株式会社天地人 西山 陽平さん インタビュー

西山 陽平
執行役員︎ 事業開発統括マネージャー 西山 陽平(にしやま ようへい)
2009年For-side.com(東京)に入社、経営戦略部マネージャーとして米国、UK、インド、東南アジアでの事業開発を担当。2015年VNPAYで会長アドバイザーとしてペイメントゲートウェイサービスを構築。2016年TradingViewに入社、日本事業の責任者として成長を実現。2018年Standard AIに入社、ゼネラルマネージャーとして日本のオペレーション立ち上げに貢献。2022年Mashginで日本の事業開発統括を担当。2024年6月天地人に参画。
introduction
この世界には、私たちの目には見えなくても、宇宙からなら見える情報がたくさんあります。
衛星を通し、地球上の様々な情報を取得し、AIを使って解析する。そんな壮大なシステムを使い、私たちの、そして地球の課題を解決し、持続可能な社会を目指しているのが株式会社天地人(てんちじん)です。
今回は、 執行役員︎ 事業開発統括マネージャーの 西山さんに、天地人のWebGIS(Geographic Information System 地理情報システム)プラットフォーム「天地人コンパス」や「天地人コンパス 水道局」などについて、お話を伺いました。
WebGISプラットフォーム「天地人コンパス」とは
–まずはじめに、株式会社天地人のご紹介をお願いします。
西山さん:
株式会社天地人は、日本の公的機関JAXA(宇宙航空研究開発機構)認定の宇宙ベンチャー企業で、世界で初めてJAXAから出資を受け資金調達している企業です。
現在、5名のJAXA職員も兼業で在籍しています。
衛星データと地上の情報などを合わせて、AIを用いて解析し、いろいろな課題を解決するためのサービスを提供するスタートアップ企業として2019年5月に設立されました。
宇宙のビックデータとAIを活用するWebGISプラットフォーム「天地人コンパス」を使用することで、地球規模の課題を解決することを目指しています。
–では早速、「天地人コンパス」とはどのようなものか教えてください。
西山さん:
「天地人コンパス」は、弊社が展開する各サービスの大元、ベースになるGISプラットホームです。
衛星のデータ・企業や自治体などが持っている地上のデータ・人が知識、ノウハウとして持っているデータ、この3つのデータを合わせ4,000以上のビックデータが揃っています。
衛星データは、JAXA衛星をはじめ、地球観測衛星などから得られる気象・形状・画像など様々な宇宙データを取得しています。地表面温度、風の状況、降水量など目では確認できない情報も見ることができます。

地上のデータは、例えば国土地理院や各自治体・気象のデータ・企業が持っている様々なデータが揃っています。
これらの複数のデータを重ね合わせ、AIを使い解析することで、顧客のニーズにあわせたサービスに最適な情報を提供することが可能です。
特定の条件に合う土地を探す・広範囲の地域を他地域と比較する・インフラのモニタリングや管理の効率化を図る・気候変動の影響のシュミレーションや、リスクの予測など様々なニーズに応えることができるプラットフォームです。

「天地人コンパス」のデータは、オープンデータで、どなたでも弊社のサイトから無料で使えます。
たとえば、熱中症のリスクの高い場所、冬に凍結リスクの高い場所、地震の際に地面がどう変動したかなど、私たちの目だけではわからないデータを世界規模で見られます。

このように、天(衛星データ)・地(地上の情報)・人(人のノウハウ)、この3種のデータを使用することから、弊社の社名は「天地人」と名づけられました。
天地人コンパスを使い、持続可能な社会をつくることを目指しており、ミッションは「宇宙のビックデータを使い人類の文明活動を最適化する」としています。
宇宙のビックデータで目指す持続可能な社会
–宇宙のビックデータで持続可能な社会を目指す。とても壮大ですね。
西山さん:
そうですね。宇宙のビックデータというと壮大なテーマですが、実際に仕事をしていると、もっと堅実というか、地に足が付いていて地道というイメージです。
弊社の仕事は、実際に顧客が抱えている課題に対して、最適なソリューションを提供することです。便利になった、使いやすいと実感してもらえるものを目指しています。
そのうえで、宇宙のビックデータを活用することで、地球環境を守り、持続可能な社会を築く使命にも情熱を注いでいます。
弊社のサービスを拡大し、最大限に利用することで、地球や人類にとって意義のある未来を築くことを理念に掲げています。

–では、御社が宇宙ベンチャー企業として設立されたきっかけや背景をお聞かせいただけますか。
西山さん:
弊社代表の櫻庭は、天地人の設立前は地上センサーを用いた農業向けのIoTプロダクトの事業に取り組んでいました。
その中で、「地上のデータが限られた範囲でしか取得できない」という課題を抱えていました。それと同時に、気候変動が農業に与える影響への危機感があったそうです。
そんな時に、JAXAの知り合いから「宇宙と地上のデータを組み合わせて、何か面白いことができないか」と声をかけられました。それをきっかけに、農業と宇宙を組み合わせるアイデアを思いつき、模索を始めたとのことでした。
その後2018年に、内閣府宇宙開発戦略推進事務局が開催するS-Booster(エスブースター)という「宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト」へ出場し、「宇宙から見つけるポテンシャル名産地」というビジネスプランで、審査員特別賞・ANAホールディングス賞・JAL賞をトリプル受賞しました。
S-Booster 内閣府宇宙開発戦略推進事務局:https://s-booster.jp/
そして、JAXAから現天地人CSTO(チーフサテライトオフィサー)の百束(ひゃくそく)を迎え、その地球観測衛星の専門知識を生かして、社会の役に立ち社会課題を解決することを目指し、天地人が二人によって創業されました。
目に見えない漏水リスクを見える化する「天地人コンパス 宇宙水道局」
–次に、天地人コンパスを使った具体的なサービスについてお聞かせください。
西山さん:
では、弊社が現在注力している「天地人コンパス 宇宙水道局」をご紹介します。
「天地人コンパス 宇宙水道局」は、衛星データとAIを駆使し、水道事業体や指定業者の効率的な漏水調査の実現を支援するクラウド型の水道DXサービスです。
現在日本国内では、水道管の漏水事故が多発しており、年間2万件以上にものぼるといわれています。
大きな原因の一つは、水道管の老朽化で、法定耐用年数である40年を超えて使用されている水道管が多くあることで、すべての管路を更新するには、130年以上かかると想定されています。
厚生労働省医薬・生活衛生局 水道課:水道の現状と水道法の見直しについて
その他、気候変動により寒暖差の拡大が、水道管に大きなストレスをかけることや、地震で地盤が変動し影響を与える、人口減少により人員と予算が不足しているため水道管の更新が進まないことなどがあげられ、大きな社会問題となっています。
この問題を解決するために「天地人コンパス 宇宙水道局」は開発されました。
水道管は地下に埋まっていて目に見えないため、問題は非常に難しいものになっています。
現在は、多くの自治体で数千キロに及ぶ水道管を専門的な音聴調査機や漏水探知機を使い、職員が一箇所一箇所出向いて、確認するという方法で漏水の有無などを調査しています。
「天地人コンパス 宇宙水道局」は、この途方もない調査作業を効率よく確実にできるように「天地人コンパス」のビックデータを使いサポートしています。
具体的にお話ししますね。
地球観測衛星が観測したデータ(宇宙ビッグデータ)と、各自治体など水道事業者が保有する給水台帳や排水管図などの水道管路情報を組み合わせて、AIで解析します。
管理するエリアを約100m四方の小さな区画に分け、そのエリア内で漏水が起こるリスクを5段階評価で表し、見える化します。そうすることで、漏水の可能性の高い場所を絞り込むことができ、優先的に調査が行えます。
《赤いエリアが漏水の可能性が高い》



今までは、職員の勘や経験に頼っていた漏水調査が、データに基づき効率良くできるようになるうえに、調査データをシステム上に一括管理できるのも非常に便利です。
「天地人コンパス 宇宙水道局」は、現在20以上の自治体で使われており、ヨーロッパや東南アジアでも関心が高まっています。
–「天地人コンパス 宇宙水道局」を使っている自治体などからは、どの様な意見など聞かれますか。
西山さん:
2022年に内閣府の実証事業である豊田市との実証実験や、他自治体へのヒアリングを通して、「天地人コンパス 宇宙水道局」を使用することで、期待できる効果は点検費用が最大65%削減、調査期間が最大85%削減とされています。
このシステムが評価されているところは、この点が一番だと思います。私たちの税金から捻出される水道関係の予算ですから、削減できるのは非常に大きい効果で、嬉しいと言っていただいています。
もちろん、他にも様々な意見をいただきます。
システムは、使用するユーザーに寄り添って作っていますので、どうすればもっと使い勝手が良くなるかなど、その都度要望に耳を傾けて、課題解決に向けたヒアリングをし、改善していくことはとても大事で、弊社がこだわっている点です。
さらに言えば、「天地人コンパス 宇宙水道局」を使っているユーザーは、それぞれ状況が違います。海外展開も推進していますので、各国や各自治体の大きさ、事業で使っているソフトウエアの違いなども考慮しながら、より広いユーザーに適したかたちで、いかに便利に使ってもらえるかを考えるのは、永遠の課題だと思います。
また、弊社が展開しているサービスは、「天地人コンパス 宇宙水道局」のほかにも、「天地人コンパス 風力発電適地分析ツール」「天地人コンパス 水田メタン排出推定方法論」「天地人コンパス WaterWatch α」「天地人コンパス Moon」などがあります。

パートナーシップで広がる世界での課題解決
–では、最後に今後事業をどのように展開するのか、展望をお聞かせください。
西山さん:
まず、現在注力している「天地人コンパス 宇宙水道局」を日本国内だけでなく、海外に事業拡大したいと考えています。それに向けて弊社だけでなく、他企業・団体などとパートナーシップを結び、取り組むことも考えていきたいです。
新規事業にも取り組み、プロダクト化を目指していますが、こちらも日本国内だけでなく海外での展開も視野に入れ、世界の課題解決ができるようなソリューションを作り上げていきたいと考えています。
2027年には、自社衛星の打ち上げも予定しています。
自社衛星開発によって地表面温度観測を強化する「Thermo Earth of Love プロジェクト」(地表面温度観測衛星計画)を展開していきます。
そしてもう一つ。
弊社は今、どんどん成長している企業で、一緒に働く人を募集しています。
私もそうなんですが、宇宙と全く関係のないバックグラウンドにいた人たちが大勢働いており、学生のインターンも活躍しています。
衛星を使うことで、グローバルな視点で事業ができるのは、とても面白いと思いますので、少しでも興味があれば、気軽に声をかけていただきたいと思います。
宇宙に興味があり、社会の役に立ちたい、持続可能な未来を作りたいという思いのある方たちと、ぜひ一緒に働きたいと思っています。
–天地人コンパスで今後どのような未来をつくるのか、とても楽しみです。本日はありがとうございました。
株式会社天地人公式サイト:https://tenchijin.co.jp/?hl=ja
天地人コンパス 宇宙水道局:https://suido.tenchijin.co.jp/