢献することができます。

SDGs目標4:質の高い教育をみんなに

教育の機会均等は、すべての子どもたちが質の高い教育を受ける権利を持つことを目指します。D&Iが尊重される環境では、多様な背景を持つ子どもたちが教育の恩恵を受けやすくなります。

格差のない教育は、社会の包摂性を高め、全ての人が自己実現を果たしやすい環境を生み出します。

SDGs目標5:ジェンダー平等を実現しよう

D&Iが促進されることで、女性の参画が増し、経済や社会全体の活力が向上します。ジェンダー平等は、組織や社会全体の創造性やイノベーション力を高め、持続可能な成長を促進します。

SDGs目標8:生きがいも 経済成長も

D&Iが推進されると、多様な視点や価値観が経済活動に反映され、社会全体の繁栄が促進されます。インクルーシブな経済成長は、貧困削減や雇用機会の拡大など、社会的包摂と経済の持続可能性を両立させることができます。

このように、D&Iは、ジェンダー、教育、雇用など、SDGs達成の鍵となる重要な目標の実現に寄与することができるのです。一人ひとりが互いの多様性を認め合い、誰もが活躍できる社会の実現は、SDGsが目指す「誰一人取り残さない」持続可能な社会の実現につながります。企業やコミュニティ、そして私たち一人ひとりがD&Iの推進に尽力することで、より良い未来を築いていくことができるのです。*8)

>>各目標に関する詳しい記事はこちらから

まとめ

D&I(Diversity & Inclusion)は、多様性と包括性を尊重し、あらゆる人が個性を発揮し、活躍できる社会の実現を目指す取り組みです。近年では、D&Iに公平性(Equity)を加えたDEIという概念も提唱されています。

公平性を重視するのは、単に多様性を尊重するだけでなく、誰もが平等な機会を与えられ、能力を発揮できる環境を整備することが重要だからです。

2030年以降の世界は、人口減少高齢化気候変動などの課題が深刻化すると予測されています。一方、テクノロジーの進歩グローバル化により、社会・経済は大きく変化していくことも予想されます。

日本においても、

  • 人口減少・少子高齢化
  • 生産性の低さ
  • 地域格差の拡大

など、さまざまな課題に直面しています。こうした中、企業にとってD&IまたはDEIの実践は不可欠になってきています。多様な人材を活かし、公平な評価と機会を提供することで、イノベーションの創出や生産性の向上、さらには持続可能な成長につながるからです。

一方で、個人にとっても、自分の能力を最大限発揮できる環境で活躍できるD&Iに積極的に取り組む企業を選んで働くことは重要です。

企業は、D&I推進に向けて、

  • 経営層の積極的な参加
  • 多様性尊重の企業文化づくり
  • 公平な人事制度の導入

など、組織全体で取り組む必要があります。そして個人も、D&Iの意義を理解し、自ら能力開発や自己PRに努めていくことが求められます。

近年、DEIが提唱されていることも念頭におきながら、企業は自社の現状を再確認し、取り組むべきポイントを検討しましょう。また、私たち個人単位でも、多様性・包括性・公平性とは何か、どうあるべきかなどを考える機会を持ち、理解を深めましょう。

<参考・引用文献>

*1)D&Iとは
特許庁『ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進』
経済産業省『ダイバーシティ経営の推進』
経済産業省『中小企業のためのダイバーシティ経営』
経済産業省『新・ダイバーシティ経営企業100選/100選プライム』
経済産業省『多様な個を活かす経営へ~ダイバーシティ経営への第一歩~』(2021年3月)
*2)D&Iが注目される背景
日経BizGate『DEIのEは何?女性の活躍推進、納得感を高めるには ダイバーシティ研究の第一人者、谷口真美
早稲田大学 商学学術院教授に聞く』(2024年2月)
日本経済新聞『CFOがリードするDEI推進で企業競争力向上』
*3)D&Iに取り組むためには具体的に何をすれば良いのか
経済産業省『ダイバーシティ・コンパス』
日本経済新聞『高まる「DEI」の重要性 新風シリコンバレー ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社⻑ ロッシェル・カップ氏』(2022年3月)
日経XTECH『多様性の新概念「DEI」、キンドリルジャパンの従業員コミュニティーから学ぶ』(2023年9月)
経済産業省『多様な個を活かす経営へ~ダイバーシティ経営への第一歩~』(2021年3月)
経済産業省『ダイバーシティ経営の推進について』(2024年2月)
*4)D&Iを推進するメリット
経済産業省『中小企業のためのダイバーシティ経営』
NTT東日本『DE&I推進がもたらす、イノベーション創出と人材確保』(2023年6月)
厚生労働省『ダイバーシティ経営の利点と「ダイバーシティインデックス」の必要性』(2022年12月)
*5)D&Iを推進する上でのデメリット・課題
日経COMEMO『DE&Iに対する「反動」にどう対処するべきか?』(2024年1月)
経済産業省『DIVERSITY MANAGEMENT』(2024年)
経済産業省『イノベーション創出加速のためのデジタル分野における「ニューロダイバーシティ」の取組可能性に関する調査』(2022年3月
*6)D&Iを推進する企業の取り組み事例
経済産業省『中小企業のためのダイバーシティ経営』
MITUBISHI ELECTRIC『ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の意味や企業の推進方法』(2021年6月)
経済産業省『ダイバーシティ経営の推進』
経済産業省『ダイバーシティ選100経営企業ベストプラクティス集』(2014年3月)
*7)企業がD&Iを推進する際のポイント
経済産業省『DIVERSITY MANAGEMENT』(2024年)
厚生労働省『職場におけるダイバーシティ推進事業について』(2019年)
厚生労働省『令和元年度厚生労働省委託事業「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取事例~」の概要』(2019年)
厚生労働省『令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業 報告書』(2020年3月)
*8)D&IとSDGs
国際連合広報センター『SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン』
MUFG『DE&IとSDGs:未来志向の人権経営(1)』(2023年8月)
日本生活協同組合『日本生協連のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)』
日経ESG『DE&I』(2023年3月)