ダウン症は新生児に最も多い遺伝子疾患で、染色体の突然変異が原因です。原因と1,000人に1人という確率を考えれば、出合うことは少なくありません。
このダウン症について、近年の医学ではどこまで明確になっているのか解説します。一緒に理解を深めていきましょう。
目次
ダウン症とは

ダウン症候群( Down syndrome または Down’s syndrome )、通称ダウン症は、体細胞の21番目の染色体が通常より1本多くあることで発症する先天性疾患です。
染色体は本来、2本1対で存在します。これが1本多くなってしまった異常をトリソミー、1本少ない場合をモノソミーと言います。そのためダウン症は「21トリソミー」「トリソミー21異常」になることで発症する遺伝子疾患です。新生児に最も多い遺伝子疾患です。
名前の由来
「ダウン」の名前は、最初の報告者の英遺伝子学者ラングドン・ダウン博士によります。
1965年、WHOによって正式名称とすることが決定されました。
2012年には、国連によって3月21日が「世界ダウン症の日」に認定されるなど、現在は「ダウン症」という名前が広く使われています。
日本のダウン症者
2023年の調査では、検査や治療のため医療機関を受診した人数だけでも1.7万人、推定では数万人いると言われています。およそ1,000人に1人の確率とされ、母親の年齢が高くなると確率も上がることが知られています。
患者数の性別差は、やや男性が多いもののほとんどないと言ってもよい程度です。障害程度は、男性の重度患者がわずかに多くなっています。

ダウン症の特徴

ダウン症の特性として、筋肉の緊張度が低く発達がアンバランスになることもあり、顔の表情などに特徴が現れます。また複数の疾患を持つ場合があり、心因反応にも共通性を持っています。
外見的特徴
顔の中心部と外側の筋肉の成長アンバランスは、ややつり上がった目、低めの鼻、頭部の低い位置に小さな耳、といった特徴になっています。また顔全体の筋肉が弱く、舌が長い傾向があります。そのため口を開けていることが多くなっています。
また、掌に横1本の線がよく見られます。身長も平均より低く、肥満になりやすい特徴があります。
参考:公益財団法人 日本ダウン症協会(JDS)公式サイト及びダウン症(21トリソミー)とは?特徴と新型出生前診断(NIPT)で分かること | DNA先端医療
多い合併疾患
ダウン症は染色体の異常からきているので、いくつもの合併症を伴うことが多くなっています。特に多いのが心臓疾患、消化器系内臓疾患、目や耳の疾患などの合併症です。
心臓疾患
ダウン症者の40〜50%が、出生時から心室中隔欠損症などの心疾患を持っています。心室中隔欠損は心室を区切る壁に穴が開いている疾患ですが、穴が小さい場合は成長とともに閉じる場合もあります。しかし、小さくない場合は投薬や手術といった治療が必要です。
消化器系疾患
内臓にも疾患が現れることがあり、中でも食道閉鎖や鎖肛 ※ など消化器系疾患の割合が多くなっています。症状に応じて手術を行うことがあり、日常的な消化活動ができるようになるためには、術後も訓練を行います。
<食道閉鎖の形状>
目や耳の疾患
感覚器官にも高い確率で疾患を伴います。白内障や斜視、難聴など多くの種類の疾患が見られ、それぞれの症状に応じて眼科・耳鼻科の治療が行われています。
その他の疾患
染色体の異常から身体を作っている筋肉に起こる異常は、その他にも様々な疾病を伴うことがあります。さらに1つの疾病だけでなく、複数の疾病を合併させている場合も多く、治療を受けながら生活している現状です。
また多くのダウン症者が、思春期に入ると引きこもりや寡黙症などの適応障害を起こすことがあります。
下のグラフは、ダウン症者が健常者の診療科目より精神科を受診する数が多いことを示しています。大きな環境の変化にうまく対応できないことが多いのです。
<配慮:通院群の診療科⽬別⼈数 >

しかし、医療や制度の整備が進み、入院加療ではなく通院治療を受けて学校生活や社会生活を送っているダウン症者がほとんどです。一層の研究や支援制度の充実が望まれます。
ダウン症はいつ分かるのか

突然変異である染色体の異常は、比較的早い段階から発見することができます。大きく分けて次の3つの時期の検査で分かります。
- 妊娠前(着床前)
- 妊娠後
- 出産後
妊娠前
医学的には、受精卵の段階で染色体を調べればトリソミーなどの異常を発見することができます。しかし実際には、日本ではまだそのための施設や研究が広まっておらず、一般的に行えるとは言えません。
ですが染色体異常の受精卵は、通常の生存に弱いため、流産というかたちで自然淘汰されることが多くなっています。
妊娠後
染色体異常の受精卵でも着床し、その後も自然淘汰されずに成長する場合があります。
その場合も検査は可能です。
検査の結果ダウン症が発見され妊娠を続けないと選択する場合もあるかもしれません。その場合は、母体の妊娠22週目までに決断しなくてはいけないことが母体保護法 ※ によって定められています。
妊娠中に行う検査は大きく分けて2つ、それぞれよく用いられる検査名・方法は次の通りです。時期は母体や胎児の状態から医師が判断します。
はじめは母体や胎児に負担のないスクリーニング型の検査をし、疑いが見られれば確定型検査を行うケースが一般的です。確定型は確かな結果が得られますが、リスクもあるので慎重な判断が求められます。
検査のタイプ | 検査名 | 検査方法 |
スクリーニング型(染色体異常の可能性を発見する検査) | NIPT( Non-Invasive Prenatal Testing )新型出生前診断) | 母体からの採血 |
コンバインド検査 | 超音波検査と血液検査を組み合わせたもの | |
母体血清マーカー検査 | 母体からの採血 | |
エコー検査 | 超音波照射し画像解析する | |
確定型(疾患を診断する検査) | 羊水検査 | 針をさして羊水を採取 |
絨毛検査 | 腹部や膣から胎盤の一部を採取 |
出産後
出生後は子どもの様子、疾病の度合いや発症の頻度などから、可能性を疑うことが多くなっています。
ダウン症者は、前章でお話した疾患が合併発症していることが多いので、家族や周囲の人、かかりつけ医や保健師が、身体的特徴から高い確率で発見することができ、検査して確定することができます。
参考:ダウン症 はいつ発覚するの? 出生前診断 や 着床前診断 でもわかる? – 不妊治療の事ならグリーンエイト及びダウン症はいつわかる?ダウン症の赤ちゃんが生まれる確率
ダウン症になる原因はある?治療法は?

病気には原因が特定できるものとできないものがあります。ダウン症の原因が判明すれば治療や予防の見通しがたちます。現況はどうなのでしょうか。
原因
ダウン症には「21トリソミー」(95~96%)の他にも
転座型(約3%)
モザイク型(約1~2%)
があります。
転座型は、21番染色体が同じ染色体や他の染色体に付着することで発生します。またモザイク型は、正常な21番染色体と異常なものが混在している状態です。正常なものも含まれているので、ダウン症の中でも比較的軽い症状となります。
どのタイプにしても、染色体異常のメカニズムは分かっているものの、その異常が発生する原因やきっかけは確定していません。
治療法
ダウン症の根本的治療は、現在ではまだ確立されていません。
しかし、各種の合併症に対する治療法は進化してきて、各分野の成果と集められたデータ、遺伝子研究の進化などによって、関連機関の研究が進みつつあります。
近年のアルツハイマー病の解明や治療薬の開発などの成果は、ダウン症治療の世界にも明るい希望を与えてくれました。
ダウン症の子どもとの接し方

ダウン症は1,000人に1人の確率です。ご家族やご親族、あるいはお知り合いの方にいるかもしれませんし、これから出合うかもしれません。そんなときの接し方を解説していきますので、一緒に考えていきましょう。
健康上の特性に理解を
ダウン症の大きな特徴に、筋緊張の低さがあります。これは全身の活動に関わってきます。
発達に合わせ、姿勢保持や遊び方に少し配慮してあげる必要があります。
そして合併症が多いことを考慮し、ゆっくり動いたり、普通より時間をかけてあげることで、達成できることもたくさんあります。
個人差にも配慮:できることもたくさん
日常生活を送るうえで、例えば食事を挙げると、「ほぼ自分でできる」お子さんと「一部手伝い」があればできるお子さんの割合を合わせると約9割になります。

また得意なことを持っているお子さんも多くいます。総じて「時間はかかるけどできないことは少ない」と言えます。周囲が配慮して接すれば、本来の明朗さをもって反応してくれるお子さんが多くいることでしょう。
ご家族へも配慮を
ご両親を始め、ご家族はダウン症のお子さんを持ったことで、ストレスを抱えてしまうことが少なくありません。ダウン症のお子さんの成長に一喜一憂したり、知人からの一言が励ましになったり大きなストレスになったりと、心の揺れ幅が大きくなっています。
それぞれのご家族のペース・やり方に合わせた温かな配慮が何よりではないでしょうか。
ダウン症に関してよくある疑問

ここからは、ダウン症に関してよくある疑問にお答えしていきます。
平均寿命は?
1970年頃までは10歳くらいだった寿命が、医療や教育制度が充実するに伴なって、2010年には60歳に達し、現在は60〜65歳になると推定されてます。成人ダウン症者への支援がさらに厚くなれば、寿命も長くなることが期待されます。
参考:ダウン症の人の寿命、50年で50歳伸びる 不足する医療の受け皿:朝日新聞
老人がいない理由は?
ダウン症では早期に老化が始まる傾向があります。
21番染色体に現れるトリソミーは染色体が3本であることから、そこでのタンパク質生成も過剰に産生され、老化が早く進む原因と考えられています。
そのため、アルツハイマー型認知症など加齢に伴う疾病も早く始まり、平均寿命が短いことにもつながっています。
参考:ダウン症の若年性老化・急性退行・認知症について – じょいく児。
軽度だと気が付かない?
「軽度」というのは、染色体異常の度合いではなく、身体的な特徴が強く出ているかや合併症の程度から判断するものです。
ダウン症の症状には個人差があり、他の人と外見もあまり変わらず、疾病も軽い人もいます。「少し成長がゆっくり」くらいに見られる方も少なくないでしょう。染色体異常かどうかは確定検査で分かります。
ダウン症になるのは親が悪い?

「責任」という意味なら「全くない」と言えます。染色体の異常は突然変異なので、誰にも起こり得ます。
転座型のダウン症は遺伝的な要素が大きい型ですが、それもご両親の相性で「原因」にはなりますが「親のせい」ではありません。しかも3%というわずかな確率です。
ダウン症の芸能人はいる?
はい、おります。近年の代表格のあべけん太さん(上画像左:1987年4月生)と吉田葵君(同右:2007年1月生)です。二人ともドラマやイベントで活躍しています。
あべさんは普通運転免許も持ち、葵君はモダンバレエの名取です。オフィシャル・サイトのプロフィールからはお二人の明るく前向きな人柄が伺えます。
本人ではありませんが、家族にダウン症者を持つ芸能人はたくさんいます。
参考:Down Up株式会社 » あべけん太公式サイト及び吉田葵OFFICIAL WEBSITE
ダウン症とSDGs

ダウン症について理解を深めることは、SDGsの理念「誰も取り残されない」に大きく関わります。では最後に、ダウン症とSDGsとの関わりについてまとめます。
SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」との関わり
目標3は「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確実にし、福祉を推進する」ことを目指しています。
周囲に見られる課題について理解を深めることは、課題解決の第一歩です。
ダウン症についてもまずその原因や症状を知ることからスタートです。先天性異常であること、合併症と共に歩んでいることに理解が及ぶことで、可能な支援の方向が見えてきます。
ダウン症者も、その他疾病や障害を持つ人も、そうでない人もすべて「取り残されない人々」なのです。
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ
ダウン症について、特徴や原因、接し方などについて解説してきました。そしてよくある疑問にもお答えしてきました。
近年の医療技術の進歩や遺伝子関連の研究の深まりのおかげで、先天性異常があっても、適切な治療や療育を受ければ、よりよく生活できるようになってきました。
幸い、科学技術の進歩はさらに続くと予想されています。ダウン症に関しても出生前検査の確実性は格段に増しています。今後は診断に留まらず、治療や予防といった領域も明確になっていくことが期待されます。
私たちは、科学の成果を正しく受け取り、正しく有効に生かせる方向を見つめていきましょう。
<参考資料・文献>
トリソミーとは? 意味や使い方 – コトバンク
ダウン症(ダウン症候群) | 国立成育医療研究センター
患者調査(厚生労働省)
ダウン症者の生活実態調査(20230128)
公益財団法人 日本ダウン症協会(JDS)公式サイト
ダウン症(21トリソミー)とは?特徴と新型出生前診断(NIPT)で分かること | DNA先端医療心室中隔欠損症.jpg(1000×531)
先天性食道閉鎖症 – 胸部の疾患 | 胎児診断治療センター
鎖肛(直腸肛門奇形) – 一般社団法人日本小児外科学会
母体保護法 | e-Gov 法令検索
ダウン症 はいつ発覚するの? 出生前診断 や 着床前診断 でもわかる? – 不妊治療の事ならグリーンエイト
ダウン症はいつわかる?ダウン症の赤ちゃんが生まれる確率
実態調査(報道関係向け)
特別支援教育リーフ – 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所
ダウン症の人の寿命、50年で50歳伸びる 不足する医療の受け皿:朝日新聞
ダウン症の若年性老化・急性退行・認知症について – じょいく児。
吉田葵OFFICIAL WEBSITE
Down Up株式会社 » あべけん太公式サイト
JDS子育て手帳「+Happy しあわせのたね」 | 公益財団法人日本ダウン症協会
コトバンク
SDGs:蟹江憲史(中公新書)
この記事を書いた人

くりきんとん ライター
教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。
教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。