「エネルギー」と「ファーム(農場)」から名づけられた「エネファーム」。その正体は「家庭用燃料電池」です。
エネファームはとても効率よくエネルギーを使うことができ、その省エネ効果で地球温暖化対策にも貢献します。
一体、エネファームはどのような仕組みで高い省エネ効果を実現しているのでしょうか?
今後もさらに普及が予想されるエネファームのメリット・デメリット・費用・寿命などをわかりやすく解説します。
それでは、エネファームについて、ひも解いていきましょう!
目次
エネファームとは
出典:資源エネルギー庁『あらためて知る「燃料電池」~私にもできるカーボンニュートラルへの貢献(前編)』
エネファームとは、ガスを使って発電する家庭用燃料電池です。
都市ガス・LPガスから水素を作り出し、空気中の酸素と電気化学反応させて発電します。
この時発生する排熱でお湯を沸かし、タンクに貯めて給湯にも利用できます。すでに2009年に一般販売が開始され、2021年度末で出荷台数は累計43万台以上となっています。
次では、エネファームをより理解するために、知っておきたいキーワードについて説明します。
燃料電池
エネファームは家庭用燃料電池ですが、そもそも燃料電池とはどんなものでしょうか?
燃料電池のエネルギーは水素です。水素は水をはじめ化石燃料やバイオマスなど、とても多様なものから作ることができ、化石資源に乏しい日本でも生産可能です。
エネファームでは、家庭用のガス(都市ガス・LPガス)から水素を取り出して発電します。水素は使用する際にCO2を排出しないエネルギーとして期待され、日本は水素社会の構築を目指していることから、将来は家庭のガス管から水素が供給される日が来るかもしれません。
コージェネレーションシステム
「コージェネレーションシステム」とは、発電の際に発生する熱を有効利用するシステムです。エネファームではこのシステムのおかげで発電と同時にお湯を沸かし、タンクに貯めておくことができます。
コージェネレーションシステムはエネルギーを高効率で利用できるシステムとして、エネファームのほかにも産業分野などで広く採用されています。例えば、火力発電所の熱を利用した温室栽培や温水プールといった活用方法もあります。*1)
ぼんやりと全体像を確認したところで、続いてはエネファームの仕組みを見ていきましょう!
エネファームの発電の仕組み
エネファームの仕組みで重要なキーワードは先ほど紹介した
- 燃料電池
- コージェネレーションシステム
です。この2つのコンビネーションで効果的に発電と給湯を実現します。
発電の仕組み
エネファームは先程も触れたように、都市ガス・LPガスから水素を取り出し、空気中の酸素と化学反応させて発電します。これは水の電気分解で水から水素と酸素を取り出す化学反応の逆の反応を利用しています。
【水の電気分解の仕組み】
つまり…
- エネファーム:水素+酸素→電気・熱
- 水の電気分解:水+電気→水素・酸素
ということです。
【エネファームの仕組み】
給湯の仕組み
発電時に発生する熱を利用してお湯を沸かします。このお湯をタンクに溜めて給湯します。
貯めていたお湯が足りない時やお風呂の追い焚きは、バックアップ熱源機※がお湯を沸かします。床暖房やミストサウナなどに使う温水もここで作ります。
暖房の仕組み
発電時の排熱を有効利用して、温水床暖房やミストサウナ・浴室暖房乾燥機などもエネファームで快適に利用できます。
もしもに備える仕組み
エネファームには、ライフラインの停止に備えた機能があるので、
- 停電時でもガスが止まっていなければ発電できる
- ガスが止まっていても電気ヒーターでお湯を沸かせる
- 停電時でも給湯・床暖房が使える
- 断水時には貯湯タンクから生活用水が取り出せる
など、ひとつのライフラインが止まっても困るリスクが低くなります。*2)
エネファームの仕組みは理解できましたか?それでは、ここまでのおさらいを兼ねて、次の章ではエネファームのメリットを解説します。
エネファームの費用
エネファームの本体価格
エネファームの販売価格は販売開始当初300万円を超えていましたが、2020年には86万円ほどまで下がっています。
【エネファームの販売台数と販売価格の推移】
上のグラフからは、エネファームはさらに年々小型化も進むなど設置のしやすさも向上し、販売台数は増加を続けていることが分かります。
エネファームの設置費用
エネファームの使用を開始するためには、本体購入と別に設置費用が必要です。
設置費用の相場は、約30万円〜80万円となっています。
国や自治体は、省エネ促進事業としてエネファームの購入や設置に対し補助金を設けています。
お住まいの地域により実施されている場合がありますので、購入前に確認してみましょう。
エネファームの維持費用
エネファームは、一般的に10年〜20年が耐用年数と言われています。購入・設置後、光熱費やメンテナンスのコストがかかることとなります。
設置から10年間が無償メンテナンス期間となるため、10年以内のエネファームのメンテナンス費用はかかりません。
それ以後は、一度の点検時
エネファームのデメリットと普及しない理由
たくさんのメリットがあるエネファームですが、場合によってはデメリットもあります。購入を検討する際には、しっかり確認しておきましょう。
デメリット①導入費用・メンテナンス費用が高い
販売開始当初より価格は下がりましたが、購入費用は86万円ほどと、決して安価ではありません。また、例えば東京ガスの場合は10年目までのメンテナンスは無料ですが、現行(2022年)では
- 12年目…総点検 5万円
- 15年目…定期メンテナンス 10万円
- 20年目…発電機能停止(給湯器としては使用可能)
という費用がかかります。
デメリット②ガスが止まると発電できない
エネファーム自体には蓄電機能はありません。また、エネファームだけで利用する場合、蓄電設備を設置して電気を貯めておくほどの発電量もありません。よって、発電はガスの供給が前提です。
デメリット③太陽光発電のように売電はできない
家庭用エネファームは、家庭の電気の全てをまかなうほどの発電量ではないことに加え、太陽光発電投資のような電力の買取制度がありません。また、2019年以前に太陽光発電を導入している家庭が後からエネファームを導入すると、太陽光発電の電力買取価格が下がってしまう点も注意が必要です。※
※固定価格買取制度(FIT)で認められている再生可能エネルギーは太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスの5つです。
【固定価格買取制度の概要】
デメリット④設置スペースが必要となる
カーボンニュートラルに貢献するエネファームですが、貯湯タンクを設置するための場所が必要となります。
発電時の熱を利用しお湯を作る仕組みであるため、貯湯タンクが必要不可欠であるからです。
エネファームのある暮らしがイメージできましたか?まだ高価な設備ではありますが、環境への負荷や非常時の備え・豊かな暮らしを考えると、とても優れていますね!
エネファームを導入するメリット
政府も「カーボンニュートラルに貢献する」として勧めているエネファームですが、エネファームを導入すると具体的にはどのような良い効果があるのでしょうか?エネファームの仕組みを思い出しながら確認しましょう!
【各社のエネファーム】
※左からパナソニック株式会社・株式会社アイシン・京セラ株式会社のエネファーム
メリット①電気代が安くなる
エネファームで発電できる電力で、家庭で使用する電力の40%〜60%ほど(季節や暮らしのスタイルによって変わります)がまかなえます。特に給湯での電力消費の多い家庭は、排熱を利用してお湯を沸かせるため、電気代を安くする効果が見込めます。
メリット②CO2排出量を削減
エネファームのエネルギー効率は、発電効率が40〜50%、排熱利用を加算すると総合的には80〜97%と非常に高い効率です。これは、火力発電所で発電した場合の送電ロス※を含めたエネルギー効率がおよそ41%という値と比較すると、そのエネルギー効率の高さがわかります。
エネルギー効率の高さは省エネ効果の高さと言えます。つまりCO2排出量を削減し、地球温暖化対策へ貢献します。
【エネファームの環境性】
メリット③発電と給湯を両立
発電の時に発生する熱を利用してお湯を沸かすので、これを利用できる床暖房設備などと合わせれば、エアコンなどでの暖房にかかる電気代も節約できます。また、ミストサウナや浴室の暖房・乾燥機能などにも排熱が利用できます。
メリット④レジリエンス機能
もしもガスが止まってしまっても、電気で給湯できるシステムを備えているため、お湯が使えないという状況が起こりにくくなります。逆に、電気が止まってもガスがあれば発電できるので、非常時の備えとなります。
メリット⑤太陽光発電と合わせればほとんどの電力がまかなえる
クリーンなエネルギーの代表でもある太陽光発電ですが、その発電量は天候が影響します。現行のエネファームは、それだけでは家庭の全ての電力をまかなうのが難しい発電量ですが、太陽光発電と合わせて使えば家庭の電力のほとんど全てをまかなうことも可能です。
エネファームは天候に左右されず、また少なく発電することも可能なので太陽光発電の天候に左右されるという短所を補うことができます。
【エネファームの運転パターンの例】
メリット⑥ガス会社によってはエネファーム専用ガス料金がある
ガス会社の多くには、条件を満たせばエネファーム導入時に契約できる専用料金プランがあります。このようなプランに契約を変更することで、ガス代を大幅に安く抑えることができます。*3)
【TOKYO GASのエネファームで発電エコぷらんの一例】
エネファーム専用料金プランでガスが利用できれば、月々の光熱費も節約できますね!ここまで、エネファームの良い面ばかりにスポットを当てて詳しく見てきましたが、デメリットはあるのでしょうか?
にかかる費用目安は約10万円となることも把握しておきましょう。
エネファームに関するよくある質問
エネファームのメリット・デメリットを把握したところで、よくある質問・疑問にお答えします。より詳しくエネファームについて知っておきましょう。
エネファームの寿命はどのくらい?
- 最長20年まで使用可能です。
定期メンテナンス、総点検を受けていれば最長20年まで使用することができます。使用開始から20年が過ぎると燃料電池ユニット(発電ユニット)が自動的に停止しますが、給湯と暖房機能は使い続けることができます。
どれくらい発電できるの?
- 家庭用のエネファームでは、最大700Wの発電ができます。
これは家庭によりますが、普段の生活に必要な電力の大部分をまかなえる量です。また、エネファームは必要な量だけ作って電気を使うことができます。
【家庭での消費電力の例】
停電時はどうなる?
- 停電時もガス供給が止まっていなければ発電することができます。
2018年9月の台風21号、2019年9月の台風15号などで起こった停電時にエネファームの電気は使うことができて助かったという声があります。
運転音は大きい?
- 静かな運転音と言えます。
エネファームの運転音は「静かな図書館程度」の騒音値です。同じ仕組みのFCV(燃料電池自動車)も騒音が少ないと評価されています。
エネファームとエコキュート・エコジョーズの違いって?
- エネファーム…ガスを使って発電する家庭用燃料電池
これは先程「エネファームの仕組み」で確認しましたね!それではエコキュートとエコジョーズの仕組みを簡単に確認しましょう。
- エコキュート…安い夜間電力を利用した電気ヒートポンプ式給湯器
【エコキュートの仕組み】
エコキュートはヒートポンプユニットによって、自然の空気から熱を集め、その熱を利用してお湯を沸かします。お湯を沸かすときのエネルギーの3分の2を空気中の熱を利用するので、消費電力は3分の1ほどに減ります。
- エコジョーズ…排熱を再利用する高効率ガス給湯器
【エコジョーズの仕組み】
エコジョーズは、従来のガス給湯器では捨てられていたお湯を沸かすときに発生する排熱を再利用して、合計2回お湯を温める高効率ガス給湯器です。
エコキュートとエコジョーズも省エネ・CO2削減には効果的な給湯器です。しかし発電ができるのはエネファームだけです。
まとめ:家庭の電気を家庭で作る時代に
エネファームについて、どのような印象を持ちましたか?「良さは理解できたけれど、設置・維持費用が高い」という方も多いのではないでしょうか。
今後、日本は水素社会へと移行していきます。エネファームはその先駆けとも言えるシステムです。
また、この先、異常気象による災害・地震・海外の情勢によるサプライチェーンの混乱・電気代の高騰…とエネルギー関連のリスクは決して低いとは言えません。大規模発電所にばかり頼っていると、トラブルが起こって電力の供給が止まった時、大きな範囲に影響を受けてしまいます。
このようなリスクに備えるため、地域ごと・建物ごと・家庭ごとなど、より小さな単位で電力供給ができる仕組みつくりが求められています。あなたも環境への貢献と、いざという時への備えを同時にできるエネファームの導入を考えてみませんか?
タイミングは給湯器の交換の時、新築・改装の時などがおすすめです。
〈参考・引用文献〉
*1)エネファームとは
燃料電池普及促進協会『エネファームについて』
資源エネルギー庁『あらためて知る「燃料電池」~私にもできるカーボンニュートラルへの貢献(前編)』
資源エネルギー庁『知っておきたいエネルギーの基礎用語~「コジェネ」でエネルギーを効率的に使う』(2018年2月)
*2)エネファームの仕組み
資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?』(2021年3月)
環境省『「水素」ってどんなエネルギー?水素をエネルギーとして活用する意義とは?』
環境省『『エコジョーズ』と『エネファーム』、どう違うのかご存じですか?』(2017年6月)
Panasonic『エネファームとは』
*3)エネファームのメリット
資源エネルギー庁『あらためて知る「燃料電池」~私にもできるカーボンニュートラルへの貢献(前編)』
燃料電池普及促進協会『エネファームについて』
TOKYO GAS GROUP『エネファームで発電ぷらん』
*4)エネファームのデメリット
資源エネルギー庁『固定価格買取制度 制度の概要』
Panasonic『エネファームとは』
*5)エネファーム:よくある疑問
資源エネルギー庁『あらためて知る「燃料電池」~私にもできるカーボンニュートラルへの貢献(前編)』
Panasonic『よくあるご質問 廃棄について』
環境省『COOL CHOICE ご存じですか?省エネ効果が高い家庭用ヒートポンプ給湯器『エコキュート』の仕組みと特徴について』(2017年7月)
環境省『COOL CHOICE 『エコジョーズ』と『エネファーム』、どう違うのかご存じですか?』