株式会社comvey 梶田伸吾CEOさん インタビュー

代表取締役 CEO 梶田 伸吾
1992年バンコク出身。慶應義塾大学商学部卒業後、2016年 伊藤忠商事株式会社入社。物流ビジネス部・物流物資部にて新規事業企画、事業会社出向等を経験。2022年6月 株式会社comveyを設立。
introduction
激増する物流に伴い、ダンボールなどの梱包ゴミも増すばかり。リサイクルできても、そこで発生するCO₂は避けられません。comveyが開発した100回以上リユースできる「シェアバッグ」は、ダンボール梱包に比べ、CO₂を85%以上削減するのみならず、様々な方面に環境課題貢献の機会をもたらす優れものです。
今回は、創業者の梶田伸吾CEOに、「シェアバッグ」開発のプロセスや現状、環境貢献への存在意義などを詳しく伺いました。
売り手、買い手、運び手を繋ぎ「美しい物流」をつくる
–まずは、事業内容のご紹介をお願いします。
梶田さん:
株式会社comveyは、EC事業者様向けに、繰り返し使える梱包材「シェアバッグ」をレンタルすると共に、それを運用するオペレーションシステムを提供しているスタートアップです。弊社と契約していただいているEC事業者様の商品を購入する消費者様は、配送の梱包において「ダンボール」と弊社の「シェアバッグ」のどちらかをお選びいただけます。「シェアバッグ」をご選択の場合は、商品受け取りののちバッグを折り畳み、そのまま郵便ポストに投函していただきます。バッグには返送用ラベルがついており、自動的に弊社に戻ってくる仕組みとなっています。
–創業のきっかけや背景をお聞かせください。
梶田さん:
私はもともと、伊藤忠商事で物流ビジネスに6年ほど携わっていました。そのなかで強く感じたのは、「物流は、人と人を繋いだり、人に想いを伝えられる付加価値のあるサービスだ」ということでした。単にものを運ぶだけの機能的サービスだと思われがちですが、そうではないと感じたんです。

また、私が入社した2016年頃から、物流の危機や宅配便の限界などが叫ばれだしました。物量が増えていくなかで、限られた人員やリソースで配送せねばならない事情が深刻化し、ニュースなどでもよく取り上げられました。それを解決しようとするスタートアップなども増え、私自身、物流の現場を経験しながら、海外の物流トレンドなども調べていました。そこで浮かび上がってきたのが、年々増えていくECの集荷件数に伴い、ダンボールや梱包材の量も激増している、という現状でした。それを解決する方法を考えた時に出てきたのが、「リユース梱包」というアイデアでした。それが直接的な創業へのきっかけですね。
現在、日本では年間で約50億個の梱包荷物があり、10年後には100億個に達するという分析もあります。ダンボールは9割がリサイクルされている現状ですから、一見環境に良さそうなイメージです。とはいえ、全国で毎週トラックが回収して集めたダンボールを大量の水と電気を使い、たくさんのCO₂も出しながらのリサイクルです。EC事業者にとっては、脱炭素やSDGsをやっていかねばならないなか、梱包や配送でそれを実現する手段がほとんどない状況でした。
一方で、消費者側にも、オンラインで買い物ができる便利さはあるものの、ダンボールを解体したり、家で保管したり、ゴミ出しすることが手間でストレスを感じている人が増えていました。EC事業者と消費者双方の問題を解決することが必要だと思い、リユースの梱包シェアバッグを開発したという流れです。

–掲げられているミッションを教えてください。
梶田さん:
ミッションは「美しい物流をつくる」です。「美しい物流」とは、売り⼿・買い⼿・運び⼿が⼀体となって創り出す、持続可能な物流です。美しい、という言葉の定義は、見た目のきれいさではなく、「人と人の想いが通じ合っている」ことを指します。私自身、この世の中で美しいと思う瞬間は、誰かが誰かに想いを伝えたり、優しくしたり、ありがとうと言い合っているような場面を目にした時なんです。
ECや物流の世界では、とにかく自動化・省人化すればいいという傾向が年々強くなっています。ですが私たち人間は、人と人が交わって想いを交換できた時に幸せを感じる生き物です。物流には、人と人を繋げることや、人に想いを伝えることができる力を持っていると思っていますので、それを実現していきたいんです。
物流を構成しているのは、売り手の企業、買い手のお客様、運び手の物流企業の3者です。今、物流で起きている問題は、このパワーバランスの歪みやコミュニケーション不足が根本的な原因だと思っています。化粧品などを扱う事業者は、安全に届けたいからこそ過剰な梱包になりがちですが、お客様の中にはそれを喜ぶ方も、ストレスを感じる方もいます。今はいろいろなニーズを持っているお客様に対して、企業側が画一的にダンボールで送っています。しかし、そこにダンボールとリユース梱包の選択肢があれば、互いに想いを通じ合えると感じます。
物流業界では、話し合えばいいところを話し合わずに一方的にやってしまうケースが多々あります。そこを解決するのが、弊社のミッションだと捉えています。
–社名「comvey」には、どのような意味がこめられているのですか?
梶田さん:
CONVEYという動詞には、ベルトコンベヤーという言葉があるように「ものを運ぶ」という意味がありますが、もう1つ、「人に想いを伝える」という意味もあるんです。そのCONVEYのNをMにしたのは、COMMUNICATIONのCOMを合体させることで、コミュニケーション、すなわち「人と人が一緒にいる」という概念も含めたかったからです。売り手、買い手、運び手の3者をつなぐという意味をこめています。
「シェアバッグ」を自ら返送する行動が環境課題への一歩に
–それでは、御社のシンボルともいえる「シェアバッグ」について、その性能・デザイン、開発プロセスなどをご紹介ください。
梶田さん:
チームメンバーにプロダクトデザイナーが在籍しており、デザイン設計、生産のすべてを自社で行っています。ご契約いただく多くがアパレルのEC事業者様ということもあり、スタイリッシュなデザインにもこだわりました。素材はもちろん耐久性に優れたものですので、100回以上繰り返し使えるリユースバッグとなっています。

「折り畳んだバッグを郵便ポストに投函して返送いただく」という仕組みを作るためには、何よりも先に日本郵便様のご協力が必要でした。創業時にはまったくコネクションを持っていなかったので、近くの郵便局窓口に行って、職員の方に試作品を見ていただいたのがスタートです。普通は紙の郵便物しか扱わないということで、どの窓口でもなかなかうまく説明することができなかったのですが、ある時、日本橋郵便局様を紹介してもらえました。日本橋郵便局様は、全国の郵便局のハブ的存在で、本社とも深いかかわりをお持ちでした。対応してくださった局員様が親身に相談にのってくださり、ようやく開発に本腰を入れられたんです。この方と出会わなければ、シェアバッグはまだ誕生していなかったかもしれません。
シェアバッグが日本郵便様の規格に合う厚さであるか、サイズや重量はどうか、ポストに返送投函された際にほかの郵便物がはさまらないように設計できているか、など様々なことを考慮する必要がありました。対応してくださった局員様と20~30回ほど打ち合わせをさせていただきながら、試作を繰り返しました。当時は実現できるかどうかも分からない状態でしたが、こういうことをやりたい人がいるなら協力しよう、というスタンスで受け止めてくださったことに感謝していますし、今でもビジネスの進捗状況のご報告に伺っています。
-「シェアバッグ」を利用する際の具体的な流れを教えてください。

梶田さん:
弊社のサービスでは、「シェアバッグ」とそのシステムが組み合わさり、非常に重要な働きをしています。契約してくださっているEC事業者様のオンラインストアの商品画像の下には梱包方法について「ダンボール」と「シェアバッグ」の選択肢が表示されます。「シェアバッグ」を選ぶと、お客様は商品代金に加えてバッグ利用料250円をEC事業者様に支払うことになります。ですが、バッグ返却時には、加盟EC事業者様のオンラインストアで使える割引クーポンが基本的に500円分付与されますので、お買い物をしていただくと逆にお得になるシステムなんです。

バッグの内側にあるQRコードから、クーポンとそれが利用できるEC事業者様を確認していただけます。加えて、そのバッグが累計で何サイクル利用されているか、その結果どれくらいCO₂を削減しているか、などのデータも表示されます。そちらを読んでいただくことで、たとえクーポン特典の魅力やダンボールの始末の面倒くささからの「シェアバッグ」選択であったとしても、環境課題の解決に貢献した、という意識を持っていただけると考えています。
バッグは、一週間以内にお近くの郵便ポストに投函していただくことになっています。あらかじめ弊社への返送ラベルが縫い付けてありますので、折り畳んでそのままポストに入れていただければ、弊社に戻ってくる仕組みです。弊社は、回収した「シェアバッグ」にクリーニングやメンテナンスを施し、再び加盟EC事業者様に納品するという流れで1サイクルが完結します。

-現在「シェアバッグ」はどのような展開を見せていますか?
梶田さん:
2023年5月にサービスを開始し、一年半が経ちました。最初は実験的な意味もあり、事業者様の数も限定的でしたが、一年過ぎてのちは営業にも力を入れ、現在25ブランドに導入いただき、加えて20ブランドが導入準備段階に入っています。4か月ほど前に、クッションつきシェアバッグの開発にも成功し、契約対象がコスメ、ジュエリー、雑貨、食品などにも広がりました。
現在のバッグ回収状況については、99.5%という回収率を誇っています。ほぼすべてが返却されている理由として、返すことを承知で選択していただいていること、クーポンは返却されて初めて付与となることなどに加えて、日本人の物を大事に扱うカルチャーが反映されているように感じます。
「梱包材をリユースすることが当たり前」という文化を作る
–現在、この「シェアバッグ」は物流における環境問題にどのように貢献していますか?
梶田さん:
ECが年々増えるのに従って梱包材も必然的に増え、年間150万トンもの梱包ごみが発生しています。ダンボール梱包は、大きな物や壊れやすい商品を配送する際には、頑丈であることから大きな利点があります。ですが、アパレルや小さな商品に対応する際には、隙間、つまり「空気」を運ぶ割合が多くなるデメリットがあります。結果として輸送トラックの配送回数が増えますし、リサイクル自体で発生するCO₂の排出量も小さくはありません。
最近では、自動梱包機なども出てきてはいるものの、日本の9割以上のEC倉庫では、いまだにダンボールは人の手で組み立てられ、テープが貼られています。商品に見合うサイズのダンボールを選択できるメリットはありますが、膨大な手作業という意味では、作業員へのストレスも大きなものがあります。
弊社の「シェアバッグ」は繰り返し使えますし、ダンボールに比べて「空気」を運ぶ不効率さがありません。結果として、ダンボールを梱包に使う場合と比べ、CO₂を85%以上削減できています。ダンボール製造・回収で発⽣するCO2は年間700万トン以上(弊社調べ)であり、EC配送の脱炭素化を実現する⼿段がほとんどない状況でしたから、これは、環境問題における大きな成果だと自負しています。100回以上は使えるバッグですが、寿命を迎えた際には再生ペレットに生まれ変わり、バッグ素材の95%以上が原材料として⽔平リサイクルされます。
また、EC事業者様ご自体、サステナブルなこと、SDGsに貢献できることをやりたい、やらねば、と思っていても、商品を作る過程でCO₂をこれだけ削減しました、という情報だけではお客様を巻き込むことはできないといいます。そこが企業様の課題でもあるわけです。弊社の「シェアバッグ」を採用してくださることで、お客様はご自身で梱包方法を選択し、郵便ポストに返却するという具体的なアクションを取ることになります。「シェアバッグ」は、お客様に「行動し、環境に貢献するという実感」を持っていただけるサービスだといえます。ここが、ダンボール梱包にはなかった、事業者と消費者双方の想いの循環が生まれる部分です。
アンケート調査を定期的に実施しているのですが、加盟事業者が共通して評価してくださるのが「サステナブルな取り組みを、一方的ではなくお客様と一緒にやっていくことができる」という点なんです。また、お客様の7~8割が、comveyの「シェアバッグ」を導入しているブランドに好感を持った、とお答えくださっています。「ほかに先駆けてこのようなシェアバッグを採用するとは、さすが私の好きなブランド」というような声もあったように、結果としてブランドへの顧客ロイヤリティの向上にも繋がっているようです、
-まさに、売り手、買い手、運び手を「シェアバッグ」が繋いでいるのですね。最後に、将来への展望をお聞かせください。
梶田さん:
現在は、「シェアバッグ」の回収は郵便ポストへの投函一択ですが、将来的にはその選択肢を増やしたいと思っています。たとえば、実店舗をお持ちのブランドから購入したお客様が、「シェアバッグ」を店舗に返しにいった場合、特別なポイント付与や体験などの特典を得られるというアイデアもあります。多くの方々が使う駅などにバッグの回収ボックスを設けて弊社が回収に行くかたちであれば、郵便ポストに投函不能な大型のバッグを利用することも可能になります。
現実的には、「シェアバッグ」で運べるものの限界はありますが、ECサイトの扱い商品市場の6~7割を占めるのは、アパレル、コスメ、ジュエリー、雑貨、食品というジャンルです。食品においては、将来的に冷凍、冷蔵対応のバッグも開発したいと考えています。結果として配送物梱包の多くを「シェアバッグ」に置き換えることが可能です。
弊社の挑戦はまだ始まったばかりですが、次の一年にやりたいのは、より多くのEC事業者様に「シェアバッグ」をご導入いただき、規模をさらに広げて社会への影響力を増すことです。5年後、10年後には、梱包材をリユースすることが当たり前という文化を作りたいですね。そのような文化を作るためには、「美しい物流」という弊社のビジョンを発信し、そのビジョンに共感していただける事業者様、お客様、パートナー企業様を巻き込んでいくことが重要だと思っています。
-物流にこめられた「想い」と「美しさ」の意味がわかりました。今日はありがとうございました。
株式会社comvey公式HP:https://comvey.jp/