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メタン発酵バイオガス発電とは?仕組みやメリット・デメリット、問題点を解説

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自治体や企業は、生ごみや家畜のふん尿などを燃料にして発電する「メタン発酵バイオガス発電」の導入を進めています。環境負担の軽減や地域貢献になるなどの理由から、FIT制度から見た新規導入件数も着実に増えているのが現状です。

この記事では、メタン発酵バイオガス発電の仕組みや導入が促進されている理由、メリット・デメリット、日本の導入の現状、導入事例、SDGsとの関係について解説します。

メタン発酵バイオガス発電とは

メタン発酵バイオガス発電とは、生ごみや紙ごみ、家畜のふん尿などの有機物を微生物が分解したときに発生するメタンガスを燃料にした発電のことです。上図のように、酸素のない状況(嫌気環境)で働く微生物は、有機物を食べることでメタンガスを生み出しています。一方、酸素のある状態(好気環境)で働く微生物からは、二酸化炭素酸素などは排出されますが、メタンガスは発生しません。

■酸素のない状況(嫌気環境)で働く微生物はメタンガスを作る

■酸素のある状況(好気環境)で働く微生物はメタンガスを作らない

そのため、燃料として利用できるメタンガスを取り出すためには、微生物を酸素のない状況に置く必要があります。このように微生物の働きを利用してガスを発生させる過程を「メタン発酵」と言い、生成されたガスはバイオガス(生物由来のガス)と呼ばれていますメタンガスは発電に利用されるほか、発酵後の微生物が食べ残した残渣は、肥料として農地に利用することが可能です。

そもそもバイオガス発電とは

バイオガスとは、生物の排泄物や有機質肥料、生分解性物質、エネルギー作物などを発酵させたときに発生するガスを広く意味します。発生するガスの種類はメタンガスや二酸化炭素などであり、これらを利用する発電がバイオガス発電です。そのため、「メタン発酵バイオガス発電」は「バイオガス発電」の一部と言えますが、現在2つの言葉はほぼ同義に使われています。

メタン発酵バイオガス発電の仕組み

メタン発酵バイオガス発電の仕組みについて見ていきましょう。下の図は、生ごみなどの食品廃棄物を燃料にする場合のメタン発酵バイオガス発電の仕組みです。

■生ごみのメタン発酵バイオガス発電の仕組み

(引用元:バイオガス発電推進協議会「バイオガス発電の仕組み」)

発電所に届けられた食品廃棄物(生ごみ)は、ビニール、プラスチック、魚の骨が含まれている場合があるので、まずはそれらを分別します。その後処理調整槽の中に入れ、水を加えてペースト状にします。それを発酵機で発酵させると、メタンガスと水に分離します。そこから取り出したメタンガスは、前処理装置を経て発電されるか、もしくはガスエンジンから電力や温水などとして利用されるというのが主な流れです。

※家畜のふん尿の場合、分別を除いた工程で発電が行われます。原料の違いにより前処理の方法が異なりますが、それ以外は同じです。

発酵する際の温度は35~55℃で、期間は20日から1カ月かかります。発生するガスの主成分は、メタンガス(CH4)が6割、二酸化炭素(CO2)が4割程度、微量の硫化水素(H2S)は微量です。※[i]

なぜメタン発酵バイオガス発電の導入が促進されているの?

自治体や団体、企業は、メタン発酵バイオガス発電の導入を進めています。FIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)の2022年3月末時点で導入されれている累計数を見てみると、228件、総容量は81,586キロワットであり、適正なスピードで進んでいるといわれています。※[ii]その理由は、主に2つあります。

脱炭素社会への移行

メタン発酵バイオガス発電の導入が促進されている理由の一つが、2050年までにカーボンニュートラルを目指す国の方針により、脱炭素社会への気運が高まっていることが挙げられます。生ごみなどの廃棄物をこの発電方法により処理すれば、二酸化炭素の排出を削減することが可能です。さらに、捨てるはずのごみを原料として再利用することで、資源を循環させることができます

地域社会への貢献

もう一つは、メタン発酵バイオガス発電が、地域の廃棄物処理や安定した再生可能エネルギーの供給が可能であることです。含水率が高く不純物が混じった原料であっても利用できるので、し尿や生ごみ、産業から排出される食品廃棄物を一つの施設で合理的に処理できます。また、家畜のふん尿を処理することで、悪臭の低減にもつながります。※[iii]

これらへの関心の高まりから、自治体や団体、企業が環境問題への取り組みの一つとして、メタン発酵バイオガス発電は順調に数を増やしています。それでは、メタン発酵バイオガス発電にはどのようなメリットがあるのでしょうか。次に見ていきましょう。

メタン発酵バイオガス発電のメリット

メタン発酵バイオガス発電の主なメリットは3つあります。

環境負担の低減

1つ目は、導入が促進されている理由でも述べましたが、環境への負担を減らせることです。

次の図は、生ごみなどの廃棄物を処理する際に排出される二酸化炭素の量の推移を表しています。

■廃棄物分野の温室効果ガス排出量の推移

「廃棄物の単純焼却」については、二酸化炭素の排出量はおおむね減少傾向にあります。とはいえ、2018年の時点では11,757千t-CO2eq.と、一般廃棄物全体の4割近くを占めているのが実情です。そのため、廃棄物焼却時の二酸化炭素排出量を減らすことは、有効な温室効果ガス対策の一つになります。焼却処分する生ごみをメタン発酵バイオガス発電に利用すれば、脱炭素社会の実現につながります。

【関連記事】脱炭素とは?カーボンニュートラルとの違いや企業の取り組み、SDGsとの関係を解説

再生可能エネルギーの安定的な供給

2つ目は、家畜のふん尿といった調達量が変動しにくい原料を、再生可能エネルギーとして利用できることです。メタンバイオガス発電は、太陽光発電や風力発電のように、天候に左右されることはありません。例えば、日照時間の少ない地域において一定の規模の酪農を営んでいる場合、メタン発酵バイオガス発電設備による発電だけで施設内の電力供給ができます。さらにFIT制度を利用して売電することにより、副収入を得ることも可能です。太陽光発電のように日の出ている時間だけではなく、24時間の発電ができるほか、売電した電力により地域への安定したエネルギーの供給が可能です。※[iv]

【関連記事】再生可能エネルギーとは?メリットやデメリット、日本・世界の現状、今後の課題も

循環型社会の形成

3つ目は、生ごみや家畜のふん尿、紙ごみなどの原料を地元で集め、消費できることです。畜産業界では、家畜のふん尿処理の段階で起きるアンモニアなどによる悪臭や有機物による水質汚濁といった課題を抱えています。メタン発酵バイオガス発電は、これらの課題を解決することが可能です。また、廃棄物原料を利用してメタンを取り出した後は、残渣を肥料として使用できます。それを地域の農地に還元すれば、地産地消が可能になり、循環型社会が実現します。※[v]

【関連記事】循環型社会とは?現状と日本・世界の取り組み事例・私たちにできること、SDGsとの関連性

メタン発酵バイオガス発電のデメリット

メタン発酵バイオガス発電にはメリットがある一方で、デメリットもあります。

原料の回収方法の検討が必要

デメリットの1つは、原料となる生ごみや家畜のふん尿などを集めて管理しなければならない点です。メタン発酵バイオガス発電では、原料になる廃棄物を選り分けて発酵に適さないものを除き、混入しないようにします。その選別を分別収集という形で行う場合、従来の収集形態を変更した上で、新たな方法にかかる運搬コストを考慮しなければなりません。収集回数を増やせば、人件費の増加などが見込まれる場合もあるでしょう。また、機械によって選別を行えば、禁忌品や火災の原因になる品目の混入を防ぐための何らかの措置が必要です。※[vi]

発酵残渣の処理が必要

もう一つは、発酵後の残渣(消化液や残留固形物)を肥料として利活用できない場合、処理する必要があることです。特に都市部では、肥料の需要が少ないこともあり、発酵残渣の処分方法を考える必要があります。消化液は下水などに放流する方法がありますが、残留固形物は焼却処理をするケースが多く、その際は焼却施設を確保しなければなりません。近隣施設と連携し、処理物の性状(含水率など)や前処理が必要か、運搬方法をどうするかなどを確認します。また、発電施設に焼却炉を併設するケースもあるので、建設にかかる費用と発電の効率との兼ね合いを見て検討します。

メタン発酵バイオガス発電の導入における日本の現状と課題

(引用元:環境省「メタンガス化の技術」)

メタン発酵バイオガス発電の導入数は増加していますが、現時点では普及するまでには至っていないのが現状です。増加している背景と普及するまでには至っていない理由について見ていきましょう。

FIT制度が導入を後押し

FIT制度の認定を受けているメタン発酵バイオガス発電施設は、306件、137,570キロワットと着実に伸びています。

■メタン発酵バイオガス発電の新規認定状況

2022年3月末2021年3月末2020年3月末2019年3月末2018年3月末
認定件数306257228220205
認定容量(kW)137,570107,80786,10083,67877,962
(引用元:一般財団法人日本有機資源協会「メタン発酵バイオガス発電の導入促進」2022年11月1日)

注)「新規」とはFIT制度ができてからの累計という意味。
注)認定容量は、バイオマス比率を考慮したもの。

2018年度からの推移を見ていくと、年度ごとに認定施設が15~50件増えていることが分かります。これは、FIT制度により事業者が利益を得やすくなった結果であると考えられています。※[vii]以前はFITの認定を受けられる規模が10,000キロワットであったのに対し、2023年度より2,000キロワット未満に引き下げられました。今後、さらに導入が進んでいく見込みです。

普及までには至っていない理由

メタン発酵バイオガス発電の導入が着実に進んでいるとはいえ、普及までには至っていたいのが現状です。その理由には、導入する事業者が検討できるような情報が不足していることが挙げられます。バイオガスを作る設備や利用機器をどのように選択したら良いかのマニュアルが整備されておらず、判断が難しいのが現状です。特に、民間の中小規模向けの情報は多くありません。そのため、官民が連携して、優良なバイオガス設備やメーカーなどの情報を提供していくほか、バイオガス利用機器の納入・稼働状況の公表が必要です。※[viii]

メタン発酵バイオガス発電の導入事例

メタン発酵バイオガス発電を導入している2施設の事例を見ていきましょう。

南但クリーンセンター[兵庫県]

(引用元:南但広域行政事務組合「施設紹介」)

兵庫県の養父市と朝来市の共同事務を行う南但広域行政事務組合は、高効率原燃料回収施設とリサイクルセンターから成る南但クリーンセンターを運営しています。高効率原燃料回収施設では、バイオマス設備と熱回収設備が稼働しています。

■高効率原燃料回収施設の全体フロー

(引用元:環境省「メタンガス化の技術」)

バイオマス設備は、回収した可燃ごみを処理した後、発酵槽にてメタンガスを経て発電します。一方、熱回収設備はメタン発酵に適さない可燃ごみや発酵残渣を焼却しています。

全体の処理の流れは次の通りです。

  1. ごみをピットに投入する。
  2. ピットのごみを破砕装置により処理した後、選別してメタン発酵に適するごみをバイオマス設備に送る。適さないごみは熱回収設備に貯留してから焼却処分する。
  3. メタン発酵用のごみは、調整後にメタン槽に投入する。
  4. メタン槽にて発生したガスはガス貯留槽にためられた後、ガス発電機に送られる。[iv]

メタン発酵に適さない可燃ごみと発酵残渣のいずれも焼却処分をしています。

株式会社長岡バイオキューブ[新潟県]

(引用元:株式会社 株式会社長岡バイオキューブ「生ごみから電気をつくり、発酵残渣を有効利用する施設です。」)

株式会社長岡バイオキューブは、新潟県長岡市の長岡環境衛生センター内にて、生ごみバイオガス発電センターを建設・運営しています。生ごみを使ったメタン発酵バイオガス発電事業を行うために、JFEエンジニアリング株式会社ほか4つの企業から出資を受けて設立された特別目的会社です。この事業は、長岡市と事業契約を結んで進められています。

■生ごみバイオガス発電センターの全体フロー

(引用元:(引用元:株式会社長岡バイオキューブ「事業概要」)

回収された可燃ごみは、南但クリーンセンターと同様に、次のように処理されています。

  1. 生ごみを受入貯留装置に投入する。
  2. 破砕した生ごみから発酵に適したごみを選り分け、不適物は隣接する寿クリーンセンターで焼却処分する。
  3. 発酵槽にてメタンガスを発生させ、脱硫装置にて硫化水素を除去した後、ガスホルダーに蓄える。バイオガス発生量は、8,900Nm3/日。
  4. バイオガスを燃焼させてガスエンジンを動かし、その力で発電機を回して発電する。発電量は12,300kWh/日。
  5. 発酵分解されない発酵残渣は脱水機で水分を取り除いた後、乾燥させて有効利用する。発生量は最大4t/日。※[v]

メタン発酵に適さない生ごみは焼却処分し、発酵残渣は有効利用しています。

この2つの事例のように、メタン発酵バイオガス発電は、メタン発酵に適さないごみや発酵残渣を何らかの方法で処理しなければなりません。メタン発酵に必要な設備だけでなく、焼却施設を確保することも考えておく必要があります。

メタン発酵バイオガス発電とSDGs

最後に、メタン発酵バイオガス発電とSDGsの関係について確認していきます。メタン発酵バイオガス発電は、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標12「つくる責任つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」と関係があります。

目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」

目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は、2030年までに世界の中で再生可能エネルギーの割合を大幅に増やすことを目指しています。メタン発酵バイオガス発電は、生ごみや紙ごみ、家畜のふん尿などの廃棄物を燃料とした再生可能エネルギーです。日本では、2023年度にFIT制度の要件が2,000キロワット未満の規模に引き下げられました。今後、自治体をはじめ企業などで導入が進めば、SDGsの目標を達成できます。

目標11「住み続けられるまちづくりを」

目標11「住み続けられるまちづくりを」は、2030年までに二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスや廃棄物の管理を適切に行い、環境の悪影響を小さくすることなどが盛り込まれています。メタン発酵バイオガス発電は、廃棄物を燃料とした再生可能エネルギーです。二酸化炭素の排出量は、焼却処分するよりも低く抑えることができます。そのため、地球環境への影響も少なく、廃棄物を有効に活用することが可能です。

目標12「つくる責任つかう責任」

目標12「つくる責任つかう責任」は、2030年までに天然資源を持続可能で効率的に利用する仕組みをつくることが掲げられています。また、廃棄物を「出さない」「削減する(リデュース)」「再生利用する(リサイクル)」「再利用(リユース)」することが求められています。メタン発酵バイオガス発電は、廃棄物をメタンガスに変えるだけでなく、発酵残渣を肥料に再生利用することが可能です。廃棄物を有効に利用することでSDGsに貢献します。

目標13「気候変動に具体的な対策を」

目標13「気候変動に具体的な対策を」は、気候変動対策を実施することを求めています。世界では、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出量が増加することにより、地球の温暖化が進んでいます。メタン発酵バイオガス発電では、燃料になる廃棄物をそのまま焼却処分するよりも二酸化炭素の排出量を減らすことが可能です。もともと焼却するはずの廃棄物を利用するバイオガス発電の技術は、SDGsの目標の達成につながります。

まとめ

メタン発酵バイオガス発電は、生ごみや紙ごみ、家畜のふん尿などを微生物が分解したときに発生するメタンガスを燃料に発電する方法です。二酸化炭素の排出量を削減できるほか、生ごみを利用できるので、脱炭素社会の実現や地域社会の貢献になるとして導入が促進されています。FIT制度の要件引き下げにより新規の導入件数は増えていますが、導入する事業者が検討できるような情報が不足しているため、普及には至っていません。今後、バイオガス設備などの情報やガイドラインの策定が必要です。

メタン発酵バイオガス発電は、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標12「つくる責任つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成につながります。再生可能エネルギーの利用や温室効果ガス削減、資源を守るなどの地球環境の保全に貢献します。


※[i] バイオガス発電推進協議会「バイオガス発電の仕組み
※[ii] 一般財団法人日本有機資源協会「メタン発酵バイオガス発電の導入促進」2022年11月1日
※[iii] NEDOバイオマスエネルギーの地域自立システム化実証事業「バイオマスエネルギー地域自立システムの導入要件・技術指針  第6版
※[iv] NEDOバイオマスエネルギーの地域自立システム化実証事業「バイオマスエネルギー地域自立システムの導入要件・技術指針  第6版
※[v] 環境省「メタンガス化に関する基本的事項
※[vi]環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部 廃棄物対策課「メタンガス化施設整備マニュアル (改訂版)」平成29年 3月
※[vii]  一般財団法人日本有機資源協会「メタン発酵バイオガス発電の導入促進」2022年11月1日
※[viii]一般財団法人新エネルギー財団   新エネルギー産業会議「バイオマスエネルギーの利活用 に関する提言」令和4年3月
※[iv]  南但広域行政事務組合「施設紹介
※[v]  株式会社 長岡バイオキューブ「施設設備」