SpaceX(スペースX)とは?事業内容や歴史を解説!

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SpaceX(スペースX)は、火星移住という究極のビジョンのもと、宇宙を誰もが利用できるインフラにすることを目指す民間宇宙企業です。ロケット再利用技術により打ち上げコストを従来の約10分の1に低下させたSpaceXは、衛星インターネット「Starlink」地球規模の情報格差を縮小しつつあります。

SpaceXの宇宙産業の歴史と事業内容を理解することで、民間主導の宇宙時代がもたらす可能性と課題、そして未来への展望が見えてきます。

SpaceX(スペースX)とは

【スペースXとNASAの記者会見のようす(2020年1月)】

SpaceX(スペースX)は、イーロン・マスク氏が率いる、ロケットの再利用技術によって宇宙輸送に革命を起こした、「人類の火星移住」を目指す米国の民間航空宇宙企業です。正式名称は「Space Exploration Technologies Corp.」で、2002年に創設されました。

テキサス州ボカチカを拠点に、

  • ロケット・宇宙船開発
  • 衛星インターネット「Starlink」

を展開しています。

国家独占事業だった宇宙開発に民間企業として参入し、「人類を多惑星種にする」という目標を掲げている点が特徴です。SpaceXを理解するために重要な3つのポイントを見ていきましょう。

火星移住という究極の目的

SpaceXのあらゆる活動の根底には、火星に100万人が暮らす自給自足都市を建設する構想があります。開発中の超大型宇宙船「Starship(スターシップ)」は、100トン以上の貨物または最大100人を火星へ運ぶ設計で、試験飛行を繰り返し技術を積み重ねています。

【立ち並ぶスターシップ試験機。左からBooster 4, Ship 15, Ship 22, Ship 20】

NASAのアルテミス計画※ではStarshipが2027年以降の月着陸船として採用され、契約額は28億9,000万ドルです。月面での着陸・周回・滞在といった運用実績の蓄積が火星ミッションへの重要なステップとなり、イーロン・マスク氏は2029〜2031年の有人火星着陸を目指しています。

アルテミス計画

NASA主導による月面への有人着陸と月の活用を通じて、人類の宇宙進出の新時代を切り拓く国際的な探査・開発プロジェクト。

革新的な再利用ロケット技術

SpaceXの最大のインパクトはロケット再利用技術の実用化です。主力ロケット「Falcon9」では第1段ブースターを垂直着陸させ回収・再利用します。

2015年に成功し、2017年から再使用を開始しました。同じ機体が10回以上も再利用され、輸送コストは劇的に低下しました。

従来の使い捨てロケットが1億ドル以上していたのに対し、Falcon9の標準打ち上げ価格は約6,700万ドルとされ、圧倒的な価格競争力を獲得しています。その結果、SpaceXは世界のロケット市場で圧倒的シェアを占めるようになりました。

このようにSpaceXは、火星移住というビジョン、ロケット再利用という革新、NASAとのパートナーシップのもと、現代の宇宙開発を象徴する企業として実績を積み重ねています。*1)

SpaceX(スペースXの事業内容

【SpaceX Crew DragonがISSへのドッキング直前、ドッキングメカニズムを露出させて接近(2019年3月3日)】

SpaceXは、国家領域だった宇宙開発を、民間主導の「使えるインフラ」へと変革しています。ロケット打ち上げ、衛星通信、有人宇宙飛行を自社技術で一気通貫させることで、宇宙へのアクセスにおけるコストと頻度の常識を塗り替えました。

同社の急成長を支える主要な事業を見ていきましょう。

ロケット打ち上げサービス

SpaceXの中核事業は、Falcon9およびFalcon Heavyによる商業打ち上げサービスです。第1段ブースターやフェアリングを回収・再使用することで打ち上げコストを劇的に低減させました。

従来のロケットが1億ドル以上していたのに対し、Falcon9の標準価格は約6,700万ドルとされ、圧倒的な価格競争力を誇ります。​

2024年には年間134回という世界記録となる打ち上げを達成し、世界市場で圧倒的なシェアを占めるようになりました。打ち上げサービス収益は約42億ドルに達し、営業利益率は20%超と推定されています。

このコスト優位性と高頻度打ち上げにより生み出されるキャッシュフローが、他の事業への投資を支えています。​

Starlink(衛星インターネット)

Starlink低軌道の数千基の小型衛星により地球規模での高速・低遅延なインターネット接続を提供するサービスです。2024年の同事業収益は約82億ドルに達し、契約数は460万件を超えるなど急成長しており、SpaceX最大の収益源となっています。​

この事業の強みは、自社ロケットで衛星を低コストで打ち上げられる「垂直統合」にあります。また、山間部、離島、海上、航空機内、災害時など地上インフラでは対応が難しかった地域でも安定した通信を確保できます。

近年はスマートフォンと衛星が直接通信できるサービスも展開を始め、日本ではauが提供を開始しました。​

有人宇宙輸送サービス

SpaceXは有人宇宙船「Crew Dragon」でISS(国際宇宙ステーション)へ宇宙飛行士を輸送しています。NASAの商業乗員計画に基づき定常的に運用され、2020年の初飛行以来、米国の有人宇宙飛行能力を復活させる重要な役割を果たしています。​

NASAとの契約総額は49億ドル以上に達し、年間約10億ドルの安定収益をもたらします。このISS運用で培われた実績は、次世代宇宙船「Starship」による月・火星探査へとつながっており、同社の究極の目標への橋渡しとなっています。​

このようにSpaceXは「ロケット打ち上げ」で現金を創出しながら「Starlink」という巨大な継続収益事業を確立、さらに「有人宇宙輸送」でNASAとの信頼関係と次世代技術の基盤を築く、という強力な好循環を確立しています。*2)

SpaceX(スペースX)の歴史

【SpaceX Crew Dragonのパラシュートシステムテスト(第16回)、緊急時の砂漠への安全着陸を実証】

SpaceXが今日見せる圧倒的な優位性は、設立からわずか20年余りで築き上げられたものです。その歴史は、「火星移住」という揺るぎないビジョンへと向かいつつも、幾度もの失敗と資金危機を乗り越えてきた挑戦の連続でした。

その歩みを、主な転換点とともに振り返っていきましょう。

創設期(2002~2008年):破産寸前からの逆転劇

SpaceXは2002年、イーロン・マスク氏がPayPal売却で得た1億ドルの自己資金を投じ、カリフォルニア州に設立されました。マスク氏は火星探査に情熱を注ぎ、ロシアからロケットを購入しようとしましたが高額だったため、自社開発を決意したのです。

設立時には、TRW社でロケットエンジン開発を率いていたトム・ミュラー氏らをスカウトしました。最初に開発した小型ロケット「Falcon 1」は、2006年、2007年、2008年8月と3回連続で打ち上げに失敗。資金は底をつき、残された打ち上げチャンスはあと1回という破産寸前の状況に追い込まれました。

運命の4回目となる2008年9月28日の打ち上げで、Falcon 1はついに軌道到達に成功します。これは民間資金で開発された液体燃料ロケットとして初の快挙でした。

飛躍期(2008~2020年):NASAとの連携と技術革新

Falcon 1の成功はNASAの目に留まりました。当時NASAは、スペースシャトル退役後のISS物資輸送を民間に委託する「商業軌道輸送サービス」計画を進めており、2008年12月、SpaceXと16億ドルの補給サービス契約を締結します。この契約がSpaceXにとって起死回生の転機となりました。

この資金をもとに「Falcon 9」ロケットと宇宙船「Dragon」の開発が加速。2010年12月には民間企業として世界初となる軌道宇宙機の回収に成功し、2012年にはDragonが民間機として初めてISSへドッキングしました。

この時期の最大の技術革新は、ロケット再利用技術の実用化です。2015年12月のFalcon 9第1段ブースターの垂直着陸成功、そして2017年3月の再使用ロケット打ち上げ成功が、宇宙輸送コストを劇的に削減し、SpaceXを世界のトップランナーへ押し上げました。

2020年5月、有人宇宙船Crew Dragonが民間企業として初めて宇宙飛行士をISSへ送り届け、米国の有人宇宙飛行能力を復活させました。

現在(2020年~):宇宙産業の圧倒的リーダーへ

2020年以降、SpaceXは宇宙産業における圧倒的な地位を確立しています。2024年には年間134回という世界記録となる打ち上げを達成し、世界の総打ち上げ回数の過半数を占めるようになりました。衛星インターネットサービス「Starlink」は契約数460万件を超え、最大の収益源に成長しています。

現在は完全再使用型の超大型宇宙船「Starship」の開発を進めており、火星移住という究極の目標に向けて歩みを進めています。破産寸前のスタートアップがNASAとの連携で安定基盤を築き、技術革新によって業界の常識を覆し、宇宙産業の巨人へと変貌を遂げたSpaceXの歴史は、不屈の挑戦と革新の歴史そのものです。*3)

SpaceX(スペースX)による影響

SpaceXは、単なる一企業の成功に留まらず、宇宙産業と社会全体に大きな変革をもたらしました。特に、技術革新によるコスト削減と打ち上げ頻度の劇的向上、新たな市場の創出という3つの側面で、世界の宇宙開発の枠組みそのものを塗り替えています。

①宇宙輸送コストの劇的な削減

SpaceXの最大の革命は、ロケットを再利用することで打ち上げコストを飛躍的に低減したことです。従来1回の打ち上げに1億ドル以上必要だったところ、Falcon 9は標準価格約6700万ドルにまで下げました。ISSへの物資搬送コストは1キログラムあたり従来の20分の1にまで圧縮され、企業や研究機関の参入障壁が大きく下がりました。​

②打ち上げ頻度と産業競争の加速

確立した再利用技術によって、SpaceXは2024年に年間134回打ち上げという世界記録を樹立し、全世界の半数超を占める状況となりました。この「いつでも利用できる」打ち上げ力がサービスの即応性を高め、他企業や国の宇宙機関に再利用型開発への転換圧力を与えています。​

③新市場の創出とデジタル包摂

SpaceXの低コスト・高頻度な輸送力は衛星インターネット「Starlink」など新市場を創出。山間部や離島、災害時など地上インフラの弱いエリアにも高速通信サービスをもたらし、デジタル格差の解消を後押ししています。打ち上げ単価の低下により、新興国や小規模組織の衛星参入も急増しました。​

SpaceXが「宇宙を誰もが活用できるインフラ」に変えた一方で、軌道上の混雑やスペースデブリ、国際的なルール整備といった新たな課題も表面化しています。今後は、宇宙利用の公平性・持続性も問われる時代に向け、企業と国際社会の連携が一層求められていくでしょう。

SpaceX(スペースX)とSDGs

SpaceXの目指す「宇宙を誰もが活用できるインフラへ」というビジョンは、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」理念と共鳴しています。同社の衛星通信技術と低コスト輸送力は、地球規模での情報格差の縮小や気候変動監視といった課題解決に貢献する可能性を持ちます。

特に影響の大きいSDGs目標を見ていきましょう。

SDGs目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう

SpaceXはロケット再利用技術により打ち上げコストを従来の約10分の1に低下させました。中小企業、大学、研究機関による衛星開発・打ち上げの参入障壁が大幅に低下し、新たな産業創出と技術革新が加速しています。​

SDGs目標10:人や国の不平等をなくそう

衛星インターネット「Starlink」は、山間部、離島、途上国など地上インフラが未整備な地域に高速通信を提供しています。2025年1月時点で世界約100カ国・460万件超でサービスを展開し、遠隔医療、遠隔教育、電子商取引といったデジタルサービスへのアクセスを拡大させ、情報格差の縮小に寄与しています。​

SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を

低コストで高頻度な打ち上げにより気候変動を監視する地球観測衛星を多数配備できるようになりました。温室効果ガスの排出源特定や森林減少、海面上昇の監視精度が向上することで、各国の気候変動対策と政策立案の実効性を高めています。​

このようにSpaceXは複数のSDGs達成に貢献しています。一方で、ロケット排出ガスや衛星展開に伴う軌道上の混雑・スペースデブリといった環境課題も生み出しており、デブリ除去技術、軌道設計の改善、ミッション終了後の処理といった対策を通じて、持続可能な宇宙利用に向けた国際的なルール整備を進める必要があります。*5)

>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから

まとめ

【Dragon V2 at the Newseum, Washington, D.C.※】

SpaceXは、ロケット再利用技術により宇宙輸送コストを従来の約10分の1に低下させ、民間企業や新興国の参入障壁を変えました。衛星インターネット「Starlink」は世界約100カ国・460万件超でサービスを展開し、情報格差の是正に寄与しています。​

2025年10月にはロケットブースターの31回再使用という記録を達成し、1万基目のStarlink衛星を軌道に投入しました。次世代宇宙船「Starship」は2026年からの実運用に向け進化を続けています。​

一方で、軌道上の混雑やスペースデブリ、安全保障への影響といった課題も顕在化しました。宇宙という人類の「共有財産」を持続的に利用するため、デブリ除去技術の開発と国際ルール整備が必要です。​

SpaceXの挑戦は、宇宙が誰もが利用できるインフラとなる時代の到来を示しています。一方で、この急速な変革は、先進国と発展途上国、あるいは利益を得る企業と課題に直面する社会といった、様々な立場の人々に異なる影響をもたらします。

人類は、この新たなフロンティアを賢明に活用できるのでしょうか。このような変革に関心を持ち続け、その光と影の両面を多角的に考え学び続ける意識が、今を生きる私たちに求められています。*6)

<参考・引用文献>
*1)SpaceX(スペースX)とは
NASA『Commercial Crew Program Overview』(2025年5月19日)
SpaceX『SpaceX 公式サイト』
JAXA『ファルコン9ロケット』
JAXA『クルードラゴン宇宙船』
NASA『Commercial Crew Program – Essentials』(2025年3月13日)
*2)SpaceX(スペースXの事業内容
SpaceX『mission』
Starlink『世界中でつながる高速インターネット』
KDDI『au Starlink Direct|サービス・機能』
JAXA『クルードラゴン宇宙船』
NASA『Commercial Crew Program Overview』(2025年5月19日)
*3)SpaceX(スペースX)の歴史
Wikipedia『スペースX』
AFP『民間ロケット「ファルコン1」の打ち上げ成功、民間企業で初』(2008年9月29日)
NASA『Commercial Orbital Transportation Services (COTS)』(2016年)
Business Insider『スペースXが宇宙史上初めて再利用ロケットの打ち上げに成功』(2017年3月30日)
BBC『Nasa SpaceX launch: What’s the mission plan?』(2020年5月24日)
SpaceNews『Old Space meets New Space: a decade later and beyond』(2025年月18日)
*4)SpaceX(スペースX)による影響
SBBIT『イーロン・マスクのスペースXは何がスゴイ? 民間有人宇宙飛行の最前線』(2020年9月1日)
日経クロステック『SpaceXがプラットフォーマーに? 特許出さぬ異色企業が人工衛星の参入を支える要に』(2025年1月26日)
World Economic Forum『Space: The $1.8 Trillion Opportunity for Global Economic Growth』(2024年4月)
経済産業省『宇宙産業における今後の取組の方向性について』(2025年3月13日)
*5)SpaceX(スペースX)とSDGs
JAXA『気候変動科学への貢献』
環境省『温室効果ガス観測技術衛星GOSATシリーズによる地球観測』
世界経済フォーラム『宇宙開発における新たな発明が、気候変動対策を劇的に向上させる』(2024年9月9日)
Real Sound『情報格差をなくし、すべての人にインターネットをーーSpaceXが衛星インターネット「Starlink」β版を開始』(2020年7月19日)
NTT『スターリンク(Starlink)とは?仕組みやメリット・デメリット』
*6)まとめ
外務省『国連宇宙部とのスペースデブリ問題に関する共同声明の署名』(2020年2月7日)
日本経済新聞『衛星通信の新勢力図 スターリンク独走を止めるのは誰か』(2024年7月29日)
BBC『SpaceXが切り拓く“再利用×通信×資本”モデル』(2025年10月24日)

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この記事を書いた人

松本 淳和 ライター

生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。

生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。

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